トピック

レコードが「美味しく聴けるスピーカー」を探せ! “学生でも買える”Polk Audioで聴いてみる

アナログレコードが人気だ。日本レコード協会によれば、2023年は数量で前年比126%の269万1,000枚、金額は前年比145%の62億6,700万円となり、60億円超えは1989年以来34年ぶりだそうだ。

こうした人気を受けて、タワーレコードは旗艦店である「タワーレコード渋谷店」を2月29日にリニューアルし、アナログレコードの売場面積は2倍になる。HMVでは、関西に初出店となるレコード専門店「HMV record shop 心斎橋」が3月8日にオープンする。一時の“アナログレコードブーム”から、“レコードを楽しむ趣味”が定着したような状況だ。

「昔はレコードプレーヤー持っていたけど、また復活しようかな」という人だけでなく、「サブスクのハイレゾ配信も楽しんでいるけど、レコードを新しく始めてみたい」という人も多いはずだ。

「どのレコードプレーヤーを買おうかな」と考えるのも楽しいが、もう1つ考えなければならないのが「レコードの音を、どんなスピーカーで再生するか?」という問題。「どんなスピーカーでもいいじゃん」という話もあるが、やはり趣味としては、単に再生するだけでなく、その魅力をしっかり味わえるよう、出口までこだわりたいものだ。

というのも、筆者は自宅で、どちらかといえばモニター寄りの、シャープな音のスピーカーを使っている。これでアナログレコードを聴くと、「レコードの中にこんなに細かな音も入っていたんだなぁ」と関心する一方で、「でもちょっとおとなしいな」とか「もっとレコードらしくガツンと来て欲しいな」と、ちょっと物足りない気分もある。

そこで考えたのは、「レコード再生にピッタリなスピーカーはどんなものか」。傾向としては、音色はウォームで、人の声や楽器を艷やかに再生して欲しい。だからといって、フォーカスの甘い、“眠い音”ではダメだ。情報量は多く、解像度もそれなり高い、現代的な実力も備えていて欲しい。

さらに価格も重要だ。「レコードでオーディオ入門」で、いきなり超高額スピーカーは現実的ではない。ペアで5万円を切るような、高価でも10万円くらいでなんとかなるモデルを……と探したところ、ちょうど良さそうな2機種を発見。

Polk Audioのブックシェルフ「ES15」

“学生でも買える”でお馴染み、米Polk Audioのブックシェルフ・中級モデル「ES15」(ペア46,200円)と、上位機「R200」(ペア103,400円)だ。結論から先に言うと、「Polk Audioで聴くアナログレコード」は、最高に美味だった。

Polk Audioの「R200」

Polk Audioとは

“学生でも買える”というのは、筆者が勝手に言っているわけではなく、Polk Audioのポリシーだ。今から50年以上前の1971年、お金は無いが、情熱はあったジョージ・クロップファーとマット・ポークという2人の青年が、“学生の自分たちでも買える良いスピーカーを作ろう”と家のガレージでスピーカー開発を開始した。

1975年にモニター7(正式名称はMODEL 7)と呼ばれる製品を完成させ、大ヒット。その後も人気モデルを世に送り出し、生産ラインを持てるようになり、オーディオメーカーとして躍進。ついに2012年には、米国トップシェアのスピーカーブランドへと成長した。

Polk Audioがユニークなのは、世界的なブランドに成長しても「アフォーダブル(手ごろな価格)なスピーカー市場」に注力している事だ。普通のオーディオブランドは、最高の素材やパーツを投入した数百万円のハイエンドスピーカーを作り、そこで開発した技術を散りばめながらミドルクラス、エントリークラス……とラインナップ展開していくものだ。

だがPolk Audioは、エントリーのMONITOR XTシリーズ、ブックシェルフ「MXT15」がペアでなんと27,500円。日本で展開している中で一番高価な「RESERVEシリーズ」の中核となるブックシェルフの「R200」でも、前述の通りペア約10万円で買える。

つまり「トップシェアブランドになっても、“学生だった自分たちでも買えるスピーカーを作る”」というスタンスを変えていないわけだ。逆に言えば、「良いスピーカーを多くの人に」という姿勢こそが、高いシェアを獲得した最大の理由なのだろう。

低価格でも“ガチ”な作り

Polk Audioが凄いのは、リーズナブルな価格にも関わらず、実物を見てもまったく安っぽく見えないところだ。

ES15

例えば、安価なスピーカーのエンクロージャーは“ザ・箱”というカタチが多いのだが、「ES15」はご覧のように角がRに加工されている。おしゃれなだけでなく、強度を高めたり、エンクロージャーに音が反射する回折を抑える効果もある。

ユニットが取り付けられた前面にも注目。普通のスピーカーは単に前面の板をくり抜いてユニットを取り付けるだけだが、前面板の上にモールドのフロントバッフル板を追加で取り付けており、そこにユニットを配置している。回折を抑えつつ、強度をアップさせる工夫だ。

背面も凝っている。エンクロージャーはリアバスレフなのだが、ポートは単に穴が空いているだけでなく、その出口に向かって、富士山のようなパーツが取り付けられている。これは、出力された低域をスムーズに拡散させるためのもので、ポートの形状も、空気の流れをスムーズにするよう工夫されている。開口部の表面積を拡張する効果もあり、一般的なバスレフポートとくらべて、約3dBも出力がアップするそうだ。

ES15の背面を上からみたところ。富士山のような突起が見える

2ウェイ構成で、2.5cm径のツイーターはテリレンドーム型で、40kHzまでの超高音域の再生が可能。低価格ながら、ハイレゾ音源も楽しめるわけだ。ウーファーは13.34cm径と、この価格帯のスピーカーとしては大口径だ。

R200

R200の方も、作りはガチだ。こちらも2ウェイで、1インチのツイーターと、6.5インチのウーファーを搭載しているのだが、ツイーターは“ピナクル・リング・ラジエーター”と呼ばれるもので、中央にまるでメタルスライムの頭のような突起がある。高域エネルギーの拡散性を高めるためのもので、ベストなサウンドが聴けるスイートスポットを拡張する効果がある。

ウーファーは、振動板の表面に渦を巻くような模様がある「タービンコーン」だ。振動板が前後にピストンして音を出す時、歪みが発生し、それが音に悪影響を及ぼす。そこで、人間の耳が特に敏感な中音域を自然に再現できるように、振動板に独特の凸部を設けて強度を増して、歪を解消しようとという狙いだ。この形状にするにも手間がかかるが、上位機としてコストをかけて音質を追求しているわけだ。

背面のバスレフポートも普通ではない。ポートの中央に砲弾のような円筒形のパーツが入っている。バスレフポートは本来、低音を強めるためのものだが、そこから出ているのは低音だけではない。“出てほしくない”中低域まで出力されてしまう。それと取り除くのが、この円筒形パーツ。綿密な計算に基づいた穴が空いており、特定の周波数の音だけを共振の効果で除去している。「Xポート・テクノロジー」と名付けられた特許技術だ。

R200の背面。上部のバスレフポートの中に、砲弾のようなパーツが見える

このように、どちらのモデルも細部を見ると「どうやってこの値段で作っているの?」と聞きたくなるほど手がかかっている。

接続前に、“フォノイコライザー”ってなんだ?

さっそくレコードを聴いてみよう。プレーヤーとして用意したのは、デノンの「DP-300F」(53,900円)だ。

デノンの「DP-300F」

デノンと言えば、前身の日本コロムビア(1910年設立)が1951年に日本で初めてLPレコードを発売、1964年に完成させたカートリッジ「DL-103」は、NHK-FM放送をはじめ民放各局を席巻。民生向けにも発売して大人気となり、なんと現在まで発売されている伝説的なカートリッジになるなど、日本のレコードの歴史を体現したようなブランドだ。

DP-300Fはベルトドライブ方式で、ターンテーブルにアルミダイキャストを採用した本格派。一方で、ボタンひとつで自動的にアームが移動しレコードを再生、再生が終了するとアームが戻る、初心者にも安心なフルオートシステムを搭載している。最初からMM型カートリッジも付属しているので、開封してすぐにレコードが楽しめる。

最初からMM型カートリッジも付属している

アンプとして用意したのは、こちらもデノンの「RCD-N12」(110,000円)。コンパクトな筐体に、CDプレーヤー、HEOSのネットワーク再生、2chアンプ、Bluetooth、USBメモリー再生、FM/AMラジオ、さらにHDMI ARC端子まで備えており、テレビと接続するコンポとしても使えるという万能一体型オーディオ。アンプも内部でBTL接続になっているという驚きのパワフル仕様だ。

デノンの「RCD-N12」

ここまででも「どんだけ多機能なんだ」という話だが、選んだ理由はMMカートリッジ対応のPhono入力まで搭載している事。レコードプレーヤーとも組み合わせやすいわけだ。

ざっくりとした説明になるが、レコード再生には「フォノイコライザー」が必要だ。ご存知の通り、アナログレコードは盤面に掘った“溝”に音を記録している。だが、低い音は振幅が大きく、針の動きも大きくなるため、そのまま記録すると針が溝から飛び出してしまう可能性がある。そのため、ちょうどいい幅に溝を収めるために、低音は音量を下げて記録。逆に、溝を刻むには小さすぎる高音は、大きめに記録している。

それゆえ、そのままレコードを再生すると変な音になってしまう。それを正しい音に戻しながら、そもそも出力が非常に小さいレコードプレーヤーの音を増幅するのがフォノイコライザーだ。

面倒に感じてしまうかもしれないが、そうでもない。DP-300Fには最初からフォノイコライザーが搭載されているので、普通のアンプにそのまま接続できる。また、RCD-N12側にも、MMカートリッジ対応のフォノイコライザーが搭載されているので、例えばフォノイコライザーを搭載しないレコードプレーヤーに買い替えた時でも、RCD-N12であれば、別途単体フォノイコライザーを買わなくても、レコードが再生できるというわけだ。

DP-300Fには最初からフォノイコライザーが搭載されているので、RCAのライン出力が本体から直接出ている。これをアンプのAUX入力などに接続すればOK

なお、DP-300FとRCD-N12を組み合わせた場合は、フォノイコライザーはどちらか1つを使えば良い。今回はDP-300Fの内蔵フォノイコライザーをOFFにして(スルー出力にして)、RCD-N12側のPhono入力に接続した。

RCD-N12の背面。フォノイコライザーをOFFにしたDP-300Fを接続する場合は、右下にある「PHONO」と書かれた端子に入力する

レコードの美味しさを、しっかり再生するES15

ではいよいよレコードを聴いてみよう。まずはペア46,200円のES15から。

まずはES15から

「夏川りみ/南風」から、「涙そうそう」を再生すると、ゆったりとした、肉厚の中低域がスピーカーからグッと押し寄せてくる。Polk Audioのスピーカーは、エンクロージャーの響きを活用して、ウォームな響きの美味しさを味方につけるような鳴り方をするが、その傾向がアナログレコードのサウンドに完璧にマッチしている。

夏川りみのボーカルも、キツさが無く、耳馴染みが良く、うっとりと聴き惚れてしまう。それでいて、ボワボワしたフォーカスの甘い音にはなっておらず、歌声が広い空間に広がっていく様子も、繊細に描写している。ウォームなサウンドでありつつ、ES15の基本的な再生能力の高さが感じられる。

「細野晴臣/HOSONO HOUSE」(重量盤)から、「恋は桃色」も聴いてみたが、これがもう最高だ。細野晴臣のベースのように深く、落ち着いた低い声が、ES15からパワフルに放出され、その気持ちよさに身をゆだねてしまう。

このアルバムは、埼玉県狭山市にある通称・アメリカ村にあった細野晴臣の自宅に機材を持ち込み、当時としては画期的な“ホームレコーディング”された作品だが、ある意味で素朴なサウンドが、実にアナログらしい魅力に満ちている。最近の高解像度でシャープなハイレゾサウンドとまったく方向性が違うが、細かいことは忘れて目を閉じて聴き入ってしまうこの気持ちの良さこそ、アナログレコードの魅力そのものだ。

ハイレゾ配信とレコードを聴き比べる

試しに、RCD-N12はHEOSに対応したネットワーク再生機能も備えているので、Amazon Musicから96kHz/24bit/FLACの「恋は桃色」も聴いてみたが、これが面白い。

ベースの低域やドラムの解像感は、ハイレゾの方が高い。声もより明瞭で、鮮度の良さを感じるのはハイレゾの方だ。

だが、ちょっと低音がダンゴになっていても、ベースが豊かに響き、中低域の音の塊がグワッとこちらに吹き付けてくる熱気やパワフルさは、レコードの方が断然気持ちが良い。音が出る前は、たしかにサーッというノイズは聴こえるが、音楽が始まってしまえばまったく気にならない。この心地よさを味わってしまうと、ハイレゾ配信の方は、なんだかこう、音楽を一度石鹸で洗ってから聴いているような感じに聴こえてしまう。

レコード再生×R200の組み合わせは「最高」

では、アナログレコードに戻って、上位スピーカーのR200(ペア103,400円)を聴いてみよう。

「恋は桃色」ベースのウォームな響きや、耳馴染みの良い夏川りみのボーカルなど、音の傾向としてはES15と同じなのだが、R200にすると、中低域のパワフルさや、音の響きが広がる範囲などが、さらに数段アップ。“さすが上位モデル”という貫禄だ。

圧倒されるのが、音の立体感が大幅にアップする事だ。背後に楽器の音が広がり、ボーカルが中央に浮き上がる、その分離が良く、背後の空間の奥行きも深くなる。アナログレコードらしい、音の旨味を維持したまま、空間描写はより現代的なレベルになったような印象だ。

さらに、低域がより深く沈み、無理なく出るようになるため、細野晴臣のベースの気持ちよさもアップ。肉厚な美味しい低音に、深さ、重さが加わった事で、低音に体が包み込まれる感じがさらに強くなる。これはもう「最高」以外の言葉が見つからない。古い録音のレコードと、R200の相性の良さは特筆すべきレベルだ。

古いレコード以外も聴いてみよう。

近年、新たなバンドブームを生み出しているアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」から、結束バンドのレコード盤を再生。「星座になれたら」や「転がる岩、君に朝が降る」を聴いてみたが、これもかなりイイ。

録音が新しいので、レコード再生であっても解像度が高く、“音が新しい”と感じる。ただ、ハイレゾ音楽配信のような音なのかというと、そうではない。中低域の張り出しの強さや、キツ過ぎない高域の耳障りの良さなどにアナログらしさを感じる。

この適度にナローな感じが“狭いライブハウスで聴いている感”を連想させ、ロックとの相性の良さも感じられた。

「レコードの音と相性良さそうだなぁ」と思ってPolk Audioからスピーカーを選んだが、実際に聴いてみて、あまりの相性バッチリ具合に驚いた。

R200のサウンドは最高なので、予算が許せばR200がオススメだ。だが、ES15もペア5万円以下であの美味しさなので、コストパフォーマンスを考えるとR200を超える驚きがある。「とりあえず低価格でアナログレコード・オーディオを始めてみたい」という人は、ES15を選べば幸せになれるだろう。

既にオーディオ趣味を楽しんでいる人には、「アナログ再生用サブシステム」として、Polk Audioのスピーカーを追加するというのもアリだろう。

気がついたら、ハイレゾも配信もそっちのけで、レコードばかり増えて……なんて、新たな趣味の扉が開くかもしれない。

山崎健太郎