トピック
スピーカーは18年でどれだけ進化した!? B&W「CM1」と新「607 S3」を聴き比べる
- 提供:
- ディーアンドエムホールディングス
2024年3月7日 08:00
昨年秋に発売された英国B&W(Bowers&Wilkins)の600シリーズの人気が高まっている。とくに末弟モデルの「607 S3」は、値段の安さ(ペア132,000円)とデスクトップでも使えるコンパクト・サイズで大きな注目を集めているようだ。実際その音質は同価格帯の製品の中で抜きん出ていて、さすがB&Wとの思いを抱いていた。
AV Watch編集長のヤマザキさんとそんな話をしていたら、彼から面白い提案が。
「607 S3、いいですね。今ふと思いついたのですが、2006年に登場して大人気をだった同社の『CM1』(Compact Monitor1)が発売当時ほぼ同じ値段(ペア121,800円)なので、一度両モデルを聴き比べてみませんか。発売から18年経っている同価格帯のスピーカーと聴き比べることで、607 S3の個性がより際立つんじゃないかと思いますし、時代の変化による音の違いも興味深いんじゃないかと」。
たしかにそれは面白い。ということで企画をまとめ、2月某日D&Mの担当者に両モデルを用意してもらって、神奈川県川崎市の同社試聴室に出向くことにした。
奥行きが短い607 S3
B&Wの600シリーズは1996年のスタート、2023年発売のS3ラインは8世代目になるそうだ。
607 S3は13cmのContinuum(コンティニュアム)コーンと25mmチタン・ドームツイーターを組み合わせたバスレフ型2ウェイ機。凝った構造のバスレフポートが背面に設けられている。幅が165mmとたいへんコンパクトなので、置き場所を選ばないのが本機の大きな魅力だ。
いっぽうのCM1は、先述のように2006年に登場したコンパクトモニター。後継機のCM1S2が2014年に登場、2017年まで発売され、その後700シリーズに引き継がれていく。ここでは同価格帯の607 S3と比較するが、シリーズ直系となるのは、700ラインということになる。
ウーファー・サイズは607Sと同じ13cmだが、振動板は黄色いケブラーコーンだ。ツイーターの振動板はアルミニウム製。両モデルを横に並べて見ると、横幅はまったく同じ、奥行きはCM1が7cmほど長く、607 S3が2cm高い。まあいずれにしろ設置面積はほぼ同じである。
18年の進化に驚く
では、聴き比べを始めよう。プレイバック・システムは、CDプレーヤーがマランツ「CD 50n」、プリメインアンプが同じマランツの「MODEL 50」だ(ともに231,000円)。
L/Rスピーカーの距離は芯々で約2メートル、L/Rスピーカーを結んだ線を底辺とする正三角形の頂点をリスニング・ポイントとした。ともにサウンドアンカー社の鉄製スタンドに載せての試聴だ。
試聴には4枚のCDを用いた。最初はオノセイゲンがマスタリングしたSACD『JAZZ,BOSA and Reflections Vo.1』からオスカー・ピーターソン・トリオの「You Look Good to Me」(1964年の録音。CD50はSACD未対応なので、CD層を試聴)。1970年代からオーディオ・チェック用として有名な演奏だ。
2枚目はポール・ルイスがBBCシンフォニーオーケストラと共演した『ベートーヴェン:コンプリート・ピアノ・コンチェルツ』(2010年)から第5番「皇帝」の第2楽章を。
3枚目はプリンスの『レインボー・チルドレン』(2002年)からタイトル曲を、4枚目はアノーニ&ジョンソンズの『MY BACK WAS A BRIDGE FOR YOU TO CROSS』(2023年)から「IT MUST CHANNGE」を聴いた。
さて、結果は? 音の違いはレキゼンだった。あまりの違いに取材に同席してくれたヤマザキ編集長と顔を見合わせたほど。
まず大きく異なるのは、空間情報とローレベルの表現力。昨年発売された607 S3のほうが音場表現と解像感、S/N感でだんぜん優れることがわかったのである。
「オスカー・ピーターソン」では、607 S3のほうがワイドレンジで演奏現場の暗騒音をよく拾う。音色も明るい。エド・シグペンのブラッシュワークが鮮明に浮き立つ。トランジェントがよく、ピアノのタッチもいっそう精緻な印象だ。これはツイーターの振動板素材の違い(607 S3はチタン、CM1はアルミ)によってもたらされる部分も大きいのかもしれない。
いっぽうのCM1はまろやかで穏やかな音に聞こえる。607 S3に比べると、オーディオ的スリルに乏しいが、こっちのほうがより聴きやすく、長時間聴いても疲れないと言う方もおられるかもしれない。
では『ベートーヴェン:皇帝』はどうか。ここでも607 S3の高性能ぶりが際立った。第2楽章冒頭の弦5部のスムーズなハーモニーの広がりは目を見張るばかりだし、木管楽器が入ってくるところの立体的な表現も見事というほかない。ピアノの音像はL/Rスピーカーの間にシャープに結像する。
CM1は607 S3に比べると、ややおっとりとした表現、ピアノの定位もすこし甘く感じられる。休止符の静寂の気韻の深さも607 S3のほうが上だ。
しかしながら、マッシブな低音と強烈なビートで迫る『プリンス』では、CM1の健闘ぶりが光った。607 S3はエネルギーバランスがハイ上がりで、低音の量感もCM1のほうが豊かに聞こえるのである。これはキャビネットの容積がCM1のほうが大きいことが効いているのかもしれない。
ただし、注意深く耳を傾けていくと、607 S3のほうが解像感が高く、サウンドステージも広いことに気づく。パッと聴きはCM1だが、オーディオマニアの耳でじっくり聴くと607 S3の魅力が明らかになるという感じだろうか。
『アノーニ』は昨年発表されたアルバムでもっとも感動させられた作品の一つ。なんといってもアノーニの真に迫った歌声がすばらしい。607 S3が光るのが、そのサウンドステージの広さ。バンド演奏がくっきりと分離され、中空にポッと浮かぶヴォーカルの生々しさといったらない。
比べると、CM1はそれぞれの音がかたまりとして表現され、L/Rスピーカーを結んだ線よりも前に出てくる感じとなる。607 S3はその奥に定位するのだけれど。
いかがだろう、この2つのスピーカーの音の違いがおわかりいただけただろうか。しかし、発売当時のCM1は立体的な音場表現に優れた高性能コンパクト2ウェイ機という印象だったので、自分でもこの感じ方は意外。
また、18年という年月を経て、B&Wの小型スピーカーは着実に進化しているということが深く納得できた比較試聴だった。
さて、607 S3はバイワイヤリング接続が可能なので、その効果も試してみた。大口径ウーファーを積んだ大型スピーカーほどではないが、「オスカー・ピーターソン」でシングルワイヤリングと比べてみたが、バイワイヤリングのほうが音場が広く音色がより明るくなることがわかった。ウーファーからの逆起電力がショートされて、ツイーター担当領域の歪みが抑えられるからだろう。
Polk Audio「R200」 VS B&W「607 S3」
さて、今回の比較試聴はこれでオワリではない。D&Mグループが取り扱っているPolk Audio(米国)にも607 S3と同価格帯に大人気スピーカーがラインナップされている。Reserveシリーズの「R200」(ペア103,400円)だ。16.5cmタービンコーン・ウーファーとリングラジエーター型ツイーターを組み合わせた2ウェイ機。ウーファー口径の違いもあり、607 S3よりも一回り大きく、デスクトップで使うのは難しいサイズかもしれない。
この2モデルの聴き比べもとても楽しかった。英B&Wと米Polkの設計思想の違い、どんな音を聴かせたいかという哲学がまるで違うことがわかったからだ。
607 S3はひたすら精密に音像・音場を描いていく超優等生サウンド。いっぽうのR200は607 S3に比べるとおおらかな鳴りっぷりで、音楽全体を雰囲気たっぷりに楽しく聴かせてくれる印象なのである。
この異なるインプレッションは、ウーファー・サイズの違いによってもたらされる部分が大きいと思われる。R200のほうが何を聴いても音圧感が高く感じるし、「プリンス」のようなビートの効いた音楽では、中低域の充実感や力感でR200が勝る印象だ。
いっぽうで、空間情報がたっぷり含まれたオーケストラのライブ録音などでは、607 S3の魅力が際立つ。実際にコンサートホールに出向いたときのようなプレゼンス感が生々しく体感できるのである。
ここで注意点を一つ。607 S3の精密な音像・音場表現の魅力を十分に引き出すには、スピーカーセッティングに注力する必要がある。まず、しっかりしたスピーカースタンドに載せて、後ろとスピーカー両サイドの壁との距離を十分に取ることが肝要だ。
今回の試聴では後ろ、両サイドの壁から1m以上離してスタンドに載せた607 S3を置いたが、生活動線を考えると一般家庭でそのようなセッティングは難しい。
であれば、ふだんは壁際に置いて「よし、今日は音楽にしっかり向き合うぞ」という気分になったときにスタンドごと607 S3を前にだして後ろの壁から離してあげればいいのではないかと思う。
こうすることで、先述したこのスピーカーの精密な音像・音場表現の魅力を引き出すことができるはずだ。
スピーカーそれぞれの持ち味を精査しながら、音楽を聴いていく作業はとても楽しい。ともに手頃な値段だし、一人で苦もなく持ち運べる重さだし、両モデルを手元に置いて、再生する音楽に合わせて入れ替えながら聴くのもいいなあ、などと思った今回の取材でした。