レビュー
5万円以下! 学生でも買えるスピーカー「Polk Audio」で始めるオーディオ
2022年8月5日 08:00
1971年、お金は無いが、情熱はあった2人の青年が“学生の自分たちでも買える良いスピーカーを作ろう”と家のガレージでスピーカー作りを開始。やがて米国トップシェアのスピーカーブランドへと成長したのがPolk Audio。2020年に日本市場に再上陸し、“コストパフォーマンスの良さ”で話題となっている。
以前、ブランド誕生の経緯や、日本でピュアオーディオ向けとして展開している3シリーズの特徴、そして各シリーズのフロア型最上位モデルを聴き比べ、サウンドの特徴をレポートした。
学生でも買える! 超コスパスピーカー「Polk Audio」聴き比べ
ただ、“オーディオ入門”として巨大なフロア型スピーカーを導入するというのは、スペース的にも、予算的にも大変だ。やっぱりパソコン机などに設置しやすい、ブックシェルフが気になるという人も多いだろう。
そこで、以前の記事で“音質”と“価格”のバランスが秀逸で、コスパ的にこりゃ最強だなと感じたSIGNATURE ELITEシリーズから、最も低価格なブックシェルフ「ES15」(ペア46,200円)を用意。
これを実際にデスクトップで使ってみて、満足度はどうなのかを体験してみた。ぶっちゃけ、ペアで46,200円、1台あたり23,100円と、ピュアオーディオスピーカーとしては激安なので「ショボい音だったらどうしよう」と心配していたが、なかなかどうして、これがあなどれないスピーカーだった。
Polk Audioとは?
いきなり、以前の記事を読んでいる事を前提に書き始めてしまったので、超ザックリと振り返ると、ガレージからスタートしたPolk Audioは、ヒットスピーカーを連発。米国ではトップシェアを獲得するほどの大きなメーカーになり、近年は、欧州や日本市場にも本格的に展開。存在感を発揮しはじめている。
面白いのは、そんな大メーカーに成長したのに、100万円の超高級スピーカーを作ったりせず、ひたすらコスパを追求。「学生だった自分たちでも買えるスピーカーを作る」という創業当初の理念を貫いている事。その証拠に、日本で展開しているピュア用スピーカーの代表的なモデルの価格を並べてみると、どれもかなりお安い。
- MONITOR XTシリーズ
ブックシェルフ「MXT15」 27,500円(ペア)
ブックシェルフ「MXT20」 38,500円(ペア)
フロア型「MXT60」 33,000円(1台)
フロア型「MXT70」 49,500円(1台) - SIGNATURE ELITEシリーズ
ブックシェルフ「ES15」 46,200円(ペア)
ブックシェルフ「ES20」 57,200円(ペア)
フロア型「ES50」 48,400円(1台)
フロア型「ES55」 63,800円(1台)
フロア型「ES60」 82,500円(1台) - RESERVEシリーズ
ブックシェルフ「R100」 77,000円(ペア)
ブックシェルフ「R200」 103,400円(ペア)
フロア型「R500」 77,000円(1台)
フロア型「R600」 103,400円(1台)
フロア型「R700」 132,000円(1台)
MONITOR XTシリーズのブックシェルフ「MXT15」などは、ペアで27,500円と、ホントに利益が出ているのか心配になるレベル。今回借りたSIGNATURE ELITEは、その上位シリーズだが、それでもオーディオ用スピーカーとしてはエントリーの価格帯だ。
詳細は以前の記事を参照して欲しいが、このコスパを実現できている理由は大きく2つある。1つは、日本と比べて何倍も市場の規模が大きい米国で、大量のスピーカーを作って売っているからこそ可能な“量産効果”。要するにパーツなどを沢山作るので、コストを抑えられるわけだ。
もう1つの理由は、低価格モデルでは汎用のパーツをうまく組み合わせて必要なスペックをクリアしたり、スピーカーを作る時に生じた板の端材を、内部補強に流用する、などの“工夫”だ。この2つを武器に、「誰もが良い音だと感じるスピーカーを、どこよりも安く作る事」に情熱を注いでいる。それがPolk Audioだ。
低価格だが凝ったスピーカー「ES15」
前置きが長くなったが、SIGNATURE ELITEのブックシェルフ「ES15」を見てみよう。
ペア46,200円だが、実物を前にすると“安っぽさ”は無い。例えば、安いスピーカーのエンクロージャーは“ザ・箱”というカタチだが、SIGNATURE ELITEは角がRに加工されている。柔らかい雰囲気になってオシャレ……なだけでなく、エンクロージャーに音が反射する回折を抑える効果もある。
さらに言うと、ユニットが取り付けられた前面も凝っている。普通のスピーカーは単にフロントの板をくり抜いてユニットを取り付けるだけだが、ES15はユニットを囲むようなカタチのモールドのフロントバッフル板を追加で取り付けている。これも、回折を抑え、強度をアップさせる工夫だ。
背面も抜かりはない。エンクロージャーはバスレフで、背後にそのポートがあるのだが、単に穴が空いているだけでなく、その出口に向かって、富士山のようなパーツが取り付けられている。
出力された低域をスムーズに拡散させる役割だ。さらに、ポートの形状も、空気の流れをスムーズにする形状に工夫され、同時に、開口部の表面積を拡張もしている。これにより、一般的なバスレフポートとくらべて、約3dBも出力がアップしているそうだ。
搭載ユニットも豪華だ。2.5cm径のツイーターは、テリレンドーム型で、40kHzまでの超高音域の再生が可能という。低価格ながら、ハイレゾ音源も楽しめる。ウーファーは13.34cm径で、低価格なスピーカーとしては大口径だ。
このように、外観からも“凝ったパーツ”がいろいろ見えるので、一見して“普通のスピーカーじゃないぜ”というオーラが漂っている。これはオーディオ・スピーカーにとって重要な“燃える”ポイントだ。
PCデスクに設置してみる
外観ばかり見ていても仕方がないので、ノートPCを置いているデスクに設置してみた。外形寸法は19×26×30cm(幅×奥行き×高さ)で、重量は5.9kg。
写真で見るとわかるのだが、背面バスレフポートの部分が、背後に向かって出っ張っているので、一見すると「奥行きが長くて、机に置きにくそう」に思える。ただ、出っ張っているのは上部だけで、下部はそこまで長くないので、机の接地面積としてはそこまで占有しない。机の背後がすぐ壁の場合は出っ張りが当たってしまうので、斜めに設置するなど、工夫が必要だろう。
デスクに設置する場合は、スピーカーの振動がデスクに伝わると、デスク自体が振動して音を濁らせるのでインシュレーターを使おう。とりあえずは付属していたもので十分だ。
ES15はパッシブのスピーカーなので、鳴らすにはアンプが必要。ピュア用のフルサイズアンプは置き場所をとるので、今回はマランツの小型ミニコンポ「M-CR612」(99,000円)を用意した。ミニコンポと言いつつ、8ch仕様のアンプICを搭載し、それをフルに活用して2chスピーカーを駆動するパラレルBTL接続も可能な、かなりマニアックで、ピュアオーディオ寄りなミニコンポだ。
PCとの接続はアナログ入力となるが、Bluetooth接続も可能。ゲームのように遅延がシビアでないソースであれば、BluetoothでもOKだろう。M-CR612は単体でネットワーク音楽再生も可能なので、PCを起動しなくても、Amazon Musicなどのサービスから、ES15 + M-CR612だけで音楽を流す事ができる。
余談だが、M-CR612は光デジタル音声入力を備えているので、テレビの横にES15を置いて、テレビスピーカーとして使うというのもアリだ。
さっそく、ノートPCのサウンドをES15から再生。普段楽しんでいるYouTubeの動画を見てみたが、PC内蔵スピーカーや、小さなUSBスピーカーとは次元の違うサウンドが展開する。
まず圧倒的に違うのが“音場の広さ”だ。例えば、電車での旅動画は、「今日は東京駅から旅に出ます」と駅前からスタートするのだが、その時点で音場のデカさがまったく違う。今までは「旅に出ます」と喋っている声くらいしか耳に入らず、“音場”も何も意識していなかったのだが、ES15 + M-CR612で再生すると、駅前広場を流れる「サァー」という風の音や、遠くの道路を通過する自動車の「グォオオオ」というエンジン音が、ブワッとデスク上空に広がる。
まるでパソコンデスクの周辺が、屋外にワープしたような感覚。これが“臨場感”というやつだ。サウンドバーやサラウンドスピーカーではないが、2chでも、しっかりしたスピーカーで再生すれば、上半身が包み込まれるような臨場感が味わえる。その事実を改めて実感する。
動画が電車のシーンに切り替わると、走行中に車両が発する「ゴォオオ」という振動音や、床下から響くモーターの「クゥウウーン」という音が、パワフルに迫ってきて、「ああー電車の中ってこんな感じ、こんな感じ」と頷く。今までは単に“旅動画を見ている”だけだったのだが、ES15で再生すると、自分もYouTuberの隣で“旅に参加している”気分になる。音が変わるだけで、コンテンツの面白さ・楽しさが倍増する。
流行りの“ゲーム実況動画”も見ていたが、これもだいぶ印象が変わる。今までは配信者のトークに耳を傾けながら、たまに画面を見る“ながら見”をしていたが、ES15で再生すると、配信者の声にグッと厚みが出て、低音も増えた“イケボ”に聞こえる。
同時に、ゲーム内のフィールドを移動するキャラクターの「ザザッ」という足音や、草原を流れる風の音、遠くの戦場から響いてくる銃撃音のかすかな響きなども耳に入り、“ゲーム世界の広さ”が音から伝わってくる。バトルシーンも、銃撃音が「ズドドド」と重く、鋭く、鮮烈なので、迫力が倍増。“ながら見”どころか、画面に釘付けになってしまう。
このサイズのブックシェルフとは思えないほど、低音の量感はたっぷりだ。それでいて、低音が余分に膨らんでボワボワせず、適度な締りがあり、キレの良さを感じる。銃撃音や手榴弾の破裂音の鋭さがしっかり描写され、音がちゃんと“怖い”。
音楽も楽しい。PCをシャットダウンし、M-CR612を制御するため、スマホに「HEOS」アプリをインストール。Amazon Musicの音源を、アプリからの操作でES15 + M-CR612で再生してみる。
「手嶌葵/明日への手紙」を再生すると、デスク上空、自分の目線より少し上に、ヴォーカルの口がポッカリと浮かぶ。そこから発せられる声の響きが、左右だけでなく、奥にも広がっていく。コンサートホールで、自分の目の前で歌ってくれているような臨場感だ。
40kHzまで再生できるテリレン・ドーム型ツイーターの高域も優秀で、分解能が非常に高い。ヴォーカルの口が開閉する様子に加え、歌い出しの「スッ」と息を吸い込む音も克明に描写されるので、生々しさに、聴いていてゾクゾクする。解像度が高いからと言って、高音の音色が金属質になる事もなく、ナチュラルなのも良い。人の声が自然に聞こえるのは、良いスピーカーの証拠だ。
「藤井風/まつり」は、低域のビートが重く、キレの良い楽曲だが、低音がパワフルでキレの良いES15で再生するとハマる。お腹に響くような「ズーンズーン」という音圧と、ベースのラインが「ブルッ」と震える細かな様子の描写が同居しており、聴いていて気持ちが良い。独自のバスレフポートが効いているのだろう。
デスクの空きスペース的にES15が厳しい場合は、1つ下「Monitor XT」シリーズのブックシェルフ「MXT15」(ペア27,500円)が166×183×270mm(幅×奥行き×高さ)が良いだろう。コンパクトだが、テリレンドームツイーターを搭載し、ウーファーは13cm口径と十分大きい。
実際にMXT15を聴いてみると、このサイズのスピーカーとは思えない肉厚な低音に驚かされる。一番低価格なシリーズではあるが、そのへんのPCスピーカーとは次元の違う音で、満足感が高い。
もちろん、高域のゾクゾクするシャープさ、パワフルながらタイトさもある低域は、上位機であるES15だけの魅力だ。このあたりは、価格とサイズを考えれば、仕方のない部分だろう。
スタンド設置とパラレルBTL駆動でポテンシャル発揮
デスク設置ではポテンシャルが発揮しきれない面もあるので、スタンドに設置して、より広い空間でも再生してみた。
デスクトップ再生との大きな違いは、やはり音場だろう。デスクトップでは“机の家に広がった音場に、上半身を突っ込む”ような聴き方だったが、スタンド設置では“部屋に出現したステージを、かぶりつきの席で見る”ような感覚で音楽が楽しめる。
そのため、ボーカルだけでなく、その隣にいるギターやベース、背後のドラムなど、別の音像の定位も明確にわかるようになり、音場全体を見渡すような視点で楽しめ、“どんな音が集まって音楽が構成されているか”がわかりやすい。こうなると、ジャズやクラシック、ポップスやロックのライブ録音が魅力的に聴こえるようになる。
デスクトップ再生も良かったが、やはりスタンド設置のサウンドを聴いてしまうと、こちらの方がスピーカーやアンプの実力をしっかり発揮できると感じる。スタートはデスクトップで、いずれ、スペースやスタンドを確保して……と、段階的にオーディオ環境を充実させたい。
また、前述の通り、ミニコンポの「M-CR612」には、8ch仕様のアンプICをフル活用して2chスピーカーを駆動する「パラレルBTL」モードがあるので、これを試してみると、ES15のサウンドがさらに大きく変化。特に低域のパワフルさ、キレの良さに磨きがかかり、迫力が増すだけでなく、低音の芯がより硬く感じられ、“凄み”が加わる。
つまり、ES15のスピーカーとしてのポテンシャルにはまだ余裕があり、ドライブするアンプが強力になればなるほど、音のクオリティも上げられるというわけだ。将来的にアンプをグレードアップした時に、その効果がちゃんと味わえるスピーカーかどうかも、製品選びでは需要なポイントだ。
ポテンシャルという面では、低価格なMXT15も同様だ。スタンド設置×パラレルBTLモードでは、アンプの駆動力がUPした事で、低域にキレも出てきて、ES15のサウンドに少し近づく。
MXT15はなんといってもホッとする高域の描写が魅力的だ。音色としてはウォームで、穏やかさが持ち味。スピーカーの正面に座って、対決するように聴き込むというよりも、生活の中でずっと音楽を流し続けて、その音に身をまかせたくなるような音だ。
また、そのキャラクターを活かして、ちょっと古い録音の音楽を聴いたり、アナログプレーヤーと組み合わせると、得も言われぬ魅力がある。解像度重視で、キレキレな現代風スピーカーを既に持っている人が、サブ機的に、キャラクターの異なるMXT15を1ペア導入する……というのも、大いにアリだろう。
多くの人が“良い”と感じる音
「学生でも買える、音の良いスピーカーを作ろう」とコストパフォーマンスにこだわるPolk Audioの姿勢は、我々消費者からは歓迎すべきものだ。一方で、「学生でも買える」とか「低価格帯に注力」とか聞くと、“見た目が安っぽいスピーカーなんでしょ?”とか“音はスカスカなんでしょ?”みたいなイメージも抱いてしまう。
だが、実際に「MXT15」(ペア27,500円)と「ES15」(ペア46,200円)を使ってみると、質感やデザインはまったく安っぽくはなく、「これ全部5万円以下ってほんと?」と確認したくなるほどだ。
また、前述の通り音が“リッチ”なのも良い。「安いスピーカーなので低音はあきらめてください」みたいな製品ではなく、どちらもブックシェルフながら、しっかりとした低音を出そうと作られており、実際に見た目を超える低音が楽しめる。満足度が高いので、「オーディオマニアだけが楽しめる音」ではなく「多くの人が“良い”と感じる音」に仕上がっているのも、エントリースピーカーとしてオススメしやすい。「この値段でこの音なら、そりゃアメリカで売れるわけだ」というのが正直な感想だ。
(協力:ディーアンドエムホールディングス)