プレイバック2017

1枚でバイノーラル/ステレオ/SACDマルチが楽しめる、CYBELEレーベルの6作品 by 三浦 孝仁

 2017年に入手したアイテムのなかで、かなり気に入っているモノを挙げよう。それはドイツのCYBELEレーベルからリリースされている、クラシック音楽のハイブリッドSACD。これまでに私は6作品を入手することができた。輸入元はキングインターナショナルで、タワーレコードの店頭やオンラインショップなどから購入している。

CYBELEレーベルからリリースされている、クラシック音楽のハイブリッドSACD

 特に気に入っている理由は、SACD層のステレオがバイノーラル・マイクロフォンによるバイノーラル収録だということ。CD層は一般的なステレオ・ミックスで、SACD層にはバイノーラルのステレオとマルチチャンネルも含まれている。つまり、1枚のハイブリッドSACDで3パターンの収録が行なわれているのだ(※バイノーラル収録ではない作品もあるので、バイノーラルのマークを確認してほしい)。

 なかでも私が好きなのはバイノーラル収録で、気軽に聴くときはOPPOの「UDP-205」が装備するヘッドフォン端子を利用。本格的なリスニングにはラックスマンの「P-750u」と接続して聴くことにしている。この時に使うのはイヤフォンではなくヘッドフォン。イヤフォンではバイノーラルならではの自然な立体感が半減してしまう。

ラックスマンのフラッグシップヘッドフォンアンプ「P-750u」

 2本のスピーカーシステムによるステレオフォニックな音場に慣れ親しんでいる私は、ヘッドフォンやイヤフォンで音楽を聴くよりも、スピーカーシステムで音楽を聴くほうが断然好きだ。なぜなら、ヘッドフォンやイヤフォンは基本的にバイフォニックであり、スピーカーシステムで聴くようなステレオフォニックな音にはならないから。

 ヘッドフォンやイヤフォンでは左側の音は左耳でしか聴くことができず、右側の音も右耳でしか聴くことができない。つまり、左右の音が独立しているバイフォニック再生なのである。

 一方、2本のスピーカーシステム聴くステレオフォニック再生では、左側の音も右耳で聴くことができる。左右の耳に届く音の時間差と位相差により、録音側で意図した立体感が素直に得られるというのがステレオフォニック再生だ。ヘッドフォンやイヤフォンで自然なステレオフォニックの音を得ようとすると、ダミーヘッドに仕込まれた高性能マイクロフォンによるバイノーラル収録が理想的ということになる。

CYBELEが使っている、バイノーラル収録を示すマーク

 しかしながら、バイノーラル収録された音楽ソフトというのは世界的にも少ない。1970年代の後半から1980年代の初頭にかけてはバイノーラル収録というのが一部で流行したけれども、メディア媒体はLPレコード盤だった。CDの時代になってからもバイノーラル収録はマイノリティのままで、探すのに苦労した思い出がある。

 そんな中、偶然に発見したのが、独CYBELEからリリースされたハイブリッドSACDだった。教会で収録されたパイプオルガン曲が多いのだが、グランドピアノやハープシコードによるバロック音楽の楽曲もあったりする。一般的なステレオ収録のCD層とバイノーラル収録のSACDステレオ層を聴き比べると、アコースティック楽器の音像定位や自然な実在感などに大きな違いがあるのがわかるはず。ヘッドフォンによっても定位感や拡がり感が異なるというのも興味深い。

 なんといっても、一般的なステレオ収録を聴いたときに頭内定位する音の不自然さがないというのが好ましい。バイノーラル収録された音は聴き疲れしにくいし、収録現場の雰囲気がジワリと伝わってくる生々しさがある。独CYBELEのバイノーラル収録はオルガン曲やピアノ曲などのクラシック音楽が好きなヘッドフォン・リスナーにお薦めしたいのだが、SACD層を聴くことができるという再生環境が求められる。現状ではOPPOのUDP-205が音質と価格の両面でグッドチョイスといえるけれども、それでも20万円超えの価格になってしまう。

 個人的にはバイノーラル収録がもっと一般的になればと願っている。だが、そんなに簡単ではなさそうだ。たとえば、私の友人であるデイヴィッド・チェスキー氏が主宰するチェスキー・レコーズは新譜の収録をバイノーラルで行なうようにしているが、認知度はまだ高いとはいえない。

 独CYBELEのホームページを探っていくと、無料ダウンロードでステレオ収録とバイノーラル収録の音などを比較できよう。興味のある人はぜひとも試していただきたい。

三浦 孝仁