レビュー

DAPキラー登場!? スマホ直挿し高音質ミニDAC「AK HC2」が凄い

完全ワイヤレスイヤフォンを買ったら、便利すぎてポータブルオーディオプレーヤー(DAP)と有線イヤフォンの出番が減ってしまった、なんて人、いますか? ……私も同じです。でも、「お気に入りの曲を聴く時はやっぱり有線イヤフォンで最高の音質で聴きたい!」というアナタ、私もです。

でも、ぶっちゃけて言うと「そのために大きなDAPを常時持ち歩くのもなぁ……」と考えてしまうもの。

そんな我々を見透かしたかのような製品が登場。DAPでお馴染み、Astell&Kernブランドから、“スマホに直挿し”するUSB DACケーブル「AK HC2」が発売された。

小さいからとあなどるなかれ、このサイズに4.4mmバランス出力端子や、超パワフルアンプ、そしてデュアルDACまで内蔵。「でも、お高いんでしょう?」と思いきや、価格も29,980円とリーズナブル。まさに“DAPキラー”と呼べる製品に仕上がっている。

Astell&Kern「AK HC2」

見た目はシンプル

まずは外観からチェック。カラーはAKのDAPでお馴染みのDark Silver。3万円を切る価格ながら、筐体はなんとアルミニウム製で、触った時の高級感はバツグンだ。デザインはシンプルながら、AKのDAPを彷彿とさせる幾何学的なラインが施されている。主張は激しくないため、スマホの隣に置いた時に“目立ち過ぎない”のもポイントだ。

わかりにくいが、小さなインジケーターがあり、動作中は点灯する
筐体にはAKのDAPを彷彿とさせる幾何学的なラインが施されている
背面にAstell & Kernのロゴ

サイズはUSBプラグ部分が12×21×6.5mm、ヘッドフォン出力端子を備えたメイン部分が22.8×60×12.1mmと、だいたい親指くらいのサイズ感。重量も約29gなので、スマホと一緒に持ち歩いても負担はほぼ無い。胸ポケットやズボンのポケットに、ひょいと入れておける。

しかし、中身が凄い。この小さな筐体の中に、Cirrus Logic製のMaster HIFI DAC「CS43198」を、左右独立で1基ずつ、計2基も内蔵しているのだ。また、AK HC2はバランス出力に対応しているため、DAC 1基に対してアンプもそれぞれ独立しているため、合計2基のアンプが搭載されている。これにより、高SN比と低歪を実現。再生対応データは、最大でPCM 384KHz/32bit、DSD256(DSD 11.2MHz)と、必要十分だ。

出力端子は4.4mmのバランスのみ。この手のUSB DACケーブルは、AK HC2の前モデル「AK PEE51」も含めて3.5mmアンバランス出力を備えている製品が多い。しかし、AK HC2は前述の通り各2基のDACとアンプを搭載しているので、バランス出力端子を採用すれば、アンバランスにするための回路を入れなくて済み、オーディオ回路をシンプルにできる。その結果、左右のチャンネルセパレーションに優れ、前モデルからさらに高音質化できる。手軽に使える製品にバランス出力を搭載する事で、イヤフォン/ヘッドフォンの高音質再生に興味を持って欲しいというAstell&Kernのメッセージでもあるのだろう。

出力端子はあえて4.4mmのバランスのみ

さらに注目すべきは、この4.4mmバランス出力端子のアウトプットレベルが4Vrms(無負荷時)と強力である事。USB DACケーブルは、スマホ本体のイヤフォンジャックと比べて、ノイズの少なさ、チャンネルセパレーションの良さといった利点をアピールするものだが、AK HC2の場合は、能率の低いイヤフォンやヘッドフォンをパワフルに駆動できる“小さなアンプ”としても魅力的だ。

接続方法は簡単で、本体からUSB-Cのケーブルが直出しされているので、それをスマホやパソコンに接続するだけ。USBからのバスパワーで動作するため、ACアダプターなどを接続する必要もない。

本体からUSB-Cのケーブルが直出しされている

iOS機器と接続したい場合は、付属のUSB-C to Lightningの変換アダプタを使うだけ。非常にシンプルでわかりやすい。対応OSはWindows 10、11/MAC OS X 10.7以上、Android OS/iOS(スマートフォン&タブレットPC)だ。

付属のUSB-C to Lightningの変換アダプタ

ちなみに、USB DACケーブルの中には、USBの端子部分の中にDACを内蔵する製品もあるが、 AK HC2の場合は、端子ではなく、ケーブルの先にある本体の中にDACを搭載している。

細かい話ではあるが、これはつまり、“USB端子でアナログ信号に変換してからケーブル内を伝送する”のではなく、“USBケーブルを伝送する際はまだデジタル信号のまま”という事。出力端子の手前ギリギリまでデジタル伝送する事で、ノイズをより少なくしているわけだ。

ケーブル部分

採用しているケーブルにもこだわっており、銅芯線に錫コーティングを施し、腐食防止と引っ張り力の強化で耐久性を向上。さらに、ケーブル全体をアルミフィルムで包み、錫メッキ銅線を編むことで、ノイズによる音への干渉を極限まで抑えている。

市場には、別途用意したケーブルで接続するミニDACも存在するが、AK HC2のようなケーブル一体型の場合は、前述のようにケーブルまでこだわり、ケーブルを含めた総合的なサウンドチューニングが可能になる。また、ケーブル一体型とする事で、音質に影響がある接点を減らし、取り回しの良さがアップするという側面もあるだろう。

ケーブルの内部構造

スマホ側で音量調整、アプリも用意

AK HC2側にボリュームボタンは無いので、ボリューム調整はスマホ側で行なう事になる。つまり、AK HC2をスマホに接続し、イヤフォン/ヘッドフォンを繋いだら、ほぼAK HC2に触る必要が無い。

今回の試聴では、ハイレゾファイルの再生用に「HF Player」、音楽配信サービスの試聴に「Amazon Music HD」を使用したが、どちらのアプリでも、問題なくスマホ側から音量調整できた。

スマホに接続するとAK HC2が“ぶら下がる”わけだが、さほど重くないため、「イヤフォン/ヘッドフォンケーブルが少し長くなった」気分で使用できる。前述の通り、AK HC2に触る必要も無いため、長時間使っているとAK HC2自体の存在を良い意味で忘れてしまう。

軽量なのでブラブラさせても抜ける気配はないが、気になる人はスマホの背面にAK HC2本体をまわして、スマホと一緒に指で支える持ち方をすると良いだろう。

なお、スマホとAK HC2を同じポケットに収納する際は、どちらかに傷がつきそうなので、スマホはポケットに入れて、AK HC2はポケットから出して使用した。

また、Android用に「AK HC」というアプリも用意されている。これは、Androidデバイスと接続した際に、相手の機器によって、自動的に最大音量に設定されたり、小音量で再生されるなど、互換性問題が発生した時に、AK HC2の音量をより細かく調整するためのものだ。

Android用に「AK HC」というアプリも用意

音を聴いてみる

音を聴いてみよう。スマホはPixel 6 Proを用意。前述の通り、ハイレゾファイルの再生に「HF Player」、音楽配信は「Amazon Music HD」を使用した。

イヤフォンは「AK ZERO1 Black」をチョイスした。AK ZERO1は、平面駆動型ドライバー×1、BAドライバー×2、5.6mmダイナミックドライバー×1というユニークな構成ながら、ニュートラルなサウンドが持ち味の実力派イヤフォンだ。

AK ZERO1 Black
左がAK ZERO1 Black、右が通常モデルのAK ZERO1

AK ZERO1 Blackは、国内200本の限定生産カラーとして登場したモデルで、カラーがブラックになっているほか、標準で4.4mmのバランスプラグを採用している。そんなわけで、AK HC2とはピッタリの相手なのだ。感度は96dB@1KHz(1mW)、インピーダンスは16Ω@1KHz。

AK ZERO1 Blackは標準で4.4mmのバランスプラグを採用している

AK HC2+AK ZERO1 Blackで音を出すと、想像を超える本格的なサウンドが耳に入って驚く。SN比の良さ、音場の広さを感じるのだが、それよりもまず、中低域がグッと張り出す時の音圧の豊かさ、パワフルさが凄い。「藤田恵美/Best of My Love」を再生すると、ギターとボーカルの余韻が消えていく様子が繊細に描かれると共に、1分過ぎから入ってくるアコースティックベースが「グォーン!!」と肉厚に迫って来て圧倒される。情報量が多いだけでなく、駆動力も高い。これはスマホのイヤフォンジャックでは逆立ちしても出せない音だ。

AK HC2のスペックを見た時に「音が良さそう」と思っていたが、正直こんなに良いとは思わなかった。思わず「これもうDAPいらないんじゃね?」と言ってしまいそうになる。エントリー~ミドルクラスDAPが相手なら、これで十分戦える実力がある。

もちろん、数十万円の高級DAPを聴いた時の、恐ろしいほど深い低音や、圧倒的なSN感までは届かない。だが、AK HC2は29,980円だ。この価格で、10万円の単品DAPにも迫りそうな音質と駆動力を備えているのは、コストパフォーマンスが良すぎる。

“価格を超えた音質”と感じるのは、やはりUSB DACケーブルと思えないバランス出力の駆動力の高さにある。例えばAK ZERO1 Blackを接続した状態では、スマホのボリューム値が半分以下でも、十分な音量が得られる。

また、前述の通りバランス出力とする事で回路全体がシンプルになり、ノイズを抑えつつ、-146dB@1kHzという驚異的なクロストークの無さも実現しており、これも音質や音場の立体感に繋がっている。ちなみに-146dBというスペックは、DAPのハイエンドモデル「A&ultima SP2000T」のバランス接続(-142dB)すら凌駕しているから驚きだ。

AK ZERO1 BlackとAK HC2は色味が近いので、見た目的にもマッチする組み合わせだ

では、鳴らしにくい大型ヘッドフォンはどうだろう。ソニーのハイエンドモデル「MDR-Z1R」(感度100dB/mW、インピーダンス64Ω@1kHz)を接続してみたが、こちらもボリューム値半分程度で十分な音が出てしまう。こんな小さなDACケーブルが、70mm径ユニットのヘッドフォンをしっかりドライブしている姿は痛快ですらある。

ソニーのハイエンド「MDR-Z1R」を接続

先程“DAPとも十分戦える”と書いたが、実際にDAPと比較したら、どんな違いがあるだろうか?

比較相手として、AKのDAP「A&norma SR25 MKII」(99,980円)を用意した。理由として、このSR25 MKII、搭載DACがAK HC2と同じCirrus Logicの「CS43198」で、それをL/R独立のデュアルDAC構成にしているのも同じ。さらに、4.4mmのバランス出力端子を備えて、バランス接続時のアウトプットレベルが4.0Vrms(負荷無し)というスペックまで同じなのだ。

左がAKのDAP「A&norma SR25 MKII」

ただ、いくらAK HC2のコスパが良いと言っても、さすがに単品DAPにはかなわないハズ。そう思いながら、同じハイレゾファイルを転送して聴き比べてみると、思わず「!? まじか……」と頭を抱えてしまう。

いや、A&norma SR25 MKIIの名誉のために言うが、音質はSR25 MKIIの方が良い。だが、ぶっちゃけその差は予想していたほど大きくない。

両者を再生しながら、イヤフォンのAK ZERO1を差し替えて聴き比べるのだが、差し替えた瞬間は「ん、あんまり違いがない!?」と思う。じっくり聴き比べると、音場の奥行きの深さ、低域の沈み込みの深さといった部分で、SR25 MKIIの方が勝っている。しかし、それ以外の部分は、かなーりAK HC2が肉薄している。

鳴らしやすいイヤフォンで比較するから、違いが少ないのではと、ソニーのZ1Rで聴き比べてみるが、前述の通りAK HC2はZ1Rを楽々と慣らしてしまうので、イヤフォンの時に感じた違いはあるものの、“ヘッドフォンだから差が開いた”感じは無い。つまりAK HC2に“力不足感”がまったく無い。むしろ、ヘッドフォンでもこのくらいの差で肉薄しているAK HC2のコスパの高さに改めて衝撃を受けた。

次世代DAPの一つのカタチ

外出時にスマホ+AK HC2を、在宅時にノートパソコン+AK HC2という生活を一週間ほど過ごしてみたが、非常に快適だ。

私は普段、スマホの「Amazon Music HD」アプリでダウンロードした楽曲を、移動中に再生。さらに、radikoのアプリでラジオも楽しみ、その番組内で流れて気に入った曲を、Amazon Music HDで検索して、フルバージョンを聴いて……というような使い方をしている。

当然ながら、スマホ+AK HC2の組み合わせであれば、Amazon Music HDでダウンロードした曲も、ストリーミング再生する曲も、そしてradikoのラジオもAK HC2を通した高音質で楽しめる。

最近のDAPは、Amazon Music HDのようなアプリをインストールできるものが多く、事前に楽曲をダウンロードしておけば、上記と似たような使い方はできる。しかし、とっさに新しい曲を聴きたかったり、ラジオや動画など、他のコンテンツをいい音で楽しみたいと考えた場合、スマホ+AK HC2の手軽さの方が軍配が上がる。“気軽さと高音質のバランス”こそがAK HC2最大の強みと言えるだろう。

一方で、じっくりと音楽を最高の音質で楽しみたい時は、まだまだDAPが頼りになる。そういった意味では、“DAP VS スマホ+AK HC2”という図式ではなく、DAPを所有しながら、スマホ+AK HC2の気軽な環境も構築し、気分に合わせて使い分ける方が理想的かもしれない。

なにしろAK HC2は、29,980円とDAPと比べると圧倒的にリーズナブルで試しやすい。“次世代DAPの一つのカタチ”として、とりあえず聴いてみて欲しい。

(協力:アユート)

山崎健太郎