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小型DACアンプ決定版! Astell&Kern「AK HC4」でスマホやSwitchが高音質に

Astell&Kernの「AK HC4」

小さなスティック型DACアンプは、“スマホで楽しんでいる音楽配信やYouTubeなどの音質を向上させる機器”として人気だが、最近ではNintendo Switchなどと接続し、ゲームの音質を向上させるツールとしても注目を集めている。そんな小型DACアンプにおいて、音質・使い勝手の面で決定版とも言えるモデルが登場した。Astell&Kernの「AK HC4」(直販39,980円前後)だ。

このAK HC4を、実売約14,300円と手に届きやすい価格ながら、ハイクオリティな音で人気のqdcイヤフォン「SUPERIOR」(スーペリア)と組み合わせて聴いてみた。結論から言うと、音楽配信もゲームの音も激変した。完全ワイヤレスイヤフォンの音に不満があるにも、要注目の組み合わせだ。

qdcイヤフォン「SUPERIOR」と「AK HC4」を組み合わせた

AK HC4とは何か

音を聴く前に、AK HC4とは何かを軽くおさらいしよう。

AV Watch読者には説明不要かもしれないが、開発したのは、50万円を超えるような高級ポータブルプレーヤー(DAP)も手掛けている、DAP市場を代表するブランドAstell&Kern。DAP開発で培った技術を、親指よりちょっと大きいくらいの筐体にムギュッと詰め込んだのがAK HC4というわけだ。

サイズは64.5×29.5×14.5mm(縦×横×厚さ)、重量は約31gと非常に小さく、軽い。しかし、実機を手にすると、筐体全体がアルミで出来ているので、高級感があり、チープな感じはまったくしない。触るとひんやりするのが、オーディオ機器っぽくてテンションが上がる。

背面にはAstell&Kernのロゴ

上面にイヤフォン出力として、3.5mm 3極アンバランスと、4.4mm 5極バランス(5極GND結線)を搭載している。どちらか一方を搭載したスティック型DACアンプはよくあるが、このコンパクトさで両方搭載しているのは稀だ。

3.5mm 3極アンバランスと、4.4mm 5極バランス(5極GND結線)を両方搭載

さらに、こんなに小さいのに出力もパワフル。3.5mmアンバランス出力は2Vrms、4.4mmバランス出力はなんと3Vrmsの高出力を実現。高感度なイヤフォンだけでなく、高インピーダンスなヘッドフォンまで駆動できるように作られている。屋外はもちろんだが、屋内で大型のヘッドフォンをじっくり聴くようなシーンでも、AK HC4を活用できるというわけだ。

大型ヘッドフォンでも駆動できる

パワフルだけでなく、出力インピーダンスがアンバランスで0.9Ω、バランスで1.6Ωと非常に小さいのもポイントだ。出力インピーダンスが小さいと、BA(バランスドアーマチュア)ユニットを複数搭載したイヤフォンや、クロスネットワークを組まれたIEMの性能を引き出しやすく、なおかつ出力インピーダンスが低いまま、高いSN比や低歪を両立しているところが凄い。イヤフォン駆動にも最適なアンプと言えるだろう。

コンパクトでパワフルという相反する性能を実現するために、AKプレーヤー製品に採用されている超小型タンタルコンデンサーを使用し、電源変動を抑制。独自のパワーマネージメント技術も使い、接続機器に対する消費電流を最小限に抑えつつ、出力とオーディオ性能を向上させたという。

下面には入力用のUSB-C端子を1系統備えており、標準でUSB-CとLightningの、2本のショートケーブルが付属する。ここがAK HC4の大きな特徴。

標準でUSB-CとLightningの、2本のショートケーブルが付属

というもの、既発売のAK HC2やAK HC3では、本体からUSB-Cケーブルが直出しになっており、Lightningの機器に接続する時は、付属の変換アダプタを装着する必要があった。

AK HC4では、そもそもの接続ケーブルが2タイプ付属しており、そのケーブル自体を付け替えるという、よりシンプルな仕様になっている。

また、このケーブル自体にもこだわりがある。銅芯線を使っているのだが、それに錫コーティングを施し、腐食防止と引張力の強化で耐久性を向上。さらに、ケーブル全体をアルミフィルムで包むことでノイズを遮断したデュアルノイズシールドケーブルとなっている。

さらに、電源ケーブルの周囲にもシールドを施すことで電源ノイズを最小限に抑えつつ、錫メッキ銅線を編み込むことでノイズ耐性を高めている。仕上げはTPEジャケットの上にファブリックジャケットを被せており、見た目や質感も良好だ。

筐体は小さいが、中身はガチだ。DACチップに超低歪と低消費電力を両立したAKMの32bit DAC「AK4493S」を搭載し、最大384kHz/32bitまでのPCM、DSD 256のネイティブ再生ができ、スペックは申し分ない。

さらに、ユニークな機能として「DAR(Digital Audio Remaster)」という機能を搭載。本体側面のスライドスイッチでON/OFFできるのだが、これは一部のAstell&Kern製オーディオプレーヤーに搭載されているAKMのサンプルレートコンバーター「AK4137EQ」を使用したリアルタイムアップサンプリング機能。再生される音源のサンプリングレートを、PCMでは384kHz/352.8kHz、DSDではDSD 256にアップサンプリング再生するというものだ。この効果は後で試してみよう。

ボリュームと並んで、DARのON/OFFスイッチを備えている

ボリュームスイッチも側面に搭載する。バスパワーで動作するので、スマホなどと接続する時も付属ケーブル1本で利用可能だ。

さらに、UAC2.0/UAC1.0の切り替えも可能なので、Nintendo Switchなどの家庭用ゲーム機とも接続可能だ。

音を聴いてみる

Google Pixel 8 Proと、付属のUSB-Cケーブルで接続。イヤフォンはqdc「SUPERIOR」を使った。まずは3.5mmのアンバランス接続から。音源として、Amazon Music HDを使っている。

ジャズボーカルの「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生する。

アコースティックベースとピアノの小さな音でスタートするが、音の無い静かな空間からスッと音が立ち上がり、SN比の良さがわかる。次に同時に関心するのは、ベースの低域の深さ。低い音がズンと深く沈み、低音にしっかり重さが感じられる。膨らませたボワボワした低域ではなく、芯があり、解像度もあるため、ベースの弦がブルルンと震える様子もよく見える。

SUPERIORは大口径のダイナミック型ユニットを搭載し、色付けが少なく、バランスにも優れたニュートラルな音のイヤフォンなのだが、それゆえ、駆動するアンプやDAPのグレードがアップすると、SUPERIORの音もどんどん良くなっていく傾向がある。

AK HC4との組み合わせにより、AK HC4の駆動力の高さ、クリアさ、低域の深さなどをしっかりSUPERIORが引き出していると感じる。

だが、AK HC4の音はさらに上を目指せる。SUPERIORのケーブルを4.4mmバランスに変更し、AK HC4のバランス接続に繋いで聴いてみると、音が激変。思わずニヤニヤしてしまう。

バランス接続に変更してみる

バランス接続では音場がより広大になり、その広くなった空間に、楽器やボーカルの響きが広がっていく様子がわかるようになるため、音楽に立体感が生まれる。さらに、音の1つ1つもよりパワフルに、シャキッと描写されるようになり、トランジェントの良さがアップ。ベースの弦が震える様子だけでなく、それが当たった時の小さな「ベチン」という音も鋭く聴き取れ、聴いていて気持ちが良い音になる。

「フォープレイ/Foreplay」を聴くと、豊かな響きのベースが、肉厚に、旨味たっぷりに描写され、気持ちのいい低音に身をゆだねたくなってくる。まるでフロア型のスピーカーを聴いているような、“駆動力の高いアンプで大型のスピーカーを余裕をもって鳴らした低音”という印象だ。

最近流行りの完全ワイヤレスイヤフォンは便利だが、低域のクオリティが弱いモデルもある。AK HC4 + SUPERIORの音を聴いてしまうと、「やっぱ有線イヤフォンは格が違うな」と感じる。

「米津玄師/KICK BACK」のような、低域が迫力満点で疾走感のあるロックを聴くと、キレキレのサウンドでとにかく気持ちが良い。同時に、低域がしっかり深く沈むため、音楽全体に安定感がある。そのため、ガチャガチャした音に聴こえない。

音楽配信で何曲か楽しんだ後に、スマホでradikoアプリを立ち上げ、J-Waveにアクセス。音楽番組を聴いてみる。

radikoの音はクリアで、ラジオとしてはまったく不満は無いのだが、音楽配信サービスのハイレゾなどと比べると、やはり音場が狭かったり、音像に厚みが無かったりと、ちょっと不満はある。

そこで側面のスイッチでDAR機能をONにすると、聴こえ方がちょっと変化。特に音場がフワッと広くなり、雑に聴こえていた中高域にしなやかさが出て、よりアナログ風な音に変化する。変化の度合いは激変ではなく、ちょっとではあるが、逆にそこがいい。このくらいの変化であれば、マッチしない曲もなさそうなので、「常時ONでいいかな」という気持ちになる。

ゲームのサウンドも聴いてみる

ゲーム機のNintendo Switchとも接続してみよう。

Nintendo Switchに接続した状態でボリュームボタン「+」と「-」を同時に3秒間押すと、LEDがグリーンに変わり、UAC 1.0モードになる。LEDの色はステータスを示しており、スタンバイ時にはホワイト、PCM再生時にはレッド、DSD再生時にはブルー、UAC 1.0モード接続時はグリーンとなる。

UAC 1.0モードにすると、LEDがグリーンになる

Nintendo Switchのサウンドは、内蔵スピーカーや、テレビ接続時のテレビスピーカーで聴いている人が多いと思うが、AK HC4 + SUPERIORで聴くと、「こんなに良い音だったの!?」と驚くはずだ。

よくプレイしている「スプラトゥーン3」のような最新タイトルでは、ブクブク、パシャパシャというインクの液体っぽい音がクリアに聞き取れ、「ああ、インクを撃ち合っているのだな」と改めて実感。敵が潜伏している音も聞き取りやすいので、プレイ中の集中力もアップする。

さらに最近は、グラディウスなど懐かしのファミコンゲームもSwitchでプレイしているのだが、「レトロゲームってこんなに音が良かったんだ」と、改めて聴き惚れてしまう。シンプルなサウンドだからこそ、AK HC4 + SUPERIORのような再生能力の高い組み合わせで聴くと、より魅力が引き立てられる印象だ。

“良い音と過ごす時間”を長くなる

約4万円のAK HC4と、約1.4万円のSUPERIOR、組み合わせると5.4万円となるが、それで、10万円近いDAPとイヤフォンを組み合わせたサウンドに勝るとも劣らないこのサウンドが楽しめると考えると、非常にコストパフォーマンスが高い。

さらに、AK HC4の“小ささ”と“軽さ”も大きな武器だ。やはりDAPは大きく、重く、かさばるため、「スマホとDAPを両方持ち歩くのはちょっと……」と、出番が少なくなりがちだ。しかし、AK HC4であれば、ポケットに気軽に入れておける。どんな時でも「じっくり音楽を楽しみたいな」という気分になったら、スマホにAK HC4 + SUPERIORを接続すれば、本格的なサウンドが楽しめるという気軽さが良い。

さらに、活躍シーンの豊富さもある。屋外だけでなく、帰宅後にノートPCにAK HC4を接続、大型ヘッドフォンを繋いでパソコンの音をゆったり楽しんだり、Switchでゲームをする時はAK HC4 + SUPERIORを繋いで、寝転んだ体勢でも良い音が楽しめる。1日の中で“良い音と過ごす時間”を長くできるのが、AK HC4最大の魅力と言えるだろう。

山崎健太郎