プレイバック2017
夢叶う2017年。ついに来た有機ELテレビ時代 by 麻倉 怜士
2017年12月25日 08:00
今年はこれからのオーディオ・ビジュアルシーンを変革する重要技術、重要アイテムが、数多くデビューした。その新鮮さ、鮮烈さでは、近年にない当たり年となった。有機ELテレビ、シャープが推進する8Kテレビ、テレビ画面から音が出るスピーカー、ベルギー生まれの音楽用のイマーシブサラウンドAuro-3D……などの登場が、重要なニュースであったが、私にとってのナンバーワントピックは何と言っても、有機ELテレビの本格デビューだ。
有機ELこそ私にとって「ドリーム・カム・ツゥルー」だ。2001年にソニーの13型試作機を見て以来、私はその虜になった。当時の液晶もプラズマも最低の画質だった。ノイズが盛大で、黒も圧倒的に浮いていた。ところがソニーの有機EL試作機は圧倒的な高画質だった。黒の締まり、精細度、色再現は当時の液晶、プラズマを遙かに凌駕していた。テレビの未来は有機ELで決まり! と思った。ソニーが2007年に可愛い11型を出し、2012、2013年にソニーとパナソニックが55、56型4Kの試作機を発表した。でも、それでお終い。
もう有機ELテレビの夢は見られないかと諦めていたところに、韓国のLGディスプレイの猛頑張りで、大型4Kパネルの大量生産が実現し、いよいよ2017年にソニー、東芝、パナソニック、そして2015年から先行発売していたLGエレクトロニクスも加わり、有機EL4社がここに揃い踏みしたのが、私にとっての今年の画期だ。
それも画質評論家として断然面白かったのは、すべてのメーカーがLGディスプレイの第2世代の有機ELパネルを使っているのに、個々のモデルで「表現」が大いに違うことだ。実はこの点が、私をしてもっとも注目させた「有機EL事件」であった。
ディスプレイデバイスとセットの関係において、同じデバイスが全社で使われるのは異常だ。ブラウン管、プラズマ、液晶では世の中には多くのディスプレイメーカーが存在していたので、それらの間の競争は激しく、結果的に多数の違う種類のデバイスが、これまた多数のセットメーカーに採用されていた。ここでは最終的なテレビセットの画質は、「ディスプレイ画質+セットで絵づくりされた画質」の足し算であった。
ところが、有機ELテレビでは事情がまったく異なる。現在、大型有機ELパネルを大量生産できるメーカーは、世界で韓国のLGディスプレイのみ。いまシャープ、サムスン電子、中国のハイセンス、TCLを除いた世界の10社以上のテレビメーカーが有機ELテレビを発売しているが、そのすべてに搭載されているのが、LGディスプレイの有機ELパネル。
つまり、これは私のような画質評論家にとっては、そのテレビメーカーの「絵づくり」能力やコンセプトがピュアに判別できる、絶好のチャンスというわけなのであった。そんな目で各社の(パネルが共通な)有機ELテレビを観察すると、確かに確実に独自な絵づくりの効用が発見できた。例えば、ソニー。あらゆる画質要素に「力」を強く付与し、鮮明さ、克明さ、明瞭さを演出し有機ELの持つ力感部分を最大限に発揮させている。有機ELならではの黒力で、スケール感が雄暉。大面積が安定するのみならず、小面積の黒も沈むので、力が漲った刻明描写だ。画面からはまさにソニーの映像はこうあるべしという強い主張が満面に感じられた。
しかも勁さ(つよさ)だけで無く、階調再現へのこだわりも強烈だ。例えば『レヴェナント』のチャプター15。夜に火を炊くシーンでの暗部階調、ほとんど信号情報のない所から徐々に信号情報がある所へ立ち上がる繊細なグラデーションの表現が優れる。
パナソニックは「自発光」へのこだわりを、画面から強く滲ませた。旧社名の松下電器の時代から、プラズマを機軸にしたテレビ開発、設計、絵づくりを追求していた伝統が蘇ったようだ。コントラスト、階調性、色再現、そしてそれらをトータルした総合的な画質において、自発光を手にした喜びが読み取れた。
さて、これらのことから、私は2つの知見を得た。ひとつは全メーカーが同一パネル搭載という異常事態に対処するため、自社の特徴を出そうと、没しないで個性を発揮しようとし独自の絵づくりに傾注し、結果を出したということ。
もうひとつは、「遂に私の持論が復活した!」だ。かつて、プラズマが画質にこだわっていたとき、私は「ディスプレイの画質には表示、再現、表現、創造の段階を経て、発展する」という理論を掲げていたが、プラズマが液晶に敗れてからは、もうそんなことはまったくご無体になったので、完全に封印していた。しかし、有機ELは自発光なのだから、私の画質理論が正しく当てはまるデバイスだ。コンテンツを映し出すテレビが目指すべき役割とは、制作者の思いをそのまま視聴者に届けることだ。それが有機ELならできそうという方向性が見えた。
「表示から表現」というテレビ絵づくりの道筋が復活したことが、2017年の私のベストワンであった。