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お手頃価格で大傑作! Polk Audioフロア型3シリーズ聴き比べ。ブックシェルフとどっちがいい?
- 提供:
- ディーアンドエムホールディングス
2023年12月7日 08:00
2023年、我が国のオーディオ市場で大躍進を果したスピーカー・ブランドといえば、Polk Audio(ポークオーディオ)だろう。音の良さに比してその値段の安さは信じられないほどで、ぼくも音を聴いたあと価格表を見て驚くこと幾度なく……だった。
日本で展開されているポークオーディオは3シリーズ。安い方から型番アタマに“MXT”がつく「MONITOR XTシリーズ」 、同じく“ES”がつく「SIGNATURE ELITEシリーズ」 、“R”がつく「RESERVEシリーズ」だ。
最上位となるRESERVEシリーズといえども、ブックシェルフ型のトップエンド機「R200」でペア約10万円、フロアスタンディング型のトップエンド機「R700」でペア約26万円という超お手頃価格なのである。
ぼくのお気に入りは鳴りっぷりのよい闊達なサウンドのR200。ロクハン(6インチ半)ウーファーに25mmのリングラジエーターを組み合わせたこのモデルは、この価格帯でもっとも魅力的なブックシェルフ・スピーカーだと思う。
ところで、ポークオーディオの輸入元D&Mの担当者に話を聞くと、昨今ブックシェルフ型以上にフロアスタンディング型の売上げが伸びているという。なるほどブックシェルフ型と床設置面積があまり変わらず、縦長のキャビネットで低域ドライバーを複数個並べられるフロアスタンディング型は、よりスケールの大きなサウンドを奏でられる可能性があるのは確かだ。そこに近年の人気の秘密があるのかもしれない。
ということで、ポークオーディオの同一シリーズで、同じドライバーを用いたブックシェルフ型とフロアスタンディング型の比較試聴を行なうと共に、各シリーズのフロア型も聴いてみることにした。果たしてどんな音の違いがあるのだろうか。試聴場所は神奈川県川崎市のD&M 本社の試聴室。テストにはマランツのSACD/CDプレーヤーの「SACD 30n」、プリメインアンプ「MODEL 30」を用いた。
ブックシェルフとフロア型、どっちがいい?
同一シリーズの同一ドライバーを用いた製品ということで用意してもらったのが、SIGNATURE ELITEシリーズ の「ES20」(ペア57,200円)と「ES55」(ペア124,600円/1台63,800円)である。
どちらも16.5cm(ロクハン)ウーファーに25mmドーム・ツイーターを装填した2ウェイ機で、ブックシェルフ型のES20はウーファーが1基、フロアスタンディング型のES55は2基縦に並べられている。
ところで、ES20を慣習上「ブックシェルフ型」と書いたが、今となっては違和感があるのも事実。というのも、1980年初頭まではこういう小型スピーカーを本棚の中に押し込めて使うケースが多かったので、一般にブックシェルフ型と呼ばれていたわけだが、1980年代半ばにセレッション「SL6」などの高性能小型2ウェイ機が登場するようになり、本棚から取り出して専用スタンドに載せて後ろと横の壁から離してセッティングしようという機運が高まることになる。
そうすることで、立体的なステレオイメージが得られることを多くのオーディオファンが理解するようになったわけだ。以後、小型スピーカーを本棚の中に収めるオーディオファンは激減した。
話が横道に逸れた。ではES20とフロアスタンディング(トールボーイ型と呼ばれることもある)型のES55を比較してみよう。
両モデルを並べてみると、幅と奥行はほぼ同じ。つまり、床設置面積に大きな違いはないということになる。
価格は先述の通りES20がペア57,200円で、ES55がペア124,600円と 2倍強となるが、ES20をスピーカースタンドに載せようと考えた場合、ちょっと音の良さそうな汎用スタンドを選ぼうとすると、優にペア5万円以上はすることに気づく(ポークオーディオは専用スタンドを用意していない)。つまりスタンド込みの値段だと、ES55と大きな違いはないということになってしまうのだ。
CDで愛聴盤を何枚か聴いてみた。この2つのスピーカー、音調はとてもよく似ている。エネルギーバランスがよく整っていて、とても上質な音がするのだ。値段から想像するような、安っぽい音がまったくしないのである。
比較してまずわかる違いはスケール感。スペック表を見ると、ES55のほうが感度(能率)が4dB 高い。MODEL 30のボリュウムを操作して聴感上の音圧感を揃えてみても、ES55はES20よりも中低域が充実して聴き応えがあることがわかった。比較すると、ES20の方はややハイ上がりに聞こえ、低域から中低域がすこし薄く感じられるのである。
これまでさまざまなメーカーのスピーカーで、同一ユニットを用いたブックシェルフ型とフロアスタンディング型を比較してきたが、どちらがぼくの好みかというと、ブックシェルフ型というケースが多かったのも事実。ウーファーを複数用いたフロアスタンディング型は低音過多だったり、低音がにじんだりして明瞭度に欠ける場合が多かったからである。
しかし、ES55は違う。 2基のウーファーのスピードがぴったり揃っているからだろうか、低域の解像度がきわめて高く、にじみやくもりをまったく感じさせないのだ。
ところで、両モデルのスピーカー端子をチェックしてみると、ES20はシングル、ES55はバイワイヤリング仕様になっている。そこでES55をシングルからバイワイヤリング接続に変更して聴いてみた。
この効果も予想以上。高域の透明度がぐんと上がるのである。SN比の向上によって音場感情報が増え、オーケストラが奥深く扇状に展開される様子が目に見えるかのように明快になることもわかった。ダブル・ウーファー仕様のES55は、逆起電力がES20に比べて断然大きいはず。それゆえES55はバイワイヤリング仕様になっているのだナと深く納得することとなった。
また、シングルワイヤリング時に上下の入力端子を渡しているメタルバーも音質阻害要因になっているかも。高域がカン付く原因になるがちなのである。
3シリーズのフロア型最上位モデルを聴き比べる
ポークオーディオのトールボーイ型の魅力再発見……ということで、続いて3シリーズ(MONITOR XT/SIGNATURE ELITE/RESERVE)それぞれのフロアスタンディング型のトップエンド・モデル3モデルを用意してもらったので、その音を聴いてみることにする。
MONITOR XTシリーズ「MXT70」
最初はMONITOR XTの「MXT70」(ペア99,000円/1台49,500円)。16.5cmウーファー×2の低域ドライバーに25mmソフトドーム・ツイーターを組み合わせた2ウェイ機で、バスレフ型ではなく、16.5cmウーファーの下に磁気回路を持たない20cmのパッシブラジエーター(ドロンコーンともいう)が2基装填されている。入力端子はシングル仕様だ。
たっぷりと豊かに響く低音が本機の持味だが、中域の表情が豊かで、ヴォーカルの品位がとても高い。それがこのスピーカーの魅力だろう。豊かな低音に支えられているので、大編成のオーケストラなどを再生しても、ちょっと驚くほどの雄大なスケールを感じさせてくれる。立体的に広がる音場感も見事なものだ。
少し気になったのは、低域から中低域の反応がやや鈍いことだろうか。これはパッシブラジエーターの問題というよりもエンクロージャー剛性に起因するのではないかと思う。もっともペア10万円以下のスピーカーにそこまで求めるほうがどうかしてると言われれば返すことばはないのだが……。
SIGNATURE ELITEシリーズ「ES60」
次に聴いたのはSIGNATURE ELITEの「ES60」(ペア165,000円/1台82,500円)。16.5cmウーファーを 3基縦に並べて25mmソフトドーム・ツイーターを組み合わせた2ウェイ機。ブックシェルフ型ES20との比較に用いたES55の上位機という位置づけだ。
パッシブラジエーターを用いたMXT70 とは異なり、スピーカーの底にポートを設けたバスレフ型である。このモデルはスピーカー端子が2系統あるので、バイワイヤリング接続で試聴した。
このスピーカーの音はとてもすばらしい。間違いなく傑作スピーカーと思う。感度が90dB/2.83V/mと高く、鳴りっぷりがとても良いのだ。音楽がイキイキと闊達に描写されるのである。音がすっと立ち上がってすばやく止まるので、リズミックな表現がじつに巧い。
ロクハン・ウーファー×3基のスピードがよく揃っている印象で、音がだぶついたり鈍い感じがまったくしない。また、低音がストレスなくスムースに広がるのは、ボトムポートのバスレフ型ならではの魅力かもしれない。
また、ハイスピードな低音が得られるせいか、パッシブラジエーター型のMXT70に比べて音色が明るく感じられるのも興味深いポイントだった。また、低域ドライバーを 3基並べたスピーカーだけに逆起電力も大きいはずで、オーナーになった方はぜひバイワイヤリング接続をお試しいただきたい。
RESERVEシリーズ「R700」
最後に聴いたのがRESERVE シリーズの「R700」(ペア264,000円/1台132,000円)。ES60を傑作と呼ぶなら本機は大傑作と呼ぶしかない、そう思わせるに十分なすばらしい音を聴かせた。
本機はポークオーディオの3シリーズの中で唯一の3ウェイ機。20cmコーン型ウーファーを2基並べた上部に16.5cmミッドレンジドライバーを、トップに25mmリングラジエーター型ツイーターを配置する構成だ。本機もバイワイヤリング仕様なので、スピーカーケーブルを2組接続してテストした。
ES60に比べて感度が2dB低いが、その分低域の伸びはES60を上回る。厚みがあって澄明な低音に支えられたピラミッド・バランスの本格的なエネルギーバランスを訴求し、音楽をスケール感豊かに描写するのである。
とくにすばらしかったのが、オーケストラ作品。CDでアンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルハーモニー交響楽団が演奏する伊福部昭の『シンンフォニア・タプカーラ』を聴いたが、変幻自在にイキイキと拍子を変える情熱的なリズムを鮮烈なサウンドで描写し、ぼくを驚かせた。
打楽器のリアリティや管楽器の吹け上がりの良さも抜群、低音のにじみやくもりをまったく感じさせないところに、このスピーカーの実力の高さが窺い知れる。やはり、最上位機種だけにキャビネットの剛性強化に意が払われているのだろう。
値段が上がるほどに音質が向上するというあまり面白くない結果となったが、R700でさえペアで264,000円。そのコストパフォ-マンスの高さは驚異的で、同クラスの他社製品を圧倒する魅力がある。
また、ポークオーディオのフロアスタンディング型はウーファーの複数使用が基本なので、低域から中低域が充実していて、映画再生にも恰好の存在だ。リビングルームの大型テレビの両脇に置いて、昨今話題を呼んでいるHDMI(ARC)端子付プリメインアンプとつないで鳴らすのにこれほどふさわしいスピーカー群はないかもしれない。そんなことを考えた今回の取材だった。