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もうDAPは不要!? FIIO“ガチBluetoothアンプ”「BTR17」でヘッドフォンの魅力を再確認
2024年12月13日 08:00
「最近はワイヤレスイヤフォン/ヘッドフォンばかり使っていて、お気に入りの有線イヤフォン/ヘッドフォンをほとんど使っていないな……」という方は多いのではないだろうか。筆者もそんなひとりで、以前気に入って購入したMeze Audioの有線ヘッドフォン「99Classics」(32,800円)を、出先で使う機会はほとんどなくなっていた
「気温も下がってきたし、ヘッドフォンを再活用したい」「でもスマホに加えて、重いDAPを持ち歩くのも面倒だな」と思っていたところ、99Classicsをフルに活用できそうなアイテムがFIIOから登場した。スマートフォンとBluetooth接続して、有線ヘッドフォンを“ワイヤレス化”できるBluetoothレシーバー・アンプの新モデル「BTR17」だ。
“Bluetoothは音が悪い”と思われがちだが、このBTR17は実売4万円以下ながら、10万円前後の携帯音楽プレーヤー(DAP)にも匹敵するサウンドが楽しめる“小さなモンスター”だった。
デュアルDAC、クアッドTHX AAAになった「BTR17」
オーディオファンの方であれば、「FIIOのBluetoothアンプ」と聞けば2022年に登場した「BTR7」を思い浮かべるかもしれない。すでに販売終了となっているBTR7は、これまで便利グッズ的なイメージだった「Bluetoothレシーバー」に、オーディオの流儀を持ち込んだような製品で、手のひらに収まるコンパクトボディにデュアルDAC、デュアルTHX AAAアンプを搭載というガチっぷり。実売34,100円前後と、それなりの値段だったが、「これを待っていた」というオーディオファンに人気になったモデルだ。
新たに登場したBTR17はその後継機で、コンパクトボディや実売35,750円前後という価格帯は維持しつつ、DACとアンプを強化するなど、さらに性能を高めたモデルとなる。カラーはBlackとBlueの2色で、今回はBlackを借りている。
スペック面の注目はDACチップだ。BTR7は、ポータブル機器向けのESS「ES9219C」を2基搭載していたが、BTR17はなんと、据え置き機器向けの2ch DAC最上位モデル「ES9069Q」をデュアルで搭載している。BTR17が、より“ガチなオーディオ機器”として作られているのがわかる。
さらにアンプも、THXの特許技術を使った「THX AAA 78+」を左右独立で4基搭載。合計8チャンネルの完全バランス設計を採用している。このTHX AAA 78+はTHXとFIIOが共同開発したアンプで、デスクトップアンプなど据え置き機への搭載も想定されているハイパワーモデル。BTR7ではモバイル機器向けの「THX AAA-28」をデュアルで搭載していたので、性能・搭載基数ともに強化された格好だ。
THX AAAアンプについては、過去にも取り上げているので、詳しくはそちらを参照して欲しい。簡単に紹介すると、アンプでノイズを低減するためによく使われるネガティブ・フィードバック式ではなく、フィードフォワード式を採用しているのが大きな特徴。
これは、入力信号がアンプで増幅される過程で起こる(ノイズ)を予測し、それとは逆相の波形を合成することでノイズを消してクリアなサウンドを実現するというもの。THX AAAでは、このエラーを予測して逆相波形を作る回路に特徴があり、「フィードフォワードエラー補正トポロジー」と呼んで特許も取得。高調波、相互変調に加え、クロスオーバー歪みまで大きく除去できるという。
BTR17のようなモバイル機器だけでなく、FIIOやBenchmark Media Systemsの据え置きアンプにも使われているような技術だ。
Bluetooth SoCには、Qualcomm製「QCC5181」を採用することで、次世代Bluetoothオーディオ「LE Audio」規格にも対応。Bluetooth 5.4準拠で、コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX LL、aptX Adaptive、aptX Lossless、aptX HD、LDACと主要な高音質コーデックを網羅し、Qualcommの技術「Snapdragon Sound」にも対応しているほか、「ハイレゾオーディオ認証」も取得している。
筐体は手のひらに収まるコンパクトサイズながら、3.5mmシングルエンド出力と4.4mmバランス出力を装備。後述するが、BTR17はUSB DACとしても使用でき、データ通信用に加え、給電用のUSB-C端子も1基備えている。USB給電時にデスクトップモード(D.Mode)を有効にすると、バランス出力で650mW(32Ω負荷時)という高出力が可能。シングルエンド出力は280mW。
本体には1.3型のIPSカラーディスプレイを搭載。使っているBluetoothコーデックやビットレート、イコライザーの情報がひと目で確認できる新開発のユーザーインターフェースを搭載している。
前モデルから大きく変わったのがボタン周り。前モデルでは本体右側にボリュームボタンや再生/停止ボタンなどを備えていたが、BTR17では新たにナビゲーションホイールを搭載。クルクルと回すことで音量調整、押し込みで再生/停止といった操作が可能になった。側面には電源ボタンや曲送り/曲戻しボタン、動作モードを切り替えるスイッチなどを備えている。
スマートフォン用アプリ「FIIOコントロール」から、細かな設定や操作も可能で、スマホをBTR17の“リモコン代わり”にすることもできる。内蔵バッテリーでの駆動時間は最大約8時間(LDAC使用時)で、充電時間は約2時間。
USB DACとしても使用可能。特製8芯USBケーブルも付属
BTR17はBluetoothアンプだが、有線接続してUSB DACとしても使用できる。USBコントローラーチップはXMOS製の最新世代モデル「XU316」を採用。BTR7で採用していた「XUF208」から最新世代になったことで性能も上がっているため、遅延の低下も期待できる。
本体下部にはUSB-C端子を2基備え、片方はデータ通信用、片方は給電用に分かれている。給電ポートを使うことで、スマホのバッテリー消費を抑えることができる。
また使用状況に合わせて選べる3つの接続モードも搭載。本体右側面のスイッチを切り替えることで、PCからの電源供給で動作する「PC(USB DAC)モード」、内蔵バッテリーで動作し、USBから充電/給電もできる「BT(Bluetoothレシーバー)モード」、内蔵バッテリーで動作しつつ、スマホのバッテリー消費は抑制できる「PHONE(スマートフォンUSB DAC)モード」を簡単に切り替えられる。
さらに製品には、電源/データ用の8芯構成のUSB-C to USB-Cケーブルが付属。電流伝送用に単結晶銅導体6芯、デジタル信号伝送に単結晶銅銀メッキ導体2芯を組み合わせたもので、充実した伝送能力とピュアな音質、データ伝送の正確性・高い安定性を確保しているという。
そのほか、ゲーム機などとドライバー不要で接続できる「UAC1.0モード」も搭載するなど、Bluetoothアンプ/USB DACに求められる機能を一通り盛り込みながら、外形寸法は約16.3×41.2×86.6mm、重さは約73.4gと、ワイシャツの胸ポケットにも楽々収まるコンパクトさとなっている。
iPhone+Meze Audioヘッドフォンで音を聴く
さっそく音をチェックしてみよう。ヘッドフォンは99 Classicsで、接続相手となるスマートフォンはiPhone 16 Pro、音源にはApple Musicを使用した。音源としてはハイレゾファイルも再生しているが、iPhoneの仕様上、BTR17との接続は44.1kHzのAACとなっている。ちなみにインピーダンス32Ωの99 Classicsの場合、ゲイン「High」設定ではフルボリューム60のところ、40前後で十分な音量で楽しめる。
まずはMeze Audio純正の3.5mmアンバランスケーブルで接続し、「Mrs.GREEN APPLE/ライラック」(96kHz/24bit ALAC)を再生。イントロのギターソロで弦の爪弾き感から、普段使っている完全ワイヤレスイヤフォンやワイヤレスイヤフォンとは生々しさが段違いで、弦の振動が見通せるような解像感を味わえる。
続いて印象的だったのはラスサビ前のボーカルパート。ボーカルが前面に出てきつつ、その後ろにギターやベース、ドラムといった楽器のサウンドが広がるのだが、その空間描写力が高く、目の前でボーカルの大森が歌い、その後ろでドラムなどが鳴っていることが手に取るように分かりそうな臨場感だった。
「この小さな筐体から、なんて音が出るんだ」と驚きつつ、ケーブルをMeze Audio純正の4.4mmバランスケーブルにスイッチ。おなじく「Mrs.GREEN APPLE/ライラック」を聴いてみると、冒頭のギターソロは弦の震えが見えそうな解像感はそのままに、音の響き・広がりが1段高くなり、背後に広がる空間が一回り大きくなったように感じられる。
そこにドラム・ベースといった楽器のサウンドが流れ込んでくると、3.5mm接続時よりもギターがより前面に出て、ステージの立体感が増したサウンドを味わえる。ボーカルが歌い出すと、こちらもフッという細かなブレスをしっかりと聴き取れる音の細かさ。それでいて音場も広いので、ボーカルが広がっていく様子がしっかりと味わえる。ドラムやベースなどの低音もしっかり沈み込みつつ、適度な締まりがあって心地良い。
4.4mm接続のまま、女性ボーカル楽曲として「tuki./晩餐歌」(44.1kHz/16bit ALAC)を再生。するとtuki.の歌声や細かなボーカルに、完全ワイヤレスなどでは感じにくかった艷やかさがあり、より楽曲の世界観に引き込まれる。
特徴的だったのは、ドラムなどの低音表現。ズシンと適度に沈み込み、空間に広がっていく様子が描写されるのだが、しっかりとタイトでボワボワと膨らまないため、tuki.の伸びやかなボーカルを邪魔することがない絶妙なバランスなのだ。もともと女性ボーカルの表現力の巧さに惚れて99 Classicsを購入したので、BTR17と組み合わせたときのサウンドで、改めて99 Classicsの魅力に気付かされた。
そのほか、「サカナクション/新宝島」(44.1kHz/16bit ALAC)や「Ado/ドライフラワー」(44.1kHz/16bit ALAC)なども聴いてみると、やはり完全ワイヤレスイヤフォンやワイヤレスヘッドフォンはまったく違うサウンドで、これを“完全”ではないにしろ、スマホとヘッドフォンを直接繋がないワイヤレス状態で楽しめてしまうことに驚きを隠せない。
また使っていて感心したのは、ボリューム調整に使うナビゲーションホイールの操作感。ホイール自体は小ぶりだが、表面に刻まれた細かな切り込みのおかげで指がかりが良く、操作しやすい。ホイールを回したときにはクリック感があるので細かな音量調整も簡単。もちろん音量を一気に下げたい/上げたいときもホイールを回し続けるだけなので、かなり使いやすく感じられた。
BTR7との違いは?
最新モデルが登場して、気になるのは先代モデルであるBTR7とのサウンドの違いだろう。BTR7は、AV Watchでも“ガチなBluetoothアンプ”として紹介しており、実際にユーザーというかたも多いはず。そこで今回はBTR7も借りて2台を聴き比べてみた。
「Mrs.GREEN APPLE/ライラック」や「ダイアナ・クラール/月とてもなく(No Moon at All)」(44.1kHz/24bit ALAC)などを聴き比べてみると、違いを大きく感じるのは音場の広さ。BTR7でもサウンドステージは十分広く感じられるが、例えば「月とてもなく」の場合、BTR17のほうがピアノがより一歩前に出てきているように感じられ、その分、空間の奥行きの広さを感じられる。
「tuki./晩餐歌」ではボーカルの描写力に違いが感じられた。BTR7でもしっかりとクリアで伸びのある歌声が楽しめるが、BTR17ではそこからさらに薄いベールが1枚剥がれたかのような解像感で、よりボーカルが鮮明になっており、個人的にはBTR17のほうが好みだった。
低域の表現力も沈み込みのキック感や深さもBTR17のほうが上回っており、「Creepy Nuts/Bling-Bang-Bang-Born」(48kHz/24bit ALAC)は、BTR17のほうがより楽曲の魅力を味わえる。
音質面以外でも違いを感じるのが操作系周り。上述のとおり、BTR17はホイールで音量調整するのに対し、BTR7は側面のボタンで操作するタイプなので、大きく音量を変更したい場合はもちろん、細かく調整する場合もボタンを連打する必要がないホイール式のBTR17のほうが圧倒的に使いやすく感じる。
LDACでも聴いてみる
BTR17はLDACやaptX Adaptiveなど、Bluetoothの高音質コーデックにも一通り対応しているので、せっかくならその実力も試したいところ。というわけで、編集部員が以前使っていたお古のAndroidスマートフォン「Pixel 6 Pro」を借りて音質をチェックしてみた。音源には変わらずApple Musicを使っている。
ちなみにBTR17では、アプリ「FIIO Control」から接続に使用するBluetoothコーデックを個別に設定できるので、「LDACだけ使いたい」「aptX Adaptiveだけにしたい」といった場合も、簡単に設定できる。使用しているコーデックはBTR17本体のディスプレイでひと目で確認できる。
LDAC接続になったことで、iPhone+AAC接続のときと比べると、より細かい音が聴き取りやすくなっており、「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を聴いてみると、冒頭のウッドベースの弦のブルブルと震える様子、ボーカルのリバーブ感などがiPhoneで聴いていたときよりも聴き取りやすい。
USB DACとしても使ってみる
最後にiPhoneと付属のUSBケーブルで接続し、BTR17をUSB DACアンプとしても使ってみた。BTR17には電流伝送/信号伝送用として特製8芯構成のUSB-C to USB-Cケーブルが付属しているので、別途ケーブルを用意することなくUSB DACアンプ化できるのは嬉しいところ。ケーブルはスマホと組み合わせるのに長すぎず、短すぎない絶妙な長さで、持ち歩きもしやすい。
これまで聴いてきた楽曲を、iPhoneのBluetooth接続とUSB接続で聴き比べてみると、やはり音の広がり方など音場の広がりはUSB接続のほうがよりスケール感を感じられる。ただ低域の表現力やボーカルの解像感といった部分では、Bluetooth接続とUSB接続にそこまで大きな違いは感じられなかった。ケーブルも持ち運びやすいコンパクトサイズなので、移動中はBluetooth接続、カフェなどで一息つくときはUSB接続といった使い分けもしやすいはずだ。
またUSB DACアンプとして使っている状態で、給電用USBポートから別途電源を供給し、本体側面のモードスイッチでデスクトップモードを有効にすると、バランス出力で650mWという高出力が可能。99 Classicsの場合、このモードではボリューム13で十分すぎる音量が取れたので、より鳴らすのが難しいヘッドフォンなども楽々とドライブできるのは間違いない。
MacBook Airとも接続して本格的にUSB DACとしても使ってみた。別途ドライバーのインストールなどは不要で、USB-CケーブルでPC/Macと接続するだけでUSB DACとして使用可能。Macの場合は「Audio MIDI設定」アプリから使用するビットレートを選択することもできる。
スマホと違い、ノートPCはイヤフォン端子を搭載している端末も多いが、本体内蔵のイヤフォン端子を経由するよりも、USB DAC化したBTR17を経由して聴いたほうが、音の解像感や音場の広さは上。もちろん4.4mmバランス接続を利用することもできる。
市場にはUSB DACとしても使えるDAPも数多く存在するが、そういった製品よりもBTR17は遥かにコンパクトでノートPCと一緒に持ち歩きやすい。価格もDAPと比べれば比較的手が届きやすいのも嬉しいところだろう。
またUSB DAC化できるDAPの中には“遅延”が大きく、Netflixなどで映画やドラマを観ている際に映像と音がズレてしまうものもあるが、BTR17の場合はそういったリップシンクのズレはなく、Netflixのドラマや映画、YouTubeなども快適に使用できた。
モバイル機器をデスクトップ運用していると内蔵バッテリーの劣化が気になるところだが、BTR17は側面の物理スイッチを切り替えることで、使用シーンに応じて最適な電源供給モードを選択でき、例えば「PCモード」を選べば内蔵バッテリーを使わず、USB経由の給電だけで動作するようになるので、バッテリーへのダメージを抑えられる。内蔵バッテリーの交換修理はそれなりに費用もかかり、なにより修理期間中は手元からデバイスがなくなってしまう“辛さ”があるので、こういったバッテリーケア機能が搭載されているのは、ユーザーとしてもありがたいところ。
こういったユーザーの実使用シーンにあった機能を搭載してくるところも、モバイル/デスクトップ問わず数多くの製品を送り出しているFIIOらしいポイントと言えるだろう。
操作系の進化は買い替えの価値あり。眠っている有線イヤフォン/ヘッドフォンを取り出すきっかけに
“DAPいらずのBluetoothアンプ”として登場したBTR7の後継機となるBTR17。音質・駆動力といったオーディオ機器に求められるスペックにさらに高めつつ、より操作しやすいナビゲーションホイールや、持ち運びに便利なUSBケーブルなど、使い勝手の面もパワーアップしており、より“DAPいらず”に磨きがかかっていた。
特に操作周りについては、短期間の使い比べでもBTR17のほうが便利に感じられたので、これだけでも買い替える価値は十分にあるかもしれない。
またスマホと組み合わせて使うBTR17であれば、Netflixなどの動画配信サービスも視聴でき、スポーツの生中継や“推し”YouTuberのライブ配信も簡単に、そしてワイヤレスイヤフォンよりも高音質で楽しめる。
なにより、手のひらに収まるコンパクトサイズのデバイスひとつで、完全ワイヤレスイヤフォンに押されて、すっかり使わなくなってしまった有線イヤフォン/ヘッドフォンをもう一度外で使いたいと思わせてくれる。ポータブルオーディオファンはひとつは持っておきたい製品のひとつだと言えるだろう。