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マランツ、60周年記念のネットワークプレーヤー「NA-11S1」

「USB DAC/ネットワークの決定版」。DSD対応で346,500円

ネットワークオーディオプレーヤー「NA-11S1」

 ディーアンドエムホールディングスは、マランツの創業60周年記念モデルとして、USB DAC機能も備えたネットワークオーディオプレーヤー「NA-11S1」を2月下旬に発売する。価格は346,500円。カラーはゴールド。

 「マランツは2010年にネットワークプレーヤーのNA7004を投入、DLNAを搭載したAVアンプは2008年にAV8003を発売するなど、USB DACやネットワーク機能には比較的早くから取り組んできている。世界ではパッケージメディアの比率を上回ったダウンロードミュージックに対して、ハイファイはどうあるべきなのか? を形にしたモデル。“USB DAC/ネットワークオーディオプレーヤーの決定版”が開発テーマ」(マランツ音質担当マネージャー 澤田龍一氏)という。

 発売中のSACDプレーヤー「SA-11S3」(504,000円)をベースにした部分もあるが、PCやネットワーク経由でのハイレゾ音源再生の良さを引き出すために、様々な技術を投入。「見た目は似ているが、SA-11S3のメカレス版ではない」(澤田氏)という。価格もSA-11S3より抑えられた「戦略価格」(マランツ)としている。

天面パネルを外したところ
内部の基板
マランツ音質担当マネージャー 澤田龍一氏



機能面

 USB DAC機能はDSDの再生にも対応。ASIOドライバによるネイティブ再生、およびDoP(DSD Audio over PCM Frames)により、PCからのDSD信号を受信して再生できる。その際にはPCのクロックと同期せず、NA-11S1本体のクロックで制御を行なうアシンクロナスモードに対応。PC側のジッタに左右されない、ジッターフリー伝送が可能という。

 また、DSD以外にも、PCMの24bit/192kHzまでの再生をサポートする。対応OSはWindows XP/Vista/7/8、Mac OS X 10.6.3以降。Windows PCの場合は、マランツのWebサイトから専用ドライバをダウンロードし、インストールする必要がある。Mac OSの場合はOS標準ドライバで動作するが、ASIOドライバに対応していないため、DSDはDoPによる再生のみとなる。

 なお、ハードウェアのスペックとしては2.8MHzまでの対応とされ、保証はされていないが、5.6MHzのデータも再生可能で、「現在まで再生できなかった5.6MHzのデータは無い」(マランツ)とのこと。2.8MHzデータの再生中、フロントパネルの表示は「DSD 2.8224MHz」などだが、5.6MHz再生中は「DSD>2.8224MHz」となる。

DSDデータを再生しているところ
5.6MHz再生中は「DSD>2.8224MHz」と表示される
フロントパネル

 DLNA 1.5に対応したネットワーク再生機能も装備。MP3/WMA/AAC/WAV/FLAC/ALAC(Apple Lossless Audio Codec)に対応し、WAVとFLACは24bit/192kHzまでの再生をサポートする。
 iOSやAndroidのスマートフォンに対応した制御用アプリ「Marantz Remote App」も用意。ネットワーク経由でNA-11S1を操作でき、電源のON/OFFや入力切替、後述するフィルタの切り替え、PCやNAS(ネットワークHDD)内の音楽ファイルの選択、ネットラジオ局の選択などが可能。アルバムアートのサムネイル表示や、楽曲のお気に入り登録も可能。NA-11S1とリモートケーブルで接続したプリメインアンプやCDプレーヤーをコントロールする事もできる。

「Marantz Remote App」の使用イメージ
ハートマークをタップするとお気に入り登録ができ、登録した楽曲だけのリストが作成できる

 フロントのUSB-A端子は、iPod/iPhoneなどのデジタル接続に対応。デジタルのまま伝送し、「NA-11S1」のDACでアナログ変換する事で、高音質な再生を実現するという。iPodの充電も可能で、11S1がスタンバイモードでも充電ができる。

背面端子部分

 さらに、AirPlayにも対応。iPhoneやPC/MacにインストールしたiTunesから、ワイヤレスで音楽再生も可能。インターネットラジオ受信も可能で、MP3/MWAで配信している局に対応しており、vTunerの18,000以上の放送局から好みの局を検索できる。

 同軸デジタルと光デジタル入力を各1系統備え、最大で24bit/192kHzの入力が可能。同軸、光デジタル出力も各1系統備え、こちらも24bit/192kHzまでのPCM信号が出力できる。アナログ出力はバランス(XLR)とアンバランス(RCA)を各1系統備える。



ハードウェア面

USB-B入力インターフェイス基板。中央右に縦にズラッと並んでいるのがデジタルアイソレータ
デジタルアイソレータの効果。ノイズレベルはSA-11S3より4~5dB低い。これは信号系、およびGNDアイソレータによるものだという

 USB DACとして使用する場合は、ノイズの多いPCとUSBケーブルで接続する必要がある。その際に、PCからのノイズ流入を根絶するため、PC接続用のUSB-B入力インターフェイス基板において、レシーバICからUSB DACに音楽データを取り込んだ後、メインの回路に繋がるあらゆる部分で、医療機器にも使われるナショナルセミコンダクタのデジタルアイソレータを8素子、18回路を使って電気的に絶縁。コントロール信号からグラウンドまで全部切り離している。

 これにより、USB-B入力インターフェイスとデジタルオーディオ回路の信号ライン、グラウンドは電気的に絶縁。PCからのノイズの回り込みや、グラウンド電位の変動を排除している。PCからのアースも切り離しており、PCとの接続をNA-11S1が検出すると、プレーヤー本体とアースを切り替える。DSPやUSBコントローラICそれぞれに、電源デカップリングコンデンサを使うなど、ノイズ対策を徹底している。

 なお、光/同軸デジタル入力では、接続先の機器がオーディオ機器である事が多いと考えられるため、USB-B入力のようなアイソレーションは行なわれていない。

 クロックは、SA-11S3と同様の、超低位相雑音クリスタルを採用。従来のクリスタルと比べ、10分の1にジッタを低減したというクロックを、44.1kHz系、48kHz系のサンプリング周波数それぞれにクロックを搭載している。

 DACのICでは、ICに内蔵されているデジタルフィルタをあえて使わず、マランツオリジナルのアルゴリズムによるオーバーサンプリング、デジタルフィルタ、DCフィルタ、ノイズシェーパー機能を使用。音の好みに合わせ、2種類の特製を切り替えて表示できる。なお、この技術には「Marantz musica mastering」という名称が新たに付けられた。

 DACはTI・バーブラウンのDSD1742Aで、DSDのダイレクトアナログ変換と、24bit/192kHz PCMの両方に対応した電流出力型。USB-B入力以外のジッタ低減向けに、ハイブリッドPLLジッターリデューサーも搭載する。

DUAL位相差雑音クリスタルの効果
ハイブリッドPLLジッターリデューサーの効果
DAC以降のアナログステージは、SA-11S3と同じフルバランス・ディファレンシャル構成の回路を採用
電源トランス
ネットワークオーディオ用回路のスタンバイ用にスイッチング電源も搭載

 DAC以降のアナログステージは、SA-11S3と同じフルバランス・ディファレンシャル構成の回路を採用。独自の高速アンプモジュールのHDAMと、HDAM-SA2を使い、全てをディスクリート回路で構成。バランス出力のHOTとCOLDを音質劣化無しに反転させるデジタル位相反転機能も備えている。

 電源トランスには、SA-11S3のものをベースに、コアサイズをアップさせた大容量トロイダルトランスを採用。不要輻射を抑制する銅メッキシールドケースに封入している。二次巻線はアナログオーディオ回路、DAC、ネットワークインターフェイス、USB-Bインターフェイスのそれぞれに専用のものを用いて回路間の干渉を抑制。巻き線には高純度のOFCを使用している。

 なお、ネットワークオーディオ用回路を、消費電力を抑えながらスタンバイさせておくためのスイッチング電源も装備。NA-11S1の電源がONになると、スイッチング電源からではなく、電源トランスからの接続に切り替わる。立ち上がりの遅いネットワークオーディオ用回路を、素早く、音質は維持して、なおかつ待機時消費電力を抑えるための工夫となる。消費電力は50W、待機時消費電力は通常で0.4W、ネットワークスタンバイで3W。

 アナログ回路とDAC電源用のブロックケミコンにも、SA-11S3で使われている、マランツ専用カスタムパーツを採用。端子の素材に銅を使っているのが特徴。アンバランス出力のRCA端子にも銅の削り出しを使っている。

付属のリモコン

 ヘッドフォンアンプも搭載。フルディスクリートのアンプとなり、HDAM-SA2による高速電流バッファアンプにより、メインのアナログオーディオ出力回路との相互干渉を抑制。オペアンプICを使っていない。ヘッドホンアンプへの信号は、バランス出力回路のマイナス側から分岐させることで、アンバランス出力への影響を排除している。SA-11S3に搭載されているヘッドホン回路との接続をカットする機能は備えていない。

 外形寸法は440×417×127mm(幅×奥行き×高さ)、重量は14.6kg。リモコンが付属する。



音を聴いてみる

試聴の様子

 発表会場において、短時間ではあるが試聴できたので印象をお伝えしたい。試聴はPCとのUSBで接続で、アンプはPM11S3×2台のバイアンプ、スピーカーはB&Wの802 Diamond。

 最大の特徴は、制約を感じさせない広い音場で、音が極めて自然に広がり、境界線をほとんど意識させずに空間に溶け込むような描写。個々の音はしなやかで、24bit/96kHzのFLACファイルを再生しても、DSDを再生しているような硬さのない、しっとりとした描写をする。

 DSDファイルでは、音場の境界がまったく意識できず、音はさらにアナログライクな滑らかな描写になる。かといってボンヤリしたフォーカスが甘い音ではなく、しなやかながら、女性ヴォーカルの口の開閉、ドラムの硬く鋭い音など、細かな音の情報量の多さに目を見張る。それでありながら、輪郭を強調したような“カリカリさ”はまったくなく、質感とフォーカス感が極めて高い次元で両立され、それが“枠”の無い音場に出現する様子が確認できた。

 USB DACとしても、ネットワークプレーヤーとしても、音質面で非常に注目度の高いモデルの登場と言えるだろう。

(山崎健太郎)