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机が狭くてもあきらめない! FIIO「K11」で省スペース・ピュアオーディオ

FIIOのヘッドフォンアンプ「K11」

据え置き用ヘッドフォンアンプといえば、大きな筐体で、前面に大きなボリュームノブを備えた無骨な製品が多い。そうした本格的な製品にあこがれるが、高価な製品にはなかなか手が出ないし、そもそも机の上に置くスペースが無い。アクティブスピーカーを使ったデスクトップオーディオにも挑戦したいが、同様の理由で諦めているという、私のような人もいるだろう。

MacBookのようにミニマルなデザインのノートPCが人気の昨今、「設置スペースを取らず、シンプルなデザインで、それでいて音も良い製品があれば……しかも買いやすい価格で」と、妄想していたところ、そんな悩みを解決してくれる製品がFIIOから登場した。

11月3日に発売となったUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「K11」(オープンプライス/店頭予想価格23,650円前後)だ。アルミニウム合金を使ったシンプルなデザインで、片手で楽々と持ち上げられる小型軽量な筐体ながら、ヘッドフォンアンプ部はフルバランス設計で最大出力1,400mWと、性能面もしっかりと確保されている。

今回はK11のヘッドフォンアンプとしての性能をチェックしつつ、同じくFIIOから発売されている小型アクティブスピーカー「SP3」(オープンプライス/店頭予想価格49,500円前後)も借りて、デスクトップオーディオにも挑戦してみた。

結論から言うと、K11は3万円以下とは思えない音質・仕上げの良さで、ヘッドフォンリスニングだけでなく、筆者の狭い机でも、スピーカーと組み合わせた本格的なデスクトップオーディオを実現できてしまった。

シンプル・ミニマルデザインになったK11

本題に入る前に、まずはK11の詳細について簡単に触れておこう。

筆者が過去にも使ったFIIOヘッドフォンアンプ。右からFiiO K9 Pro ESS、FiiO K9、FiiO K7

FIIOはこれまで、据え置き型DAC内蔵ヘッドフォンアンプの「Kシリーズ」として、K9 Pro ESSやK7、K5 Pro ESSなど、さまざまなモデルを展開してきた。そんなKシリーズの最新モデルとなるK11では、筐体デザインが一新され、デスク上にすっきりと置けるコンパクトサイズに仕上げられた。

例えば、同じKシリーズで完全バランス設計K7と比べてみると、横幅は同じだが、奥行きがK7の168mmに対し、K11は133mmに抑えられいる。そのため、ノートPCの横に置いても腕のほうにはみ出して来ない。

片手で楽々と持ち上げられるサイズ感

またFIIOブランドの据え置きヘッドフォンアンプとして初めて、フロント部にディスプレイを搭載し、サンプリングレートや音量、ゲイン、出力モードをひと目で確認できるようになった。

デザインはシンプルになっているが、ディスプレイの横には触れると質感の良いノブを備えており、直感的に音量調整ができる“オーディオ機器っぽさ”は残されている。ちなみにこのノブで、電源のON/OFF、各入力の切り替えも可能だ。

薄くて小さいと中身がショボいのではと心配になるが、このサイズにガチなパーツとスペックが詰め込まれている。DACチップは、優れた特性を持ちつつ低消費電力を抑えたシーラスロジック製「CS43198」で、ヘッドフォンアンプ回路を左右のチャンネルあたり1基ずつ、合計2基搭載したフルバランス構成となっており、バランス出力で32Ω負荷時に最大1,400mW、300Ω負荷時に最大250mWの高出力を実現している。

本体背面

入出力も充実しており、入力はUSB Type-Cと同軸デジタル、光デジタルを各1系統装備。出力は背面に同軸デジタル(入力と排他)、前面に4.4mmバランス、6.35mmシングルエンドを各1系統備える。

3.5mmステレオミニの出力は用意されていないが、製品に6.35mmシングルエンドへの変換アダプタが付属しているので、3.5mmケーブルしかないイヤフォン、ヘッドフォンでも問題なく使用できる。

ACアダプターなどが付属する
※写真は評価用サンプルのため、ACアダプターは3Pケーブルになっているが、市販品は2Pケーブルが付属する

電源はUSBバスパワーではなく、付属のACアダプターを使う形。配線やACアダプターの設置場所に一工夫必要だが、USBバスパワーよりも安定した電源を確保できる分、さらに高音質を楽しめる。

コンパクトだけど高音質。まずはヘッドフォンアンプとして使ってみる

iPhone 13 Proと並べたところ
13インチMacBook Airと並べたところ

実際にK11を机に設置してみると、なによりそのコンパクトさに驚かされる。iPhone 13 Proと変わらない奥行きで、高さもかなり低く抑えられており、オーディオ機器によくある“箱っぽさ”や“ボタンやノブがいっぱいでゴチャゴチャした感じ”は皆無だ。アルミ製筐体の仕上げも高級感があり、横に並べたMacbook Airともマッチする。これであれば余計なものを起きたくない仕事用のデスクにも、すんなりと溶け込むだろう。

今回はMacBook AirとUSB Type-Cケーブルで接続し、Apple Musicを聴いてみた。ヘッドフォンはMeze Audioの「99 Classics」を使っている。

「LT-TC4」

なお、K11付属のUSBケーブルはUSB Type-A to Type-Aケーブルなので、MacBook AirのようにUSB Type-Cポートしかないデバイスと接続する場合は別途ケーブルを用意する必要がある。今回は手元にあったUSBケーブルを使ったが、FIIOからはDAPなどとOTG接続できるケーブルとして、USB Type-C to Type-Cケーブル「LT-TC4」が発売されている。こちらを使えば、より高品位なデジタル伝送が可能だ。

別途ドライバーをインストールする必要はなく、macとK11をUSB接続し、K11の電源を入れればすぐに音声出力デバイスとして認識される。Windowsでも基本的には標準のUSB Audio Class 2.0ドライバーで動作する。あとはメニューバーのサウンド設定から出力先を変えれば、K11経由で音楽を楽しめる。

macOSの場合、「Audio MIDI設定」アプリからフォーマットを指定する必要がある

ただし、macOS側の仕様により、デフォルトの状態で伝送できるデータは44.1kHz/16bitまでなので、ハイレゾ音源を再生する場合は「Audio MIDI設定」アプリから、フォーマットを指定する必要がある。今回は384kHz/32bitを指定した。なお、ハイレゾ再生で出力値の設定が必要なのはWindowsも同じだ。

さっそくApple Musicを聴いてみると、実売2.3万円前後のヘッドフォンアンプとは思えないほどワイドレンジで、クリアな音を響かせてくれる。まずは3.5mmのステレオミニを6.35mm変換プラグ経由で「米津玄師/地球儀」を聴いてみると、静かな空間に米津のボーカルが曇りなくスーッと伸びていく様子をしっかりと見渡せる。この楽曲はサビ前まではボーカルとピアノをメインに展開していくが、サビに入るとベースやドラム、バグパイプなどが入ってくるのだが、各楽器が奏でる音ひとつひとつがはっきりと聴き取れる。

また楽曲に印象的に盛り込まれている“軋み音”はもちろん、ピアノのハンマーが動いている音といった、繊細な音の描写もシャープかつクリア。ボリュームを上げても、それぞれの音は明瞭さを保ってくれる。

本体上部のFIIOロゴの発光色でサンプリングレートをひと目で識別できる

「YOASOBI/アイドル」のような、ハイスピードかつ音数が多い楽曲もキレ味良く再生してくれる。冒頭の低音もボワボワと膨らまず、タイトで締まりがあり、そこにikuraのボーカルがスッと広がっていく。サビに向けて音数が増えていっても、しっかりした分解能を持つK11では、それぞれの音がぶつかって不明瞭にならず、楽曲が持つ疾走感をさらに引き立ててくれる印象だった。

ケーブルを4.4mmバランスに変えてみると、世界が一変。「米津玄師/地球儀」では、ボーカルがグッと前に出てきながら、その後ろでピアノやベースが響いて、音場の立体感が増す。低域もさらに重みが増し、バスドラムの“ドドンッ”という重たさが頭に響き渡る。

ここまで重厚感や透明感があり、スケールも広いサウンドが、手のひらで覆えてしまうほどコンパクトなK11から再生されていることに理解が追いつかず、「そんな小さな身体で、どうやってこんな音を……」という声が思わず漏れてしまった。

アクティブスピーカー「SP3」と組み合わせて、デスクトップオーディオ挑戦

興奮冷めやらぬまま、続いては同じくFIIOから発売されているアクティブスピーカー「SP3」と組み合わせて、デスクトップオーディオに挑戦してみた。

「SP3」

SP3は2023年6月に登場したFIIO初のアクティブスピーカーで、コンパクトサイズながら3.5インチのミッドウーファーと25mmシルクドームツイーターを搭載した2ウェイブックシェルフ型。アンプ出力は30W+10W、入力端子はアナログRCA×1、3.5mmステレオミニ×1。外形寸法は片側あたり約163×120×132mm。

iPhone 13 Proを並べたところ
理想的な設置環境ではないが、普段Blu-rayのパッケージなどを置いてあるような空きスペースにも、SP3は置くことができる

このSP3のコンパクトさも驚異的で、高さはiPhone 13 Proより少し大きい程度。フットプリントも見た目以上に小さく、普段Blu-rayやゲームのパッケージを置いているような“隙間”にも置くことができた。

重さはプライマリ側で約1,840g、セカンダリで1,660gと片手で持つと少し重量感があるが、移動させるのには苦労しないので、「平日は“隙間”スペースに置いておき、休日にはデスクに持ってきてじっくり音楽を楽しむ」といった使い方もできる。

製品には単結晶銅導体にシールド構造を採用した3.5mm to RCAケーブルが付属しているので、今回はK11付属の変換アダプタを使って、6.35mmシングルエンド出力と接続した。

天板がコンパクトなデスクでも設置可能

SP3との組み合わせでも、トータルパッケージのコンパクトさに驚かされる。筆者が使っているデスクは80×50×70cm(幅×奥行き×高さ)と、PCデスクとして使うには少しコンパクトなサイズ感だが、MacBook AirとK11、SP3は余裕で設置可能。さらに仕事で使っている27型モニターを載せても、問題なくオーディオ環境を構築できた。

K11+SP3の組み合わせでは、どちらでもボリュームコントロールできるが、今回はSP3側はボリューム50%にしておき、手元で操作しやすいK11側で細かいボリューム調整しながら、引き続きMacbook Airと組み合わせてApple Musicを聴いてみた。

またSP3は背面のノブで低音を0~-8dBの範囲で調整できる。低音の強さは、設置場所によって大きく変化する。SP3は背面にバスレフポートがあるので、例えば背後が壁に近いと低音の量感が増えるので、少し絞るとバランスが良くなる……といった具合だ。今回の環境でもデフォルトの8dBでは、かなり低音が強かったので、半分程度まで絞って試聴した。このバランスは設置環境によって調整してほしい。

以前、約1.6万円で購入したPC用アクティブスピーカーをiMacにつないでいたのだが、K11+SP3ではそのPC用スピーカーとは比べ物にならないほどクリアで広大なサウンドが味わえる。PCスピーカーで聴く「米津玄師/地球儀」は低音がボワボワと響いてしまい、ボーカルやピアノなどが埋もれてしまうのに対し、K11+SP3ではタイトな低音と、伸びるようなボーカルを味わえる。解像感もぐんと高まり、分厚いカーテンを取り払ったかのようなクリアな音が広がる。

解像感の高い音を楽しめるので、ほかにもアニソンやEDM、アイドルソングなども聴いていると、「ここに、こんな金属音が入っていたんだ」といった今まで聴こえなかった音にも気づくことができた。また、イヤフォンやヘッドフォンでは味わえない、“何もない空間から音が出てくる”という感覚は2chスピーカーでしか味わえない体験だった。

なにより「音の良いスピーカーがいつでも使える状態でスタンバイしている」という状況は心理的にも影響が大きく、普段であればYouTubeやTikTokなどで無駄に時間を消費していた就寝前のスキマ時間が、Lo-Fiのような今まで聴いてこなかったジャンルの音楽を探す時間になるなど、短時間の試用だったが生活習慣にも変化が出て、新しい音楽と出会うこともできた。

ヘッドフォンアンプにもスピーカー用アンプにもなる“小さき相棒”

正直、筆者の部屋は大型テレビやサウンドバー、ゲーム機、雑誌など、モノに溢れていて「これ以上大きなデスクは置けないし、ここにアンプとスピーカーなんて、とてもじゃないが置けないよね」と、お恥ずかしながら本格的なオーディオ環境の構築は半ば諦めていたのだが、K11+SP3であれば、クオリティの高い環境を省スペースで構築できてしまった。

K11自体も基本性能が高く、ヘッドフォンと組み合わせても十分に高音質な音楽を楽しめる。平日はヘッドフォンアンプとして、休日はスピーカ用アンプとしてK11を活用するといったことも十分に可能だ。見た目もオーディオ機器らしい“メカメカしさ”がまったくないので、部屋のインテリアにも溶け込みやすいだろう。

iPad miniと接続したところ。K11のFIIOロゴの色やディスプレイ表示からハイレゾ伝送できていることが分かる

また、K11と接続する端末はMacBookやPCでなくてもいい。USB Type-C搭載iPad miniに接続しても、問題なくApple Musicでハイレゾ音源を再生できたので、PCの設置場所にとらわれず、どこでもサブスクでオーディオを楽しめる環境が構築できる。

さらに、ファンノイズが大きいゲーミングPCなどを使っている場合は、タブレットを使えばノイズが一切無い部屋で、高音質にサブスクが楽しめるメリットがある。部屋や机が狭くても、オーディオの世界を楽しめる、小さいけれど頼りになる相棒だ。

ちなみに、K11よりもサイズが大きくなるが、Kシリーズの据え置きとしては「K5 Pro ESS」や「K7」、「K9」などがあり、最上位は実売約14万円の「K9 Pro ESS」と、価格や求める機能によって選べるのも魅力だ。例えばK9になると、最大出力2,000mWでBluetooth受信ができ、増幅時に発生する歪みを補正する「THX-AAA 788+」アンプも搭載する。K11はピュアオーディオ入門にぴったりなサイズと価格だが、ここから“魅惑のFIIO沼”に足を踏み入れることになるかもしれない。

酒井隆文