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ドングルDACもここまで来たか!! ハイエンドDAPの音がライターサイズに。進化したDAPキラー「AK HC5」
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2026年2月20日 08:00
ポータブルDACアンプ界に登場した風雲児
ほとんどのスマホからイヤフォン出力が消滅して久しいが、「手持ちの有線イヤフォンをまた使いたい」「ワイヤレスイヤフォンは便利だけど有線で音にこだわりたい」というニーズは根強い。そんな時は単体のDAP(デジタルオーディオプレーヤー)を購入するのが簡単だが、「スマホとDAPを両方持ち歩くのは重い」「DAPは高価過ぎる」「DAPだと音楽配信が使いにくい」といった問題もある。
そこで救世主となるのが、小型のポータブルUSB DACアンプ。ライターほどの持ち運びやすいサイズで、スマホのUSB端子に接続する事で、有線イヤフォン/ヘッドフォンを良い音で鳴らしてくれる。価格としても、数十万円するモデルも珍しくないDAPと比べ、ポータブルDACアンプであれば5万円以下の、比較的手に取りやすいモデルが多いのも魅力だ。
だが、サイズや価格の問題もあり、本格的なDAPと比べると、音質や駆動力などの面で一歩劣るのは否めなかった。「音は良いけど、あくまで“ポータブルDACアンプの世界の中では”」という注釈がついていたわけだ。
だが、その常識が崩れる製品が登場した。
しかもその製品を出したのは、他ならぬ、“高級DAP市場”を牽引するあのAstell&Kernブランドだ。モデル名は「AK HC5」。AKブランド初のハイエンドポータブルDACアンプだ。
値段は84,700円と、ポータブルDACアンプとしてはかなり高価だ。「もうちょっと足したらDAPが買えちゃう値段じゃん」と突っ込みたくなる。だがこのAK HC5、中身を知り、音を聴くと、180度印象が変わる。「え、Astell&Kern、こんな製品出しちゃっていいの? 自分のとこのDAP売れなくなるんじゃない?」と心配したくなる製品になっている。
ハイエンドDAPの技術を小型ボディに満載
AK HC5が、これまでのポータブルDACアンプと次元の違う製品なのは、内部を見ていくとわかる。
筐体はアルミニウム製で、外形寸法は64.3×32×16mm(縦×横×厚さ)、重量約46gと、ポータブルDACアンプとしてはやや大きめだが、DAPと比べると大幅に小さく、スマホに接続した状態でもあまり邪魔にはならない。
この筐体の中にDACとヘッドフォンアンプが入っているのだが、このDACが凄まじい。旭化成エレクトロニクスのフラッグシップDAC「AK4499EX」を搭載しているのだ。
AK4499EXの特徴は、その構成にある。一般的なDACチップは、その内部において、入力された音楽のデジタルデータを、デジタルフィルターに通し、⊿Σモジュレーターを経由し、D/A変換してアナログ音声として出力する……という処理をする。
この工程に注目すると、DACチップの中で“デジタル信号とアナログ信号が共存している状態”があるのに気がつく。この状態があると、デジタル処理部分のノイズなどが、シリコンウエハーを通してアナログ信号に影響を与え、音質が低下する。
それを解決するため、AK4499EXは、DACのみの「AK4499EX」と、デジタル信号処理用チップ「AK4191EQ」という2つのチップで構成されている。つまり、前述の工程の前半部分「入力されたデジタル信号にデジタルフィルターと⊿Σモジュレーターを通す」をAK4191EQが担当。その後にあるAK4499EXは、マルチビットデータのインターフェイスとDAコンバーターだけ内蔵するという構成だ。
1つのDACチップの中でデジタルとアナログを分離するのではなく、2つのチップを用意してチップのレベルで分離。“デジタル信号処理”と“デジタル音声のアナログ変換だけ”という役割分担をする事で、相互干渉を防ぎ、音質を高めているわけだ。データとしては、PCMが768KHz/32bit、DSD 512にネイティブで対応する。
このAK4499EX、AKのDAPでは、2022年に登場した「A&ultima SP3000」(発売当初の価格659,980円)に初搭載。現行ハイエンドで2025年発売の「A&ultima SP4000」(同693,000円)にも搭載されている。
つまり、約70万円するハイエンドDAPの心臓部とも言えるDACを、84,700円のポータブルDACアンプに入れてしまったのがAK HC5というわけだ。「大丈夫?値付け間違ってない?」と心配になる大盤振る舞いだ。
DACだけでも驚きだが、AK HC5はアンプ部分も規格外だ。というのも、前述のハイエンドDAP、A&ultima SP4000で開発・搭載され、話題となった「High Driving Mode」技術を、この小さな筐体に投入しているのだ。
High Driving Mode技術の肝は、オペアンプの配置にある。通常、効率的にパワーを得ようとした場合、オペアンプを直列に配置するが、こうすると音は力強くなる一方、ノイズが増え、SN比が低下。荒々しく、キツい音になる傾向があるという。
そこでHigh Driving Modeでは、オペアンプを並列に配置。ドライブ力を上げても、ノイズやSN比が低下せず、ダイナミックレンジが広がり、音の細かなディテールまで表現できるようになるという。欠点としては、バッテリー消費が大きくなる。
AK HC5は、このオペアンプ水平並列配置を採用。「ポータブルUSB DACとしてはかつてないSN比レベルと高トルクで力強い駆動力のサウンドの両立した」という。アウトプットレベル(無負荷)は、アンバランス接続で2.5Vrms、バランスで5Vrmsと非常にパワフルだ。イヤフォン出力端子は、3.5mm 3極アンバランス、4.4mm(5極GND結線)の2系統を備えている。
なお、A&ultima SP4000ではこのHigh Driving ModeをOFFに出来たが、AK HC5は常にHigh Driving Modeで動作する。
オーディオ機器では電源も音質に大きく影響するところだが、USBバスパワーで動作するポータブルDAC特有の問題として、スマホなどの外部機器から電源を供給される時に、ノイズも流入してしまう。それを抑えるため、AK HC5はPSRR(電源ノイズ除去比)、CMRR(コモンモードノイズ除去比)性能を備えた専用アンプを搭載している。
ボリューム操作は、側面に配置したホイールで行なう。AKのDAPと同じエンコーダーシステムを採用しており、ボリューム調整幅は150ステップと細かい。ポータブルDACアンプは、細かく音量調整できない製品も多いので、使い勝手の良さも高級モデルらしいポイント。ホイールを回転させると「カチカチ」という感触があり、狙った数値に合わせやすい。また、サイドボタンをダブルクリックすることで、ホイール操作をロックできる。ポケットの中で意図せずホイールに触って、急に音が大きくなったりすることを防げるわけだ。
筐体には視認性の高い1.62型OLED(有機EL)ディスプレイも搭載。現在の設定や再生情報を表示してくれる。文字も大きく、見やすい。
機能面では、リアルタイムアップサンプリング「DAR」(Digital Audio Remaster)を搭載。入力データをPCMは384KHz/352.8KHz、DSDはDSD256にアップサンプリングして再生でき、音の変化を楽しむめる。さらに、6種類のDACフィルターを選択することも可能だ。
スマホとの接続用に、USB-CとLightningに対応した2本のショートケーブルを同梱する。接続ケーブルが着脱式なので、使っているスマホに合わせてケーブルが選べるわけだ。
ケーブル自体もこだわっており、銅芯線に錫コーティングを施し、腐食防止と引張力の強化で耐久性を高めるほか、ケーブル全体をアルミフィルムで包むことでノイズを遮断。TPEジャケットの上にファブリックジャケットを被せたデュアルノイズシールドケーブルとなっている。
PUレザーケースも付属。イタリアの専門メーカーSynt3製の高級ポリウレタンを素材としており、高級感のある手触りだ。装着した状態で、イヤフォン端子やボリュームダイヤルにアクセスできる。
音を聴いてみる
スマートフォンはPixel 10 XLを使い、付属のUSB-CショートケーブルでAK HC5と接続。Qobuzの配信楽曲や、Onkyo HF Playerでハイレゾ音楽ファイルを試聴した。イヤフォンは、qdc「EMPEROR」、final「S3000 + Brise Works MIKAGE」、ヘッドフォンはフォステクスの平面駆動型「RPKIT50」などを使用。4.4mm接続で聴いた。
「藤井風/真っ白」を聴いてみる。
音楽が始まった途端、コーラスが高精細に左右へ広がり、その広い空間の奥から、押し出しの強い、パワフルなベースが「グワッ」と押し寄せてくる。気持ちよさに、思わずニヤけてしまう。押し出しが強いだけでなく、低音にはズシリと重さがあり、しっかり芯のある低音が出ている。
特徴は大きく2つある。1つは、SN比が非常に良いこと。冒頭もそうだが、無音の部分がしっかりと静かで、そこからスッと音が鮮烈に立ち上がる。コーラスなどの音が広がる空間も広大で、左右だけでなく、奥行方向も深い。まさにAK4191EQ + AK4499EXの組み合わせでこそ味わえる世界だ。
2つ目は、駆動力の高さだ、イヤフォンはもちろんだが、ヘッドフォンのRPKIT50でも、ベースにキレがあり、1つ1つの音の輪郭がシャープだ。それでいて、刻み込むようにしっかりと音が深く沈む。このようなソリッドな低音は、ユニットの振動板をしっかり制動できるアンプでないと、なかなか出せない。High Driving Modeの効果と言っていいだろう。
実は、こうした「音場の広さ」や「キレと重さのある低音」は、一般的になポータブルDACアンプが苦手とする部分だ。「音はクリアなんだけど、広がりが今ひとつ」とか「低音がちょっと弱い」というモデルが多い中で、AK HC5のサウンドは別格と言って良い。
「グレゴリー・ポーター/When Love Was Kin」のような、ジャジーな男性ボーカルの曲を再生すると、低音たっぷりのボーカルが重厚に響き、アコースティックベースも肉厚に迫ってくる。それでいて、歌声がスーッと左右や奥へと広がっていく様子もよく見え、ピアノのペダルを踏む「クン」というかすかな音もしっかり描写する。
ここまで、低重心で安定感があり、ゆったりと身を任せられるサウンドは、これまでのポータブルDACアンプでは味わえなかった音だ。目を閉じて聴いていると、とてもライターを太くしたくらいの筐体からこの音が出ているとは思えず、単体DAPを聴いているような気分だ。
SP3000、SP4000との音の違いは?
気になるのは、DAPとの違い。特に技術的な共通点が多いSP3000、SP4000とAK HC5との比較だ。実際に聴き比べてみた。
まずSP3000 VS AK HC5だが、これが非常に興奮する。AK HC5の音が、かなりSP3000に近いからだ。
低域から高域まで、どこかの帯域だけ盛り上がるような事はなく、全体としてバランス良好。音色も色付けが少なく、ナチュラルな音という傾向は、SP3000とAK HC5でまったく同じだ。
低域がズシンと沈む深さは、正直言ってSP3000のレベルにはあと一歩届かないが、AK HC5もかなりいい線を行っている。音場の広さも同様で、左右の広がりはほとんど同じ、奥行きがSP3000の方がさらに深いな……という程度の違いしかない。
「なんだSP3000に勝てないのか」と思われるかもしれないが、個人的にはAK HC5の音の凄さに驚くばかりだ。SP3000は、AK4499EXの搭載で、それまでのAK DAPシリーズから飛躍的な進化を遂げた名機であり、SP4000が登場したとはいえ、まだまだ高音質DAPとして市場トップクラスに位置しており、実売も40万円近い。そんな“化け物DAP”と呼べるSP3000に、84,700円の、こんな小さなDACアンプの音が肉薄するというのは、ちょっとした事件と言って良い。
現行ハイエンドDAPのSP4000は、SP3000からさらにSN比がよく、低域の深さ、トランジェントの良さに磨きがかかる。また、High Driving ModeをONにすると、1つ1つの音に勢いが増し、グッと熱いサウンドになる。
SP3000に肉薄したAK HC5だが、そんなSP4000と比較すると、やはり差が開いてしまう。ただ、特筆すべきは、音の傾向がAK HC5とSP4000でまったく同じという事。ポータブルDACアンプは、単体DAPと比べると、カジュアルなユーザー層を意識して開発するため、例えば低音が派手めだったり、高域が綺羅びやかだったり、音に味付けされる製品も少なくない。
だが、AK HC5にそんな姿勢は一切見られず、ひたすらHi-Fiなサウンドを追求し、ガチンコで単体DAPに肉薄、あわよくば下剋上してやろうという志の高さがある。これこそ、今までのポータブルDACアンプと、ひと味違うAK HC5の魅力だ。
“持ち運びやすい”は正義。驚異のDAPキラー
記事としては「AK HC5がSP4000を倒した!」となると、盛り上がるところだし、読者の皆さんもそんな下剋上を期待していたと思うが、実際は「SP3000にかなり近いサウンドを実現している小さくても凄いヤツだが、SP4000にはさすがに追いつけない」というのが正直な感想だ。
そしてここからが重要なのだが、この感想は、家の中で、机の上にDAPとAK HC5を並べて聴き比べた時のものであり、その後、ポータブル機器としてAK HC5を数日持ち歩いていると、「日常生活での使いやすさと音質のバランスを考えたら、AK HC5が最強なのでは?」と、考えが変わってくる。
例えば、SP4000は149.8×85×19.5mm(縦×横×厚さ)と、DAPとしてはかなり大きく、分厚く、そして重量に至っては約615gもある、文鎮……とまでは言わないが、持ち上げるとズシリと重い。音の良さに文句はないが、出かける前に「これを持って行くか、行かないか」を悩むレベル。これは一回り小さいSP3000でも、大差はない。
対して、AK HC5は64.3×32×16mm(縦×横×厚さ)と小さく、重量も約46gと、ポータブルDACアンプとしては大柄ではあるが、DAPと比べると圧倒的に気軽に持ち運べる。スマホと一緒に手のひらでホールドしても違和感は少なく、それでいて、腰の座った本格的なサウンドを聴かせてくれる。
喫茶店でノートPCを開いて、少し作業しようかなと思った時に、大型DAPだと「喫茶店の机が狭いけど、DAP置けるかな、落ちないかな」と心配になるが、AK HC5ならそんな心配とは無縁だ。それでいて、ヘッドフォンも朗々と鳴らしてくれるパワフルさがある。
もちろん、単体DAPの「絶対的な音の良さ」はオーディオファンとして大きな魅力だが、外出先中に「今、良い音で音楽が聴きたい」と思った時に、常にポケットやカバンに入れておける。サッと取り出し、スマホに接続すれば、単体DAPレベルのサウンドを聴かせてくれる。この便利さ・手軽さこそAK HC5最大の魅力であり、そのうえでこの音質を実現しているという点を、大いに評価したい。
また、昨今ではメインソースが音楽配信サービスという人も多いはず。単体DAPでも、事前に音楽ファイルをダウンロードしてオフライン再生したり、出先でWi-Fiに接続すれば音楽配信サービスを楽しめるが、やはり、スマホの便利さと比べると、手間がかかる。
AK HC5であれば、スマホとの親和性が高く、いつもの音楽配信サービスの音を、一気にグレードアップできる。ここも見逃せないポイントだろう。
利点ばかり挙げてきたが、難点もある。本格的なDACやHigh Driving Modeを搭載しているためか、給電する側のスマホの内蔵バッテリーはそれなりに消費する。
Pixel 10 XLで、一般的な完全ワイヤレスイヤフォンを、BluetoothのLDACで接続して聴いていると、109分ほどでスマホバッテリーが5%消費されるが、AK HC5(DAR OFF/ボリューム値90)では、30分ほどで5%消費する。
ただまぁ、昨今のスマホ内蔵バッテリーは大容量だし、モバイルバッテリーを持ち歩いている人も多いと思うので、そこはあまり問題にならないかもしれない。ぶっちゃけ、モバイルバッテリーとAK HC5を両方持ち歩いても、SP3000やSP4000より重くないだろう。
いずれにせよ、「音の良い有線イヤフォンを使いたい」「外で聴く音楽のクオリティを追求したい」と思いながら、「数十万円するDAPには手が出ない」「大きなDAPとスマホを両方持ち歩きたくない」という人に、AK HC5は第一候補として検討すべき製品であり、“DAPキラー”としてポータブルDACアンプを牽引するモデルになるだろう。


























