プレイバック2024

豆に手を出してしまい、もう粉に戻れない身体になった by小岩井博

今年、ずっと練ってきた計画を実行に移した。

毎日ネットで情報収集し、何度も読んだ紹介記事にまた目を通す。スペックをじっくり見比べて、導入後のプランをイメージする。そうしていよいよ「コレだ」と決めた5分後には、「やっぱりこっちか?」と決意が揺らぐ。

そんな日々も楽しかったが、そろそろ決着をつけないと。これ以上迷ってもしょうがない、いけ!

ということで、いま我が家にはコーヒー焙煎機が鎮座している。

なぜ焙煎機を迎えるに至ったか

コーヒー焙煎機を買うまでの流れを、ちょっと語らせてほしい。

もともとコーヒーが好きであり、また形から入るタイプなので、グラインダーやドリッパー、さらにはハンドドリップする時間がないとき用にコーヒーメーカー、そしてカフェラテのためにエスプレッソマシンも揃えていた。コーヒーを淹れることも、コーヒーを飲むことと同じくらい楽しんでいた。

でも、ふとスーパーで安く買えるインスタントや出来合いのコーヒーを飲みだしてから、ここ数年はその手軽さから抜け出せなくなってしまっていたのだ。とにかくコーヒーを飲むという行為さえできればいい、という状態だった。すっかり堕落してしまい、コーヒーを淹れる楽しさも忘れていた。100円を切る価格で売ってるペットボトルコーヒーが、十分に飲めるレベルなのがいけないんだ(企業努力に感謝)。せっかく揃えた各種グッズはホコリで白くなっていた。

そんなこんなで夏はペットボトルでアイスコーヒー、冬はインスタントでホットコーヒーをガブガブ飲むようになっていたある日、近所にコーヒー豆専門店ができた。スーパーに買い物にいく道すがらにあるため、あたりに漂う焙煎の良い匂いに、いつも歩きながら鼻をひくひくさせていた。ちょっと気が向いて「まぁ、久しぶりにコーヒー豆から淹れてみるか」と、パックのセール豆を購入したのだった。

引っ張り出したグッズの汚さにげんなりしながらも、自業自得と諦めて掃除をしてから淹れた、お疲れ様の一杯。その一杯が、あまりに美味しくて衝撃を受けた。それからというもの、コーヒー豆が切れることのないよう足繁く店に通うようになった。

しかしその生活を続けるようになってから、コーヒー代が家計を圧迫し始めた。カフェイン酔いをするたちなので、ジャンキーというには程遠いが、それでも毎日の生活にコーヒーは欠かせない。目覚め、というより気付けの朝の一杯からスタートし、食後の一杯、おやつと一杯、そして音楽リスニングのお供に。ときにはデカフェを混ぜながら、せっせとコーヒーを摂取している。特に安価なコーヒーに手を出してから、このがぶ飲みスタイルが染み付いてしまった。

このペースで豆を消費すれば、高く付くのは当たり前のこと。とはいえペースを落とすことも、またインスタントに戻ることもできそうにない。頭を悩ませ、たどり着いたのが家庭用のコーヒー焙煎機だった。

素人でも満足のいく仕上がりに

焙煎機にも様々あるが、1年ほど熟考に熟考を重ねてダイニチ工業の「CAFEPRO(カフェプロ) MR-102」(直販価格99,990円)を選んだ。理由としては自宅での使用環境など色々挙げられるが、国産メーカーのためイザというときにサポートを受けられそうなのが大きかった。

風味と煎り加減を設定すればオートで焙煎してくれるため、素人でも失敗がないのもポイント

コーヒー代の節約という点ではこのクラスの焙煎機を買うのは本末転倒な気もしたが、いつも買うコーヒー豆は200g(焙煎前の量)でおよそ1,000~1,400円といったところ。これを月内で数回おかわりするのだが、生豆なら1kg 2,000円台で手に入る。焙煎後の目減りを加味しても、ランニングコストは半額以下に抑えられる。計算上では、そう時間はかからずに元は取れるはずなのだ。

生豆の状態なら安く購入できるだけでなく、劣化も緩やかなので保存しやすい

このように、焙煎すればするだけ得だろうというザル勘定で、折に触れてはいそいそと焙煎機のスイッチを入れているが、その都度「買ってよかった」とニンマリしてしまう。焙煎の出来栄えを判断するスキルはないのだが、家で焙煎した豆で淹れたコーヒーの味は、店で買ってきた豆で淹れたコーヒーと遜色ないように感じる。ということはちゃんと焙煎できていると言っていいだろう。

キッチンの換気扇の真下に設置。思ったより煙も匂いも出ないので、空気清浄機などを追加で設置することなく使えている

自分でオリジナルブレンドを考えるのも楽しい。有名どころの豆を集めて、適当にブレンドしてもそれなりに美味しく仕上がってくれる。また店で見たことのない銘柄・産地の豆にチャレンジしてみるのも面白い。好みに合うかどうかは賭けだが、ほとんどが美味しいは美味しい。希少な豆だと焙煎済みの豆を買うのと同じくらいの値段になったりするが、ただの飲み物代ではなく趣味にかけるお金と考えれば心情的にも別勘定となる。

こうなると、来年にはまた別のコーヒーグッズが欲しくなるかもしれない。出費がかさむが、また楽しい悩みの日々が過ごせるのなら、それはそれで。

小岩井 博

カフェ店員、オーディオビジュアル・ガジェット関連媒体の編集・記者を経てライターとして活動。音楽とコーヒーと猫を傍らに、執筆に勤しんでいます。