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手のひらサイズBluetoothレシーバ、iFi「GO blu Air」で“有線イヤフォン沼”再突入。FIIOとの違いは?
- 提供:
- エミライ
2025年12月1日 08:00
“イヤフォン=ワイヤレス”という認識が定着して久しいが、最近は音質の優位性やバッテリーの心配をせずに使える利便性などから、有線イヤフォンに“回帰”する流れも生まれつつある。完全ワイヤレスイヤフォンからオーディオに興味を持った人もいれば、「今はすっかりワイヤレス派だけど、家で眠っている有線イヤフォンを復活させたい」と思っている人も多いだろう。
ほとんどのスマートフォンからイヤフォン端子が姿を消した昨今、有線イヤフォンを使いたい時に活躍するのが、スマホからBluetooth経由で音を受信して、有線イヤフォンを駆動できるBluetoothレシーバーだ。
このBluetoothレシーバーは、さまざまなブランドから発売されているが、音質にこだわったスペックながら、実売2.2万円前後と手の届きやすい価格のモデルが登場した。それがiFi audioの「GO blu Air」だ。実際にどんなサウンドなのか、使ってみた。
コンパクトボディにホームオーディオの設計思想
Go blu Air最大の特徴はそのコンパクトさ。着脱可能な付属クリップを装着している状態でも外形寸法約53.5×33.7×22mm(縦×横×厚み)で、手のひらにスッポリと収まる小ささ。重さも約31gと指先で摘めるほどの軽さ。日々持ち歩くアイテムだけに“気軽に持ち歩ける小ささ・軽さ”なのは、かなり嬉しいポイントだ。
そんな超小型なボディながら、音質・パフォーマンス面も追求されている。一般的なBluetooth製品は、Bluetoothの受信、デジタル-アナログ変換、増幅といった作業を同じチップセットで処理しているが、このGO blu Airでは、これらの処理を独立・分離して行なう設計を採用している。iFi audioはデスクトップ/ホームオーディオも手掛けており、そこでの設計思想が盛り込まれた形だ。
具体的には、Qualcomm製「QCC5144」チップをBluetooth受信専用に採用。GO blu搭載チップと比べても優れた性能を持つチップで、さらに、このチップがもっとも得意とする作業に特化させることで、高解像度な音声信号を取り出している。その信号を、シーラス・ロジック製の「CS43131」に伝送(このDACチップはGO bluと同じチップ)。最終段のツインモノラルアンプにより、歪みのないサウンドを生み出している。
このうちBluetooth用チップは既発売のBluetoothレシーバー「Go blu」よりも世代の新しいチップとなっており、パフォーマンスが向上している。
定格出力は、4.4mmバランス接続時で≧256mW/5.6V(32Ω)、3.5mmシングルエンド接続時で≧165mW/2.3V(32Ω)と、オーバーイヤー型ヘッドフォンから高感度のイヤフォンまで幅広く駆動できる。
Bluetoothで気になる対応コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HDのほか、LDAC、aptX Adaptive、LHDC/HWAといったハイレゾコーデックもサポート。スマホやタブレットなど、あらゆるデバイスで最適な音質でペアリングできる。
内蔵バッテリーは450mAhで、連続再生時間は約10時間。これだけ充実したスペックにもかかわらず、実売価格は約2.2万円に抑えられている。
前述の通り、デジタル-アナログ変換、増幅といった部分を、チップセットに任せず、分離・独立して処理するという思想は、オーディオメーカー的なものだ。それもそのはず、GO blu Airを手掛けているiFi audioは、イギリス・サウスポートに本拠地を構えている英国ブランドであり、同じくイギリスのハイエンド・オーディオブランド「AMR(Abbingdon Music Research)」の姉妹ブランドであるからだ。
主に一般ユーザー向けのオーディオ製品を手掛けており、GO blu Air以外にも、日本では据え置き型USB DAC/ヘッドフォンアンプの「ZEN DAC」、据え置き型ヘッドフォンアンプ「ZEN CAN」などを展開。2023年にはプロ向けブランド「iFi Stuido」、2024年には業務用オーディオソリューションを提供する「Silent Power」などを展開している。
音質面にこだわるのはもちろん、iFi audioは「オーディオメーカーである以前にテクノロジー企業」だとしており、最新技術も積極的に採用。Bluetooth関連では2019年にLDACをサポートしたほか、2023年にaptX Losslessにもいち早く対応している。
コンパクトながら操作性良し
GO blu Airはコンパクトながら、正面にレザーが貼られていて高級感は抜群。背面に着脱できるクリップを備えており、通勤中にジャケットのポケットにしまう時はクリップなし、休日には上着にクリップで挟んで持ち歩く、といった使い分けもできる。
クリップはマグネットで本体にしっかり固定できる上、本体とクリップの凹凸形状が噛み合うため、着脱式ながらかなり強固にロックされる。試しに横方向に引っ張ったりしてもビクともしなかったので、不意にクリップと本体が分離してしまうことはないだろう。
側面や背面などは内部の基板が透けて見えるトランスルーセントデザインなのもポイントだ。
ボリュームノブは小型だが、表面がラバー素材で覆われているため指がかりが良く、操作しやすい。ノブを回すとコリコリとした触感もあるので、確実に操作できる。
そのほかボタン類は右側面にあるボリュームノブの下に設定ボタン、左側面に電源ボタンを搭載。本体上部には3.5mmのアンバランス出力と、4.4mmバランス出力のほか、動作状況などを知らせるLEDインジケータを備えている。
底面にはUSB-Cポートや、バッテリー残量などを表示するLEDインジケータに加え、マイクも搭載。Qualcommのノイズ・エコー抑制技術も搭載しているため、クリアな音声でハンズフリー通話が楽しめるほか、スマホの音声アシスタントの操作などもできる。
高解像なサウンドを堪能
今回は筆者のメインスマホであるiPhone 16 Proもペアリング。イヤフォンは、14,300円と手の出しやすい価格ながら高音質で人気のqdc「SUPERIOR」や、筆者愛用のヘッドフォンであるMeze Audio「99 Classics」をチョイスした。音源はいずれもApple Music。
まずはSUPERIORから。付属ケーブルは3.5mmプラグだが、バランス接続ケーブル「SUPERIOR Cable 4.4」が別売りで用意されているので、4.4mmバランス出力を備えるGO blu Airとの相性も良い。今回はバランスケーブルで接続している。
「米津玄師/IRIS OUT」は、イントロからベースが唸るような低音で襲いかかってくる。ボーカルも解像感が高いので、強力な低音に負けず鮮明。サビの後ろで流れる笑い声や、間奏のピアノも粒立ちの良い音で、楽曲の世界観に引き込まれる。
同じく男性ボーカルとして「サカナクション/怪獣」も聴いてみると、こちらも山口一郎のボーカルがくっきりと浮かび上がってくる。ドラム・ベースの迫力も十分で思わず身体を動かしたくなるほど。
ボーカルとピアノだけのシンプルな構成の「宇多田ヒカル/First Love - From THE FIRST TAKE」も解像感が高く、宇多田の伸びのあるボーカルはもちろん、ピアノの残響音も感じ取れるほどの鮮明さを味わえる。
続いて、ヘッドフォンの99 Classicsを接続。こちらも付属ケーブルは3.5mmプラグだが別売りの純正4.4mmバランスケーブルで接続した。iPhoneのボリューム半分程度で十分な音圧になる。
「米津玄師/IRIS OUT」では、SUPERIORでも十分パワフルだった低音の凄みがさらに増し、頭を直接揺さぶられるような力強さを感じられる。しっかりタイトな低音なので、ボーカルが濁ってしまうこともない。
そして印象的だったのが「First Love - From THE FIRST TAKE」。イヤフォンと組み合わせていたときも、宇多田のブレスを感じることはできたが、そこに艷やかさがプラスされて、女性ボーカルならではの魅力がハッキリと感じられる。
アナログフィルターでサウンド調整
GO blu Airには、気分や聴いている音楽、組み合わせているイヤフォン/ヘッドフォンに合わせてサウンドを調整できるアナログフィルター機能として「XBass」と「XSpace」が搭載されているので、こちらも試してみた。
XBassは低音を強化するもので「サブベースが不足しがちなオープンバック型ヘッドフォンに最適。お気に入りの楽曲に温かみと迫力をプラスする」というもので、XSpaceは「サウンドステージを拡張し、まるでライブ会場にいるような臨場感あふれる体験を実現する」という。
XBassのようなベースブースト機能は他社の製品でも採用されているが、iFi audio製品の特長は、その処理をアナログ回路だけで行なっていること。デジタル処理の場合は遅延が発生したり、音質に影響したりといったデメリットが発生する可能性もあるが、アナログ回路で処理することでより自然な低音強化を実現している。
設定ボタンを短押しすることで「オフ→XBass→XSpace→XBass+XSpace」を切り替えられる。現在のフィルターモードはヘッドフォン端子横のLEDインジケータの色で判別できる。
iPhoneと接続し、SUPERIORで「米津玄師/IRIS OUT」を聴きながらフィルターを適用してみると、XBassでは低音の量感がわずかに膨らみ、XSpaceでは米津のボーカルの響きが改善するような印象。デジタルのイコライザーのように劇的に音が変化するものではないが、「あともうちょっと物足りないんだよな」というときには活用できる。
そのほかGO blu Airのサウンドチューニング機能としては、デジタルフィルターに「標準」と「最小位相」というふたつのオプションも用意されている。どちらも音のリンギング(デジタル信号をアナログ信号に変換する際に、その前後に計算上避けられない信号成分が加わってしまうこと)を調整できるもので、標準では適度なプリ/ポストリンギング、最小位相では最小限のプリ/ポストリンギングで、より音の立ち上がりの良いサウンドを楽しめる。
「ZEN Blue 3」と組み合わせて“本気”を味わう
先にも紹介したように、GO blu AirはLDACやaptX Adaptiveといったハイレゾコーデックにも対応しているのがポイント。ただiPhoneをはじめとするアップル端末はそういったハイレゾコーデックには対応していないので、その性能をフルに堪能できるわけでない。
せっかくならGO blu Airの“本気”を感じたいと思い、今回は同じiFi audio製品の据え置き型Bluetoothトランスミッター/レシーバー「ZEN Blue 3」(実売53,900円前後)も借りてみた。
ZEN Blue 3は、PCやテレビ、アナログプレーヤーなど組み合わせることで、Bluetooth非対応のオーディオソースをワイヤレスで楽しめるようになるトランスミッター/レシーバー。Bluetooth 5.4に準拠し、aptX Lossless、aptX Adaptive、aptX、LDAC、LHDC/HWA、AAC、SBCといった主要なコーデックを網羅している。
今回は、ZEN Blue 3をMacBook AirとUSB-Cで接続。GO blu AirとZEN Blue 3はaptX Adaptiveで接続して、音楽を聴いてみた。音源は変わらずApple Musicで、イヤフォンはSUPERIOR。
ちなみにGO blu airは、電源ボタンをダブルタップすると、受信しているBluetoothコーデックを音声で案内してくれるので、高音質コーデックを利用できているかも簡単に確認可能。もちろんZEN Blue 3のディスプレイでも接続コーデックの確認が可能だ。今回はaptX Adaptiveで接続した。
「IRIS OUT」をSUPERIORで聴くと、iPhoneと組み合わせていたときよりも、音の広がりが強くなり、ステージが一段広くなった印象。そこに低く唸るようなベースの迫力と、米津のボーカルが響き渡り、より音楽のパワフルさを感じられる。
ハイゾロスレス(96kHz/24bit ALAC)の「First Love - From THE FIRST TAKE」では、ピアノと宇多田のボーカルの分離が良くなり、お互いのサウンドがより鮮明になる。こちらも音場が広くなった印象で、宇多田の声がスッと空間に伸びていく感覚を味わえる。
あまりの迫力に、99 Classicsに切り替えて、もう一度「First Love - From THE FIRST TAKE」を聴くと、もはや圧巻の一言。SUPERIORで感じていた分離の良さ、音が広がる空間の広さ、そして宇多田のボーカルの艷やかさはそのままに、口の動きが見えそうなほどの描写力で楽曲が再生される。
この女性ボーカルの表現力の巧みさが99 Classicsを気に入っているポイントなので、「こんな小さなデバイスとの組み合わせで、この音を聴けるなんて」と、思わずニヤニヤしてしまった。
“定番”Bluetoothレシーバー「BTR17」との違いは?
AV Watch読者のかたなら御存知かもしれないが、GO blu AirのようなBluetoothレシーバー市場には、実売4万円以下ながら、10万円前後の本格音楽プレーヤーにも匹敵するサウンドで人気を集めているモデルが存在する。それがFIIOの「BTR17」。Amazonでの価格は34,128円と、GO blu Airより1.2万円ほど高いが、Bluetoothレシーバーの定番モデルだけに購入時の検討候補になるはず。せっかくなので、この2機種も使い比べてみた。
違いを紹介する前に、BTR17の基本スペックを簡単に紹介しておこう。BTR17は高音質な製品を高いコストパフォーマンスで展開している中国・広州拠点のブランド「FIIO」が手掛けるBluetoothレシーバー。
最大の特徴は、据え置き機器の高性能・ハイパワーなDACやアンプを搭載していること。音を司るDACチップにはESS製「ES9069Q」を2基、アンプにはTHXの特許技術を使った「THX AAA 78+」を左右独立で4基搭載し、“ガチの音楽プレーヤー”にも匹敵するサウンドを楽しめる。
BluetoothコーデックはSBC、AAC、aptX、aptX Adaptive、aptX Lossless、aptX HD、LDACと、主要な高音質コーデックをサポート。3.5mmシングルエンド出力と4.4mmバランス出力を備える上、Bluetooth経由だけでなく、PCやスマホとUSB接続してUSB DACとして使うこともできる。
筐体は金属製、背面にはレザーが貼られて高級感のある仕上がり。接続コーデックなどを確認できるディスプレイ、操作性の良いボリュームノブも採用している。
これだけのハイスペックながら、外形寸法は約16.3×41.2×86.6mm、重さは約73.4gと手のひらに収まるコンパクトサイズなのもポイント。BTR17は本体にクリップなどはないものの、付属の専用レザーケースにベルトループが備えられている。
それではサウンドを聴き比べてみる。今回はどちらもiPhone 16 ProにAACで接続、引き続きApple Musicを聴き比べてみた。組み合わせたイヤフォンはSUPERIORだ。
「スピッツ/楓」では、GO blu Airよりもボーカルとバンドサウンドの解像感が高く、草野マサムネのボーカルも伸びやかだが、歌声はソリッドな印象で、どちらかといえばモニターライクな鳴り方に感じられる。
「First Love - From THE FIRST TAKE」でも、BTR17のほうが繊細な描写力で、宇多田の息づかいなどもより鮮明になるものの、女性ボーカルらしい歌声の温かみはGO blu Airのほうがしっかりと感じられる。
こうした音の違いは、普段よく聴くジャンルの違いによっても好みが分かれるポイントだが、個人的には女性ボーカル楽曲を中心に聴いているので、GO blu Airのほうがより好みに近いサウンド。ボーカルにしっかりと温かみが感じられ、胸にグッとくる。こうした、“音楽の美味しいところ”をしっかり届けてくれるのが、実にオーディオメーカーらしい、iFi audioの音作りの魅力と感じた。
軽量コンパクトで使い勝手良し。“資産活用”にも最適
GO blu Airを使って改めて感じたのは、有線イヤフォン/ヘッドフォンの楽しさ。今回試聴に使ったSUPERIORと99 Classics以外にも、カスタムIEM(インイヤーモニター)の「UE RR」やShure「SE215」など、引き出しの奥にしまい込んでいたイヤフォンたちを引っ張り出して、「やっぱり良い音するなぁ」とニヤニヤしてしまった。
そんな有線ならではの音質の良さと、ワイヤレスならではの利便性を楽しめるBluetoothレシーバーは、日々持ち歩くものだからこそ、ストレスなく使いたいもの、GO blu Airは、操作性の良いホイールやレザー貼りのデザイン、なにより手のひらにスッポリと収まる小ささと軽さで、使っていてストレスを感じることがなかった。
音質や機能面でも、価格以上のパフォーマンスを備えているので、自宅に眠っている“有線イヤフォン資産”を活用したい人も、これから有線イヤフォンを使ってみたいという人にも、おすすめできる1台だ。

























