レビュー

Astell&Kernお墨付きの超ハイコストパフォーマンスプレーヤー、ACTIVO「CT10」を聴く

 ハイレゾ音楽配信サービスも定着し、「どうせ曲を買うなら良い音で」と考える人も増えている。だが、買ったハイレゾファイルを楽しもうと、ポータブルプレーヤーを買いに行くと、各社の代表的なモデルは5万円、7万円、10万円と、なかなか高価。サイズも大きく、「音楽を聴くだけの機械にあまりお金をかけたくない」、「スマホと2台持ちするならコンパクトなプレーヤーが欲しい」と考える人も多いだろう。そんな人に注目の製品が、ACTIVO(アクティヴォ)の「CT10」だ。

ACTIVO「CT10」

 聞きなれないブランド名だが、それもそのはず、ACTIVOはハイレゾ音楽配信サイトのgroovers Japan(グルーヴァーズジャパン)が設立した新しいオーディオブランドで、その第1弾製品が「CT10」だ。注目の理由は2つ、1つはこのプレーヤーの開発を支援したのが、ハイレゾプレーヤーでお馴染みのAstell&Kernである事。もう1つは、まだ日本での価格が決まっていないが、“300ドルを切る価格”を目指して開発されたリーズナブルなモデルという点だ。発売日も未定だが、一足先に実機を触れたので音質などをレポートする。

「CT10」誕生の背景

 ハイレゾ音楽配信サービスを展開しているgroovers Japanが、新ブランドを作り、発売するプレーヤー。要するに「CT10」は、「より多くの人達にハイレゾを買って、楽しんでもらうためにはどうしたらいいか?」を考えた結果、生み出されたプレーヤーだ。

 そのためにはまず、プレーヤーの価格を抑えなければならない。操作も簡単に、サイズも小さく、女性にも気に入られるようなラウンドフォルムを採用しているのも“ハイレゾの一般化”に向けてこだわったポイントだ。

ACTIVO「CT10」

 だが大前提として、「安くてコンパクトなのはいいけど、買ってみたら音が悪かった」では話にならない。そこで、grooversは、グループ会社のAstell&Kernに開発のサポートを依頼。結果として、AKシリーズの高音質化技術が大量投入されつつ、価格も抑えたコンパクトなプレーヤーが出来上がった……というわけだ。

第1弾なのに、超こなれたインターフェイス

 概要をおさらいしよう。外形寸法は93.2×65.2×15.5mm(縦×横×厚さ)で、男性の手のひらに収まるサイズ。ラウンドフォルムで持ちやすく、重量は約112gと軽い。これならワイシャツの胸ポケットに入れても邪魔にならない。スマホと一緒にポケットに入れても大丈夫だろう。

 カラーはクールホワイト。白いのは背面だけで、前面はフルブラックだ。本体左上の電源ボタンを押すと、3.4型、480×854ドットの静電容量式タッチパネルディスプレイが表示される。

ラウンドフォルムで持ちやすい
背面

 面白いのはこのディスプレイ配置だ。前面の真ん中に配置するのではなく、ちょっと左に寄っている。そのため、ディスプレイの右側には何もない黒いゾーンが縦に存在する。

 最初は「なんで左に寄ってんだ?」と疑問だったが、操作すると「ああなるほど」と納得する。私は右利きなので、右手で持って右手の親指で操作するのだが、この黒ゾーンが“親指の置き場所”としてちょうどいいのだ。また、黒ゾーンの下方には再生画面に戻る、いわゆるホームボタン的なセンサーがある。そのため、親指で操作し、再生画面に戻るという一連の基本操作がやりやすい。ボリュームダイヤルも右側面に備えているので、親指で操作できる。

ディスプレイが左寄りに配置されている。右のスペースは親指置き場として便利

 使いやすい……のだが、同時に「私が右利きだからでは?」という疑問も浮かぶ。実際に左手で持ってみると、ディスプレイのタッチは難なくできるが、ホームセンサーは左手親指がディスプレイの上を横断するのでちょっと大変。右上のボリュームダイヤルには届かないので、左手人差し指の腹で回すなど、右手よりは確実に使い勝手は低下する。左利きの人は購入前に、操作感をチェックするといいだろう。

ボリュームダイヤルは右上に装備

 ディスプレイのタッチ操作はスワイプが基本。再生画面が基本として存在し、その画面上を左から右へスワイプすると「楽曲」、「アルバム」、「アーティスト」といった楽曲検索用の機能が現れる。ハイレゾ楽曲のみをフィルタ表示する「ハイレゾ」アイコンもある。設定機能へのアイコンもこの画面にある。

左から右へスワイプすると、楽曲検索用メニュー

 右から左へスワイプすると、再生リストが登場。再生順の並び順変更や、新しいリストの作成、楽曲リストへの登録といった作業ができる。

右から左へスワイプすると、再生リスト

 下から上へスワイプすると、再生中楽曲のファイル名やデータ容量などの詳細表示画面になる。この画面から、リストに登録する事も可能だ。

下から上へスワイプすると、再生中楽曲の詳細

 上から下へのスワイプでは、簡易設定メニューが登場。無線LANやBluetooth、ギャップレス再生や、ライン出力モードのON/OFFが切り替えられる。

上から下へのスワイプで簡易設定メニュー

 特徴的なのは、スワイプする事で“各機能のページへ移動”するのではなく、基本の再生画面はずっと表示されていて、スワイプすると、その上に半透明の機能ページが、レイヤーのように重なるデザインだ。

 常に再生画面が薄く、最下層に見えているので、“メニューの中で迷子になる”事がない。「機能の設定が終わったら、半透明のレイヤーをスワイプで引っ込めて再生画面に戻る」というのが、視覚的に理解できるので安心感がある。この使い勝手の良さは、多くの人にハイレゾの魅力を広めるためのプレーヤーとして高く評価できる。

 スワイプで呼び出した機能は、逆にスワイプする事で消せるが、右下にあるホームボタンで一気に消して再生画面だけにする事も可能。ただ、操作の反応スピードは機敏で、スワイプ操作自体が気持ちいいので、ついつい、ホームボタンを押さずにスワイプで済ませてしまう。

 画面を上下左右スワイプして、様々な機能を呼び出す基本的なデザインなどは、まさに「AKシリーズ」っぽい。これまでのプレーヤー開発で練り上げられたUIなので、ACTIVO第1弾製品なのに妙に“こなれて”いるのが面白い。

 左側面にはハードウェアの操作ボタンもあり、ポケットの中で手探りしている時でも操作が可能だ。

左側面にはハードウェアの操作ボタン。microSDカードスロットも備えている

Astell&Kern「TERATON」を搭載

 内蔵ストレージメモリは16GB。microSDカードスロットも1基備えており、最大256GBのカードが利用可能。このあたりは、高級プレーヤーと比べると見劣りするが、拡張もできるので、カジュアルな用途としては十分だろう。

 コンパクトかつ低価格だが、クアッドコアのCPUを採用している。前述の、高レスポンスなUIも、CPUの処理能力を活かしたものなのだろう。

 DACはシーラス・ロジック製の「CS4398」を1基搭載している。AKシリーズではお馴染みのDACで、AK70もCS4398を搭載。最新のAK70 MKIIではCS4398を2基採用している。このあたりも“AKのノウハウ”が感じられる部分だ。

 PCMは192kHz/24bitまで、DSDは5.6MHzまでの再生が可能。なお、DSDはPCMの176.4kHz/24bitに変換しながらの再生となる。

 ユニークなのが、音質に関連する部分の“AKノウハウ”の投入方法だ。DACやクロックジェネレーター、ヘッドフォンアンプなど、プレーヤーとしての主要機能を一体型のモジュールとして搭載している。

Astell&Kern「TERATON」

 モジュールは「TERATON」と名付けられ、CT10だけでなく、他社も含めた様々な機器へ、Astell&Kernから外販される予定。今後、他社から“TERATON搭載”のプレーヤーやスピーカー、カーオーディオなどが登場してくる……というわけだ。つまりCT10は“AK印の高音質お墨付き”製品の第一弾というわけだ。

AK70と違うところ、違わないところ

 イヤフォン出力は3.5mmのステレオミニで、バランス出力は備えていない。AK70のようなAKシリーズと比較すると、一番大きな違いはここになるだろう。出力レベルは8Ωで22mW、16Ωで36mW。SN比は115dBだ。

 10バンドのイコライザを備え、ユーザーの設定が保存できるほか、5種類のプリセットイコライザも用意する。

ステレオミニのイヤフォン出力を備えている
AK70のように、2.5mmのバランス出力は備えていない

 通信機能として、IEEE 802.11b/g/nの2.4GHz無線LANを搭載。同一LAN内にある、NASやPCにアクセス、DLNA機能を使い、それらに保存している音楽ファイルをCT10からストリーミング再生したり、CT10にダウンロードできる。スマホやタブレットのDLNAアプリを使えば、アプリをリモコンのように使い、CT10の音楽再生をコントロールする事も可能。

 スマホにDLNA対応の「AK Connect 2.0」アプリを入れ、CT10と同じLANに繋いだところ、アプリからCT10が見えた。ライブラリにアクセスしてスマホから聴いたり、再生ソース、再生機の両方でCT10を選ぶ事で、スマホをリモコンとしてCT10の再生を制御できる。ボリューム調整もアプリからできるので、CT10はポケットに入れたままで触らず、スマホから全ての操作をする……といった使い方が便利だ。

DLNA対応の「AK Connect 2.0」アプリから制御できた

 Bluetooth 4.1にも対応し、プロファイルはA2DP/AVRCPをサポート。Bluetoothスピーカーなどから、CT10のサウンドを再生する事ができる。

 USB端子も備え、USBオーディオデジタル出力も可能。DACを搭載したポータブルヘッドフォンアンプと、別売のUSB OTGケーブルを使って接続。USB端子を経由して、デジタルのままDACアンプへと音楽を伝送できる。

USBオーディオデジタル出力も可能

 PCMだけでなく、DSDもDoP伝送で再生可能。前述の通り、プレーヤーとしてDSDを再生する時にはPCM変換となるが、USBから出力して、DSDネイティブ再生対応のDACと組み合わせるという使い方もあるだろう。

底部にUSB端子

 実際にCHORDの「Mojo」とOTGケーブルを使って接続し、音を出す事ができた。Mojoは小型のアンプだが、CT10も小型なので、2つの製品を繋いで使っても、全体がコンパクトに収まるのが良い。

 これとは別に、PCと接続してUSB DACとして使うことも可能だ。

CHORDの「Mojo」と接続したところ。サイズ感もちょうどいい

 このあたりの機能はAKシリーズと同じなのだが、低価格なプレーヤーでこうした機能を豊富に搭載しているというのは魅力だ。特にUSBデジタル出力は、音質面のステップアップに利用できるので、入門用プレーヤーに搭載しているのは意義深い。

 無線LANを使った別の機能として、「groovers Japan」にCT10からアクセスし、直接ハイレゾ音源を購入・ダウンロードも可能だ。日本でのサービスは開始されていないが、TIDALにも対応する。

音を聴いてみる

 イヤフォンと接続して音を出すと、色付けの少ない、素直なサウンドが流れ出す。AKシリーズとよく似た傾向の音だ。

 比較相手として、同じDACを採用している初代「AK70」(税込69,980円)を用意したが、聴き比べると面白い。音のクオリティとしては非常によく似ており、CT10のサウンドは、AK70にかなり肉薄している。

 中高域の情報量や抜けは良好で、女性ボーカルの息づかいや、ヴァイオリンの弦の動きなど、ハイレゾの表現がよくわかる。ただ、まるっきりAK70と同じ音かと言うとそうではなく、AK70がよりワイドレンジな再生を重視しているのに対し、CT10は特に中低域の張出しを少し強めにして、レンジは少し狭く、パワフルさを出した印象だ。そのため、聴き比べた瞬間は、AK70の方がサッパリした音に聴こえる。

 いわゆるピュアオーディオっぽい音としてはAK70の方だが、旨味が多いというか、パワフルで気持ちが良いのはCT10の方だ。いつもの試聴曲だと、「藤田恵美/Best OF My Love」のようなシンプルでアコースティックな楽曲はAK70、「マイケル・ジャクソン/スリラー」や「茅原実里/この世界は僕らを待っていた」など、低域がソリッドだったり、疾走感のある、賑やかな曲はCT10の方が楽しく聴ける。

 低域の出方は、人によって好みが別れるところだ。音場やレンジの広さはAK70の方がやや上手だが、CT10が大きく劣ってはおらず、「聴き比べたらほんの少し違う」というレベルだ。低域のパワフルさを加味すると、CT10とAK70を聴き比べ、CT10の方が好みだという人もいるだろう。

 CT10の日本での価格が幾らになるのかはわからないが、米国で予定されている価格を考えると、約7万円のAK70のほぼ半額程度だろう。それでいて、肉薄するまでの音質を実現しているところがスゴイ。10万、20万と、プレーヤーも上を見ればキリがないが、ぶっちゃけ「この価格でこの音が楽しめれば十分じゃないか」という気もしてくる。

 最近登場したデュアルDACでアンプが強化された「AK70 MKII」と比べると、CT10も健闘するが、低域の厚みや、芯のしっかりした描写にさすがに差を感じる。だが、「相手にならないほど違う」というほどではない。

 逆に言えば、CT10を購入したユーザーが、将来別のプレーヤーにステップアップするにしても、クオリティが高いので、10万円以下のプレーヤーでは満足できず、数十万円のプレーヤーに一気にジャンプアップしたくなるだろう。

左がAK70、右がCT10
左がAK70 MKII、右がCT10
厚さ比較。左からCT10、AK70、AK70 MKII

初心者にもマニアにも注目のプレーヤー

 使っていて、気になったのはアルバムジャケットの表示方法。縦長ディスプレイのプレーヤーだが、アルバムアート全体を表示せず、一部を縦に切り出して表示するのだ。製品のデザイン的に、その方がカッコイイのは確かだが、アルバムアートの解像度が低いと、眠い画像がディスプレイ前面に“バンッ”と表示されてちょっとカッコ悪い。

 そう思っていたところ、ファームウェアアップデートで“全体を表示する”モードも追加された。発売に向けて、ファームのバージョンアップも活発化しているようだ。

右がCT10。アルバムアートの解像度が低いと、全画面表示はちょっとツライ
そう思っていたら、アルバムアート全体表示機能が追加された!

 結論として、CT10は非常によく出来たプレーヤーだ。サイズが手のひらにちょうどよく、丸みを帯びたフォルムが可愛く、テキパキと動く操作が気持ちよく、それでいて十分に音も良い。

 これだけでも評価に値するが、DLNAを使った遠隔操作や、USBデジタル出力を使った、外部DACアンプとの連携など、マニアックに使おうとすれば、それに対応できる懐の深さを備えているのもポイントだ。単に“安いハイレゾプレーヤー”で終わらず、“ポータブルオーディオの楽しさ”を知る、入り口としての役割も果たしてくれそうだ。

 初心者だけでなく、例えば“DACアンプと組み合わせるデジタル出力専用機”として買うマニアもいるだろう。そういった意味でも、要注目機だ。

山崎健太郎