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“ピュアオーディオみたいなサウンドバー”ついに完成。デノン「DHT-S218」を聴く
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- デノン
2024年5月17日 08:00
時計の針を2017年頃まで戻そう。デノンはサウンドバーを発売はしていたが、あまり売れず、市場シェアは1%未満。ぶっちゃけ「デノンってサウンドバー出してましたっけ?」状態だった。
当時のサウンドバー入門機市場は、各社が「バーチャルなんとかサラウンド」の凄さや、低音の迫力などで競っていた。2015年にデノンの“音の門番”であるサウンドマネージャー(現サウンドマスター)に就任した山内慎一氏は、「他社と同じような事をしてもダメだ」と考え、エントリー製品にも関わらず、「ピュアオーディオ用スピーカーのつもりで作った素の音の良さ」や「バーチャルなんとか処理を全部すっ飛ばしたPUREモードを搭載」した「DHT-S216」を開発した。2019年末の話だ。
「オーディオマニア的には面白いんだけど、地味だし、売れるのこれ?」という心配をよそに、蓋を開けてみれば「こんな音のサウンドバーを待っていた」とバカ売れ。2020年のシェアがいきなり10%近くに激増。その後もシェアが右肩上がりになり、サウンドバー市場でのデノンの存在感は大きくなった。
そして2022年、後継機の「DHT-S217」が登場。DHT-S216から、主にエレクトロニクス部分が進化し、上位モデルに採用していたハイスペックなSoCを搭載。S216はロッシーなドルビーデジタルまでの対応だったが、S217はロスレスなDolby Atmosまで対応した。
天井反射を使うDolby Atmosイネーブルドスピーカーは搭載していないものの、Dolby Atmosに含まれる天井からの音、つまりハイトの情報もデコードし、その信号も加味しながら、擬似的ではあるが臨場感を高める「Dolby Atmos Height Virtualizer」機能を搭載した。このDHT-S217も人気モデルになったのは、AV Watch読者であればご存知だろう。
そして新機種「DHT-S218」(オープンプライス/実売36,300円前後)が登場する。デノン曰く「3世代を経て、ついにDHT-S200シリーズが完成した」とのこと。これは聴かないわけにはいかない。
さっそく試聴に向かったのだが、2つの大きな驚きが待ち構えていた。
1つは「中身が(ほぼ)何もかわらない事」。もう1つは「それなのに、音がメチャクチャ進化している事」だ。
中身は変わっていないのに、音は激変
新製品の記事なのだから「なんとか機能が追加された」とか「ユニットが新しくなった」とか書くものだが、DHT-S218はほぼ書く事がない。DHT-S217と筐体はほぼ同じで、内蔵しているユニットやアンプ、SoCなどもまったく変わっていない。
変わっているところと言えば、前面のグリルネットの色がちょっと濃くなり、材質としては薄くなった事。音の透過率が上昇して、音質向上にちょっと寄与しているそうだが、はっきり言って地味だ。筐体両端のバスレフポートも、色が青っぽくなったそうだが、色の違いだけで、ポートの形状にも変化はない。
細かい機能面では、Bluetooth受信において、新たにLE Audio(LC3)コーデックに対応。HDMIまわりもVRR(可変リフレッシュレート)とALLM(Auto Low Latency Mode)に対応したという違いはあるが、こちらもあまり派手ではない。
「DHT-S218はDHT-S217とあんまり変わりませんでした」で終わりなら、記事を書くのは簡単だ。
しかし、DHT-S217とDHT-S218を聴き比べると、あまりにも音が違う。ぶっちゃけS216からS217に進化した時よりも、S217からS218になった方が大幅に音が良くなっている。
「なんで中身が変わっていないのに、こんなに音が良くなっているの?」と山内氏を問い詰めたところ、その秘密がわかってきた。
チューニングに時間をかけられる利点
山内氏によれば、DHT-S200シリーズの初代であるS216の開発時は、とにかく「素のスピーカーとして、音の良いサウンドバーを作ろう」というコンセプトだったという。
とはいえ、オーディオ用のブックシェルフやフロア型スピーカーと比べると、サウンドバーの開発は困難だらけ。そもそも筐体が左右が分かれていない一体型だし、筐体自体も薄いし横長。その狭い空間に、ユニットだけでなく、アンプや電源、DSPなども入れなければならない。
そうした制約はあるものの、できるだけ信号処理に頼らずに、素のスピーカーとして音の良いものを作ろうと、アコースティック面で頑張って完成したのがS216というわけだ。
ただし、どんなにスピーカーとして素で良い音のサウンドバーを作ろうと工夫しても、形状や構造的に限界がある。つまり、“信号処理による補正”をまったく使わずにいい音を出すのは無理があるわけだ。
そこで最低限の補正を行なう。具体的には、HDMIや光デジタルから入力された信号は、サウンドバー内のDSPに入り、そこでデコードされ、特殊なサウンドバー形状でも自然な音になるようイコライジングされる。
「あれ? PUREモードでは音をいじならいのでは?」と思われるかもしれないが、PUREモードは最低限のイコライジングをした後の話。一般的なサウンドバーではイコライジング後に「サウンドモード」をかけたり、「バーチャルサラウンド」処理をかけたりするわけだが、PUREモードを選ぶと、それらの処理をバイパスするわけだ。
DHT-S218の進化点はこの「デコード後の最低限のイコライジング」にあり、搭載しているスピーカーの構成を含めたバランスのとり方、クロスオーバー設定なども含めて追い込んでいったそうだ。
山内氏によれば、こうしたチューニングに“かけられる時間が長くとれた”のも、DHT-S218の特徴だという。通常の製品では、新しいパーツや機能を追加するので、その部分の調整に時間がかかり、全体でのサウンドチューングにかけられる時間も限られてくる。しかし、DHT-S218は追加したパーツが少ないため、チューニングによる音質追求により時間をかけられたというわけだ。
さらに山内氏は、「自分自身の変化もある」と語る。
初代DHT-S216を開発して以降、山内氏はピュアオーディオ機器だけでなく、AVアンプなども多くの製品を手掛けてきた。それらの開発を通して「自分のAV機器に対する能力もアップしてきた感覚があります。より精度を求める方向になってきました。時間を経たことで、新たに見えてきた部分を、DHT-S218のチューニングに反映させています」。
比較試聴した
では、前モデルのDHT-S217とDHT-S218を聴き比べてみよう。
素の音を知るために、HDMI ARC経由でCD「テイラー・スウィフト/We Are Never Ever Getting Back Together」の2ch音声を聴く。どちらのモデルもPUREモードを選択した。
まずはDHT-S217。
以前のレビュー記事でも書いた通り、低価格なサウンドバーと思えないほど素直な音。中低域は少なめだが、そこを恐れず、中高域のシャープさ、分解能の高さというアドバンテージを活かしている。
ただ、ボーカルに少しこもりが感じられるほか、音像自体はシャープだが、それらが中央付近にまとまる印象もある。良い意味でマニア向けというか、玄人好みする音だ。
ではDHT-S218に取り替えてみよう。
これが凄い。音が出た瞬間にまったく違うのがわかる。さきほど感じられた声のこもり、付帯音が綺麗に消えており、明瞭さが大幅にアップ。口の動きまでわかりそうなほどだ。
さらに、中央にまとまりがちだった音像が、ふわっと横方向に広がり、ステージが広く感じられる。バーチャルサラウンド的な処理をまったくかけていない、PUREモードにも関わらず、だ。
クリアで広大になっただけではない。低域もより深く沈み、トランジェントも良くなったことで、個々の音のコントラストが増した。迫力の面でも、DHT-S218の方が満足度の高い音になっている。
そのまま「サウンドモード」から「ミュージックモード」をONにすると、これも良い。
先程PUREモードで聴いた“鮮度の良いクリアさ”を維持したまま、横方向や奥行き方向に音場が一気に広がる。まるでサウンドバーを中央で2つに切断して、テレビの左右に並べて設置したかのようだ。
ミュージックモードはDHT-S217にも搭載していたが、明らかに、DHT-S218のミュージックモードの方が進化している。DHT-S217の時は、ONにすると明瞭度が少し低下するので「サラウンド処理をかけました感」がすぐに感じられたのだが、DHT-S218では明瞭さが維持されているので、情報量が低下したように聴こえない。PUREモードも良いが、ミュージックモードもかなり使う頻度が多くなるだろう。
映画でも比較してみよう。UHD BDの「グレイテスト・ショーマン」冒頭の「The Greatest Show」を聴き比べた。
これもまるで音が違う。DHT-S217では、「ダンダン!」という足踏みの低音が、中央にまとまり、団子状態になっていたが、DHT-S218で聴くと、足音と足音が綺麗に描き分けられており、足音がすべて完璧に一致しているのではなく、少しズレがある音が重なっている事がわかるようになる。
また、ヒュー・ジャックマンのささやくような歌声も入ってくるが、足踏み音の響きと歌声が混じってしまうDHT-S217に対して、DHT-S218は足音と歌声がしっかり描きわけられており、歌詞が明瞭に聴き取れる。中低域の余分な膨らみや、こもりが解消されたためだろう。
中低域の膨らみがよりタイトになると、迫力が減るのでは? と思われるかもしれないが、問題ない。DHT-S218は、低域の深さ、キレの良さがアップしているので、ボワッとした膨らみは減るが、「ズバッ」という鋭さが得られるため、かえって中低域の迫力はアップしたと感じる。
映画用のサウンドモードとしては「ムービーモード」も用意されているので、これも聴いてみた。
ONにすると、中低域の張り出しが強くなり、膨らみも若干増える。良い意味でDHT-S217のサウンドに近くなった印象だ。解像度よりも、中低域のリッチさ、パワフルさが欲しいという場合はムービーモードを使うと良いだろう。
“ピュアオーディオライクなサウンドバー”の到達点
カタログスペックだけを見比べると、DHT-S217とDHT-S218は違いがわかりにくい。だが、音を聴くと「なんでこんなに違うの!?」と絶句するほど進化している。そういった意味でも、店舗やイベントなどで一度DHT-S218を聴いてみて欲しい。音の違いは歴然だ。デノンでは「3世代にわたる音質チューニングで“良い音のサウンドバー”から“音楽を奏でるサウンドバー”に進化した」とアピールしているが、確かにDHT-S218の音ならば、積極的に音楽を楽しむスピーカーとして使いたくなりそうだ。
お店によってはDHT-S217の在庫も残っているだろう。価格がこなれているDHT-S217と、新発売のDHT-S218どちらを選ぶか? というのも悩ましいかもしれないが、個人的には「DHT-S218一択」だ。
音の素直さ、クリアさ、トランジェントの良さといったDHT-S200シリーズが追い求めていたサウンドに、ジャンプアップしてたどり着いた感覚がある。PUREモードに代表されるDHT-S200の“ピュアオーディオライクなサウンドバー”に興味を持っている人になら、“DHT-S218の進化具合”を必ず実感できるはずだ。