レビュー

学生でも買える! 超コスパスピーカー「Polk Audio」聴き比べ

家で過ごす時間が増えたことや、音楽配信サービスが普及したことで「ちょっと良いオーディオスピーカーが欲しい」と思っている人は多い。ただ、いざ買おうとすると“ペアで数十万円”という製品が並び、「ちょっと高いなぁ」と諦めていた人も多いかもしれない。

オーディオ市場にとっては“低価格で音の良いスピーカー”は超大切だ。何百万円もするオーディオ機器を買うマニアも、最初は手頃な価格の製品から“オーディオ趣味”に足を踏み入れたはずで、気軽に始められる趣味でなければ、人口も減り、市場も小さくなり、最終的には製品も減ってしまう。だからこそ“気軽に買えて音が良いオーディオ機器”が重要なわけだ。

そんな観点から注目を集めているのが、2020年に日本市場に再上陸した米国のスピーカーブランド、Polk Audio(ポークオーディオ)だ。注目の理由はズバリ“コストパフォーマンスの良さ”だ。

今回はそのコスパの高さと実力をチェックするため、日本で展開している「MONITOR XT」、「SIGNATURE ELITE」、「RESERVE」の3シリーズを聴き比べてみた。

左から「MONITOR XT」、「SIGNATURE ELITE」、「RESERVE」

学生でも買える音の良いスピーカーを

1971年、お金は無いが、情熱はあったジョージ・クロップファーとマット・ポークという2人の青年が、“学生の自分たちでも買える良いスピーカーを作ろう”と家のガレージでスピーカー開発を開始。1975年にモニター7(正式名称はMODEL 7)と呼ばれる製品を完成させ、これが大ヒット。その後も人気モデルを世に送り出し、生産ラインを持てるようになり、オーディオメーカーとして躍進。2012年には米国トップシェアのスピーカーブランドへと成長した。

創業は1972年なので、今年で50周年となる。過去に何度か日本市場にも入ってきた事はあるが、基本的には米国市場を中心に展開してきたので、“老舗オーディオブランド”と言っていい歴史と技術を持っていながら、日本ではまだ知名度が低い。2017年に、デノンやマランツブランドでお馴染みのディーアンドエムホールディングスと統合した事もあり、2020年に日本市場へ本格的に再参入した。

最近ではサウンドバーで人気モデルを連発しているので“サウンドバーのメーカー”と思っている人もいるかもしれないが、前述のようにバリバリのピュアオーディオスピーカーブランドだ。

にも関わらず、Polk Audioが面白いのは、大メーカーに成長しても「アフォーダブル(手ごろな価格)なスピーカー市場」に注力している事だ。普通、オーディオブランドと言えば、最高の素材やパーツを惜しみなく投入した、数十万円、数百万円のハイエンドモデルを作り、そこで開発した技術を散りばめながらミドルクラス、エントリークラス……とラインナップ展開していくものだ。

だがPolk Audioは、エントリーのMONITOR XTシリーズ、ブックシェルフ「MXT15」がペアで27,500円。日本で展開している中で一番高価な「RESERVEシリーズ」も、ブックシェルフの「Reserve R100」はペアで77,000円と、10万円以下で買える。

要するに、トップシェアブランドになっても「学生だった自分たちでも買えるスピーカーを作る」というブランドの基本を変えていないわけだ。彼らはその理念を「GREAT SOUND FOR ALL」(素晴らしい音を全ての人に)と表現しているが、こうした姿勢が支持された事が、米国で高いシェアを獲得した理由なのだろう。

まずは音を聴いてみる

前置きが長くなったが、音を聴いてみよう。その前にラインナップをおさらい。オーディオ用スピーカーとしては3つのシリーズがあり、センタースピーカーなどは省いて、代表的なモデルの価格を以下に記載する。

  • MONITOR XTシリーズ
    ブックシェルフ「MXT15」 27,500円(ペア)
    ブックシェルフ「MXT20」 38,500円(ペア)
    フロア型「MXT60」 33,000円(1台)
    フロア型「MXT70」 49,500円(1台)
  • SIGNATURE ELITEシリーズ
    ブックシェルフ「ES15」 46,200円(ペア)
    ブックシェルフ「ES20」 57,200円(ペア)
    フロア型「ES50」 48,400円(1台)
    フロア型「ES55」 63,800円(1台)
    フロア型「ES60」 82,500円(1台)
  • RESERVEシリーズ
    ブックシェルフ「R100」 77,000円(ペア)
    ブックシェルフ「R200」 103,400円(ペア)
    フロア型「R500」 77,000円(1台)
    フロア型「R600」 103,400円(1台)
    フロア型「R700」 132,000円(1台)
MONITOR XT

MONITOR XTは“安い”の一言。ペアで27,500円の「MXT15」は衝撃的な安さだが、フロア型の「MXT70」でも1台49,500円と、2台買っても10万円を切る。この価格は、なかなか他社には真似ができないだろう。

SIGNATURE ELITE

ミドルクラスのSIGNATURE ELITEは、MONITOR XTよりだいたい2万円くらいアップするが、ブックシェルフの「ES15」はペアで46,200円なので、これでも十分安い。さすがにフロア型「ES60」(1台82,500円)を2台買うと10万円を超えるが、それでも本格的なフロア型スピーカーの値段としてはリーズナブルと言えるだろう。

Reserve R100

RESERVEシリーズは、SIGNATURE ELITEより2~3万円高価になるが、それでも急激に高くはなっていない。最上位のフロア型「R700」(1台132,000円)をペアで揃えて、10万円くらいのプリメインアンプと組み合わせても、30万円台で収まるのは魅力的だ。

試聴では、各シリーズの特徴と実力を知るため、シリーズのフロア型である「MXT70」(1台49,500円)、「ES60」(1台82,500円)、「R700」(1台132,000円)を用意。同じ曲で、音質を聴き比べる。

MONITOR XT:フロア型「MXT70」(1台49,500円)

MXT70

最も安価なMONITOR XTは、言い換えれば“最もコスパを追求したシリーズ”だ。内部を見ると“そのための工夫”が随所に伺える。例えば、3シリーズのブックシェルフに採用されているウーファー・ユニットを取り出して見比べると、なぜか一番安いMONITOR XTの磁気回路のマグネットが“一番デカい”。

MONITOR XTのウーファーユニット。磁気回路のマグネットが非常に大きい

これには理由があり、コストに余裕がある上位シリーズでは、ユニットに適した磁気回路を専用に設計して搭載できる。しかし、それができないMONITOR XTでは、汎用的なマグネットを用意し、それを組み合わせる事で必要な磁力を得ている。

確かに専用設計したユニットはシンプルで見た目も良いが、エンクロージャーの中に入ってしまえば外から見えない。“コストを抑えながら必要な性能が得られるならそれで良い”という合理的な判断だ。

エンクロージャーにも面白いポイントがある。低価格なモデルながら、素材として剛性の高いMDFを採用しているのだが、さらに剛性を高めるために、補強の木材を内部に入れている。ただ、この補強材は何故か“丸い”。

これは、サブウーファーを作る時に、ウーファーユニットを入れるためにエンクロージャーをくり抜いた端材を、補強材として流用しているためだ。コストを抑えつつ、必要な強度が得られる、こちらも合理的な工夫だ。

エンクロージャーの中には丸い補強材。サブウーファーを作る時に出た端材を再利用しているためだ

ではそのサウンドはどんなものなのか。MONITOR XTシリーズの最上位、フロア型「MXT70」を聴いてみよう。価格は1台49,500円、ペアでも99,000円と驚異の10万円切りだが、立派な筐体を採用した実物を前にすると安っぽさは皆無で「ホントにこれで10万円しないの?」と驚くほかない。

MXT70

ユニットとしては、ハイレゾまで対応する2.5cmテリレン・ドーム・ツイーターと、16.5cmのウーファーを2基、さらに20cmのパッシブラジエーターを2基搭載している。

ではサウンドを聴いてみよう。まずは温故知新、1960年代に活躍したアメリカのフォークグループ、ブラザース・フォアの「七つの水仙」を再生。Polk Audio創業当初から、サウンドチェックとして再生されていたそうだ。

アメリカのスピーカーというと、JBLやアルテックなど“鳴りっぷりの良い”スピーカーを連想する。ピーカンの空に輝く太陽、生き生きとしたクリアなサウンドというイメージがあるが、PolkのMONITOR XTはそれとはちょっと違う。

まず感じるのは、人の声や楽器の音の温かさ。聴いているとものすごくホッとする音だ。これは、日常生活で聞き慣れた人間の声と、同じ音がスピーカーから流れているから感じる安心感で、音色自体がナチュラルでウォームな証拠だ。

MXT70

16.5cmウーファー×2基と、20cmのパッシブラジエーター×2基という物量を投入したフロア型なので、低域の迫力もスゴい。アコースティックギターのボディで反響した低音が、ズンズンとお腹に響いてくる。低域がボワボワとわだかまるのではなく、前へ前へと張り出す心地よさはアメリカ生まれのスピーカーという印象。この低域もナチュラルかつウォームで、聴いていると思わず目を閉じて身を任せたくなる気持ちよさ。古いカントリーやフォーク、ジャズなどに超マッチするスピーカーだ。

では、新しい曲はどうだろうか? 「ビリー・アイリッシュ/Ocytocin」を再生すると、前述のパワフルな中低域が、ここぞとばかりに強烈に張り出してくる。この音圧と迫力は、まさにフロア型スピーカーならではの世界。ペア10万円以下で、この体験ができるのは大きな魅力だ。

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」(佐渡裕&ベルリン・ドイツ交響楽団)のようなクラシックも、スケール感豊かに鳴らしてくれるので、満足度は高い。シビアに聴くと、もう少し中高域の分解能が欲しいが、価格を考えれば十分過ぎるクオリティだろう。

SIGNATURE ELITE:フロア型「ES60」(1台82,500円)

では上位シリーズ、SIGNATURE ELITEのフロア型「ES60」はどんな音だろうか。

ES60

上位シリーズと言っても、ES60は1台82,500円で、ペアで16.5万円。10万円は超えるが、ピュアオーディオのフロア型スピーカーとしては、まだまだ激安だ。

にも関わらず、SIGNATURE ELITEの見た目はMONITOR XTとずいぶん違う。エンクロージャー形状は、MONITOR XTは“四角い箱”だったが、SIGNATURE ELITEは角がRを描いた凝った仕上げになった。これは、エンクロージャー自体に音が反射する回折を抑える工夫だが、当然、Rに加工するには、そのぶん板厚も必要となり、重量もアップするなど、さらなる物量が投入された証でもある。

同じ理由で、SIGNATURE ELITEではユニットが並ぶ前面のバッフルが、モールドでちょっと前に出た構造になっている。細かい部分だが、上位シリーズであることがわかる、見た目の違いだ。

ES60

さらに、下部を覗き込むと、富士山のようなシルエットが見える。ES60は、ウーファーとして16.5cm径のマイカ強化ポリプロピレンドライバーを3基搭載しているが、そのバスレフポートが筐体の底面にある。このポート部分に、特許技術パワーポートを採用。緻密に設計した形状で、ポートを出入りする空気の流れをスムーズにして、ノイズを低減。開口部の表面積を拡張することで、一般的なバスレフポートに比べて出力が約3dBアップしているそうだ。

写真はブックシェルフの背面

ちなみに、D&Mのシニアサウンドマスター澤田龍一氏によれば、3基のウーファーもまったく同じものが3つ搭載されているわけではない。2つはパラレルで繋がっている同じドライバーだが、もう1つは独立しており磁気回路も違うものを採用。それぞれのローパスフィルタも異なっているなど、価格を抑えながらも、非常に手の込んだ仕様になっているそうだ。

澤田氏によれば、音作りの面でも、ユニークなエピソードがある。前述の通り、Polk Audioは2017年に、ディーアンドエムホールディングスと統合。これまでは米国をメインに展開してきたが、2019年に欧州市場に参入した。その時に、欧州市場からの要望を受けて、既に米国で発売していたSignatureシリーズをそのまま欧州にも展開するのではなく、欧州で好まれる傾向の音にネットワークなどをチューニング。“欧州向けバージョン”を作り、高い評価を得た。

MONITOR XTのネットワーク
SIGNATURE ELITEのネットワーク

そこで、その後のモデルでは、欧州からの要望も取り込んだ音作りを行ない、SIGNATURE ELITEを含めたワールドワイド向けモデルへと昇華させた。音作りという、オーディオメーカーにとっては重要な部分も、市場のニーズを柔軟に取り入れ、変化させる。この姿勢も、Polk Audioの強みというわけだ。

先程のMXT70と同じ曲を聴いてみると、一聴して違いがわかる。低域から高域まで、全体の解像度が上がり、細かな音がより聴き取れるようになる。クラシックの「新世界より」も、静かなシーンでの小さな音が聴き取りやすくなり、弦楽器の質感も豊かだ。

MXT70と同様に、ES60でもパワフルな低域が楽しめるが、その低域がグッとタイトになり、低い音の動きもよく見える。「ビリー・アイリッシュ/Ocytocin」のベースやドラムも、その内部で音がうねる様子が聴き取れる。

全体を通して、ES60は「より現代的なサウンド」だと感じる。一方で、音の輪郭を必要以上にカリカリシャープにするような音でもない。解像度が上がっても、どこかホッとする“温かさ”は残っている。このナチュラルなトーンが、Polk Audioの持ち味なのだろう。

それにしても、フロア型のペア約16万円でこの音はスゴい。コストパフォーマンスはピカイチだ。

RESERVE:フロア型「R700」(1台132,000円)

最後にハイエンドのRESERVEシリーズを聴いてみよう。

R700

このグレードになると、独自技術や高級パーツがふんだんに使われるようになる。R700のエンクロージャーは縦方向にRがつき、ツイーターには1インチのピナクル・リングラジエーターを搭載。Polk Audioが開発したもので、高域エネルギーの拡散性を高めるために、ウェーブガイドを採用。さらに、徹底的にダンプしたリアチャンバーにより、不要な共振も解消している。

1インチのピナクル・リングラジエーター

ミッドレンジの振動板には、不思議な模様がついている。これはタービンコーンと呼ばれるもので、剛性と内部損失を高める工夫だ。独自のフォームコアとタービン形状を組み合わせ、インジェクション成形で作られている。

タービンコーン

バスレフポートには、「Power Port 2.0」という最新技術を投入。ポートの形状としては、空気の流れをスムーズにするPower Portだが、それだけでなく、ポートの中央に筒のようなものが見える。

バスレフポートからは、低音だけ出るのが理想なのだが、実際は中音域も一緒に出てしまう。それを抑えるために、円筒形の筒をポートに設置。筒の中に吸音材を入れ、小さな窓を配置し、余分に出てしまう700Hz近辺の音を抑えつつ、ポート自体の共振音も低減させている。要するに一種のアブソーバーだ。「Xポート・テクノロジー」と名付けられており、RESERVEシリーズの全モデルに採用されている。

R700の底面
ポートの中央にある筒が、一種のアブソーバーとして機能する。「Xポート・テクノロジー」

澤田氏によれば、これまでのMONITOR XT、SIGNATURE ELITEでも、それぞれの価格帯のスピーカーで一般的に使われるグレードを超えたパーツが投入されているそうだが、RESERVEではさらにハイグレードなものが使われているとのこと。

RESERVEシリーズのネットワーク

R700を聴くと、こうした工夫が、そのまま音に活かされているのがわかる。

MXT70、ES60と、段階的に解像度が上がっていたが、700ではES60よりさらに音がシャープになり、ビリー・アイリッシュのささやくようなボーカルの口の動きなども明瞭に見えるようになる。

低域の分解能もさらにアップし、ベースラインのタイトさにも磨きがかかる。先程までは重低音の迫力や量感に驚かされていたが、R700の低域は鋭さが加わり、“凄み”が漂いはじめる。これはもうピュアオーディオの高級グレードのスピーカーを聴いている感覚だ。

にも関わらず、R700は2台で約26万円だ。ぶっちゃけ、ピュアオーディオの有名ブランド製品では、26万円出してもブックシェルフのペアすら揃わない事も多いので、「よくこの値段で商売できるよな……」と、聴いていて余計な心配をしてしまう。

ただ、面白いのはR700のような分解能、スピード感、切れ味を揃えたサウンドになっても、ナチュラルさ、アナログっぽさは無くならない。ここだけは、MONITOR XT、SIGNATURE ELITEと共通だ。

学生でも買える価格で、誰もが満足するスピーカー

3シリーズを聴き比べて感じるのは“満足感の高さ”だ。最も安価なMONITOR XTから、溢れるほど豊かな低音が出るため、聴いていてリッチな気分になる。つまり「安いスピーカーを買ったら、音も安っぽかった」とガッカリする事がない。これは非常に重要な事だ。

また、3シリーズ全てで、音がナチュラルで、ウォームで、ホッと落ち着くサウンドになっている事も評価したい。無理にカリカリなサウンドにして、不自然な音になったりせず、あくまで基本を忠実に、物量をしっかり投入し、真面目にスピーカーを作りこんでいる事が音を聴いてわかる。この安心感は、歴史ある老舗オーディオブランドならでは。

そして、安価でも物量をしっかり投入できるのは、アメリカという巨大な市場で膨大な数のスピーカーを作ってきたブランドだからこそできる強みでもある。“伝統と合理化”が、Polk Audioのサウンドを支えているわけだ。

コスパが良く、迫力があり、基本的な実力が高く、ナチュラル。こうした特徴を持っているため、多くの人が「いい音だ」と感じるサウンドに仕上がっている。オーディオ入門用には、これほどオススメしやすいブランドは無い。

スピーカーに割り当てる“オーディオ購入予算”が抑えられれば、アンプやプレーヤーのグレードをワンランクアップできる。ソース機器やアンプがグレードアップすれば、スピーカーの音も大きく進化する。そんなオーディオ趣味の楽しさを、一番味わいやすいスピーカーブランドがPolk Audioと言えるだろう。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

山崎健太郎