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“エンタメの起爆剤”としてHEVCに取り組むRoviの狙い
4K HEVCのDivXソフト正式版を年内公開。“4K以外”にも可能性
(2013/12/17 10:50)
HEVC(High Efficiency Video Coding/H.265)については、読者の中にもよく知っている、あるいは名前は聞いたことがあるという人は多いだろう。MPEG-4 AVC/H.264の約半分の帯域で、同等のビデオ品質を実現できるというビデオコーデックだ。4K解像度の動画配信や放送などへの採用も期待されており、ITUのVideo Coding Experts Group(VCEG)とISO/IECのMoving Picture Experts Group(MPEG)が共同で規格化作業を進めている。現在も、ソフト/ハードウェアメーカーや放送/通信事業者を含む多くの企業がエンコーダやデコーダなど関連技術の開発を進めている。
テレビ番組のEPG「Gガイド」や、ビデオ/音楽のデータベースなどで知られるRovi(ロヴィ)は、このHEVC関連の技術開発にも早い段階から着手。同社が2010年に買収したSonic Solutionsが保有するDivX動画技術を用いて、「DivX HEVC」として商用のSDK(Software Development Kit)や、一般向けの無償ソフトなどを提供している。同社のHEVCへの取り組みや、ロヴィがHEVCへ注力し続ける理由などについて、同社マーケティングプログラム シニアマネージャー 夏秋朋史氏に話をうかがった。
4K HEVC対応のDivXソフトはβ版を公開中。正式版も年内に
Roviは、DivX HEVCを軸に、様々な企業と連携を進めている。既に発表されている通り、BroadcomやST Microといった半導体メーカーと協力。BroadcomがSTB向けのHEVC対応チップを開発しているほか、タブレット向けのチップの開発をQualcommが行なっている。11月に発表した通り、日本でもパナソニックシステムLSIが、テレビ向けICに4K対応のDivX HEVC技術を採用することで合意。
2014年に試験放送の開始が予定されている4Kテレビ放送について、まだ最終的なフォーマットや伝送方法などは発表されていないものの、HEVCは現在の最有力フォーマットといえる。放送以外でも、現在ではLGが4K/HEVCデコード対応テレビを発売しているが、将来の動画配信サービスなども含め、多くのテレビがHEVCに対応していくのも、そう遠い話では無さそうだ。
コンシューマへのアプローチとしては、RoviはPC用ソフト「DivX 10」において、HEVC動画の作成/再生に対応。既報の通り、9月からDivXのサイトで無償公開している。同バージョンでは、HEVCは最大フルHDまでの対応(AVCは4Kにも対応)だが、米国サイトの「DivX LABS」では、11月より4K/HEVCの再生や変換に対応した「DivX 10.1 Beta」を公開。主に開発者の利用を想定しているが、一般のユーザーもダウンロード可能だ。4K HEVC対応のDivX正式版については「'13年内リリース予定」としている。
そのほか、12月4日からは、細かな画質設定などが行なえるエンコーダの最新バージョン「DivX HEVC Community Encoder v1.1.18」も公開している。DivX LABSには、エンコーダのパフォーマンスなどを表したグラフも掲載するほど、詳細な情報が公開されている。
また、RoviはHEVCコンテンツを制作できる商用ツールとして、「TotalCode」も提供。ストリーミング配信サービスなどで利用できる動画の作成/変換などが行なえ、既に国内外の多くのポストプロダクションなどで使用/評価されているという。また、開発会社などが動画作成/変換/再生アプリケーションの開発に利用できる「MainConcept HEVC SDK」も提供しており、この中には、タブレットなどでHEVCを再生可能にするAndroid/iOS用のHEVCデコーダも含まれている。
筆者が11月に取材した「Inter BEE 2013」においても、今年の傾向として“4K”と並んで多くの企業がキーワードとして掲げていたのが“HEVC”だった。Roviによれば、「コンテンツ制作者にとっても、HEVCの採用に関してまだ具体的なスケジュールが無くても“今やならなければ乗り遅れる”という意識が広まっている」とのこと。エンドユーザーにとって、再生互換性の心配なく視聴できる環境が整っていくためにも、制作側としては早い段階からの着手が必要となってくるわけだ。
DivXの利点が、HEVCにも適用可能。「HEVCは4Kだけではない」
前述したとおり、RoviはDivXを取得後、動画配信サービスに同技術を活用。字幕や多言語音声トラックもサポートする「DivX Plus Streaming」などの技術を配信サービス事業者らに提供している。米国ではWarnerやCinemaNow、欧州では独Media Marktや英Sainsbury'sなどの配信サービスにDivXが採用。日本でも、既報の通り出版社のキネマ旬報と協業し、キネマ旬報が持つ映画やテレビ番組の情報などを、データベースの「Rovi Video」と一体化。近日中にキネマ旬報が開始する映画配信に採用される予定だという。
DivX対応機器の出荷数は、2013年には世界で10億台に達し、ソフトウェアのDivXは累計10億回を超えた。こうした広がりにより、DivXは「動画コーデック」であるだけでなく、現在は「ブランド」であり、「プラットフォーム」でもあるという。
Roviは、現在のDivX動画配信において、通信回線に応じて480p/720p/1080pなど画質を変更する「アダプティブストリーミング」を採用。再生までの待ち時間を短縮したり、再生中の動画の途切れを防ぐといった機能を特徴としている。また、字幕への対応を進めている点も特徴。音声/字幕切り替えや、チャプタの設定など、BD/DVDディスクを買った場合と同じ体験が動画配信でもできることは、ハリウッドスタジオなどの供給側も求める点だという。
DivXの利点としては、前述した多くの機器でサポートされているほか、DRMについても比較的自由度が高い。例えば一人のユーザーがダウンロード購入した動画をコピーして手元にバックアップしたり友人に渡すのに制限はなく、ファイルを渡された友人などが再生するときに初めて購入手続きが発生するといった特徴がある。
HEVCは当然ながら4K映像だけに恩恵があるわけではない。動画のビットレートを低くして通信回線の圧迫を防ぐ意味では、スマートフォンなどモバイル動画配信での採用の方が、より切実に要望されているという。今後スマートフォンなど大量のデータ通信が行なえる機器が増えると予想されることから、現在の主流であるMPEG-4 AVC/H.264から、HEVCへの置き換えを見込み、携帯キャリアを含む多くの企業が開発を進めている。
Roviによれば「DivXの特徴は、DivX HEVCにもそのまま当てはまる」とのこと。まだHEVC対応の動画配信サービスは存在していないため、実際の配信でこれらの特徴全てが採用されていくかは不明だが、今後始まった際には、こうした利点が活かされていくことには期待が持てそうだ。
また、ハードウェアについても、まだDivX HEVCをサポートすると正式に発表しているメーカーは無いが、「従来のDivX認証プログラムを採用しているメーカーは、HEVCに対応すれば同じプロセスで認証されるため、ハードウェアが対応するための環境も整っている」と自負する。
RoviはHEVCに関して業界団体への参加も進めており、MPEG DASH(Dynamic Adaptive Streaming over HTTP)コンソーシアムや、米国のUltravioletなどで知られるDECE(Digital Entertainment Content Ecosystem)において、HEVCサブコミッティの議長に就任予定だという。
前述したDivX LABSで提供しているHEVCエンコーダなどは、Roviにとって直接の収入にはならない。しかし、同社は「とにかくHEVCを普及させて、使ってもらいたい」という思いを強く持っているという。今後、HEVCのオンライン動画配信が普及すれば、Roviのメタデータを使ったビジネスの市場拡大も見込める点からも「HEVCは、オンラインのエンターテインメントを近い将来引っ張っていく起爆剤になる」と見ている。さらに、DivX HEVCの高画質や使い勝手などの面で「ユーザーのニーズと一致している。一時の“から騒ぎ”で終わるのではなく、間違いなくユーザーの利益になるテクノロジー」として今後も注力していくとのことだ。