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アルファ・ロメオ『ジュリエッタ』はハイレゾだ。by麻倉怜士

アルファ・ロメオ「ジュリエッタ・クアドリフォリオ」

7月に新しいクルマ、アルファ・ロメオの「ジュリエッタ・クアドリフォリオ」が来た。これまで(今も)アルファ・ロメオ147(2004年式)に乗っていたが、20万キロ走破の疲れもあって、このところ故障続出。角速度センサー、オルタネーター……などけっこうやばい不都合が相次ぎ、家人の信用をすっかりなくしていたので、アルファを新しくしたのだ。

147のフルモデルチェンジ版がジュリエッタだ。新しいといっても、2012年版だから、「大古車」だが、でも走行距離はわずか3万3千キロなんて、新車的。いつも通っている店(147で御世話になっているRSモーターのオーナーの息子が営むピュアリッチオート)で現物を見て、驚いた。まるで新車のように神々しく、輝いているではないか。

アルファ・ロメオ147(2004年式)

アルファの歴史では、このジュリエッタは3代目の940系(2011年~2020年)。5つあるクラスの中で、最上位のスポーツクラスの「クアドリフォリオ ヴェルデ(Quadrifoglio Verde、イタリア語で「緑の四つ葉のクローバー」)だ。1923年にアルファロメオが初めて採用した四つ葉のシンボルマークは、今では、ハイパフォーマンスの象徴だ。1742cc直列4気筒DOHCターボ、左ハンドル、6速MTだ。

緑の四つ葉のクローバーは、最上位のスポーツクラス「クアドリフォリオ ヴェルデ」の証だ

今まで10年以上、147を二台乗り継いで来た経験からすると、「なんて、上質!!」。走りはもちろん、ハンドリング、ギアチェンジ……のすべてが緻密でハイクオリティだ。 たとえてみると、CDとハイレゾ、それもDSD系の音の違いだ。147は、走りがくっきりとし、剛直。別の言葉でいうと、粗い。それはCDの44.1kHz/16bitの、力感と音の粒の粗さ---だ。とはいえ、CDならではのパワー感、押し出し感にも通ずる、いわゆるアルファ的な猛々しさが、ある。でも音楽的な表現やキメの細かさ、コントラストの明瞭さ、質感……などは、圧倒的にハイレゾが上回る。その意味でジュリエッタはまさに"ハイレゾ"だ。

ハイレゾ的な事例は、まずハンドル。147は油圧のパワーステアリングだが、ジュリエッタは電動。油圧に比べ圧倒的に滑らかで、しっとり。回すときの適度な質量が心地好く、さきほどの喩えからするとCDの粗さから、ハイレゾの緻密さに変わったという感じだ。147はよいしょという感じでステアリングを回すのだが、ジュリエッタでは、ステアリングが、まるでドライバーさん早く回してくれ!と、せがんでいるようだ。

マニュアルギアも感動的。147に比べ遙かに精緻に快感的に操れる。各ギアへの入りがもの凄く滑らか。といっても適度なリジッドさがあり、同時にスムーズでキレがシャーブなのだ。147はこのへんが少しもたつくようなところがあり、移動感も少し重いが、ジュリエッタは、流麗で右手が心地好い。優雅にして、堅牢だ。

私は昔からマニュアル派で90年代からシトロエンAX、シトロエンBX、フィアット・プントアバルト、プジョー306カブリオレ、アルファ・ロメオ147×2……とラテンの左ハンドル・マニュアルばかり乗り継いできたが、すべらかなフィーリングと確実さ、エッジの尖鋭さでは、ジュリエッタが段突ナンバーワンだ。マニュアルは絶対的に楽しい。思うがままにクルマをコントロールできるのは、マニュアルの特権。私が思うに、くるまを動かす醍醐味の3割以上は、マニュアルシフトから来る。だから、シフトの動き、操縦性は私にとって極めて重要なのである。オートマチックは気楽だが、でも、マニュアルの楽しみをまったく味わえないのは、可哀想。

ステアリング、マニュアルシフトの緻密さの次は、いよいよ走りだ。ジュリエッタの走りこそ精緻、そして上質だ。それは前述したパワステの違いに似て、極めて密度感が高い。アクセルを踏み加速すると、147はサンプリング周波数と量子化ビット数が低い音のように粗々しく、離散的にスピードアップするが、ジュリエッタは、サンプリング点がひじょうに多く、ビットレートも高いから、滑らかで豊穣なグラテーションカーブに乗って、リニアに加速する。だから心地好く、上質な走りなのだ。

エンジンノイズは静粛で、路面ノイズは心地好い。147はビルシュタインを履いていたが、ジュリエッタはもはやその必要は無い。トップエンドの「クアドリフォリオ ヴェルデ」だからかもしれないが、純正のサスペンションが高性能。剛健にして快適だ。段差も気持ち良く、リジッドにして優雅に身をこなす。サスペンションは敏捷に路面の変化を捉えるのだが、ショックアブソーバーが美味しいバイブレーションだけ残してくれる。まさに"快感振動"だ。

6速を操る運転は最高に気持ち良い。ステアリングもギアも、走行もすべてが、すべらかで情感が濃く、爽快なのである。シフトチェンジ、クラッチミート、アクセルワーク……この3つの作業が有機的に連携した時、ジュリエッタの運転の快感は絶頂を迎える。特にダイナミックモードが凄い。ジュリエッタが「こんなスピードでは、物足りないでしょう」と、グングン、前へと、前へと引っ張ってくれる。高速道路では猛然とダッシュし、ハイテンションで絶品な走行を堪能。これほど気持ちが良く、官能的な作業が他にあるだろうかと思わず感じてしまうのである。外装、内装のイタリアンデザインも官能的でエレガントだ。

まさにハイフォーカスにして、高品位なイタリア車だ。

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表