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NHK技研公開2013。Hybridcastが実用化へ大きく前進
HTML 5/セカンドスクリーン/SNS活用。民放からも提案
(2013/5/28 21:31)
日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2013」を5月30日から6月2日まで開催する。入場は無料。公開前の28日に、マスコミ向けの先行公開が行なわれた。
ここでは、2013年中の開始に向けて開発が進められている「Hybridcast(ハイブリッドキャスト)」を中心に紹介する。なお、スーパーハイビジョン(SHV)関連の展示は、別記事でレポートしている。
Hybridcast(HybridとBroadcast、Unicastを組み合わせた造語)は、インターネットを活用した次世代の放送通信連携技術。対応テレビを利用して、番組と連動したHTML5アプリケーションを利用できるほか、スマートフォン/タブレットをセカンドスクリーンとして、関連情報の取得やテレビ側のHTML5コンテンツの操作などができる。
IPTVフォーラムが標準化を進めており、3月には、技術仕様として「放送通信連携システム仕様(ver.1.0)」と「HTML5ブラウザ仕様(ver.1.0)、「事業者間メタデータ運用規定(ver.1.0)」の3つを策定。この標準化を受けて、今年の技研公開では実際の運用に近い形でデモを行なっているのが特徴。
BMLブラウザを使った従来のデータ放送とは異なり、HTML 5ブラウザを活用して、放送画面上にレイヤーとして関連情報などを表示。Hybridcastの運用が開始された後も、非対応テレビでは従来のBMLのデータ放送が引き続き利用できる。
なお、先行公開が行なわれた28日には、東芝から初のHybridcast対応4Kテレビ「REGZA Z8X」が発表されたが、NHK技研のデモでも、昨年と同様にシャープ、パナソニック、東芝、三菱といった国内テレビメーカー各社がHybridcast対応テレビの試作機を展示。さらに、CATVのSTBを想定し、KDDIの「SmartTV BOX」をHybridcast対応にした試作機も展示されている。
「アクティブ番組表」や「tereda+」など
HybridcastでNHKが「試行的に開始する」という新しい活用方法として「アクティブ番組表」を紹介。これは、現在のEPGのような「ラテ欄」風の表だが、現在~8日先の番組表だけでなく、過去30日前までの情報も閲覧できることが特徴。ここから、見逃してしまったドラマなどの番組を探して選択すると、NHKオンデマンドの番組(該当作品が存在する場合)を呼び出して視聴できるというもの。
その他にも、見逃してしまった「連続テレビ小説」や、過去の懐かしい「大河ドラマ」などの作品を手元のタブレット端末でNHKオンデマンドから検索、テレビに“スロー”(指で画面をタッチして前方になぞる操作)して視聴するといった活用も紹介。また、画面の下にニュースをティッカーのように常時表示させる「スクロールニュース」を用意。気になったニュースが表示されている間に選択すると、写真など詳しい情報を閲覧できる。
上記のサービスは、Hybridcastの中でも基本的な機能と位置付けられているが、これに加え、今後の展開に向けた新しい取り組みも紹介。
「放送通信同期技術」は、放送番組の進行に合わせて、通信コンテンツをテレビやタブレットの画面に同期して表示するもの。例えば、セリフ部分がフキダシになったアニメ動画を表示している際に、タブレットから設定すれば、テレビ画面のフキダシを日本語以外の文字で表示するということがリアルタイムで行なえる。そのほかにも、子供向け番組で、番組から出題されたテーマに沿ってタブレットのアプリで「お絵描き」をすると、その内容をテレビに表示。他の参加者の作品も画面で見られる。
「tereda+」(テレダプラス)は、これまでの技研公開でも紹介された「tereda」を進化させたもの。「ソーシャル(SNS)」と「テレビ」だけでなく、番組情報などのメタデータも活用していくという意味で「+」が付けられている。デモでは、「NHKスペシャル」といった番組名から、関連するキーワードなどの“つながり”を、テレビやタブレットの画面でグラフィカルに表示。そこから興味のある情報にアクセスできる。このように、ユーザーが自発的に検索する方法だけでなく、このデータベースをバックエンドとして、NHKのHybridcastサービスに利用していくことも検討されている。
民放各社も実用化に向けた具体案を紹介
NHK以外の放送局も技研公開に参加し、Hybridcastの活用例を展示。TBSは既報の通り、「カウントダウン TV コネクト」などの活用コンテンツをデモ。音楽番組を視聴する際に、アーティストのパフォーマンスに合わせ、スマートフォンに向けて歌唱すると、その歌が採点されるという例などを紹介している。
WOWOWは、Hybridcastの活用例として、無料番組「ザ・プライムショー」の“進化形”を提案。番組内で紹介するエンタメ情報に、タブレットからすぐアクセスできるという内容で、視聴者自身のアバターを画面内に表示。笑ったり怒ったりといったアクションをアバターにさせることで、友人と一緒に観ている感覚で楽しめるほか、番組内の気に入った箇所で「いいね! 」のように押せるボタンを用意。番組の盛り上がり度を、グラフで表示できる。
フジテレビは、ライブ&トーク番組への活用イメージを紹介。「ヒーリングBARアイドリング」という番組で、テレビで歌うアイドルグループのうち、好きなメンバーにズームした映像を、タブレット画面の「追っかけカメラ」で見ることができる。番組の感想をSNSに投稿することなどで、ポイントを貯めるといったことも提案している。
日本テレビは、番組の「休日コンシェルジュ」と連動する例を提案。番組の進行に応じて、関連するイベント/グルメなどの情報を手元のタブレット画面の右側にサムネイル写真のアイコンとして次々と表示。興味のある情報を詳しく調べられるほか、過去に表示された情報にさかのぼって調べることもできる。
上記のNHK/民放各局の活用例は、いずれも放送局が主体となって提供するものだが、このほかにもHybridcastの仕様では「放送外マネージドアプリ」の規格化も進められている。例えば、料理番組の視聴中にレシピの情報を閲覧できるサービスはこれまでも提案されているが、「放送外マネージドアプリ」は、このレシピ情報を表示するアプリを放送局以外のサービス事業者が提供する。利点としては、チャンネルを替えた後でも引き続きタブレットで関連情報を調べられるほか、別のお気に入り番組が他局で放送開始された時に、タブレット画面にでプッシュ通知するといった機能も実装可能なことが挙げられる。
技研公開の目玉の一つ、スーパーハイビジョン(SHV)放送と連動したHybridcastも提案。8Kは大画面で視聴することも多いが、マルチ画面で関連情報と共に楽しむというスタイルも紹介している。例えば、マラソンの中継では、画面の背景を地図にして走路を表示。そのなかにメインとなる放送(マラソンではトップ集団の模様など)の画面を表示するほか、2号中継車やバイクからの映像などの映像を別の画面で表示。別画面は、放送波ではなく通信経由でストリーミング視聴することを想定している。走行映像だけでなく、順位の一覧や、関連ツイートの表示も同じ画面内に表示できる。今回のデモでは、85型のSHV対応液晶ディスプレイを使用していた。
これまで説明したHybridcastのサービスを実現するための、アプリ制作/配信システムについても展示。ノートパソコン1台でアプリ制作から番組と連携した試写まで行なえるシステムを開発。アプリにIDを付加して配信することで、受信機上で信頼性の高いサービスを実現できるという。前述の放送外マネージドアプリを対象とした認証技術も採用。緊急時にアプリを停止させることも可能となっている。