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女性ボーカル最強、AKM最上位セパレートDAC搭載で使いやすくなったFIIO「K9 AKM」を聴く

「K9 AKM」

自宅で音楽を楽しむ際、「本当はスピーカーを使いたいけど置く場所がなくて……」「家族やご近所さんに音漏れしたら迷惑にもなるし……」と、ヘッドフォンやイヤフォンを使っている人も多いはず。筆者もそんな一人だ。

手持ちのヘッドフォンを使ってなるべく高音質で、となると性能のいい据え置き型ヘッドフォンアンプが欲しくなってくる。どうせならUSB DAC機能も搭載し、Amazon MusicやApple Musicなどのサブスクサービスをハイレゾで楽しんだり、PCの音を高音質で聴きたい……。ただ、数十万円もするような高価な機種にはちょっと手が出ない。

そんな時に注目なのが、USB DAC内蔵の据え置きヘッドフォンアンプを多くラインナップしているFIIO。そのFIIOに、従来モデルからDACチップを一新しつつ、価格はほぼ据え置いた「K9 AKM」(オープンプライス/店頭予想価格89,100円前後)が1月19日に登場した。

DACチップが変われば、当然音質も変化するので、どういった音に仕上がっているのか気になるところ。また、最上位モデル譲りの使い勝手の向上も図られており、使いやすさも注目ポイントだ。

今回は新モデルに加え、既発売のK9、シリーズ最上位のK9 Pro ESSも借りて、音の違いだけでなく、使い勝手も含めてK9 AKMをチェックした。結論から言えば、高いクオリティを発揮しつつ、特に女性ボーカルが最高に美しいモデルに仕上がっており、10万円以下のUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプを探している人には絶対に試聴して欲しい製品だ。

AKMのセパレートDAC仕様になったヘッドフォンアンプ

FIIOの据え置き用USB DAC内蔵ヘッドフォンアンプは、もっともコンパクトなK11を始めとして、K5 Pro ESS、K7、そしてK9シリーズまでラインナップされている。今回発売されたK9 AKMは、そんなFIIOの据え置き用ヘッドフォンアンプとしては最上位に位置するK9シリーズの新モデルとなる。

「K9 AKM」(左)と「K9」(右)。外形寸法と重さは、どちらも200×224.5×72mm(幅×奥行き×高さ)、約2,660g

既発売のK9との大きな違いは、搭載DACと本体側面にUSB Type-Cポートを備えたこと。

DACチップはK9がESS Technology製「ES9068AS」だったの対し、K9 AKMでは、その名のとおりAKM(旭化成エレクトロニクス)製の最新デジタル・アナログ完全セパレートDACソリューション「AK4191EQ + AK4499EX」を採用している。

一般的なDACチップは、その内部で、入力された音楽のデジタルデータを、デジタルフィルターに通し、⊿Σモジュレーターを経由し、D/A変換してアナログ音声として出力する……という流れになっている。

この工程に注目すると、1つのDACチップの中で“デジタル信号とアナログ信号が共存している状態がある”ことになる。旭化成エレクトロニクスは、この状態がアナログ信号に影響を及ぼすことを突き止めた。

そこで、1つのDACチップの中でデジタルとアナログを分離するのではなく、2つのチップを用意してチップレベルで分離。“デジタル信号処理”と“デジタル音声のアナログ変換だけ”と役割を分担することにした。

これがDACチップ「AK4499EX」とデジタル信号処理用チップ「AK4191EQ」を組み合わせ“デジタル・アナログ完全セパレートDACソリューション”というわけだ。

「K9 AKM」の側面にはUSB Type-Cポートが追加された

もうひとつの進化点である本体側面のUSB Type-Cポートは、これまではシリーズ最上位のK9 Proシリーズにのみ搭載されていたもの。K9のUSBポートはType-Bのみだったので、タブレットやデジタルオーディオプレーヤー(DAP)、MacBookのようなノートPCを、より簡単に接続できるようになり、利便性がグッと高まるアップデートだ。

本体背面
本体前面

そのほか入力はUSB Type-B、同軸デジタル、光デジタル、RCAライン、4.4mmバランスを装備。出力は4.4mmバランスと6.35mmシングルエンド、4ピンXLRバランスを前面に、RCAラインと3ピンXLR出力を本体背面に備えており、さまざまなオーディオ機器と組み合わせられる。

3.5mmステレオミニ出力は搭載していないものの、製品に6.3mm変換アダプターが付属しているので、3.5mmステレオミニ端子のイヤフォン/ヘッドフォンを使うことも可能だ。

内部回路や電源部などは、K9を踏襲しており、DACからヘッドフォンアンプ部まで完全バランス設計を採用。THXと共同開発した「THX-AAA 788+」ヘッドフォンアンプ回路、XMOS製「XUF208」USBデコードチップ、2系統の超高精度水晶発振器など、音質を突き詰めたパーツもふんだんに使用している。微細な音量調整を可能にするというADCボリュームコントロール機能も搭載。

Bluetooth SoCとしてQualcomm製「QCC5124」も搭載し、ワイヤレスでスマホなどと接続して、より手軽に音楽を楽しむこともできる。コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HD、aptX LL、aptX Adaptive、LDACをサポートしており、ハイレゾ音源を楽しもこともできる。

付属のスタンドを使えば縦置きもできる

筐体はアルミ合金製。ストレッチ加工やCNC加工で成形された部品を使うことで、高い剛性と高級感ある仕上げを両立している。付属のスタンドを使えば縦置きもできるので、スペースが限られたデスクにも配置できる。

上位機種譲りのUSB Type-Cポートが使い勝手抜群

音を聴く前に、まずは外観をチェックしよう。筐体はアルミ合金製でずっしりと重く、高級感がある。頻繁に触ることになるボリュームノブも大型で、程よい重さなので細かい音量調整もしやすい。10万円を切る価格であっても、このあたりの作り込みの高さは、さすがFIIOといったところ。

メインの電源スイッチは背面にあるが、ゲインや出力モード、入力、ミュート用のボタンなど、頻繁に使うボタン類は本体前面に用意されていて、操作もしやすい。

そして実際に使っていて、便利だと感じるのが側面に追加されたUSB Type-Cポート。USB Type-Cケーブル1本で、タブレットやDAPと接続して、PCレスで音楽を楽しむことができるのだが、いちいち製品の背後に手を入れて抜き差ししなくて済むのは楽だ。

音楽を聴いていると、PCのファンノイズは意外と気になるものだが、タブレットなどのモバイル端末を使えば、そんなファンノイズからも解放される。

側面のUSB Type-Cポートを使えば、iPadなどともケーブル1本で接続できる

実際に今回も側面のUSB Type-Cポート経由でiPad miniを接続して、Apple Musicを聴いてみたが、ファンノイズがなく、キーボードやマウスも使わない省スペースで音楽を楽しめる環境は、想像以上に快適。机の作業スペースも確保できるので、気がつくとPCよりもタブレットとつないで音楽を聴いてることが多かった。

背面のUSB Type-BポートとiPad miniを接続したところ。FIIOのデータ伝送ケーブル「LD-TC1」を使えば、より高品位なデジタル伝送が可能

実際に音をチェックしていこう。今回はMeze Audioのヘッドフォン「99 Classics」をバランス接続して試聴した。試聴にはApple Musicを使い、上述のiPadのほか、Macbook Airも使っている。ちなみにUSBケーブルはFIIO製のデータ伝送ケーブル「LD-TC1」やアップル純正のUSB Type-Cケーブルなどを使用した。

K9 AKMはボーカルの表現力が圧倒的

「K9 AKM」(手前)と「K9」(奥)を聴き比べてみた

K9 AKMの前に、まずはESS製DACを使っているK9の音をチェック。解像感がありながら、締まりのある低域が心地いいサウンドで、「宇多田ヒカル/BADモード」(96kHz/24bit ALAC)では、タイトながら量感も感じられる低域がズン、ズンと響いて、思わず体を動かしたくなる。

それでいて細かな音の描写力も高く、楽曲冒頭の弦の響きや、宇多田ヒカルのため息のようなブレス、楽曲中盤のさまざまな音が入り交じるパートでは、その細かな音ひとつひとつが、よりくっきりと聴き取れる上、音がスッと消えていく。

男性ボーカルの楽曲として「米津玄師/地球儀」(96kHz/24bit ALAC)も聴いてみると、解像感が高く、声の輪郭がくっきりとして聴こえてくる。サビ部分の低域もボワボワと膨らんだりせず、引き締まっている印象だ。

ここでK9 AKMにスイッチすると、K9がクールでソリッドなサウンドであったのに対し、9 AKMは全体的にウォームなサウンド。K9と比べると低域の沈み込みは少し浅くなるものの、その分ボーカルの表現力が向上。特に女性ボーカルでは圧倒的な艶やかさを感じられる。

同じく「宇多田ヒカル/BADモード」を聴いてみると、ズンッ!と沈み込むような低域ではなくなるものの、その分、宇多田の声がくっきりと浮かび上がってくる。ブレスにはK9では感じられなかった艶やかさが加わり、口の動きさえ感じ取れるような生々しさも味わえた。特筆したいのは、ウォームであっても情報量が多く、決してボワッとした音ではないということだ。

「米津玄師/地球儀」も、K9と比べるとボーカルは角が丸くなって温かみを感じるサウンドとなり、よりブレスに艶感が出てくる。低域はK9ほどの沈み込みはないものの、しっかりとタイトでボワボワと膨らむことはない。

このウォームな質感描写は「LiSA/炎 -From THE FIRST TAKE-」(96kHz/24bit ALAC)や「=LOVE/あの子コンプレックス -From THE FIRST TAKE-」((48kHz/24bit ALAC)など、女性ボーカルとの相性が良い印象で、特に「あの子コンプレックス -From THE FIRST TAKE-」ではサビの3声が重なるパートで、ひとりひとりの声色、担当しているコーラス部分の違いを、K9よりもしっかりと聴き取ることができた。

ここで気になってくるのはフラッグシップモデル「K9 Pro ESS」とK9 AKMの違い。K9 Pro ESSは、ESS製「ES9038PRO」のデュアルDAC構成となっており、K9とも違うDAC構成となっている。

「K9 AKM」(左)と「K9 Pro ESS」(右)。K9 Pro ESSはボリュームノブがゴールドに彩られるなど、さらに高級感がある

さっそくK9 Pro ESSに切り替えて「宇多田ヒカル/BADモード」を聴いてみると、K9 AKMのようなウォーム系ではなく、同じESS製DACを採用するK9のような切れ味鋭い音が飛び込んでくる。ただ音のキレはK9よりも数段高く、音のシャープさは今回の3機種でトップという印象だ。

またK9 AKMでも十分広く感じられた音場が上下方向も含めて一歩広がったような、伸びのある音場に変化する。低域も十分シャープだったK9から、よりタイトになりつつ、量感もあり深く沈み込む。

「米津玄師/地球儀」でも、K9 AKMよりも広い空間で、声の輪郭がはっきりとした米津のボーカルが響き渡る。またピアノのハンマーが“コクッ、コクッ”と動いている様子も、耳からわかるほどの描写力で、「DACチップの違いで、ここまで変わるのか」と改めて驚かされた。

K9 AKMとK9 Pro ESSは、対応サンプリングレートや実売価格など、DACチップ以外にも違いがあるが、サウンドに関しては「ウォームなK9 AKM」と「解像感が高くクール寄りなK9 Pro ESS」と違いが明確なので、購入時の指標にしやすいはずだ。

スピーカーも鳴らせるヘッドフォンアンプ

「K9 AKM」にFostexのアクティブスピーカー「PM0.3H」を接続

K9 AKMにはヘッドフォン出力だけでなく、RCAライン出力が装備されているので、スピーカーを鳴らすこともできる。せっかくならと今回は自宅にあったFostexのアクティブスピーカー「PM0.3H」をつないで、スピーカー再生も試してみた。

ちなみにK9 AKMの出力モードには、本体のボリュームレベル調整が有効になる「PRE」と、ボリュームレベル調整が有効にならない「LO」という、ふたつのモードが用意されているので、環境にあわせて選択できる。今回使用したPM0.3Hは本体でボリューム調整ができるので、出力モードはLOにしている。

ヘッドフォンからスピーカーに切り替えても、K9 AKMのナチュラルで、ホッとするサウンドは変わらない。音圧もPM0.3H側のボリュームを50%程度にすればひとりで音楽を楽しむには十分な音量だったので、ヘッドフォンアンプとしてだけでなく、スピーカー用アンプとしても十分に活用できる。

iPhoneとBluetooth接続したところ

K9 AKMはBluetooth受信機能も備えているので、スマホなどとペアリングしてワイヤレスで音楽をストリーミングすることも可能。対応コーデックもSBCやAACに加え、ハイレゾ音源も楽しめるLDAC、aptX Adaptiveにも対応しているので、対応スマホやDAPを使えば、ハイレゾ音源をワイヤレスでK9 AKMに飛ばし、有線ヘッドフォンやスピーカーで楽しむことができる。

実際、手元のiPhoneとBluetooth接続して、Apple Musicを再生してみると、有線接続時と比べると少し音の線が細くなったような印象はあったが、K9 AKMの持ち味であるウォームな音質は十分に楽しむことができた。

スマホとK9 AKMをワイヤレスで接続すれば、例えば寝転びながらでも楽曲操作ができるので、「じっくり音楽を聴き込みたいときはUSB接続したPCやタブレットで、BGM感覚で楽しみたいときはBluetooth接続したスマホで」といった使い方もできる。

ボーカル曲にぴったりなK9 AKM。選択肢が増えてユーザーには悩ましい

「K9 AKM」を使えば、PCレスで音楽サブスクを楽しむこともできる

DACチップがAKMのセパレートDACシステムに変わり、本体側面にUSB Type-Cポートを備えて、音質・使い勝手の両面で進化を果たしたK9 AKM。特に従来は実売143,000円前後の最上位モデルにしか搭載されていなかった側面USB Type-Cポートが追加されたことで、PCやポータブルオーディオ機器とより手軽に接続できるようになり、利便性が大きく向上した。

付属の変換アダプターを使えば、3.5mmステレオミニのヘッドフォンを使うこともできる

筐体もFIIOらしく高級感のある仕上がりで満足感も高い。また、これはK9シリーズに共通する特徴だが、ヘッドフォンだけでなく、いざとなったらスピーカーも駆動できるパフォーマンスを秘めている。それでいて実売価格はK9から約1万円アップの89,100円に抑えられており、コストパフォーマンスもかなり高く感じられた。

DACチップが変わったことによる音質の変化についても、ボーカル曲、特に女性ボーカルの楽曲をよく聴く人にとってはツボにハマるサウンド。筆者は櫻坂46、乃木坂46といったアイドルグループ、LiSA、See-Saw、家入レオといった女性ボーカルの楽曲をよく聴いているので、今回試聴した3機種のなかでは、女性ボーカルの魅力を引き出してくれるK9 AKMが、個人的には一番好みだった。

ウォームよりな音質はゆったりと音楽を楽しむのに最適で、「解像感高く、細かいところまで描き分けるK9/K9 Pro ESS」、「リラックスして音楽の世界に没頭できるK9 AKM」と、方向性の違うモデルが揃ったことはユーザーにとって嬉しくもあり、悩ましくもあるポイントかもしれない。

酒井隆文