トピック
皇帝、女帝に続く、qdc“もう一つの答え”。「CRAVE」のサウンドに驚く
- 提供:
- アユート
2026年2月19日 08:00
qdcと言えば、エントリーから高級機まで、高音質な有線イヤフォンを手掛ける人気ブランドだが、もう1つ、日本のユーザーからの要望を多く取り入れたモデルを開発してくれるブランドでもある。それを象徴するのが、日本国内代理店であるアユートと共同企画/開発した「コンセプトIEMシリーズ」だ。
これまで、繊細な音の表現や定位に焦点を当てた「WHITE TIGER」、カスタムIEMのようなフィッティングとサウンドを多くの人に届けるエントリー「SUPERIOR」、そして同社の技術の粋を結集した「EMPEROR」や、チューニングとデザインが異なるカスタムIEM向け「EMPRESS-C」などのモデルが登場。いずれも人気モデルになったのはご存知の通りだ。
そんなqdcが、アユートとの共同開発シリーズ最新ハイエンドモデルとして2月に発売したのが「CRAVE」(クレイブ/550,000円)だ。このCRAVE、結論から先に言うと、かなり力が入ったモデルで、まさにコンセプトIEMシリーズの集大成的な完成度になっている。
それもそのはず、「qdcブランド10周年の節目、そして11周年目の新たな一歩を踏み出すため」に作られたもので、従来のハイエンドであるEMPEROR、EMPRESS-Cとは異なる、「もう一つの答えを」追求したものになっている。
5ウェイ、トライブリッド15ドライバーを独自技術でチューニング
まずは気になる中身を見ていこう。
ユニット構成は、5ウェイ、トライブリッド15ドライバー。具体的には以下を搭載している。
- 超低域:カスタム複合材振動板10mm径ダイナミックドライバー×1
- 低域:カスタムBAドライバー×4
- 中域:新カスタムBAドライバー×2
- 高域:カスタムBAドライバー×4
- 超高域:静電型ドライバー×4
方式の種類としては、超高域用の4基の静電(EST)ドライバーを使っているほか、高域に4基、中域に2基、さらに低域にも4基、合計10基のカスタマイズドBAドライバーを搭載している。超低域は、10mm径ダイナミックドライバーを1基搭載した。
BAとESTで幅広い帯域をカバーしつつ、本当に低い音をダイナミック型で再生するイメージ。このCRAVEのドライバーとドライバー構成は、カスタムIEM専用モデル「EMPRESS-C」のそれをベースとしており、ダイナミックドライバーに関しては、EMPRESS-Cに使用されているカスタマイズ10mm径複合材振動板の高感度超低周波ダイナミックドライバーが使われている。
BAとダイナミック型、方式の異なる複数のユニットを搭載すると、音の繋がりを滑らかにしたり、音色の違いなどをが生まれないようにチューニングをする必要がある。
多数のBAを搭載するにあたり、qdc独自の「マルチチューブフィルタリングテクノロジー」が投入された。これは、隣接する周波数帯域が互いに干渉することなく調整する技術であり、クロストークの抑制と正確なチューニング、位相を実現するという。
さらに、ダイナミック型には独自の「Dmagic音響構造」を投入した。これは、ダイナミック型ドライバーに対し、独立した音響キャビティと音導管を割り当てるもので、筐体内でダイナミックドライバーと他のドライバーのサウンドが干渉しないようにする工夫だ。
左右の整合性とフラットな特性にも寄与。こうした技術により、5Hz~70kHzというワイドバンド周波数応答範囲を獲得した。
チューニングは、ユーザーが聴く「音量レベル」に注目。小音量でも高解像度を維持しつつ、音量を上げても全体的に自然な音質を保ちつつ耳障りな音にならないよう意識したそうだ。これは後ほど聴いてみよう。
EMPEROR、EMPRESS-Cを振り返る
さっそくCRAVEを聴いて……の前に、同じシリーズのEMPEROR、EMPRESS-Cの音を振り返り、その後にCRAVEを聴きたい。というのも、その方が“CRAVEの特徴”がわかりやすいからだ。
DAPはAstell&Kern「A&ultima SP4000」で、「High Driving Mode」をONにしている。音源はQobuzアプリをメインとした。
まずEMPERORから。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生。冒頭からピアノ、アコースティックベース、ボーカルと音数が増えていくと、スケールの大きな音場が展開。左右だけでなく、奥行きの深さも感じる。イヤフォンを聴いているというより、ヘッドフォンを聴いている感覚に近い。定位感は異なるものの、豪邸の広い部屋で、スピーカーを前に音楽を聴いているような感覚と言っても良い。
アコースティックベースの低域も、「ズォーン」と深く沈み、地の底から響いてくるような迫力がある。これもイヤフォンとは思えない迫力と量感。それでいて、適度な締まりもあるので、ボワボワした音にはならない。
全体としては低重心で、迫力のあるサウンドだが、ボーカルのブレスもしっかり聴き取れる中高域の繊細さも兼ね備えている。
「名は体を表す」と言うが、まさに「皇帝」というイメージ通りのサウンド。壮大で重厚、ドッシリと構え、綺羅びやかさもある。「ゴージャスサウンド」と言い換えてもいいだろう。聴いたあとの満足感は、唯一無二だ。
次はEMPRESS-C。
こちらは「女帝」という名だが、これもまたイメージにピッタリのサウンド。EMPERORはやや低域寄りのドッシリとしたサウンドだったが、EMPRESS-Cはやや高域寄りで、低域の量感はよりタイトに締まる。中高域に透明感があり、清涼感のあるサウンドだ。
では“腰高で痩せた音なのか?”というと、そうではない。量感は少なめだが、アコースティックベースの「ズシン」という低音自体はEMPERORに負けないほど深く、重く、芯のある音が出ている。あくまでタイトなだけで、存在感や迫力は十二分にある。
中高域は繊細で、弦楽器の響きも美しく描写する。EMPERORがゴージャスサウンドなら、EMPRESS-Cは「高貴なサウンド」というところだろうか。
“別軸の頂点”CRAVE
では、新モデルCRAVEはどんな音なのか。
聴く前は「EMPERORとEMPRESS-C、どっち寄りなのかな?」と思っていたが、結論から言うと「どっち寄りでもない」。これは完全に「別軸の頂点」だ。
バランスとしては、低域寄りでも高域寄りでもなく、最もニュートラルだと感じる。それゆえ、ベースの低音の中の弦の揺れ方から、中高域の中にあるダイアナ・クラールの口が開閉するかすかな吐息まで、どの帯域の微細な音も、容易に聴き取れる。
解像感が高いからと言って、音のエッジをカリカリに強調した音ではない。音はあくまでナチュラル。とにかく情報量が多く、見通しが良いので、低音でも高音でも、意識を集中すれば、その部分の細かい音が見えてくる印象。踏み込んだピアノのペダルを戻した時の「クン」という音すら聴き取れるほど、微細な音の表現力が高い。
特にボーカルの生々しさは白眉であり、ダイアナ・クラールの口元を見つめているような、ドキッとするリアルさは、CRAVEが頭一つ抜けている。
「藤井風/Prema」も聴いたが、素晴らしい。冒頭からサビが展開するが、ベースの低音が気持ちよく前に張り出しつつ、非常に細かく描写されるので、ひたすら気持ちが良い。低域はパワフルだが、中高域を覆って明瞭度を下げるような事はなく、ボーカルはクリアそのもので、歌詞も吐息も聴き取りやすい。
超高域用のEST、高域、中域、低域用のBA、ダイナミック型と、3つの異なる方式のドライバーを搭載しているが、それらがケンカせず、長所を融合しているようなこのサウンドは、qdcのチューニング技術の巧みさの証拠だろう。
全体のバランスの良さ、情報量の多さは驚異的なレベルで、個人的に、ここ数年で聴いたイヤフォンの中でもトップレベルと感じた。誇張感が無く、キツイ音にもならず、音自体はあくまでナチュラルというのも嬉しい。
傾向としてはモニターイヤフォンに近いのかもしれないが、決して味気ない音ではない。スッキリと⾒通しが良く、キレがありながらコクもあり、満⾜感も得られる。聴きながら、美味しい塩ラーメンが脳裏に浮かんできた。
面白いのが、音場や音像定位の違いだ。EMPERORとEMPRESS-Cの音場はよく似ており、先ほども書いたような“広い部屋”“広いホール”を連想させる。しかし、CRAVEの音場には、音が跳ね返ってくる“壁”が無く、どこまでも広がる宇宙のように感じる。にも関わらず、ボーカルの音像が一番近く感じるのはCRAVEというのが興味深い。
これはどちらが優れているといよりも、好みや、マッチする曲によって評価が分かれるだろう。個人的には、スタジオ録音の楽曲ではCRAVEの広大な音場が好みだが、ライブ録音などの楽曲では「広大な部屋やホール感」のあるEMPEROR/EMPRESS-Cの方が現地で聴いている感があって楽しめると感じた。
最後に、CRAVEがこだわった「音量の大小によって、音の魅力が左右されない」という部分も試してみた。
「グレゴリー・ポーター/When Love Was Kin」を聴きながら、SP4000のボリュームを大きく下げたり、上げたりしてみたが、確かに音の印象の変化が少ない。特に小音量時でも、低域の豊かさ、張り出しの強さといった、普通であれば痩せてしまう部分が、あまりスポイルされない。
もちろん、「ズゴーン」という絶対的に重い低音を小音量で出すのは無理だが、BGM的に聞き流すような音量に下げた状態でも、音が痩せないため、高域だけが目立つような音にはならず、ベースの深さ、声の太い部分がしっかり耳に入る。それゆえ、音楽にゆったりと身を任せたくなる心地よさが維持される。長時間音楽を楽しみたい人にはうってつけのサウンドであると同時に、ボリュームをあまり上げなくても満足度が高いというのは、耳の健康にも良いはずだ。
従来の枠に入らない別軸の頂点
EMPERORは「壮大で重厚、綺羅びやかさもあるゴージャスサウンド」、EMPRESS-Cは「低域はタイトで透明感、清涼感のある高貴なサウンド」だったが、CRAVEのサウンドはなんと表現したら良いだろう。決して“皇帝と女帝の間”というつまらない音ではないし、明らかに“この枠に入らない別軸の頂点”と感じる。
イメージとして、CRAVEは「高貴な生まれで能力も高いが、そんな世界を飛び出して芸術家になった自由人」のように感じる。10周年を迎えたqdcが、「新たな一歩を踏み出すため」に作ったイヤフォンにふさわしい、新たな息吹を感じるイヤフォンだ。
EMPEROR、EMPRESS-C、CRAVEからどれを選ぶか? というのは難しい質問だ。個人的には女性ボーカルやフュージョン系が好物なので、EMPRESS-CかCRAVEが気になりつつ、生々しさの魅力に背中を押されてCRAVEかな……と気持ちが傾いている。それぞれが高いレベルのサウンドを実現した上で、異なる魅力を備えているので、お店などで聴き比べて見て欲しい。















