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“Hi-Fiのサイズと価格”を破壊、デノン ストリーミング・デジタルアンプ「DENON HOME AMP」の衝撃
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- デノン
2024年7月19日 08:00
驚くほど小型なのに、音は本格ピュアオーディオレベル、さらにネットワークオーディオやHDMI ARCも搭載したアンプとしてマランツ「MODEL M1」(154,000円)が話題だ。筆者も取材しながら「これマジで欲しいな」と思っていたのだが、ふと頭をよぎったのが「同じD&Mグループのデノンからも似た感じの小さいアンプが出たりして……」。そしたらほんとに出た、「DENON HOME AMP」が。しかも奥さん、DENON HOME AMPは121,000円と、MODEL M1より約3万円安いんですって!
値段を聞いただけで通販サイトでポチリそうになるが、実際のところどんな製品なのか。MODEL M1とどこが違うのか? 気になるところを細かくチェック。もちろん音も聴いてみよう。
小さなボディにネットワーク再生、アンプ、HDMI ARC搭載
まずは外観から見ていこう。DENON HOME AMPの外形寸法は217×242×86mm(幅×奥行き×高さ)とちょっとした弁当箱くらいのサイズ感。重さは約2kgあるが、男性なら片手でつかんで簡単に持ち運べるだろう。
マランツのMODEL M1は217×239×84mm(同)なので、数値的にはDENON HOME AMPの方が少し大きい。実際に2機種を見比べてみると、DENON HOME AMPは背面端子やスピーカーターミナルが上から見えないように“ひさし”のように天面が出っ張っているのに対し、MODEL M1はひさしが無いという違いくらいなので、サイズ感はほぼ同じと思っていい。
DENON HOME AMPはこの小型筐体に、定格出力125W + 125W(4Ω)、100W + 100W(8Ω)のフルデジタルアンプを搭載している。このアンプはBTL構成になっており、コンパクトでも出力を高めているのが特徴。アンプのソリューションはオランダのAxignのClass Dアンプソリューションを使っている。
完全なデジタルアンプなので、音楽配信やHDMI/光デジタルなどから入力されたデジタル信号は、スピーカー出力のフィルターまで一度もアナログ信号に変換されることなくフルデジタルで処理される。
アナログRCA入力も備えているが、アナログ入力された音声はデジタル化され、以降はデジタルで処理されるカタチだ。
ちなみにこのアンプ部には、デノンのサウンドマスター山内慎一氏が、試聴繰り返して決めた高音質パーツが投入されているが、その中には、ハイエンドアンプにも搭載されている、山内氏こだわりのオリジナル「SYコンデンサー」も含まれている。
このSYコンデンサー、オリジナルなパーツだけあり、非常に高価なもので、DENON HOME AMPのような価格を抑えた製品にはなかなか使えないものだ。しかし、試作機が山内氏のところに回ってきて、音質検討する中で、肝となる部分にSYコンデンサーを使ったところ、やはり音質が格段に良くなったという。そこで山内氏は「SYコンデンサーはコストが高すぎるので使うのはやめましょうよ」と言われる事を覚悟した上で、SYコンデンサーを入れたまま提出したところ、そのまま次の段階へと通ったという。「ラッキーでした」(山内氏)と笑う。
ちなみに、デノンのコンパクトなオーディオとしては、CDプレーヤーも内蔵した「RCD-N12」というモデルが既に発売されているが、N12にはこのカスタムコンデンサーは使われていない。
山内氏は「RCD-N12の開発で培った技術も活用できたのは、DENON HOME AMPにとって大きいポイントです。オリジナルのSYコンデンサーも、N12開発で得られた技術を用いて、“SYコンデンサーが活きる”ような状態で投入できた事もよかったです」と話す。こうした下地もあり、「開発は比較的スムーズでした。実はスムーズに完成できる製品ほど、良い音になるんです」(山内氏)。
こだわりはここだけではない。パワーアンプ部分には、デノンのハイエンドターンテーブル「DP-3000」向けに開発された、新型の大型カスタムコンデンサーを投入している。
“小型でもHi-Fi”実現するための工夫
小さな筐体で、100W + 100W(8Ω)のパワフルなアンプと、ネットワーク再生、HDMI ARCといった様々な機能を詰め込むにも大きな苦労があったという。乗り越えなければならない問題は、剛性、ノイズ、そして温度だ。
DENON HOME AMPは、4mm厚のボトムプレートをベースとしており、その上に3枚の基板を重ねた構造になっている。ただ、単純に3枚を重ねただけではまったく剛性が出ない。そこで、それらの基板を強固にホールドし、剛性を高めるために樹脂でできたインナーシャーシを開発した。
3枚の基板の“重ね方”も需要だ。一番下層のスペースが大きな部分には、アンプにおいて最も重要かつ、大型パーツを取り付ける必要がある電源部とパワーアンプ部を配置した。
開発当初はその上に信号処理や入力の基板、一番上にHEOSのネットワークプレーヤー用基板を重ねていたそうだが、HEOSの基板がどうやっても筐体に収まらない。そこで基板を裏返しにして、2層目に移動。一番上が信号処理や入力の基板という順番になったそうだ。
一方で、他の基板と比べ、HEOSの基板からはノイズが多く出る。影響を抑えるためには、HEOS基板の近くに、ノイズの影響を受けにくいパーツを配置する必要がある。それを限られたスペースで実現するため、設計段階で何度もCADを書き直し、最適なパーツ配置を追求したそうだ。
狭いスペースにこれだけの基板やパーツが詰め込まれているので、発熱の処理も当然重要となる。そこでDENON HOME AMPでは、天面にプレートではなく、小さな穴が沢山空いたパンチングメタルを採用。底部にも空気が通る隙間を多く設け、熱が逃げやすい構造を採用した。
ちなみに天面には模様が描かれているが、これは枯山水にインスパイアされたデザインとのこと。横から見た時のシルエットは“茶器”をイメージしているという。筐体は樹脂製だが、内側にリブを設けて剛性を高めている。表面は特に塗装などはされていない。
テレビ連携、ネットワーク再生、サブウーファー追加も可能
機能面では、HDMI ARC/eARCに対応し、テレビとHDMIケーブル1本で接続して、テレビの音を再生可能だ。192kHz/24bitまでのリニアPCMが再生できる。ドルビーデジタルプラス信号も入力可能だが、2chアンプなので、マルチチャンネルのソースは2chへダウンミックスされる。
HDMI CECに対応しているので、テレビの電源オン/オフとアンプが連動するほか、テレビのリモコンを使ってアンプの音量操作も可能だ。逆に、DENON HOME AMPにリモコンは付属せず、リモコン受光部も備えていない。基本的にはHEOSアプリを使ってスマホから操作するか、テレビと連動させるカタチとなる。また、本体にボリュームボタンや、よく聴くソースを登録できる3つのダイレクトボタンを備えているので、これを使うのもアリだ。
ネットワーク再生としてはHEOSに対応し、Amazon Music HDやAWAなどの音楽配信サービスや、インターネットラジオを再生できる。LAN内のNASやパソコンに保存したハイレゾファイルや、USBメモリーに保存したファイルも再生可能だ。ハイレゾファイルは、192kHz/24bitまでのPCM、5.6MHzまでのDSDに対応する。
AirPlay 2やBluetooth受信もサポートしているので、スマホなどで聴いている音楽をDENON HOME AMPから手軽に再生することも可能だ。
小型だが、背面に搭載しているスピーカーターミナルは金メッキ仕上げの本格的なスクリュー型で、バナナプラグにも対応。デジタル入力はHDMIに加え、光デジタル、USBメモリー接続用のUSB-Aを搭載。アナログ入力はRCAのステレオ。
なお、RCAモノラルのサブウーファー出力も備えているので、例えばブックシェルフスピーカーと接続しつつ、サブウーファーも加えて、低音を補うことも可能だ。
マランツ「MODEL M1」との違い
MODEL M1とDENON HOME AMPの違いが気になるところなので、主な部分をピックアップして比べてみよう。
前述の通り価格はMODEL M1は154,000円、DENON HOME AMPは121,000円と、約3万円ほどDENON HOME AMPが低価格だ。
機能はほぼ同じだが、価格に差があるのは内部に使っているパーツや筐体表面の仕上げ、天面の素材が異なるため。また、MODEL M1は日本の白河工場で作られているが、DENON HOME AMPはベトナムの工場で作られているというのもコスト面の違いにつながっている。
細かく見ていこう。
アンプ部にAxignのClass Dアンプソリューションを使っているのは共通しているが、マランツ、デノンそれぞれでアンプ部の作りは異なる。また、マランツ独自のフィルター「MMDF(Marantz Musical Digital Filtering)」を使っているが、DENON HOME AMPには搭載していない。基板のパターンからMODEL M1とDENON HOME AMPでは異なっている。
当然ながら、最終的な音質を決めるサウンドマスターも、マランツは尾形好宣氏、デノンは山内慎一氏と、異なっている。ちなみに、開発中に互いが、互いの製品を聴く事は無かったそうだ。このあたりは、同じグループ会社なのに、ブランドの違いが明確になっていて面白いところだ。
筐体の素材が樹脂なのは共通しているが、MODEL M1が表面にサラサラとした質感のソフトフィールフィニッシュを施しているのに対し、DENON HOME AMPは樹脂そのままとなっている。
大きく異なるのは天面の素材。DENON HOME AMPは鉄板に穴を無数に開けたパンチングメタルを使っているのに対し、MODEL M1は非磁性体で音への影響が少ないステンレスを使ったメッシュ素材を使っている。素材としてのコストはMODEL M1の方が高い。
背面の端子類は同じ。どちらもリモコンは付属しないが、MODEL M1は受光部を搭載している。DENON HOME AMPは受光部を備えていない。筐体前面の「クイックセレクト機能」はDENON HOME AMPだけの特徴となる。
DENON HOME AMPを聴く
ではDENON HOME AMPを聴いてみよう。まずはアンプとしての素のサウンドをチェックしつつ、DACの音も知るため、CDプレーヤーと光デジタルで接続する。CDプレーヤーは「DCD-SX1 LIMITED」、スピーカーはB&W「801 D4」だ。
「フォープレイ/Fourplay」から「Bali Run」を再生する。
DENON HOME AMPのサイズ感は“ミニコンポ”なので、音が出る前は「とはいえ、それなりのスケール感だろうな」と思ってしまうのだが、音が出た瞬間にぶったまげる。目の前に広大な音場空間が広がり、そこに音像がゆったりと出現する。「これは完全にピュアオーディオのサウンドだ」と思わず椅子に座り直す。
山内氏は理想とするサウンドとして「Vivid & Spacious」を掲げているが、DENON HOME AMPのサウンドはまさにSpacious。音場がとにかく広大で、部屋の左右の壁はおろか、奥の壁も無くなったように錯覚するほど、気持ちよく音楽の響きが広がっていく。
DENON HOME AMPは、価格としてはミドルクラスよりもエントリー寄りになると思うが、音場の広大さという面では、ミドルクラスか、それ以上と張り合えるほどのクオリティ。音だけでも驚きだが、この空間表現を、目の前の小さな黒い箱が生み出しているとはとても思えない。小さくても天面のパンチングメタルなど、開放的な筐体を採用している効果もあるのかもしれない。
では、HEOSのネットワーク再生に切り替え、NASに保存した音楽ファイルを聴いてみる。
「アリソン・クラウス/Away Down The River」を再生すると、ボーカルやギターを響きが波紋のように奥まで広がり、それが消えていく様子も遠くまで見渡せる。デジタルアンプに対して、空間の広がりに枠があるようなイメージを持っている人もいるかもしれないが、DENON HOME AMPにそれは当てはまらない。“自分の前のステージが出現する”というよりも、“前方の空間全てが別の場所にワープ”したような感覚だ。
また、先程のCDプレーヤーと光デジタルで接続した音は、少し薄味に感じられたのだが、HEOSのネットワーク再生では、ボーカルや楽器の輪郭がしっかりとして、1つ1つの音に力強さが出て、よりゆったりと身を任せたくなるような音になる。
「hoff ensemble stille/ stille kommer vi」では、ピアノやトランペットの響きが、横や奥行きだけでなく、上空に気持ちよく立ち昇っていく様子が見えてとにかく気持ちが良い。デジタルアンプに対して「音が硬い」「冷たい」イメージを持つ人もいると思う。確かにSN比の良い静かな空間にクリアな音が広がり、1つ1つの音は質感がしっかり描かれており、キツイとか冷たい印象は無い。むしろデジタルアンプの中でDENON HOME AMPは優しい描写の部類に入るだろう。
CDプレーヤーやHEOSも内蔵したRCD-N12のサウンドと比べても、やはりスケール感や音楽全体の安定感ではDENON HOME AMPが一枚上手だと感じる。前述の通り、DENON HOME AMPには、RCD-N12で使えなかったカスタムパーツを投入している事も大きいのだろう。
Amazon musicから「Moonstone/Ekcle」を再生。
NASから音楽ファイルを聴いた時の印象と同じで、どこまでもSpaciousな描写に圧倒される。今回はフロア型の超弩級スピーカーで聴いているが、空間表現に優れたコンパクトなブックシェルフで聴くと、DENON HOME AMPの得意とする音場表現が、さらに活きてくるかもしれない。
一方で、「121,000円のDENON HOME AMPがあれば、20万円、30万円といった上位クラスのアンプは不要か?」と言われると、さすがにそうはいかない。
山内氏が掲げる「Vivid & Spacious」なサウンドを、約12万円で体験できる小さなエントリーアンプとして、DENON HOME AMPのコストパフォーマンスは驚異的だ。だが、個人的には「素晴らしいSpaciousさ」に対して、少し「Vividさ」が薄いと感じる。
空間はどこまでも広く、空中に音像が定位するが、その音像の躍動感、音が前へと押し出してくる音圧の気持ち良さという面で、上位モデルに及ばない部分はある。
別の部屋でDENON HOME AMPとテレビをHDMI ARC接続して、Polk Audioのブックシェルフスピーカー「R100」と組み合わせ、YouTubeの音楽も聴いたのだが、個人的にはモニターライクなB&Wのスピーカーよりも、パワフルな中低域がガツンと前に出る、元気の良いPolk Audioのスピーカーと組み合わせた方が、マッチしていると感じた。
MODEL M1とDENON HOME AMP、音の違いは?
気になるのは「マランツのMODEL M1(154,000円)と、DENON HOME AMP(121,000円)どっちがいいの?」という点だろう。
これが非常に難しい。似たようなサイズで、機能もほぼ同じなので比較したくなるのだが、お店で実売10万円台くらいになりそうなDENON HOME AMPと、それよりも約3万円高価なMODEL M1は、価格帯のクラスが微妙違うからだ。
この違いを踏まえつつ、音の印象だけ記載すると、MODEL M1は「マランツのHi-Fiアンプのサウンドを、小さな筐体でもまったく不満なく実現した、超よくできたアンプ」で、レンジの広さや解像度の高さ、そしてマランツらしい気品を感じさせる美音であり、オーディオ入門はもちろんだが、過去に何台もアンプを使ってきたオーディオマニアでも多くの人が気に入るであろうサウンドだ。
DENON HOME AMPは、Vivid & Spaciousなデノンのサウンドを、コンパクトかつ低価格でも追求し、このサイズとは信じられない開放的で躍動感のあるサウンドが楽しめるのが最大の魅力だ。先ほど「約3万円安くてクラスが違う」と書いたが、「良い音を多くの人へ」を信条とし「価格も性能」をテーマの1つと掲げるデノンとしては「3万円安くて手が届きやすいこと」そのものが「デノンの魅力」と言い換える事もできるだろう。
小さくて高音質でネットワーク音楽やテレビの音まで楽しめるという魅力で、マランツのMODEL M1が新しい市場を切り開きつつある。そこに登場したDENON HOME AMPは、超強力な援護射撃と言える。強力過ぎてMODEL M1を追い抜いてしまう事もあるかもしれないが、こうした戦いこそが、新たなオーディオの世界を面白いものにしてくれるのは間違いない。
いずれにせよ、広い部屋も、凄いAVラックも不要。DENON HOME AMPとスピーカーを繋げば、それだけで良い音でストリーミング配信の音楽がたっぷり聴ける。この手軽さと満足度は圧倒的で、DENON HOME AMPが“新時代のオーディオ入門定番モデル”になる可能性は十分にある。
実際どんな音がするのか、あのスピーカーと組み合わせたらどんな音がするのか、気になったらもうオーディオファンの1人だ。お店やイベントにぜひ足を運んで聴いて見て欲しい。