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4K/60p制作本格化へ、IMAGICAと東芝のコラボの理由
プロのフィードバックは次世代4K REGZAに反映
(2013/11/8 12:46)
年末商戦を目前とし、盛り上がりを見せている4K対応テレビ。東芝、ソニー、シャープ、パナソニック、LGエレクトロニクスなど、テレビ大手が揃って参入。4K本格化の機運が高まっている。
4Kテレビの注目や市場シェアが高まる一方、懐疑的な声も残っている。その多くは「4Kのコンテンツが少ない」というものだ。現状では確かに少ない。しかし、映像制作の現場では、2013年に入ってから急速に4K対応への要望が高まっているという。
その大きな理由が、総務省による4K/8Kロードマップの発表。2014年のブラジル リオのサッカーワールドカップを目処に4K放送の環境を整備し、2016年のリオ・オリンピックでは8Kを体験できる環境を整備、2020年のオリンピックでは、4K/8K双方の視聴が可能なテレビの普及を図る、というものだ。
映画、テレビやコマーシャルなど様々な映像制作に携わる映像制作・編集大手のIMAGICAでも、今年に入ってから「爆発的」に4K関連の相談や事例が増えているという。4K映像制作のニーズの高まりに対し、同社では包括的な4K映像制作サービス提供体制を構築、さらに、国際放送機器展(InterBEE)にも初出展し、「4KといえばIMAGICA、という存在感を出していきたい」という。
そのIMAGICAが、4K対応強化の一環として、11月6日から本社ロビーに84型4Kテレビを設置。訪れる制作者らに対し、4K/60pでの映像紹介を行なっている。このテレビは東芝REGZA Z8Xシリーズの84型モデル「84Z8X」だ。もともとREGZAの店頭用4Kデモ映像で両社が協力しているなどの関係だが、最近ではREGZAを実際の制作環境に導入し、映像制作のプロであるIMAGICAからの様々な要望が、REGZAの開発陣に寄せられているという。4K制作を強化するIMAGICAと、そこに協力する東芝。その目的をIMAGICA テクニカルディレクションチーム ラインマネージャーの竹谷 卓郎氏と技術推進室 チーフリサーチャーの清野 晶宏氏、REGZA商品企画担当する東芝・デジタルプロダクツ&サービス社ビジュアルソリューション事業部 VS第一部 商品企画担当 参事の本村裕史氏に聞いた。
放送&60pで4K制作が急拡大。REGZAを選んだのは詳細設定&4K/60p対応
--(インタビューは本社のロビーで行なった)なぜ、4Kテレビをロビーに置くことになったのでしょう? またなぜREGZA Z8Xなのでしょう?
竹谷:(REGZAになった理由は)基本的には2点ですね。細かい調整が可能、特に色の調整が非常にフレキシブルに行なえること。それから4K/60pを入力して再生できることですね。その情報を得まして、弊社の方から業務で使うために問合せたところ、あれよあれよという間にここ(IMAGICA本社ロビー)に置くことになりました。
清野:映写室に行くなど、多くの人がロビーを通りますので、目に入ると思います。まずは4Kを体験していただくきっかけとなればと。4Kの体験を増やしていくという点で、東芝さんとお互いのメリットが一致して、置かせて頂くことになりました。
4Kの周知という狙いだけでなく、58型(58Z8X)は実際の制作の現場にも導入しています。制作につかうモニターは、30型程度の小さいものです。最近では、4K制作時にも、大きな画面でどう見えるのか、また一般の家庭で実際にどうみえるのか、確認が必要になってきましたので、そうした用途で使っています。
--4K制作の事例は増えていますか?
竹谷:増えていますね。去年に比べると「爆発的」です。4K放送のロードマップが出てから、特に各キー局などテレビ関係を中心に本格的になってきました。ただし、まだスタート段階ですから、当然「4Kに取り組むのは初めて」という人が多いです。4Kはもともと映画から立ち上がっていますが、いま4Kに取り組み出したのは、これまでテレビ向けの制作をやられいた方です。まずは、4Kのメリット、4Kってどんなもの? といった話が増えている。そこで(4Kのテレビで)こういう風に見えます、と体験していただいている、と。
--IMAGICAには、4K対応の設備自体はかなり前からありますよね。
竹谷:4Kの編集室はありますし、実績もあります。ただ、放送を前提としたコンテンツというのはまだ始めたばかりですね。弊社でも機材の組み合わせ、カメラとレンズとかをいろいろ試したりしています。あとは、これまでは店頭や展示会向け映像などが多かったのですが、それらは(製作用の)モニターでチェックしていれば良かったのですが、放送を前提に制作するとなると、実際のテレビで確認しないといけない。
そして、テレビ放送では「60p」になります。映画では24pがメインで、これまではほとんど24p/30pでした。単純にストレージ容量は倍以上になりますし、レンダリング時間も倍以上かかる。
清野:システム的には、今は「黎明期」。これからどんどん良くなっていくと思います。その「はしり」のところで、試しながら動いている部分はあり、来年、再来年と良くなっていくと思います。
--映画とテレビでは、制作者の考え方も違うものですか?
竹谷:お客様からすると当然ですが、テレビの方は、これまでのテレビのやり方でやろうとします。テレビでは今もテープです。しかし、4Kではファイルベースになりますので、そういう説明から始めますね。
--シネマから来ている人とはカルチャーが違うと
竹谷:そうですね。そして、シネマから来ている人も60pになるとフレームレートが違うので戸惑う。
清野:私ももともと映画から来ていますので、見慣れない、というか、気持ち悪さがありました。だいぶ今は慣れましたが(笑)。
竹谷:皆さんまず撮ってみて、それを見て“気づき“が起きているという段階ですね。まず、撮影が走りだしていますが、我々も60pや長い尺というのはやっていなかったので、いろいろと発見がある。大画面でみるとやはり、演出から変えなければとか学んでいるところです。
--具体的にはどういう部分でしょう?
清野:やはりフォーカスは第一ですね。(フォーカスが合っていないため)捨てなければいけない素材もかなり出てきます。逆にきっちりフォーカスが合ったものはすごい臨場感がある。ピークを外すと、4Kの持ち味の没入感がなくなってHDっぽく見えてしまう。シビアですね。
竹谷:カメラマンさんも試行錯誤です。ドキュメンタリーやスポーツは撮り直しが効かないですから。
--先週、スカパーJSATなどの4K放送のパブリックビューイングを見に行ったのですが、そこでもノウハウを蓄積している段階という話をしていました。
竹谷:我々も行きましたよ。前から三列目ぐらいで見ていました(笑)
--(笑)。私は画質面ではほとんど不満無く、4K放送はもうここまでできるのか、と驚きました。プロから見ての感想や改善点などはありましたか?
清野:色や、カメラの差、レンズの解像感の違いなどが感じられたところはありますね。そこに我々の出番はあるかなと。いかに違和感無くつなげるか、我々も考えていかないといけないと思いました。
竹谷:今は機材も少ないですね。編集場所も少ないし。今は(IMAGICAの)五反田の施設には2部屋というか実質1部屋ですが、品川にも増設します。
清野:必要あれば、増やしていきます。また、機材もどんどん変化しているので、そこも最適化をしていこうと考えています。
制作現場でも「大画面4K」だからわかること
--制作側で使われている58型(58Z8X)は、IMAGICAで特別な変更を行なっているものでしょうか?
清野:我々が力を入れているのは、色管理ですね。どんなモニターで見ても、見る日時が変わっても同じように見えなければいけない。民生機といえども、潜在的なところを引き出して使いこんでいく。そこは独自でやっています。
ありがたいことに、REGZAでは色調整(の設定パラメータ)がかなり開放されていますので、結構手を入れられる。ほんとに細かく調整できるので、助かっています。色を測って基準からずれていたら補正するような設定を行ないます。ターゲットに対する差が一定の値に収まっているか、作業の前には必ず確認して問題ないようにしています。
--基本的には売っているREGZAと同じもの?
本村:IMAGICAさんに納品した58型は、特別なものではないです。
--チャンピオン機、選別品じゃない?
本村:じゃないです(笑)。普通にお店で売っているものと同じです。そんなにお金も手間もかけられない(笑)。
3~4カ月ぐらい前に、IMAGICAさんから「購入検討したいんだけど」と連絡を頂いて、技術的な相談、打ち合わせをしようということで、東芝の技術陣と私も入って情報交換しました。そこでプロの方々が使うために必要な条件というのをお聞きしました。REGZAは民生機でプロユースの製品ではない。当然、綺麗に見せるための回路処理、ある種の演出、お化粧は入りますので、そのままプロの方が使うことは出来ない。そこで、プロがつかえるセッティング出来ますか? というのが、打ち合わせの主題です。
もともと、REGZAの設定メニューは相当に開放しているので、プロユースのモニターとして映像を追い込むことができる、というのが前提としてあります。我々も、プロユースでしたら、色温度は9300K、6500Kだとか、ガンマもきっちり合わせましょう、色マトリックスの管理もこういうパラメータにすればいいなど、東芝が考えている設定をお伝えしました。倍速補間とか超解像とかはオフにしてとかご紹介しました。それが今回のお話のスタートです。
その前提となるのが映像入力です。プロの皆さんが使う映像入力は、4K/60Pでも、民生機のHDMI 2.0(1本のHDMIケーブル)とは違って、HD-SDIの4パラでRGBの非圧縮で入力するものです。オプションの4K入力ボックス(THD-MBA1)をつなぐことで、プロ機材からそのまま入力できる。これがプロの方の前提条件で、かつそれにプロユースの設定ができる。だから、それがどこまで使えるのかという話をさせていただきました。
--ちょうど、9月にZ8Xのプロユース設定を公開されてましたね
本村:そうです。あれはまさにIMAGICAさんとのやりとりがあったからこそですね。その後にも、プロの方のお問い合わせを結構頂いたので、もうWebで公開してしまおうと。まずは「これが東芝の考える設定です。ここから追い込んでみてください」ということですね。
我々も直接プロのニーズをお聞きするチャンスは無かったので、IMAGICAさんから実直なレポートを頂いて、こうするともっと使いやすい、とかフィードバックをいただけて。映像に関わる技術陣も勉強させていただきました。
--具体的にはどんなフィードバックを?
清野:計測データを見せて、こういうデータが出ていて、それに対して、こういう意見がでてますと。本村さんがおっしゃるように、結果的にいい製品ができてくれれば助かりますし。そのために、我々の意見が役立って、将来の製品で反映されれば、われわれにもメリットがあると考えています。
--制作現場では、専用のモニターとの違いとか使い分けはどうしていますか?
清野:大画面なので、やはり30インチのモニターではわからない部分。フォーカスであったり、あるいは放送でどうみえるとかのチェックですね。大画面だから気づくことは多々あります。
--IMAGICAからは具体的にはどういう要望が?
本村:目から鱗だったのは、プロの方々が設定を追い込んだパラメータを管理するには、プロなりのニーズがあるとわかったことです。(設定の)メモリは一個じゃなくて、複数持てるようにしようとか。それは次のモデルでやろうと思っています。
清野:テレビ用と映画用では色温度も違いますので、それぞれ、瞬時に切り替えられると嬉しいですね。品質管理的にも、暗い画のシーンで明るさをちょっと変えてしまって、それがそのまま使われてしまうと大変問題になる。色管理、運用管理でも必須に近いといえるかもしれません。管理上多く持てれば助かります。
--こうしたコラボの成果は次世代のREGZAに生かされていく?
本村:REGZAは民生用のテレビです。ただ、REGZAのブランド立ち上げ時から、プロに良いテレビと思ってもらうことが、画質思想のスタート。ギミックは辞める、派手な演出も辞める、プロが自宅やプライベートでみても、最高と思えるものを作りたい。そこから始まっています。だから、映像設定メニューとかも、普通の人が使えないと思われるところまで開放している。その中で業界を代表するIMAGICAさんにお声がけいただいて、情報交換やフィードバックしていただける。これは技術としても励みになりますし、やってきたことが間違っていなかったという自信になります。4Kの立ち上げ時期に、こういう形でいろいろやらせていただけたのはありがたいですね。
清野:4Kは、まだ試行錯誤の立ち上げ期、黎明期です。そういう時期だからこそ、色々フィードバックしたり、お互いのやりとりを通じて業界全体でいいものにしていくことが必要だと思います。そういう関係が築けたことが嬉しいですね。