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“ピュアオーディオみたいなサウンドバー”デノン「DHT-S218」を家で使ったら、選ばれている理由がわかった

デノン「DHT-S218」

一昔前、サウンドバーと言えば「ホームシアターの入門機」「リビングで家族で映画を観る時に使うもの」というイメージだった。だが、サウンドバーがBluetoothに対応し、テレビとの接続がより手軽になるHDMI ARCの搭載によって、その役割は変化した。

映画を楽しむ時だけでなく、テレビ番組からネット動画まで、テレビの音を劇的に向上させる外部スピーカーになり、テレビの電源を入れていない時は“いい音で音楽を再生するオーディオスピーカー”としても使われるようになった。

この流れを生み出したのは、デノンが2019年末に発売したサウンドバー「DHT-S216」だと、個人的には考えている。

当時レビュー記事も掲載したが、他社のサウンドバーがバーチャルサラウンドの効果や、重低音の凄さを競っているところに、「デノンはサウンドバーのシェアも少ないし、他社と同じ事をしても仕方がないから」と考え、サウンドマネージャー(現サウンドマスター)の山内慎一氏が、サウンドバーを“ピュアオーディオ用スピーカーのつもり”でチューニング。その象徴として、バーチャル処理を全部すっ飛ばした“PUREモード”も搭載したDHT-S216を生み出した。

DHT-S216

そんな「オーディオマニアが見ると面白いけど、サウンドバーしては地味」な製品が、発売してみると、「こんなピュアな音のサウンドバーを待っていたんだ!」と、まさかの大ヒット。

失礼ながら「デノンってサウンドバー作ってましたっけ?」状態だったシェアも、翌年いきなり10%近くに激増。その後も後継機を出すたびシェアも右肩上がりになり、“手に取りやすい価格で音の良いサウンドバーと言えばデノン”というイメージを定着させた立役者となった。

その初代DHT-S216から、2022年の「DHT-S217」、現行モデル「DHT-S218」(オープンプライス/実売36,300円前後)と進化しているのだが、良い意味で「デノンはオーディオメーカーだなぁ」と思うのが、その進化が“よりピュアに”という方向を貫いている事だ。

もちろん、内部のSoCをハイスペックにしてDolby Atmosに対応したり、高さ方向の音も加味しながら臨場感を高める「Dolby Atmos Height Virtualizer」を搭載したり、Bluetoothの対応コーデックが増えたりと、スペック面も進化しているのだが、「ヒットしたらかもっと派手な音にしよう」とか、「便利機能を満載しよう」といった脇道に逸れず、“サウンドバーをオーディオ用スピーカーとして作る”というコンセプトがブレていない。

また、価格も、10万円以上するモデルが珍しくなくなったサウンドバー市場で、3万円台とエントリー価格帯を維持しているのも嬉しい。

そんなDHT-S218を、家で使ってみたのだが、映画はもちろん、オーディオスピーカーとしてもやはりタダモノではない音で、「サウンドバーに興味ない人も買ったほうがいいのでは」という気持ちになった。

DHT-S218

コンパクトだが、オーディオメーカーのこだわりが詰まったボディ

最近のサウンドバーは、機能が増えて横幅も長くなりがちだが、DHT-S218の外形寸法は890×120×67mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトさを維持しているので、小さめのラックとも組み合わせやすい。重量も3.6kgとさほど重くないので、男性であれば片手でガシッと掴んで別の部屋にも移動できる。

DHT-S218

この筐体の中に、25mmツイーター×2、90mm×45mmと楕円形のミッドレンジ×2、さらに75mmサブウーファー×2まで搭載している。サブウーファーが別体ではなく、サウンドバーに内蔵されているので、部屋の中で邪魔にならず、インテリアとのマッチングも良い。

DHT-S218の内部

ただ、“筐体がコンパクト”“サブウーファーが別体ではない”というのは、オーディオスピーカーとして考えるとデメリットもある。大口径ユニットは搭載できないし、バスレフで低音を稼ごうとしても音道を作る空間も限られている。

オーディオメーカーとして培ってきたノウハウと工夫を駆使し、ユニットの形状や配置を最適化。抜けの良い音にするため、バスレフポートの開口部を両サイドに大きく設けるが、開けすぎると筐体の剛性が低くなるため、最適なバランスを追求。内部で音が反射する定在波を起きにくくするため、なるべく平らな面を作らないようにするなど、非常に細かな部分まで気を配って作られている。

両側面にあるバスレフポート

いかにDHT-S218が、ピュアな音のサウンドバーと言えど、形状的に“横長の薄い箱”であるサウンドバーである以上、DSPによる補正は必要になる。

しかし、その補正を最低限で済ますために、まず“素のスピーカー”としていい音になるよう、アコースティックな部分をキッチリ作る。シンプルな塩ラーメンを作る時こそ、ベースとなる出汁や麺にこだわらないと美味しくならないのと同じだ。

背面の入力端子部には、HDMI入力と出力を各1系統備えており、テレビ接続用の1系統はeARC/ARCにも対応する。エントリーモデルながら、HDMI ARCの他に、HDMI入力も備えているのがマニア的には嬉しいポイント。

背面端子部

他にも、光デジタル入力やアナログAUX(3.5mmステレオミニ)入力も備え、CDプレーヤーや古いゲーム機、DAPなどとも接続しやすい。さらに、サブウーファー出力も備えているので、低音再生を強化する事も可能だ。

対応するサラウンド音声は、Dolby Atmos、Dolby TrueHD、Dolby Digital Plus、Dolby Digital、MPEG-2 AAC、MPEG-4 AAC、リニアPCM(最大7.1ch)。前述の通り、天井に向けたイネーブルドスピーカーは搭載していないが、高さ方向の音も加味しながら臨場感を高めるDolby Atmos Height Virtualizerは備えている。

サウンドモードとして、Movie/Music/Nightモードを備えているほか、これらのサウンドモードやバーチャルサラウンド処理を全部すっ飛ばしてピュアな再生を行なうPureモードも用意している。

サウンドモードやバーチャルサラウンド処理を全部すっ飛ばしてピュアな再生を行なう「Pureモード」

オーディオスピーカーとして使ってみる

普通のレビュー記事であれば、サウンドバーなので、普通はテレビと接続して映画を観ると思うが、DHT-S218はオーディオスピーカーのようなサウンドバーなので、まずはBluetoothスピーカーとして試聴してみよう。

設置したラックの影響を排除するため、ブックシェルフスピーカー用のスタンドを並べて、DHT-S218を橋渡しするように設置。スマホとBluetooth接続し、Qobuzのハイレゾ配信楽曲などを聴いてみた。

ブックシェルフスピーカー用のスタンドを並べて、DHT-S218を橋渡し

最初は「サウンドバーをスピーカースタンドに置くなんて、妙なビジュアルだなぁ」と笑っていたのだが、DHT-S218から音が出た瞬間、思わず真顔になって椅子に座り直す。それくらい本格的な音が出てきて驚いたからだ。

低音がどうの、高音がどうのという以前にビックリするのが、音の広がりだ。

2chの音楽なので、サラウンドコンテンツではないのだが、「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、DHT-S218の頭上にボーカルがスッと出現し、アコースティックベースやギターの音がブワッと左右に広がる。そして、それらの音がスーッと奥の空間に消えていく様子も見える。

「眼の前の、橋渡しした薄い横長のスピーカーから音が出ている」と脳では理解しているのだが、耳で聴くと、何も無い空中から音が出ているようにしか聴こえない。それくらいサウンドバーからの音離れが良い。

これはおそらく、筐体の剛性を上げ、定在波を抑え、バスレフポートの大きさも最適化し、抜けの良いサウンドを追求した効果だろう。もし、筐体が盛大に振動して中低音がボワっと膨らんだり、小さなポートが低音がボーボーと鳴いたら、「サウンドバーから音が出ている感」が強くなってしまうはずだ。

音の広がりに対する驚きに慣れてくると、次にわかるのが、音の解像度の高さ、クリアさだ。

一般的に、エントリー向けのサウンドバーで、サブウーファーも筐体に内蔵したモデルだと、低音が出しにくいにも関わらず、なんとか迫力のある音にしようと、中低音を持ち上げたり、膨らませたりしがちだ。その結果、“迫力があるっぽい音”にはなるのだが、不明瞭でボワボワしたサウンドになってしまい、しばらく聴いていると飽きてしまう。

だが、DHT-S218のサウンドは真逆だ。出しにくい迫力は無理に追求せず、底面に備えた2基のサブウーファーでタイトで締まりのある、クリアな低音を出力。それと同じく、中高域も高解像度で、余計な付帯音が一切ない。

底面に備えた2基のサブウーファー

そのため、ダイアナ・クラールの口の開閉、歌い始める直前に「スッ」と息を吸い込むかすかな音まで聴き取れる。1つ1つの音の輪郭が、明瞭に、ダイレクトに耳に入るので聴き取りやすく、長時間聴いていてもまったく飽きない。

音場が広く、解像度が高く、情報量の多いサウンドなので、ジャズやクラシックもしっかり再生できてしまう。

モントリオール交響楽団による「死の舞踏~魔物たちの真夜中のパーティ」から「サン=サーンス:死の舞踏 作品40」を再生すると、ホールの響きが広大に広がるスケール感と同時に、ストリングスの弦の震える細かな描写まで聴き取れる。音が無くなった瞬間に、観客の誰かが咳払いしたかすかな音まで聴こえて驚かされる。

神尾真由子「バッハ:パルティータ 第1番」、ヴァイオリンの透明感も素晴らしい。「手嶌葵/明日への手紙」の音も白眉であり、声のナチュラルさ、ピアノとボーカルの響きが広がる空間の奥行きも圧巻だ。

目を閉じて聴くと、サウンドバーが目の前にあるとは思えない。オーディオ用の、良く出来たブックシェルフスピーカーをペアで並べて聴いているような気分になる。まさに“Hi-Fiなサウンドバー”だ。

誤解してほしくないのは、低音もしっかり出ているという事。「藤井風/Prema」を再生しても、決してハイ上がりな、スカスカした音ではなく、ドラムやベースの肉厚な中低域は再生できており、聴いていて不足は感じない。

もちろん、サブウーファーが別筐体のサウンドバーが再生する、地面を揺するような低音は、DHT-S218では出せない。そこを無理になんとかしようとせず、自身の持ち味である、抜けの良さ、バランスの良さ、高解像度といった特徴を大事にしている事がわかる。

その証拠と言えるのが、リモコン「BASS」ボタン。押していくと、中低域の張り出しが強くなり、それなりに迫力のあるサウンドになっていくのだが、BASSを最大に設定しても、中高域のクリアさ、情報量の多さを阻害しないバランスのところで止まるようになっている。

リモコン

映画やテレビ番組の音も本格的に

音楽用スピーカーとして音が良いので、サウンドバーである事を忘れかけていたが、映画やテレビ番組なども見てみよう。

先程のスピーカースタンド設置のまま、背後の白い壁にプロジェクターで映像を投写したり、テレビのある部屋に移動してテレビスタンドにDHT-S218を設置して使ってみた。

Netflixで映画「グレイテスト・ショーマン」を再生。冒頭から素晴らしい歌とダンスが展開するが、「ズンズン」という足踏みの低音が、トランジェント良く、鋭く沈み込み、これから映画を観るんだというワクワクする気持ちを盛り上げてくれる。

ジェニー・リンドが「Never Enough」を歌う名シーンも素晴らしい。サウンドバーからボーカルの音像がスッと立ち上がり、歌声が部屋の左右だけでなく、奥深くまで広がる事で、劇場の広さが再現される。

ここまでは、サウンドモードの「Movie」を使っていたのだが、「Pureモード」に切り替えると、歌声の生々しさ、解像度の高さがさらに高まる。中低域の力強さや広がりはPureモードの方が少なくなるのだが、情報量の多さという面ではPureモードの方が魅力的だ。

なお、Pureモードに設定すると、Dolby Atmos再生には対応しなくなるが、それでも、Pureモードを選ぶ価値を感じるサウンドだ。それは、DHT-S218がHi-Fiスピーカーとして、作り込まれているからこそだろう。

一方、「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」から、ローマででのカーチェイスシーンなどを鑑賞すると、唸るエンジン音や、車と車がぶつかった時の衝撃音のパワフルさなどは、Movieモードの方が強烈で、より“映画っぽい”音になり、満足度もアップする。

いろいろなコンテンツを見てみたが、サスペンスなど静かで緊張感のある映画、ミュージカル、音楽ライブ、テレビのトーク番組などはPureモード、アクション映画やNHKなどのネイチャー系ドキュメンタリーなどはMovieモードがマッチする印象だった。

音が良いサウンドバーは、使う頻度が増える

DHT-S218と生活してみて感じるのは、「音が良いサウンドバーは、使う頻度が増える」という事。

筆者は小型のBluetoothスピーカーも所有しており、以前は、スマホのradikoアプリでラジオを聴いたり、YouTubeの面白そうな動画を観る時などにBluetoothスピーカーと接続して使っていた。

しかし、普通のBluetoothスピーカーとは比較にならないほど音の良いDHT-S218が家にあると、スマホとDHT-S218ばかりを接続してしまい、小型Bluetoothスピーカーをほとんど使わなくなってしまった。

また、あまりのも音が本格的なので、今まではながら聴きするだけだったradikoのラジオも、好きな曲が流れると、DHT-S218のボリュームを上げて聴き入ったり、一緒に歌ったりする機会が増加。小型Bluetoothスピーカー時代と比べ、DHT-S218というBluetoothスピーカーを使う時間も確実に増加した。

当たり前の話なのかもしれないが、「音が良くて、聴いていて気持ちが良いと、そのスピーカーを使う頻度も増えるんだな」というのを、改めて実感した次第。

もちろん、テレビや配信映画、アニメなどを観る時も、DHT-S218は大いに活躍してくれる。というか、それがメインの役割なのだが、使う時間の長さで考えると、テレビの電源がOFFで、DHT-S218だけで音楽を流している時間の方が長い事にも気がついた。

サウンドバーという製品は、「ホームシアターに興味がある」とか「映画が好き」という人が買い求めるものだが、DHT-S218はその枠に収まらず、「音楽配信を良い音で聴きたい」、「家でもイヤフォン/ヘッドフォンは疲れるので、本格的なスピーカーが欲しい」と思っている多くの人に注目して欲しい。ホームシアターだけでなく、Hi-Fiオーディオ世界の扉も開けてくれるサウンドバーだ。

山崎健太郎