プレイバック2021

結局新しいMacBook Proを買っちゃったAV的理由 by 西田宗千佳

購入した14インチMacBook Pro。発表時は買うつもりではなかったのだが……

年内最後の大きな買い物として、14インチMacBook Proを買ってしまった。

いや、別にPCとかMacの話をしたいわけじゃないのだ。結果的には割と「AV機器」として買っている部分がある。

自分のコンテンツ視聴スタイルの話も含め、その辺のことを少し語ってみたいと思う。

増えるコンテンツに「ながら見」で対応

世の中には見たい映像・聴きたい音楽がたくさんある。配信の登場と定着により、それらの消費はずいぶんと捗るようになったと思っている。

ただ、人が消費できる時間には限りがある。

本当なら、どんな作品だって最高の環境で楽しみたいのは本音だ。劇場にいければベストだし、大きなテレビ+サウンドシステムでじっくりと時間をかけて楽しめるのがベストではある。

とはいえ、そうもいかないのが悩ましい。「なら、じっくり見るものだけに絞ればいいじゃない」と言われても、見たいものは見たいのだ。ここまで、映画やドラマ、アニメを見まくり、本を乱読して生きてきた以上、できるだけたくさんの作品に触れていたいとは思う。

というわけで、結果的に「ながら見」が多くなる。原稿を書きながら流すのだ。「ドラマや映画をながら見出来るって器用ですね」と言われるが、自分でも器用だとは思う。さすがにセリフが英語だと聞きとりに頭を取られて厳しいが、日本語だったら大丈夫だ。

昔はリビングでテレビをつけ、ソファに座り、ノートPCを開いて作業したりもしていたが、さすがにそれも……ということで、PCの隣にiPadを開いておいたり、PCのサブディスプレイで見たり、というパターンが基本になった。その上で、「これはもっとじっくり見なければ」と思った作品は、すぐに再生を止めて、時間があるときにテレビに移動してじっくり見る……という感じだ。つい最近だと、Netflixの「浅草キッド」が、iPadで見始めてすぐ止めてテレビへ移動した作品だろうか。

ながら見画質改善に「ミニLED」を

ながら見をするにしろ、画質は良いに越したことはない。

自分の中で「ああ、けっこう違うものだな」と思ったのは、今年春に発売になった、ミニLED搭載の「12.9インチiPad Pro」を買ったときだ。

現在の映像作品にはHDR・Dolby Vision対応のものが多い。そうした作品を見る場合には、やはりコントラスト比が高く、発色の良いディスプレイである方がいい。テレビで有機ELやローカルディミング対応の製品を使うようになると、できれば「ながら見」のような環境でも、HDR表現が可能なデバイスで見たい、と思うものだ。

従来のiPadでも一応HDR再生はできるが、輝度の突き上げやコントラストはそこまで出ない。身近にあるものだと、有機ELを使ったiPhoneをお使いの方は、それらでぜひ、Dolby Vision対応の作品を見ていただければと思う。けっこう見栄えは違うものだ。

ミニLED採用のiPad Proは、その辺の違いをちゃんと感じられた。Webや普通の写真だけだと従来の液晶と違いがわかりづらいが、HDRコンテンツを見る・扱う人なら、使ってみて損はない。

というわけで、今年は春以降、iPadを買い替え、ミニLEDでHDRコンテンツを見るのに慣れてしまった。

そこにやってきたのが、14インチMacBook Proだ。

正直なところ、性能については、筆者にとってはM1で十分だと感じる。性能が高いに越したことはないとはいえ、マイナス点もある。

だが、ミニLEDの画質はやはり、いい。同様に音もいい。インターフェースが多数あるのも、やっぱり便利だ。普段はハブなどでカバーしていたとはいえ、そりゃあやっぱり、SDカードスロットやHDMI、USB-Cが3つあるのは楽でいい。充電中なのがLEDでわかるのも、当然なことではあるのだが、ありがたい。

MagSafeが復活。ケーブルに電源状況が出るのはやっぱり便利だ

とはいえ、安い買い物ではないのですぐには手を出さなかった。日常困っていたかというと、そうではないからだ。

「うーん」と迷っているうちに入手困難になり、「まあ、ご縁がなかったということかな」と思い落ち着いたのだが、それがいきなり変わることになる。

11月半ばのこと、アップルストアに在庫があるのを発見“してしまった”。

職業柄、ここから市場がどうなるかは読めていた。現在の半導体不足はかなり深刻であり、アップル製品の供給も厳しくなっていく。年末に向けて製品が足りなくなり、納期が再び伸びることは容易に想像できた。実際年末の今は、注文してから納入まで3週間くらいかかる。

納期が厳しくなるなら、今買うべきではないのか。そう考え、結局購入に至ったわけだ。まあ、今使っている機材の下取りだとか、その辺を勘案した上でのことだが。

「いろいろいうけど、要は衝動買いなんでしょ?」

……みなさんみたいにカンのいい人は嫌いだよ。

バッテリー消費は多くなるが画質・音質は抜群

購入したのは14インチ・MacBook Pro。プロセッサーは「M1 Pro」で、メインメモリー16GB、ストレージ1TBのモデルだ。最上位ではなく、店頭販売用にパッケージングされているモデルのうちの上位にあたる。

前出のように、狙いは画質・音質とインターフェースだったので、M1 Maxを選ぶ理由は筆者にはなかった。

それに、M1 Pro/Maxにはトレードオフもある。

それは、使っているARMコアの構成だ。

M1シリーズは、消費電力の低い「高効率コア」と、処理性能が高い「高性能コア」の組み合わせでできている。M1は高効率4・高性能4の8コアであるのに対し、M1 Pro/Maxは高効率2・高性能8の10コアとなる。この差が性能になるのだが、一方で、消費電力面ではあきらかに不利だ。ウェブ閲覧や文書作成などの負荷が低い作業はほとんどが高効率コアで行なわれるので、「一般的なPC作業」だと、高効率コアが多いM1の方が消費電力はずっと低くなるのである。

だから、M1 Pro/Maxを使ったMacBook Proは、バッテリー動作時間が短くなる。これはスペック以上に顕著だ。M1では1時間作業してもバッテリーの減りを感じることは少なかったが、M1 Proではちょっと気になる。一般化は難しいが、2、3割は速いのではないだろうか。

このことはレビューした時から傾向が見えていたので、悩むところではあった。しかし、実用的な範囲を下回ることはなさそうだから、これはこれで……ということで割り切っている。

良い点は、すでに述べたとおりだ。画質はやっぱり良好だ。iPhoneなどでHDR撮影した動画ファイルを見る際にも、従来のMacと違って「ウインドウ内の映像にしっかり輝度突き上げがある」ので、ちょっと違いに驚かされる。というか、この辺の要素がアップルのデバイス同士でないとちゃんと表現できていない現状は、あまりにもったいないと思う。

HDRコンテンツの視聴については、ちょっと注意もある。

Macの場合ブラウザで視聴する場合も多いのだが、Netflixなどは、HDRコンテンツはChromeではなく純正のSafariでないと再生対象にならないようだ。

上がChromeでの、下がSafariでの「浅草キッド」のコンテンツ表示。Chromeでは「HD」となっているところが、Safariでは「DV」(Dolby Vision)になっている

実はNetflixの場合、Chromeでは動画の再生解像度も低く、720pになってしまう。以下の画像はNetflixブラウザ版にある「デバッグ表示」(再生中にShift+Ctrl+Alt+D、Macの場合にはShift+Control+Option+Dを押すと出てくる)での値だが、Chromeは720p・HDR非対応で全体ビットレートも低いが、Safariでは4K・HDR対応で表示されていることがわかる。これはWindowsでも同様なので、Windowsで再生する場合には、ChromeでなくMicrosoft Edgeの利用をお勧めする。

Netflixの「デバッグモード」での表示。Chromeは1,280×720ドット・HDR非対応だが、Safariでは4K・HDRになっている

ちなみにMacの場合、純正の「TV」アプリで配信されているコンテンツは、総じてHDRの再現性が高く、解像度も維持される。映画やドラマなどは、TVアプリでの視聴が一番確実である。

また、再生時の輝度は「最大」にした方がいい。Macで作業をするには明るすぎるが、コントラストをしっかり感じるならその方がいい。アプリに合わせてワンタッチで快適な輝度に変える機能が欲しいくらいだ。

さらに良いのは音だ。ちょっと音楽を聴くくらいなら、ヘッドフォンもしないし、外付けのスピーカーを持ち出すこともなくなった。映画を見る際も、従来に比べ、厚みのある音場を感じられる良い作りだと思う。

安価な買い物ではなかったが、日常のAV体験をよくするものとして、選んで良かったと思っている。

PCで増える「有機EL採用」、日常的なディスプレイの画質にももっと注目を

ただ、このことを年末のプレイバックで書こうと思ったのは、別に「MacBook Proすごいです。買っちゃいました」という話をしたかったからではない。

PCやタブレットが日常的なAV機器になって久しいが、その品質は、テレビなどに比べてどうだろうか? 皆さん、そこまでこだわって選べていないのではないだろうか。ミニLEDの製品を2つ買って、今年筆者は、改めてそのことを考えるようになった。

現在は、そうした部分での環境が変わり始めているのを感じる。

2021年の間に、Windows製品では有機EL採用のものが増えた。これらの中には、コントラストや色域再現の面で、ミニLEDであるMacBook Proより良いものもある。価格は明らかに下落傾向だ。2022年はもっと身近になるだろう。PC用ディスプレイ製品でも、有機ELを使ったものが出始めている。

もしPCやタブレットで映像を見る時間が長くなっているなら、「メインのAV機器」であるテレビ以外にも目を向けて欲しい。

その点でちゃんと評価できる情報が少ないのは事実で、そこは我々がもう少しがんばらねばならない領域かと思う。来年はもう少しその辺の情報もお伝えすべく、努力したい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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