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マランツ「MODEL M1」を上級アンプと聴き比べ。“オーディオの原点”を思い出させる画期的モデル

マランツ「MODEL M1」と、B&W「705 S3」

今年のオーディオ機器の中もピカイチなMODEL M1

マランツの新型プリメインアンプ、「MODEL M1」(154,000円)が話題沸騰、大人気だ。メディア形態を問わず、数々の紹介・試聴記事において、極めて高い評価を得ている。それらの記事をお読みになられた方も多いだろうし、すでに実際に製品を購入して愛用されている方も相当数いらっしゃるだろう。単品のオーディオコンポーネントとしては異例なほど、さまざまな方が本機のレビューを書いているということは、それだけ人に伝えたくなる、語りたくなる魅力がM1にはあるということ。

マランツ「MODEL M1」

僕ももちろん、M1を聴いている。口はばったいかもしれないが、長年、(超高価な超弩級機を含む)ハイエンドオーディオ機器を聴き慣れた僕からしても、MODEL M1は大変に魅力的なプロダクトで、2024年はまだ半分しか経っていないけれども、今年発表されたオーディオ機器の中で、ピカイチに評価したいモデルのひとつになることは決定的だ。

では、M1の何が人を惹きつけているのだろう?

すでに数々のレビューが発表されているけれども、僕なりに本機の魅力のポイントをお伝えすることにしたい。

M1が持つ「特異な存在感」

M1を僕がレビューするにあたって、その機能や単体での音質などは多くの記事があるわけだから、今回は、マランツのプリメインアンプのラインナップの中で、M1はどのようなポジションにあるのかを探ることにした。そのことによって、M1の「特異な存在感」の理由が明らかにできるのではないかと考えたからだ。

「MODEL M1」

M1の高評価ポイントは、「小型でスタイリッシュなのに大型スピーカーシステムを楽々とドライブする能力がある」とか、「(比較的)安価な製品にも関わらず、本格的なサウンドが楽しめる」といったところが最大公約数的なものになるだろう。特に、僕のような年期の入ったオーディオマニアは、過去の経験から、どうしてもサイズや価格を前提に置いて試聴に臨んでしまうから、「このサイズでこの音!?」「この価格でこのクオリティ!?」みたいな驚き方をしてしまう。でも、何度かM1に接していると、そんな前提を抜きにしても、本機は独自の魅力を備えているように思えて仕方がない。

もっと正直に言えば、僕は試聴に際しては、まずは価格もサイズも関係なく音を聴き、そして価格やサイズ、使用感やデザインや製品コンセプトを勘案し、現代のオーディオ機器の水準に照らし合わせて、総合的な評価を下すのだが、M1の場合は、最初のプロセス、つまり価格もサイズも関係のない段階で、「いいね!」という評価をしていた。相対的に評価しているというよりも、絶対的に評価できる、珍しいコンポーネントなのだ。

何かと比較して、あるいは無意識的な前提の下に「いいね!」と思うのではなく、聴いた瞬間に直感的に「いいね!」と思える製品は決して多くはない。もちろん、M1の試聴時には価格もサイズもわかっているから、それに試聴印象が影響されることはないと言い張るつもりは全くないのだけど、それでもなお、M1の登場は画期的だと僕は思っている。

相対的ではなく、と書いておきながら、この記事は他のマランツのプリメインアンプと比較試聴を行なっている。だから、「何か言ってることがヘンだぞ?」と思われるだろう。でも、この試聴は、比べることで優劣をつけるのが目的ではなく、比べることでそれぞれの魅力とポジションを浮かび上がらせることが目的なので、何卒、ご理解いただけると助かります。

ハイエンド、中核アンプ、そしてMODEL M1。どうしてこんなにサイズが違う?

試聴はマランツ試聴室で行なった。用意していただいたのは、MODEL M1(2024年)の他に、現代のマランツ製品の中核と言ってもいい「MODEL 30」(2020年)、そしてフラグシップモデルの「PM-10」(2017年)という3つのプリメインアンプ。

左からフラグシップモデル「PM-10」、中核モデル「MODEL 30」

同社のこのジャンルの製品の在り方をおおよそ俯瞰できるようなモデルをリクエストしている。価格は税込でそれぞれ、15万4,000円(MODEL M1)、41万8,000円(MODEL 30)、66万円(PM-10)だから、随分と開きがある。デザインも写真をご覧いただければ一目瞭然、かなり違っていて、とりわけ伝統的なハイエンドオーディオの文法に則ったPM-10と新時代を感じさせるMODEL M1の佇まいの違いは印象的だ。MODEL 30は、デザインのコンセプトはどちらかと言えばMODEL M1寄りに僕には思える。

左から「PM-10」、「MODEL M1」、「MODEL 30」。MODEL M1がいかに小さいかがわかる

鳴らすスピーカーシステムは、英国B&W社の「801 D4」(ペア682万円から)。アンプとは価格的にとても不釣り合いだが、実力を探るにこのスピーカーシステムほどふさわしいモデルは他にはない。

801 D4

技術的な面で見てみると、3者には共通点があって、それはパワーアンプ部にクラスD方式を採用しているところ。クラスD増幅の最大の特徴は効率がいいことで、つまりハイパワーアンプをちっちゃく作ることができるのだ。効率がいいということは電気製品においては発熱が少ないことと同義だから、熱くならないのもありがたい。

「MODEL M1」の内部

実際、MODEL M1はあのコンパクトなサイズで100W×2(8Ω負荷時)もの出力を獲得しており、これはクラスDでなければほぼ不可能なことである(発熱がどうなってもいいのであればオーソドックスなAB級増幅でも可能だろうが)。

数値でオーディオ機器の優劣を判断するのは、僕は全く推奨しないし、数値や理屈に惑わされず、自分を信じてとにかく直感なり聴いてみるなりして選択することがオーディオでは大切だと思う。それを前置きにして書くのだが、オーディオアンプの出力が100Wという数値はかなりなものである。普通のスピーカーに100Wを突っ込んだら、耳を痛めてしまうほどの大音量が出る。

だから、冷静に考えれば、ちゃんとした100Wのアンプであれば、どんなハイエンドモデルであろうと、大抵のスピーカーはちゃんと鳴る。100Wのアンプでちゃんと鳴らなかったら、それはスピーカーが悪いのだと僕なんかは思うが、それはここでする話ではない。申し訳ない。だからMODEL M1が801 D4を軽々と鳴らしてしまっても、僕はあまり不思議ではない。当然とすら思える。なお、MODEL 30の出力は100W×2(8Ω)、PM-10の出力は200W×2(8Ω)である。

3者は、パワーアンプの電源部にスイッチング方式を採用していることも共通点だ。スイッチング電源も、通常のリニア電源よりはるかに効率のいい方式。MODEL M1のあのコンパクトネスはクラスDとスイッチング電源の組合せの賜物で、これらの方式のメリットを最大限に活かした製品と言える。もちろん物事には様々な面があって、AB級あるいはA級増幅、リニア電源のメリットもあるのだけれど、要は使い方次第であって、形式で優劣を判断するのも僕はオススメしない。

「PM-10」、「MODEL M1」
「MODEL M1」、「MODEL 30」

では、この3者でかくもサイズが違うのはどうしてだろう。それは、MODEL 30とPM-10では本格的なアナログ方式のプリアンプ部を備えていて(どちらもアナログレコード用のフォノイコライザーも搭載している)、かつ、その電源部にリニア電源を採用していることがデカい理由。

対してMODEL M1は、アナログ入力を備えてはいるものの(フォノには対応しない)、その信号はすぐにデジタル変換され、すべての信号処理はデジタル領域で処理されるフルデジタルアンプであるから、あれだけコンパクトにできたのだ。

クラスD増幅をデジタルアンプと呼ぶかどうかは、実はケース・バイ・ケース、そのあたりは曖昧で、ここでその話題に深入りはしないけれど、このデジタルベースでモノを考えているところが、MODEL M1と他の2モデルとの最大の違いになるのかもしれない。

また、MODEL 30やPM-10では、スピーカーのインピーダンスが4Ωになると、出力が8Ωの倍(100%増)になるのに対して、MODEL M1は25%増にとどまる。さっき書いた鳴らないスピーカーというのは、インピーダンスが低かったり大きく変動したりするものを主に指しているのだが、こういうスピーカーの場合は、電源の余裕度(規模)などが大切になるので、コンパクトなアンプではなかなか鳴らないという現象が起きてしまうのだ。

MODEL 30とPM-10があのサイズになっているのは、そういう理由。ただし、普通の使い方でこのことが問題になることはほとんどないし、ここでも数値は気にしなくてよいです。

なお、クラスD増幅に使っているモジュールは、MODEL M1はAxign製、MODEL 30とPM-10は同じHypex製である。PM-10はバランス構成のアンプで、出力段がMODEL 30と同じモジュールとはいえ、そこをBTL接続としているため大型になっている。なお、MODEL M1も内部でBTL接続になっている。

「MODEL M1」のアンプ部

MODEL M1は、アナログ入力のほかに、光デジタル、USB(A端子なのでメモリー用)、HDMI、そしてネットワーク再生(デジタルファイル、ストリーミング)に対応するLANと言った豊富なデジタル入力を備える(再生用アプリはHEOS)。もちろんBluetoothワイヤレス再生が可能。

「MODEL M1」の背面

操作は本体でも一部可能だが、基本的にタブレットやスマホで行なうところも、いかにも現代的だ。リモコンは付属しないが、学習機能を備えている。一方、MODEL 30とPM-10はデジタル系入力を持っておらずアナログ専用であり、パーツの数も多く、それらのパーツに音質を吟味したものを投入するなど、コストのかかる作り。操作も本体で全て行なうことができる(もちろん基本操作はリモコンでも可能)。

3者の共通点は実はもう一つあって、音のまとめを行なった責任者が同じなのだ。マランツでサウンドマスターと呼ぶ、これらの製品の音の責任者の名前は尾形好宣さん。アンプの責任者なら設計者ではないかと思われる人も多いと思うが、サウンドマスターは音を仕上げるのが仕事であり、通常の設計者とは異なる立場にある。レコーディングに興味のある人なら、基本設計を行なう人がレコーディングエンジニア、サウンドマスターはミキシングエンジニア兼マスタリングエンジニアと例えるとピンとくるかもしれないけど、録音に詳しくない人にはかえって混乱を招いてしまったかもしれないが……。

マランツのサウンドマスター、尾形好宣氏

それはともかく、試聴には尾形さんにも同席していただいて、一緒に3モデルのプリメインアンプを聴いていった。これまでの経験から、MODEL M1は入力による音質差がとても少ないので(これは驚くべきことだ)、3者を同一条件で鳴らせる、CDを使ったアナログ入力での試聴をメインとして行なったが、MODEL M1はデジタル系の入力の音もチェックしている。

楽しくて開放感にあふれるMODEL M1の音

MODEL M1

試聴は価格順に、MODEL M1からスタート。すでにセットアップされた状態だったので(つまりウォームアップは済んでいる)、のっけから、のびのびと開放的なサウンドが展開して、思わず嬉しくなる。試聴という行為は僕にとっては仕事だし、何と言うか、粗探しみたいなところが無きにしも非ずなのだけど、そんなことはどうでもよくなる楽しさが横溢し、やっぱりこれは素敵なアンプであることを再確認する。

音場とか音像とか、オーディオ好きな人はそんなことをすぐに気にしてしまうので、そのことにも触れると、音像の描き方は輪郭を隈取らないとても自然なもので、楽器や人の質量なり体積なりをちゃんと感じさせるところが大変によい。音場も広く、いや、こう書くとと、いわゆる広大なサウンドステージが目で見えるような鳴り方と伝わるかもしれないが、それよりも、開放感にあふれる音と言うのが適切だと思う。

広々としたサウンステージというものがまず設定されて、そこに目で見えるような精密な音像が立ち並ぶのがよい再生音である、というような価値観があって、確かにそれはオーディオ再生の大きな楽しみではあるけれど、MODEL M1が優先的に提示するのは、音楽がまとっている空気感とか、奏者の気配とか、それらしい質感・音色とか、そういう、再生音楽の原点的な楽しみなのだと僕は感じる。言い方を替えると、音を目で見ようとしなくても、楽しめるサウンドがMODEL M1の持ち味なのだ。

繊細かつ太い音もMODEL M1の特徴。帯域全体のスピードもしっかりと揃っていて、どこかが突出することのない、中域主体のバランスのとてもよい音がする。逆に言えば、繊細さやワイドレンジさを取り柄としていない、とも言えそうだが、この音を聴いていると、そんなことはどうでもよくなるし、何かと比べる気もなくなる。そしてパワーの余裕も存分で、かなりボリュームを上げていってもうるさくならないのだ。

MODEL 30

MODEL 30は、ハイエンドアンプの在り方に一石を投じた存在で、家庭で音楽を楽しむにはどのようなサウンドがふさわしいのか、それを提示してくれたモデルとして僕には印象深い。このクラスになれば、ともすると情報量とかワイドレンジさとか、そんな競争に走ってしまいがちなのだけど、本機は、その点での不足を感じさせるものではないが、それよりも音楽って素晴らしいですよね、と語りかけてくるような肯定的なサウンドに何よりも魅了されたわけで、今回の試聴でもその基本的な持ち味を再確認できた。

けれども、MODEL M1の後に聴くと、オーディオ的な項目のチェックに耳がついつい行ってしまうことに気が付く。アナログ回路にしっかりとコストのかかった本格的なサウンドで、いっそうパワフルだし、いっそう立体的だし、いっそうワイドである。もちろん余裕度も表現の幅も増しており、よりシリアスな聴き方(オーディオ的にも音楽的にも)ができる。空間に余裕があって、オーディオマニアックな聴き方もしたいというなら、MODEL M1よりもこちらだ。価格差はダテではない。でも、ふとした瞬間に感じる、音楽の楽しさ、素晴らしさを伝える能力なら、両者に有意な違いはないと僕は思う。

PM-10

PM-10の音の世界は、これはもうハイエンドオーディオである。広大な音場に音像が精密に立ち並ぶ様を眺めるのは、オーディオならではの飛び切りの楽しさ、面白さであり、ステレオ再生の最大の魅力と言ってもいいものだ。むろん、MODEL M1のところで述べた、空気感や気配のようなものも存分に感じさせるし、この堂々としたパワフルな音には、ちょっと文句のつけようがないほど。モニターライクと言ってもいい正確さも感じさせ、よりアダルトでジェントルでシリアスで、でもスタティックにならない動的な楽しい音でもある。本機は久しぶりに聴いたけれど、改めてその実力の高さに感心した。

こうして3モデルを続けて聴くと、MODEL 30を中心として、エンターテインメント方向にMODEL M1が、ハイファイ方向にPM-10が位置しているように僕には思えた。そこにある違いは優劣ではなくて、個性の差であり、聴き手が何を再生音楽に求めているかで、選択が変ってこよう。こういう試聴をすると、安価な製品は高価な製品の後では聴き劣りすることが少なくないのだけど、今回はそのようなことがなく、最初にMODEL M1を聴いた時にも感じた、「比べる必要がない」という印象の裏付けが取れたような気がした。

ブックシェルフスピーカーでも聴いてみる

705 S3

801D4での一通りの試聴をした後、もう少し現実的な組合せでも3モデルを聴いた。使用したスピーカーは、B&Wの新製品「705 S3」(ペア539,000円から)。

このスピーカーでも、各アンプの音質の基本的な印象は変らない。文字にすればほとんど同じことになる。だけど、その差は、801 D4と比べてグッと縮まるのだ。だから、MODEL M1に組み合されることが多いであろう小型スピーカーでは、ますます、もっと高額で大型のアンプを気にしないで音楽を楽しめるのではないかと思う。それにしても801 D4のモニター能力の高さは凄い……。

尾形さんに訊くと、どんなモデルであっても目指す音は変らないという。音の差があるとしたら、与えられた条件(コストやコンセプトなど)の中でベストを尽くした結果でしかないとも述べられた。

そして、尾形さんが目指す音とはと訊くと、明瞭で空間が広々とした、ヒステリックにならない鳴り方と今回は表現されたが、確かにそういう音がこの3つのアンプから感じ取れたのだ。僕なりに表現すれば、ディテールは疎かにしないが、音楽の全体像が決して崩れないところに、尾形さんのサウンドの最大の特徴があるように思う。

MODEL M1の使いこなしについても少々触れたい。本機はさり気なく「素」の状態で気楽に置いて使うのが僕は「粋」だと思うし、筐体もガチガチに固めた作りではなく、一種の柔構造だから、実際、置き方の影響も受けにくいと思う。もちろんアクセサリーを使ったりして自分なりのカスタマイズをすることも楽しいと思うので、その辺りはオーナーの、もちろん自由である。

注意して欲しいのは、まず、スピーカー端子が小さなスペースに並んでいて、かつ、筐体が小さいので、あまりにも太いスピーカーケーブルは繋げないし、Yラグも若干使いにくい。なので、端末処理はバナナプラグを推奨したい。バナナプラグであれば、ある程度太めのケーブルでも確実に接続できるはず。また、細いケーブルでお気に入りのものが見つかれば、特段の端末処理をしなくても楽に接続が可能となる。

スペースが狭いので端末処理はバナナプラグを推奨したい。なお、写真ではAudioQuestの電源ケーブルを接続しているが、MODEL M1付属のケーブルでも試聴している

もうひとつ、こちらは是非試して欲しいことだが、それは電源極性のチェックである。電源極性とは、どこのご家庭にもある、100Vの交流が来ている電源コンセントには向きがあるという話のこと。コンセントに電源ケーブルをどちらの向きで挿すかによって音が変わるのだ。MODEL M1の電源インレットはいわゆるメガネ型で、かつ、電源極性の向きの指定はない。だから、望ましい極性でMODEL M1が動作している確率はいつでも50%だ。

MODEL M1はスイッチング電源だから極性の影響は少ないというご意見もあるが、実際に、電源ケーブルの向きを変えてみると、音は確実に変わる。なので、オーナーの方は一度、電源ケーブルの向きをチェックしていただきたい。その際、間を置かずに電源のオン/オフを繰り返すと電気製品はあまり嬉しくないので、一息二息落ち着いてから確認して欲しい。

環境にもよるのだけど、おおよそ、一聴輪郭がハッキリしてメリハリがつくのが逆、自然な佇まいで奥行きが出るのが正解。なのだけど、ここで大切なのは両方体験してみることで、逆の音が好きであるのなら、逆で使って構わないし、有意な差が感じられなければどちらで使っても構わない。それで電気的には全く問題はない。でも、この電源極性のチェックは、オーディオの使いこなしの基本中の基本なので、覚えておくと何かと役に立つかもしれません。

僕のオーディオの、いい音の原点は、ロクハン(6インチ半 = 16cm)や8インチ(20cm)口径のフルレンジスピーカーだった。こうしたフルレンジスピーカーは、超高域や超低域は再生できないし、音量にも制限がある。でも、その心に沁みるような浸透力のある楽しいサウンドと、中域を主体とする最上のエネルギーバランスで、音楽再生にとって何が一番大切なのかを僕に教えてくれた。僕はそのことに今でもとても感謝している。

そしてマランツのモデルMODEL M1は、僕には優れたフルレンジスピーカーのような存在に見える。だから、ビギナーの人にはこれ以上ないほどのアンプだと思うし、また、ベテランのデキるオーディオマニアなら、MODEL M1を聴いて「オレは何か大切なものを忘れてしまっていたかもしれない」と思うはず。と言うか思って欲しい。

MODEL M1は、原点を思い出させるという意味でも、画期的な製品だと思う。バランスを失いかけた時、このような製品の音を聴くと、大きなヒントに出会えるかもしれません。

小野寺弘滋

酒も飲まずギャンブルもやらず、ひたすら音楽を聴き続けて約半世紀。ネコと小鳥とカメラ(レンズ)と双眼鏡とシトロエンとコーヒーと空が好き。季刊「ステレオサウンド」元編集長。