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組立、調整どうやるの!? アナログレコード奮闘記。デノン「DP-400」×DALI「OBERON 1」で未知の世界の扉が開く

デノンのミドルクラスターンテーブル「DP-400」

アナログレコード、ちょっとやってみたい

私はこれまでレコードをやったことはなかった。単にプレーヤーを置く場所が悩ましいことと、どうしてもレコードで聴きたいソフトがないというのが主な理由である。しかし、オーディオの世界やそうでない人の間でもアナログレコードはブームになっており、本音を言うと、ちょっとやってみたい……。

そんな折、AV Watch編集部から「橋爪さんアナログプレーヤー使ってみませんか?」と提案が。飛びつきたいところだが、なんとなく恥ずかしくて「ちょっと興味ありますけど……」と返答。そして、デノンのミドルクラスターンテーブル「DP-400」が我が家に届く事になった。お値段は、実売4万円台前半と、入門プレーヤーと比べると少し高価だが、ピュアオーディオのコンポとしてはお手頃。この価格帯に合わせて、スピーカーにDALI「OBERON 1」(ペア74,800円)も借りた。

せっかくの機会だ。恥を脱ぎ捨て、レコード初体験のありのままを綴ってみよう。逆に言えば、筆者くらいの初心者でも「これから始めていいんじゃね?」というメッセージを込めたつもりだ。

レコードを買いに行こう

DP-400の到着を待ちながら、手元にレコードが2枚しかないことに気付く。自身の音楽ユニットBeagle Kickで制作した「OOPARTS」の初回マスター版(非売品)と製品版だ。これでは試聴にならんと思い、近場のレコードショップに足を運んだ。ディスクユニオン立川店だ。

ディスクユニオン立川店

まずは「自分が本当に聴きたい」と思えるレコードを探す。端的に言えば、好みだけで選ぶ。もしかしたら都心に出ないとほしいレコードは見つからないと思っていたのだが、意外や意外、気になる盤があるではないか。アニメ・ゲーム・日本のフュージョンでザッと見て回っただけでも、何枚も目がとまる。昔のJ-POPも見ようかと考えていたが、それどころではなかった。全部買うと大変な事になるので、熟考の上、3枚に絞り込む。

スタジオジブリ「平成狸合戦ぽんぽこ」のイメージアルバム(中古)。97年にCD版でリリースされていたアルバムを昨年レコードにしたようだ。もう本編の音楽を覚えていないが、面白そう。買う。

ザ・スクウェアのアルバム「ロックーン」(中古)。1980年リリースの4枚目のアルバムだ。ザ・スクウェアは聴いたことがないが、本田雅人ファンとして気になったので購入。盤の状態はBとある。レジで気になって聞いてみたら「一般的な中古レコードの状態です」とのこと。よく分からないが、聴くに堪えないほどではなさそうだ。きっとそうに違いない。

カセットコンロスの去年出た新作アルバム「Calypso EXPRESS」。ショップの説明書きには、ラテンジャズのようなことが書いてあった。熱帯JAZZ楽団は好きだ。インストとボーカル、両方が入ってるっぽい。後で調べたら、“カリプソ”バンドだという。カリプソとはカリブ海で生まれた音楽のことらしい。筆者はワールドミュージックを聴いていた時期があり、城之内ミサなどのヒーリング系を好んで聴いていた。新作だし、1枚くらいは現代のレコードの音を聴いてみたい。買う。

大きなビニール袋に入れてもらったレコードを大事に抱えて立川をあとにした。家に帰ってレコードを並べると、その大きさに改めて圧倒される。最近は、CDを買うこともめっきり少なくなり、ハイレゾ版だけをダウンロード購入する日々。そんな自分が直径30cmものLPレコードを買うなんて。なんだか神聖なモノのような気がして、試聴の時まで包装を開けるのは控えておいた。

ドキドキの組み立てと調整

数日後、レコードプレーヤーDP-400が到着。箱を開けると、細かいパーツがいくつも入っている。円盤状のパーツも複数ある。まずは組み立てからだ。PDFのマニュアルを見ながら、おっかなびっくり組み立てる。見るからに繊細な部品もあり、ドキドキしながら作業した。

DP-400は、ターンテーブルをベルトを介してモーターで駆動するのだが、ベルトを本体側のモーターに引っかけるときは、「こんなことやるんだ。メカっぽい!」と感動。ベルトドライブ方式だそうだ。カートリッジが取り付けられたヘッドシェルは、ひときわ繊細な部品。袋から出すのもハラハラしたが、取り付けはとても簡単。ガイドピンを上にして溝に併せて挿し込むだけだ。

ターンテーブルの左下に窓がある
この窓部分にベルトを掛けるモーターが見えている
カートリッジが取り付けられたヘッドシェル
取り付けはとても簡単だ

組み立ての中で、「調整」という項目があった。針圧とアンチスケーディングの調整だ。レコード針がレコードの溝から音を拾えるように、カートリッジごとに適切な圧力(針圧)を掛ける必要がある。付属カートリッジの品番は公開されていないが、交換針は「DSN-85」となっている。適正針圧値は2gだ。適切に調整しないと、音が歪んだり針飛びの原因になるという。レコード針の摩耗が早まったり、レコード自体を傷つけてしまうおそれもあるようだ。本機は、0~4gまで針圧を調整できる。

調整の前に、まずはレコードプレーヤーが水平の位置に置かれている事をチェック
これがカウンターウェイトと呼ばれるパーツ
トーンアームの後部に取り付けたら、トーンアームとターンテーブルが平行になるよう、カウンターウェイトを回して調整。それが済んだら、アームレストに戻した上で、適正針圧値になるように、針圧調整リングを回す

アンチスケーディングは、レコードの回転によって針先が内側に引っ張られる力を打ち消すために針圧と同じ値に設定する。これが狂っていると、左右の音が均等に鳴らないそうだ。

右にあるダイヤルがアンチスケーディングの調整ダイヤルだ

また、カートリッジを交換したときは、オーバーハングという「針先とターンテーブル中心までの距離」を気にする必要がある。DP-400のオーバーハングは16mm。適切に調整できるようカートリッジの交換のページに方法が書いてあったが、今は無視だ。ちなみに適合カートリッジ自重は5~13gとなる。

説明書とにらめっこしつつ、慎重に各部を操作した。ちゃんと調整出来ているか少し自信がないが、やっていること自体はそれほど難しくない。説明書をトレースすれば、普通に完了できた。

レコードを飾れたり、便利な機能を備えたDP-400

調整も終わって、電源投入……とその前にダストカバーについて触れておこう。レコードにとって埃は大敵。そのくらいは筆者も知っていた。本機のダストカバーはターンテーブルシートを完全に密着するように覆い隠すものだが、スリムなのが特徴だ。トーンアーム周りは密閉空間にはならない。

スリムなダストカバー

ダストカバースタンドは、ダストカバーと組み合わせるとレコードスタンドにもなる。再生中のジャケットをどこに置こうと困ったとき、スタイリッシュにディスプレイ出来るのは嬉しい。

ダストカバーがレコードジャケットのスタンドになる、これはオシャレだ

なお、ケーブル類はACアダプターとRCAケーブル。RCAケーブルは、外部のフォノイコライザーを使うときに欠かせないアース線が一体化している。アースケーブルは端子が隠れたところにあって締めにくいので、後ろに作業スペースがない方はあらかじめ接続してから設置を推奨したい。

RCAケーブルにアース線が一体化している

まずは内蔵フォノイコライザーから試してみる。リアパネルのEQUALIZERスイッチでONを選ぶと、内蔵フォノイコ(MM対応)が有効になる。OFFにすれば、外部のフォノイコライザーを利用できる。MCカートリッジを使うときは、外部フォノイコが必須となる。

フォノイコライザーのON/OFFが選択できる

いよいよレコード盤に針を落とす

自宅の防音スタジオのリファレンスシステムに接続。アンプはL-505uXII、スピーカーはRUBIKORE 2だ。OBERON 1で聴く前に、プレーヤー単体の音を、普段のシステムで聴いてみよう。

RCAケーブルは、普段AVアンプとアンプ間を接続しているLINE-1.0R-TripleC-FMを転用した。ACアダプターは付属品をそのまま使っている。

付属のACアダプター

DP-400の機能を見ていこう。

デノン伝統のS字型ユニバーサルトーンアームは、アルマイト加工が施されたマットな質感。このアームには、レコードの再生が終了した際に自動的にアームをリフトアップしつつ、ターンテーブルの回転を停止するオートリフトアップ&ストップ機能がついているそうだ。音楽を聴きながらウトウト……なんて時も安心というわけだ。

回転数は、33 1/3回転と45回転に加え、SPレコード用に78回転にも対応している。回転数切り替えのダイヤルも搭載している。なお、回転数は検知センサーによって常に正確な速度を保つように制御しているそうだ。ワウ・フラッタは0.08% (WRMS)。S/N比は65dB。今回はブラックを使っているが、ホワイトモデルも用意されている。

回転数は、盤面やジャケットに記載されている。今回購入した3枚にも33回転と書いてあった。もちろん、我らがBeagle Kickのレコードジャケットにも33rpmと書いた。テキストを準備したのは自分なのでよく覚えている。

レコードジャケットに回転数が書いてある

まずは、Beagle Kickのレコード(製品版)をターンテーブルに載せて再生してみる。レコード盤自体が大きくて持ち方に難儀する。慣れない自分は戸惑いながらターンテーブルに設置。ちなみに、ジャケットに戻すときも、何回かやって少し慣れてきたが、最初はハラハラだ。

レコードを再生する手順は、いわゆるボタンを何回か押すとかではなく、マニュアルレコードプレーヤーなので、一つ一つの手順が機械を操作している感覚にさせる。筆者は、説明書を完コピするほど慎重に行なった。

電源/回転数切り替えノブで回転数を指定すると、ターンテーブルが回転をはじめる。レコードの曲間の溝を目がけてトーンアームを移動し、リフターレバーを下ろす……この一連の感覚。なんという神聖な行為なのだろうか。

音が出た!

開封したばかりの製品版とあって、埃によるプチプチノイズはまったく気にならない。初回マスターの盤も再生してみたが、製品版との音の違いも改めて確認することができた。

レコードは、CDよりも物理メディアとして所有する満足感が高い。購入した3枚のレコードには大判の解説シートが付いていたり、それを音楽雑誌さながらに読み込む時間も楽しい。CDのブックレットにも解説が付いていることはあるが、この大判の紙を手に取ってじっくり眺めながら、傍らでレコードが回っているという独特の感覚は未知の世界の扉が開いた音がした。

ハイレゾの場合、音楽解説どころか、ミュージシャンやエンジニアの名前すら分からないのが当たり前なだけに、雲泥の差である。ここについてはBeagle Kickのプロデューサーとして一家言あるが、長くなるので割愛。

続いて、買ってきた3枚のレコードも再生してみよう。

ザ・スクウェアの「ロックーン」。76cm/sのマスターテープをクリスタルロックマスタリングシステムでカッティング、ダイレクトプレイティングタイプIIのメッキ方式を採用したとある。マスターの仕様と製法が記載されているのは好印象だ。

一聴してダイナミックレンジが広い。小さい音から一気に大きい音が鳴る。音量を上げて聴きたくなる。音のアタックや音像の立体感もよく出ている。1980年というと、自分が生まれる前で、正直、音が古いなとも感じる。自分が昔の曲を聴かない人間なので、余計違和感が強いのかもしれない。

90年代中盤くらいから、自分もCDを買って聴き始めたので、当時のJ-POPやアニメ劇伴とかのエフェクトはその古さが結構好きだったりする。リバーブやコンプレッサーの大味というか、ちょっと汚れている感じがまたいいのだ。

「ロックーン」は、シンセと生楽器が合わさったフュージョン系の音楽だが、これはちょっと失敗。曇った音で、もう少しパリッとした鮮度の高い音が聴きたくなる。盤の状態はBなので、埃のプチプチ音もそこそこ発生。レコードクリーナーが欲しくなる。

次は平成狸合戦ぽんぽこのイメージアルバム。1994年のレコーディング、レコード発売は去年だ。オーブライトマスタリングスタジオの橋下氏がレコード用のマスタリングを担当。カッティングは東洋化成の手塚氏となっている。CDが廃番になっていて、ハイレゾ版も無いとなると、レコードがハイレゾに近い1つの選択肢になる。

94年録音ということなので、PCM-3348あたりのデジタルマルチトラックレコーダーで録ったのではないか。CDになる前の最終マスターはDATだろうか。音を聴く感じ、アナログマスターではなく、CDかそれに近いデジタルマスターを元にしてるような感触。

ダイナミクスは広く、アタックは十分に残っている。CD版はもっとラウドに作っているとしたら、レコード版のメリットはある。リバーブやディレイは、時代を感じる懐かしい味わいだ。高解像すぎないこと、いい意味で汚れていること、90年代のエフェクトはなんだかいいなと思える。

厳密に言えば、レコードはどうしてもCDやハイレゾと比べるとS/Nが悪くなる。レベルが大きいと、歪みっぽい音になる点も時代を感じさせる。

サイドB「土呂久II」のピアノなどはまさにそれだ。このレベルが大きいと歪む件は、Beagle Kickのレコード制作でも難儀した。ハイレゾ版のマスタリング済み音源で初回マスター盤を作ってもらったとき、音が大きすぎてかなり歪んでしまい、元音源を変えてもう一度マスターを作り直したのだが、そんな苦労を思い出した。

最後の1枚に移る前に、DP-400内蔵フォノイコと、アンプ内蔵フォノイコの音質を比較してみた。

L-505uXIIにはMMとMCのフォノイコが搭載されている。DP-400内蔵フォノイコを使うときは、DP-400からアンプのLINE INに接続していたが、L-505uXII内蔵フォノイコを使う時は、Phono入力に接続する。アースケーブルをアンプまで接続をするのも忘れずに。機器同士のグランド電位を揃えてあげると、再生時のノイズが少なくなることがある。

一聴して、音の好みはL-505uXII内蔵フォノイコライザーだと感じる。全帯域に力がみなぎって、気持ちブライトな音に変化。奥行き感が少し改善。聴感上のS/Nも上がった。

先ほど、歪みが気になった土呂久IIは、歪み具合がDP-400内蔵フォノイコよりも若干だが緩和されていた。落ち着いた音のDP-400内蔵フォノイコもいいが、比較すると中低域が痩せたようにも感じる。

ラインレベルに比べて極めて小さなフォノイコライザーを通す前の信号は、フォノイコでイコライザー処理され、ラインレベルまで増幅される。音質に影響があって当たり前だ。単体の高級フォノイコが存在する理由が、わかった気がする。

平成狸合戦ぽんぽこの劇伴で印象的なメインテーマである「元気節」。L-505uXII内蔵フォノイコで聴くと、快活でフレッシュな音になる。そこには低音域の力感も含まれており、全体的にエネルギーに余裕が感じられる。ハイの伸びも気持ち良くなったように聴こえた。ただ、DP-400内蔵フォノイコも、少し地味な音だが、どんなソースでも癖が付かず万能とも言える。

それにしてもDP-400は、本格的な機能やフォノイコも備えつつ、実売4万円台前半というのはコストパフォーマンスが良いと感じる。単体フォノイコがなくても聴ける手軽さがあるので、アクティブスピーカーを直接接続するなど、よりシンプルなシステムも構築できる。内蔵フォノイコをスルーする事もできるので、今回のようにプリメインアンプ内蔵フォノイコとの音の違いも楽しめる。

続いて、DC電源のノイズ対策もしてみた。本機はACアダプター式とすることで、電源回路からのノイズが他の回路に影響しないメリットがある。ただ、供給されるDC電源そのものに混ざっているノイズは対策する価値はあるかもしれない。

付属品は、DC 12V/2AのACアダプター。消費電力は10Wとなっているから、消費電流は約0.83Aとなる。1Aではなく、余裕を見積もった2AのACアダプターが付属している点は評価したい。今回、DC電源のノイズ対策グッズとしてFX-AUDIO-の「Petit Susie Solid State」を使用した。電圧・電流、DCプラグの規格ともに適用が可能だ。

FX-AUDIO-の「Petit Susie Solid State」

Petit Susie Solid Stateの有り無しで音を比較すると、楽器の音像にまとわりついていた無駄な贅肉が落ちて、ディテールがよく分かるようになった。パーカッションや三弦、篠笛など、楽器ごとの個性が伝わってくる。聴感上のノイズフロアも下がったように感じられ、音場はクリアに。ドラムなどの金物系の雑味も減少した。電源周りのアクセサリーは保証の対象外になることから、自己責任ではあるが、DC電源のノイズ対策は効果てきめんだ。

さて、いよいよ最後の1枚、去年録音・制作されたばかりの新作レコードを聴いてみる。カリプソ/ラテンバンド、カセットコンロスの「Calypso EXPRESS」。日本を代表するレコーディング&ライヴ・ダブ・エンジニアの内田直之氏を迎え、廃校になった小学校を改装したスタジオで一発録音したという本作。

いや、これはいい! 新作レコードかくあるべし、みたいな音作りだ。レコード初体験な自分が言っても説得力は無いが、手放しで絶賛したい。まず、現代の録音なのにあえてローファイ気味にミックスしている点は気に入った。高域が程よくロールオフしていて、メンバー全員一発録りの影響もあるのだろうが、ちょっとくすんだ感じの音がまた音楽性と合っている。教室の天然の響きも聴こえるので、その野良音楽的な感じがレコードとマッチしている。

録音とMIXはPro ToolsなどのDAWと考えられ、音の調整はしていると推測。というのも、リバーブなどが適度にモダンだったり、ボーカルのトランジェントも現代的なのだ。こういう音作りのコンセプトならば、新作音源をレコードで聴く価値は十分にあると心から思った。

ただ、音楽ジャンルとの相性が良くないと、単純にローファイにしただけではクオリティの劣化となり、『こういうバージョンもいいよね』ではなく、『原作改悪』にもなりかねない。だったらハイレゾやDSDで出してくれと思ってしまうので、個人的には一筋縄ではいかないとも思う。

エンジニアの方はさすがだなと思ったのは、完全にトラディショナルなテイストに振るのではなく、現代的な音のきめ細かい側面や写実的な要素を適度に入れ込んで、総合的にレコード向けのマスタリングを行なっているとみられること。バランス感覚は絶妙で、レコード初心者の自分でも違和感が少なく、心地よくA/B面を楽しむことができた。

また、レコード特有のノイズは音楽のレベルに対してかなり小さかった。新作でもプチプチノイズは絶対聴こえるものだと思っていただけに意外だった。埃や静電気のメンテナンスをすれば、長くキレイな音で聴けるということだろうか。レコード針のメンテも要るというから、諸々のグッズを揃える楽しみや、メンテナンス自体もレコードの醍醐味といえそうだ。

OBERON 1でレコードを聴いてみる

DALI OBERON 1

OBERON 1でも鳴らしてみよう。OBERONは、2018年に登場したDALIの普及価格帯にあたるスピーカーだ。上位機で使われている“SMCマグネットシステム”をエントリークラスで初めて取り入れた。SMCは高価な素材だが、ウーファーのポールピースのトップ部分に採用する事で、歪みを劇的に改善しているのが特徴だ。

ツイーターは、超軽量のシルクファブリックをベースとし、口径は29mmと大型化する事で、低い周波数帯域までカバーしている。ウーファー(ミッドレンジ/ウーファー)への音の繋がりを向上させる工夫だ。

DALI OBERON 1

OBERON 1はシリーズで最も小型なブックシェルフ。外形寸法と重量は、162×234×274mm(幅×奥行き×高さ)、4.2kgと小ぶりである。プライベートルームでオーディオをはじめるにはぴったりのサイズだ。机によってはデスクでも活用できそう。

価格はペア74,800円だが、実売では5万円を切るお店もある。DP-400とエントリーの2chアンプを購入しても、15万円ほどで本格的なレコード再生環境を構築できるのは嬉しい。ただ、昨今の世界的な情勢の変化を踏まえ、7月1日から定価ベースで7,700円値上げされる予定なので、気になる人は急いだほうがいいだろう。

レコードをザ・スクウェアに戻して、聴いてみる。フォノイコライザーはアンプ内蔵を使用し、DC電源にはPetit Susie Solid Stateを引き続き適用している。

さっそくだが、OBERONはコストパフォーマンスがとてつもなく高い製品だ。2018年の発売当時に、レビュー記事も書き、素性の良さを体験しているはずだったのに、改めて感服してしまった。

こんなこと言ったらまずいのかもしれないが、7倍もの価格差があるRUBIKORE 2から変更したのに、元の世界観の6~7割程度を表現できている。解像度は高いし、低域も見た目よりも出てるし、かといって無理はしてない絶妙なバランスだ。中低域に筐体がビビってる様子もない。ハイに耳障りなピークはないのも素晴らしい。DALIらしいオーガニックな質感もしっかりと備わっている。

80年代のレコードのダイナミクス溢れる躍動感をこのクラスのスピーカーでも味わえるのも感動した。OBERON 1には広すぎるほど左右の間隔は空いているが、問題なく空間を掌握できる音のエネルギーがある。部屋の広さは約6畳だ。まあ、OBERON 1を鳴らしているアンプのL-505uXIIが高価なので価格はアンバランスだが、繋ぐアンプ次第で引き出せるポテンシャルの深さがある証でもある。音像は立体的で、前後感も表現できている。

録音やミックスが良いことが大前提だが、アナログマスターテープからカッティングしたレコードは、聞く価値があると筆者でも分かる。マスターテープが行方不明だったりすると、発売済みのレコードやCDしか音源がないケースもあるだろう。DSD化が叶わない音源なら、レコードはCD版よりも有力な選択肢になり得ると感じた。

続いて、平成狸合戦ぽんぽこのイメージアルバム。中高域のクリアさは、SMCの効果だろうか。価格からすると、信じられないレベルの高い描写力だ。DALIらしい優しい質感もさりげない程度に添えられていて、音楽性を高めてくれる。サックスや篠笛など、中域が美しい楽器が適度にまろやかだ。しかし、昔のDALIと違って、音像はボケないし、遅い音でもない。価格とサイズから想像できる限界値を軽々と超えてくる。OBERON 1、こいつはヤバい。

最後は、カセットコンロス。音場が前後にちょっと狭くなったが、ボーカルのクッキリ感は健在だ。パーカッションのコロコロと軽快な実在感は素晴らしい。センターに定位するサックスとベースの分離感もなかなかだ。

前述したローファイな音作りと、現代の技術を踏まえたモダンなテイストの共演は、絶妙な塩梅を含めOBERON 1でも申し分なく味わえる。OBERONの『安い価格帯のスピーカーに変えたガッカリ感』の少なさは驚嘆に値する。DALIのRUBIKORE 2を愛用する者として、自信を持ってお勧めできるコスパ最高のブックシェルフだ。

レコードを聴いて感じた“音楽の趣味を縦横に広げる”重要性

自分自身でレコードを聴き、「音楽の趣味」を“縦横に広げる必要がある”と実感した。縦は時代の幅であり、横はジャンルの幅だ。

音楽配信において、DSDというアナログ卓の2MIX出力をそのまま記録できるフォーマットがある現代に、あえてレコードを楽しむというのは、「そこに聞きたい音楽があるから」以外の理由はないだろう。物理メディアとしてのコレクション性の高さ、カスタマイズ性の面白さは認めた上で、自分だったらという注釈付だ。

また、レコード収集といえば「中古レコードを物色すること」と思っていた、自分の既存の価値観も覆された。現代の音楽でも録音方法やレコード化する過程(マスタリング等)によって、楽しみが大きく異なるというのがカセットコンロスを聴いた感想である。

硬派なジャズやクラシックが好きな方は言うまでもなく、洋楽を聴く方、日本の懐メロなどを聴く方は、レコードショップに行けば楽しくてしょうがないはず。“産地”や“製法”を気にして、盤をコレクションする楽しみも計り知れない。

ターンテーブルにレコードをそっと乗せて、曲間の隙間を目指して針を落とす。レコードが粛々と回る中、音楽を向き合って楽しむ神聖な感じは短期間ながら、筆者も味わうことができた。埃や静電気のケア、カートリッジなどの交換パーツを使ったカスタマイズなどなど体験の伸びしろがたくさんあるのも魅力だ。

そういえば、Qobuzを年間契約していた。普段聴かない音楽ジャンルや、古い時代の音楽も再生してみよう。きっと、それは僕にとってのレコードへの道に繋がっている。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site