プレイバック2021
ネットワーク“オーディオ”の進化を痛感した1年 by 山本浩司
2021年12月20日 08:30
長引くコロナ禍によって、昨年同様今年も部屋で音楽を聴いたり映画を観たりする時間がたっぷりあった。その時間を充実したものにするために、例年以上にあれこれ自分のオーディオシステムの整備に力を注いだのは言うまでもない。
とくに今年は定額制音楽ストリーミングサービスを利用して、新譜をチェックしたり聴きそびれていた過去の名盤を新鮮な気持ちで楽しむ時間が多かった。ぼくがリスニングルームで主に利用しているのはTIDAL(タイダル)。まだわが国で正式にサービスインされていないが、ぼくはかれこれ5年の長きに渡ってこの配信サービスを利用している。
長年慣れ親しんできたリンの「Kazoo」や「Linn」、ルーミンアプリなどで簡単にネットワークプレーヤー再生できること、それから洋楽マニアのぼくにとって魅力的な音楽ファイルがたくさん用意されていることがその理由だ。
TIDALはMQAで、Amazon music HDやmora qualitasはロスレスのFLACでハイレゾファイルを配信しているが、つい先頃、mora qualitasは来年3月でサービスを終了するとの発表があった。残念な知らせだが、この世界も厳しい競争にさらされ、生き残りをかけた切磋琢磨が今後も続くのだろう。
いちばんメジャーなサービスであるSpotifyが年内にCDスペックのロスレス配信を開始するのでは? とか未上陸のTIDAL、Qobusのわが国での展開が近いうちに始まる? などの噂が飛び交っているが、本稿執筆時点では明らかにされていない。
ところで「CDスペック以上と言っても、CDのディスク再生に比べたら音は良くないんでしょ?」と、ストリーミングサービスの音質に疑問をお持ちの方はたくさんおられるのではないかと思う。ある程度良質なプレーヤーを使用すれば、音質はCDのディスク再生の勝ちだろうな、とTIDALを始めた頃はぼく自身もそう考えてきた。
しかしこの2~3年、ネットワーク周辺の音質ケアを進めていくうちに、ストリーミングサービスの音質が驚くほど向上することがわかってきた。
たしかな手応えを感じたのは、2019年に音質設計を謳ったDELAのスイッチングハブ「S100」に換装したことだった。従来の汎用ハブに比べてTIDALの音が俄然伸びやかにイキイキと歌うようになったのである。
そして今年の春、新たに日本に上陸したエディスクリエーションの「Fiber Box2」を自室でテスト、その音質向上効果に感激し、すぐさま導入した。エディスクリエーションは2014年に設立された香港のメーカーで、一人の若いオーディオマニアがネットワークオーディオの高音質化を目指して、コツコツとハンドメイドで開発・製造したものだという。
本機は、有線LANケーブルからのデータを内部で光電変換、光絶縁することで高周波ノイズとジッターの悪影響を抑えたのち、有線LANで出力するツールだ。つまり他の同種の製品のように光ファイバーケーブルやSFP端子を必要とせず、通常の有線LAN接続のみで光絶縁効果が得られるわけである。また、本格的なディスクリート・リニア電源回路と高精度なOCXOクロックを搭載しているのも興味深い。
わが家では、このFiber Box2をスイッチングハブのS100とネットワークトランスポートのルーミン「U1 MINI」間に組み込むことで、TIDAL音源の何を聴いてもファンダメンタル帯域の表現がいっそう実在感に富んだものになり、音楽の細部がより緻密に、精緻に表現されるようになったのである。
この夏アコースティックリヴァイブのLAN ケーブル「QUADRA NT-TripleC」を導入、その音質向上の度合いにこれまた驚かされたが、LANケーブルの吟味を含め、通信機器周辺のノイズ対策に手を尽くすこと。これがディスク再生と遜色ない音でストリーミング再生を楽しむコツ。みんなつい忘れがちだが、ネットワークオーディオもまた「オーディオ」だということを改めて痛感させられた2021年だった。