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最高に“ちょうどいいDAP”復活、カジュアルAK「ACTIVO P1」が便利すぎた

ACTIVO P1

“ちょうどいいDAP”復活

完全ワイヤレスイヤフォンが定番になった昨今だが、音質を重視するAV Watch読者なら、愛用の有線イヤフォンを使いたいところ。そうなると、ポータブルオーディオプレーヤー(DAP)が必要になるのだが、ぶっちゃけ、最近はスマホが大型化しているため、「スマホと一緒に、大きくて重いDAPを持ち歩く」というのは大変だ。

「DAPを持ち歩くのが面倒で、ついついスマホ + 完全ワイヤレスイヤフォンで済ます事が増えてしまった」なんて人も、多いのではないだろうか。そんな我々のもとに、素晴らしく“ちょうどいいDAP”が復活した。その名は「ACTIVO P1」(77,000円)だ。

「ああ、ACTIVOってあったね!」と膝を打ったアナタは、かなりのポータブルオーディオファンだ。ACTIVOというブランドは、かつてサービスを行なっていたハイレゾ音楽配信「groovers」(グルーヴァーズ)から、「ハイレゾを気軽に楽しめるDAPブランド」として生まれたもので、2018年に第1弾の「CT10」というDAPが登場した。

ACTIVO CT10

手頃な価格の小さくて可愛いDAPだったが、音質は本格的で、個人的にかなり気に入っていた。音が良いのには理由があり、実はこのCT10、高級DAPでお馴染みのAstell&Kernが開発を支援していたのだ。

それから時は流れて2024年の7月に、このACTIVOがAstell&Kernのカジュアルブランドとして復活。その再始動第1弾が「ACTIVO P1」というわけだ。

サイズや重さも“ちょうどいい”

ACTIVO P1

デザインやOSはCT10から変化しているが、親しみやすい白を基調としたカラーリングはACTIVO P1に継承されている。また、大型・高級化した既存DAPに対して、“軽く・小さく・手にとりやすい価格”という立ち位置も、かつてのACTIVOブランドと同じだ。

4.1型ディスプレイを備え、ACTIVOブランドでは初となるAndroid OSを採用。DAPとして、内蔵ストレージに保存した音楽ファイルを再生できるのはもちろんだが、Google Playなどからダウンロードしたアプリも使え、例えば、Amazon Musicのアプリを使い、ハイレゾ音楽配信を再生する事もできる。

Google Playでアプリ追加も可能

音質に関する部分も、かなり本格的。DACはESS「ES9219Q」をデュアル構成で搭載。Astell&Kernの高音質化技術を凝縮した独自のTERATON ALPHA AMPも投入しているほか、チューニングもAstell&Kernサウンドチームが担当している。カジュアルブランドではあるが、中身は完全に“AKのガチなDAP”というわけだ。

サポートする音楽ファイルは、384kHz/32bitまでのリニアPCMと、DSD 256のネイティブ再生が可能。ソフトウェアデコードだが、MQAフォーマットにも対応する。AKMのサンプルレートコンバーター「AK4137EQ」も搭載しているので、再生する音源のサンプリングレートをリアルタイムにアップサンプリング再生する「デジタルオーディオリマスター(DAR)」機能も利用可能。最大PCM 384kHz、DSD 256変換しながら再生できる。

「デジタルオーディオリマスター(DAR)」機能も利用可能
イヤフォンジャックは上部に搭載

イヤフォン出力は3.5mmアンバランスと、4.4mmバランス出力も備えている。アウトプットレベルはアンバランス 2Vrms、バランス 4.2Vrms(無負荷)と、なかなかパワフルだ。

内蔵ストレージメモリは64GB。microSDカードスロットを備えているので、最大1.5TBまでのmicroSDカードが増設できる。

下部にUSB-CとmicroSDカードスロット

機能も豊富

ここまではDAPとしての基本的な部分だが、その他の機能もかなり豪華だ。

まずBluetooth 5.3に準拠していて、SBC、AACのほか、aptX HDとLDACもサポート。完全ワイヤレスイヤフォンや、ヘッドフォンに良い音でサウンドをワイヤレス送信もできる。

さらに、Bluetooth DAC機能、つまり“Bluetooth受信機”としても使える。これが何かというと、例えばスマホから音楽配信で再生している音を、Bluetoothで送信し、それをACTIVO P1で受信。ACTIVO P1に接続した有線イヤフォンから聴く……という使い方もできる。

Bluetooth DAC機能も搭載

また、USB DAC機能も搭載。パソコンとUSB接続し、パソコンで再生している音楽や、ゲーム、YouTube動画などのサウンドを、ACTIVO P1から高音質で出力できる。家でパソコンの音を高音質でヘッドフォンで楽しんだり、ACTIVO P1にアクティブスピーカーを接続して、スピーカーから良い音を楽しむ事も可能だ。

その場合、“パソコンとACTIVO P1をUSBケーブルで接続しっぱなし”になるわけだが、便利な事に、ACTIVO P1にはバスパワー充電と内蔵バッテリー駆動の切り替え機能も搭載している。つまり、パソコンと接続しているあいだ、USBバスパワー充電しない設定にすれば、ACTIVO P1の内蔵バッテリーの劣化を抑えられるわけだ。

パソコンやアクティブスピーカーと接続し、USB DACとして使うこともできる

なお、パソコン接続用に約1mのUSBケーブルのほかに、約10cmのショートUSB-Cケーブルも付属している。これを使って、スマートフォンとUSB接続し、スマホで再生している音楽を、USB DAC兼アンプとしてACTIVO P1から高音質で楽しむことも可能だ。

約10cmのショートUSB-Cケーブルも付属
スマートフォンとUSB接続し、USB DAC兼アンプとしてACTIVO P1から高音質で楽しむことも可能

胸ポケットにも楽に入るサイズ感が最高

音を聴いて……みる前に、筐体と操作性についても触れておこう。

高級DAPは、5インチ、6インチといった大型ディスプレイを採用しているが、ACTIVO P1は4.1型とそこまで大きくはない。だが、そのおかげで筐体が62×17.2×119.2mm(幅×奥行き×高さ)と小さく抑えられており、実際に手にすると手の中に収まりやすく「ああ……これだ、この“ちょうど良さ”が良い」と、思わずウットリしてしまう。

ちょうど良いサイズ感
Google Pixel 8 Proと並べると、小ささがわかる

重量も約155gと軽いので、ワイシャツの胸ポケットに入れても、引っ張られる感じが無い。高級DAPは「落としたらエライことになる」という緊張感が漂うが、ACTIVO P1は鼻歌を歌いながら、気軽に胸ポケットやズボンのポケットに入れて持ち運ぶことが出来る。もちろんスマホとの“2台持ち”もまったく苦にならない。この気軽さこそが、ACTIVO P1最大の魅力と言っていいだろう。

胸ポケットにもスッポリ入る

筐体はアルミ製なので、握った時の質感は高く、“低価格なDAPを使っている”という感覚は無い。右側面には電源ボタンと、再生コントロール。左側面にボリュームボタンを備える。再生コントロールボタンは、1つで再生/一時停止、次へ、前へ機能を使い分けられる。

背面。筐体はアルミ製
右側面
左側面

低価格なDAPというと、動作速度が気になるところだが、その点もACTIVO P1は抜かりが無く、Octa-core CPUを搭載している。

アルバムジャケットをスライドさせながら、内蔵音楽ファイルの選択、再生をしてみたが、動作はサクサクで、ストレスはほぼ皆無。高級DAPでもカクつく事があるAmazon Musicアプリも充分な動作速度で、プレイリストをスクロールし、目当ての音楽ファイルをタップするといった動作も自然にできる。ものすごいスピードでスクロールさせると一瞬カクつくが、あんまりそんな使い方はしないので、普段使いで違和感を感じることはないだろう。

Amazon Musicアプリも充分な速度で動作する

やっぱDAP + 有線イヤフォンは最高

では音を聴いてみよう。コスパの良さそうなACTIVO P1と組み合わせるなら、低価格でも実力のあるイヤフォンが良い。それならば、Maestraudioの「MAPro1000」が最適だろう。

Maestraudioの「MAPro1000」

14,300円とリーズナブルだが、モニターイヤフォン的な筐体形状でフィット感を高め、内部には10mm径グラフェンコートダイナミックドライバーと、独自技術のパッシブ型セラミックコートツイーター「RST」を搭載しており、サウンドは本格派。4.4mmのバランス接続ケーブル「MAPro1000 Cable 4.4」も5,500円なので、バランス仕様にしても2万円でお釣りがくる。4.4mmイヤフォンジャックも備えたACTIVO P1と相性の良いイヤフォンだ。

まずは3.5mmのアンバランス接続で「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生する。

冒頭はピアノソロからスターとし、クリスチャン・マクブライドのベースが入ってくるが、静かな空間にピアノやベースの音がスッと立ち上がる様子から、SN比の良さがわかる。

また、ベースの「ズシン」と沈む低音がしっかりと重く、同時にその低音が不必要に膨らまず、キッチリと輪郭がある。沈むだけでなく、張り出しも強く、“重さと鋭さ”を兼ね備えた低音が押し寄せる迫力は圧巻だ。

こうした低音は、再生するイヤフォンの実力もさることながら、駆動力のあるアンプでドライブしないとなかなか出ない。アンプの実力が無いと、どうしても低音が膨らんだり、ドライバーの制動力が弱くて音像が滲んだりして、キレが出ない。逆に言えば、完全ワイヤレスイヤフォンに対して、有線イヤフォン + DAPの魅力が最も発揮できるのが低音の描写であり、ACTIVO P1 + MAPro1000の組み合わせは「やっぱ有線イヤフォン最高だわ」と思わせてくれる実力を備えている。

「結束バンド/青春コンプレックス」を再生しても、ドラムのキレが抜群で、疾走感溢れる楽曲の気持ちよさを、何倍にも高めてくれる。鋭いだけでなく、スネアが「タンタン」とリズムを刻む時に、空気が鋭くこちらに飛んできて、胸を圧迫するような力強さも兼ね備えている。

TERATON ALPHA AMPの駆動力だけでなく、前述のSN比の良さや、低域の描写力の高さといった部分に、ESSのES9219QをデュアルDACで搭載した効果が現れていると感じる。

4.4mmのバランス接続に変更。Amazon Musicアプリから、音楽配信で「藤井風/まつり」を再生すると、空間描写がより広くなり、音の輪郭もよりクリアに聴こえるようになる。この曲は、かなりパワフルな低音がリズムを刻むのだが、その低音がズンズンと押し寄せてくる一方で、笛の音は低音に埋もれず、気持ちよく伸びており、背後の空間にスーッと広がって消えていく様子がハッキリ聴き取れる。空間表現能力も確かな実力だ。

Astell&Kernサウンドチームがチューニングしただけあり、音色もニュートラルで、色付けは感じられない。「低価格なDAPだから味付けしておこう」みたいな発想ではなく、本気のDAPとして作り込まれているは好印象だ。

便利なBluetooth DAC、USB DAC機能

使っていて特に便利だと感じたのは、Bluetooth DACだ。

ACTIVO P1を通勤で使う時は、インストールしたAmazon Musicアプリで、オフライン再生するためにプレイリストの楽曲をダウンロードしていた。しかし、時折「ダウンロードしていない曲も聴きたいな」と思う時がある。

そんな時には、ACTIVO P1をBluetooth DACモードにして、スマホからBluetoothで接続。スマホのAmazon Musicアプリで、ストリーミング再生している曲を、ACTIVO P1 + MAPro1000で聴くことができた。

また、筆者はラジオも好きで、radikoアプリもよく使うのだが、スマホのradikoアプリで流している音を、ACTIVO P1 + MAPro1000で聴くのも良い。トークの合間に流れる音楽も、ACTIVO P1 + MAPro1000で聴くとより良い音になるので、いつものラジオ番組が、よりリッチに楽しめる。

スマホのradikoアプリの音を、BluetoothでACTIVO P1 + MAPro1000に伝送

帰宅後は、ステレオミニのケーブルでアクティブスピーカーと接続。パソコンとACTIVO P1をUSB接続し、USB DACとして使ってみたが、こちらも効果は大きい。

ノートパソコンのイヤフォン出力とアクティブスピーカーを接続するようなパターンと比べると、ACTIVO P1をUSB DACとして使ったほうがSN比が良く、さらにDACもよりハイグレードなものを使っているので、音場の広さやレンジ感、低域の質感などが大幅に向上する。

音場の広さや、低域のクオリティアップは、イヤフォンで聴くよりも、アクティブスピーカーで聴いた方が音質向上がよりわかりやすい。YouTubeで楽しむ音楽ライブ番組が、よりリッチな音で楽しめるのはお得感があるし、ゲーム配信番組も、迫力がアップすると、ゲーム自体がより面白そうに思えてくる。

前述の通り、パソコンとUSB接続中に、バッテリーを充電しない設定もあるので、ACTIVO P1をいたわりながら、家でも活用できる。1つだけ注意したいのは、バスパワー充電しないと当然だがバッテリーが減っていく事。「パソコンで使い終わったら充電しておく」という習慣をつけるといいだろう。

パソコンとUSB接続中に、バッテリーを充電しない設定もある

今こそ“ちょうどいいDAP”が活躍する時

2018年に登場したACTIVO CT10には、「ハイレゾファイルを手軽に楽しめるDAP」としての役割があった。

復活したACTIVO P1も、同じ“手に届きやすいDAP”なのだが、さらに音楽配信も高音質で楽しめるように、アプリに対応。Bluetooth機能やパソコンと接続するUSB DAC機能も進化するなど、増加したニーズもしっかりカバーしている。多機能化しながら、“手に届きやすいDAPの価格”を実現しているのは、消費者として嬉しい事だ。

そしてもちろん、有線イヤフォンでハイレゾファイルや、音楽配信サービスを聴いた時の音が良い事が、ACTIVO CT10の最も重要なポイント。「やっぱり有線イヤフォンが最高だな」と思わせてくれるDAPでなければ、そもそも持ち歩く動機にならない。そして「この音を、外でも楽しみたい」と思った時に、ストレス無く持ち出せる“小ささ”と“軽さ”が何よりも魅力だ。

大型化を続けるスマホからイヤフォンジャックが消えた今こそ、復活した“ちょうどいいDAP”ACTIVO P1が、活躍する時代なのは間違いない。

山崎健太郎