「ソニーは変わる」。平井新社長が経営方針説明

-エレ/TV再生に秘策無し。有機ELは他社協業も


平井一夫社長兼CEO

 ソニーは12日、平井一夫CEOら新経営陣による経営方針説明会を開催。「ソニーを変える。ソニーは変わる。」と切り出し、2012年度にエレクトロニクスで売上高6兆円、営業利益率5%を実現し、グループ全体で売上高8兆5,000億円、営業利益率5%以上、ROE 10%を達成することを経営目標に掲げた。

 そのために「エレクトロニクス事業の再生」を最大のテーマとし、コア事業(デジタルイメージング、ゲーム、モバイル)の強化、テレビ事業再建、新興国事業の拡大、新規事業創出/イノベーション加速、事業ポートフォリオの見直しに取り組む。


ソニーを変える。ソニーは変わる。

 平井社長は10日に発表した下方修正について言及し、「5,200億円の赤字見通し、CEOとして重く受け止めている。同時に必ずやソニーを再生する決意を固めている。ソニーが変わるのは今しかない。2月の社長拝命後、多くのステークホルダー(利害関係者)から『変革を望む、後押しする』という声を頂いた。もちろんソニーの社員からも。『ソニーを変える。ソニーは変わる。』本気で、全力で、社員一丸となって変えていく」と述べ、新体制の経営方針を説明。エンターテインメントと金融事業の安定とともに、「グループの最重要事業であるエレクトロニクスを立て直し、再生から成長へと転換する。それが私に与えられた最大の責務。ただし、ソニーのエレクトロニクス事業立て直しに秘策はない。たっぷり時間を掛ける余裕も全く無い。現実を直視し、様々な課題について解決、確実にスピーディに実行していく。それがソニーを変える唯一の道」と意気込みを語り、具体策を説明した。


■ エレキ再生へ、コア事業はDI、ゲーム、モバイル

エレクトロニクス事業課題認識

 最大のテーマは、不振のエレクトロニクス事業の再生。エレクトロニクスの課題は、「事業経営のスピード」、「長期戦略に基づく投資領域の選択と集中」、「イノベーティブな商品/サービス、技術開発力」、「テレビ事業8期連続の赤字」の4点。平井社長は「これを解決しなければ、ソニー再生はない」とする。一方、「解決策はソニーの中にある」とし、「グローバルな事業展開力とブランド力」、「デジタルイメージング/ゲーム領域などの技術開発力」、「音楽/映画/ゲームのコンテンツ資産、ノウハウ」、「ソニーのDNA」の4点を挙げ、「これらを十二分に生かせる経営基盤を作って、実績をつむ」と基本方針を説明した。。

 エレクトロニクスのコア事業は、デジタルイメージング(デジタルカメラ、ビデオカメラ、イメージセンサーなど)とゲーム、モバイルの3領域。新体制では、この3事業を中心にエレクトロニクス事業の再生と成長を目指し、3事業のエレクトロニクス内の売上高構成比を現在の60%から2014年度までに70%まで拡大。営業利益の'14年度構成比率は85%を目指す。そのため、グループの研究開発費の約70%をこの3事業に投入する。

ソニーの強みエレクトロニクス重点事業領域。コア事業の構成比を拡大

 デジタルイメージング事業は、民生機器や放送業務機器、イメージセンサーの各事業を集約。「従来とは全く違う体制にした」とし、レンズ技術やセンサー技術などをそれぞれで共有し、強みを活かした商品差別化へ繋げる。また、イメージセンサー技術のメディカル領域やセキュリティ領域への展開なども検討。2014年度の売上高1兆5,000億円、2桁の営業利益を目指す。

 平井社長は、「デジタルカメラやビデオカメラの市場は、スマートフォンの伸張の影響で今後大幅な拡大は難しいと認識している。しかし、シェアを得れば確実に利益が見込める事業だ。また、レンズ交換式は拡大市場で、市場の伸び率を上回り、収益を上げていく」と説明。オペレーションの改善による、高効率な開発体制も強調した。

エレクトロニクス重点事業領域エレクトロニクス事業課題認識

 ゲームは、PlayStation VitaやPlayStation 3などと周辺機器で堅実な利益を創出。2014年度売上高1兆円、営業利益率8%を目指す。「スマートフォンなどにおけるカジュアルゲームやソーシャルゲームが人気で、ゲームの事業モデルは変化している。そうした変化を見極めながら、ソニーは没入感あるエンタテインメント体験を提供し続けていく」という。

 また、PS3、Vita、PSPで着実な利益を創出しながら、ネットワークサービスも拡大を図る。ダウンロードコンテンツや定額課金も拡大し、ネットワークサービスで'14年度は11年度の3倍の収益を上げる。PlayStation Suiteにより対応端末も拡大する予定。

ゲームゲーム事業の重点施策

 モバイル領域については、スマートフォン(Xperia)、タブレット(Sony Tablet)、VAIOなどの技術開発、設計、販売、マーケティングなどを融合させ、通信技術やビジネスのノウハウを積極的に集約、活用する。2014年度の売上高目標は1兆8,000億円。収益性の改善も目指す。

 「今後、ソニーモバイルコミュニケーションズがスマートフォンのリーディングポジションを獲るためには、さらなる経営のスピードが必要。商品投入のスピードもそのひとつだ。主要モデルの製品開発リードタイムは従来の半分に短縮し、より魅力的な商品をスピーディに投入する。同時にXperiaとタブレットなど、設計や販売のワンプラットフォーム化を実現。効率化を図る」と開発、販売体制の変化を説明。

 さらに、「ソニーはモバイルだけでなく、さまざまな機器でネットワーク化を進めている。スマートフォンはその“ハブ”となるデバイス。クラウドを前提としたビジネスモデルの開発も進めていく。ソニーモバイルコミュニケーションズがソニーの完全な一員になることで、ソニーの強いアセットを投入し、よりイノベーティブな商品により、市場シェアを拡大する。'14年度は'11年度の約2倍の売上を実現する」とスマートフォンの重要度を強調した。

モバイルも重視スマートフォンにソニーのアセットを集約

■ TVはモデル数削減。有機EL「他社と協業も」、CLEDの商品化も明言

 テレビ事業は「さらなる事業構造の改革に取り組む」と宣言。S-LCDの合弁解消に続き、設計効率削減やモデル数削減に取り組み、2012年度は昨年比でモデル数を約40%削減する。また、テレビ事業に固定的にかかる費用を'13年度には約6割削減、オペレーションコストは'13年度に'11年度比較で、約3割削減。他社との協業も含めた構造改革を進め、2013年度の黒字化達成を目指す。

 液晶テレビのBRAVIAは「当面の主力。しっかりビジネスに勝ち抜いていく」とし、高画質、音質の追求とともに、地域ニーズを取り入れた商品投入を行ない「確実な収益につなげていく」。一方で、有機ELについては「他社との協業も視野に入れていく」とし、Crystal LED Display(CLED)など次世代ディスプレイ開発、商品化にも取り組む。Crystal LEDの実用化時期については「これ以上申し上げる段階ではない」とした。また、モバイル機器連携、ネットワーク連携などでソニーのテレビの魅力を高めていく方針。

テレビ事業の再建目標テレビ事業再建策商品力強化へ、次世代ディスプレイ開発も

 一方で、テレビはコア事業から外れている。今後どのように位置づけていくのか? 投資していくのか? との質問に、平井社長は「現行の液晶のビジネスにはこれからも注力していく。また、今後の新しい技術で、自社で全部やるというオプション以外に他社との協業も検討はしていく」と言及。テレビ事業を続ける理由については、「2013年度に黒字化するという目標で、いろいろな対策に着手している。それを着実に解決して、事業の健全性のために前向きに進んでいる。テレビはいろいろなコンテンツを楽しむ、家庭の中心になる製品。また、ソニーのDNAの中にテレビがある。そのビジネスは継続したい。そのために黒字化が必要」とした。

 2013年度のテレビの売上規模については、「売上が('11年度比)フラットでも収益をあげられる体制を考えているが、2,000万台以上にはなると思っている。'12年度も2,000万台以上」とした。

 Appleが計画中とされるテレビについては、「他社についてコメントする立場にない。ソニーの製品の画質や差異化できるポイント、自信を持ってお届ける製品を市場に出していきたい」とコメント。ジャパンディスプレイのように、政治主導でパナソニックやシャープとのテレビ事業を合併する可能性については、「今お伝えできることは特に無い。あらゆる可能性を探っていく」とした。


■ メディカルと4Kでイノベーション

 新興国向けの事業拡大については、グローバルな事業展開とブランド力を生かし、2014年度売上高は、'11年度比で8,000億円増の2兆6,000億円を目指す。インドやメキシコなどのAV/IT市場でのシェアの高さを生かすほか、販売オペレーションの改善や地域ニーズにあった製品投入、映画や音楽を活かしたマーケティング施策などに取り組む。「リーディングエンタテインメントカンパニーとしてのソニーの魅力を、商品に落としこみ、販売を促進していく」という。

新興国の売上を大幅拡大重点施策新興国での事業拡大策

 新規事業創出については、メディカルと4K関連の2つの事業について説明。メディカルは、すでに参入済みの医療用プリンタやモニター、カメラなどで2014年度売上高500億円を目指す。加えて、デジタルイメージングの各要素技術を生かして、内視鏡などの医療機器向けビジネスや半導体レーザー、イメージセンサー、微細加工などを活かしたライフサイエンスに参入予定。M&Aも積極的に行ない、「将来のソニーの事業の柱の一つにする」という。将来的に1,000億円の売上を目指す。

 4Kは「イノベーション加速の事例」として言及。「圧倒的な映像体験は、ソニーが最も得意とすること。4Kを軸に技術開発し、業務から民生用ハイエンドまで広げてきた。ソニーのAV技術を結集した4Kは、ソニーの大きな技術資産。業界最高画質のカメラ『F65』から民生用のプロジェクタなども用意した。今後も順次拡大していく」とした。

メディカル事業を強化4Kでイノベーションを加速

 また、質疑応答では、「イノベーティブな製品を生み出せていない理由」について質問が及んだが、「ヘッドマウントディスプレイ(HMZ-T1)などはソニーらしい製品だと思う。また、ミラーレスカメラ、プレイステーションなども評価いただいている。これからのポイントは市場のニーズ。どういう環境で使うことをユーザーが望んでいるか。それを吸い上げないといけない。市場のニーズや予測を捉えながら、どういう技術でユーザーの夢を叶えるのか、そこを徹底的に掘っていく。また、いかに効果的に機能や楽しさを伝える、体験、コミュニケーションしてもらえるマーケティング能力、営業、セールス、物流パワーが組み合わさることで、初めてイノベーティブなものを届けられる。体制の変更もその一環だ」とした。


■ 「再生に痛みは避けられない。臆せず改革」

事業ポートフォリオを見直し

 重点領域を強化する一方で、事業の見直し、集中と選択も進める。投資に関しては、イメージセンサーの生産能力やモバイル機器向け設備投資を、また新規領域であるメディカル事業の開発、M&Aなどの戦略投資を検討する。

 一方で、その他の領域については、事業性を判断し、提携や事業譲渡などの可能性も積極的に追求していく。事業性の判断ポイントは以下の4つ。


  • 損失計上、低収益又は営業キャッシュフローがマイナス
  • 重点事業領域に対するシナジーが小さい
  • 製品のコモディティ化が進み、成長が見込めない
  • ソニー単独での事業継続より他社との提携の方が再生、成長の可能性が高い
1万人規模の人員削減

 例えば中小型液晶ディスプレイのジャパンディスプレイへの譲渡、ケミカルプロダクツ事業のグループ外譲渡の検討などは、こうした基準から判断。さらに、電池事業のうち、電気自動車向けや蓄電用途の製品については、他社との提携も検討していく。本社組織や子会社、販売体制などの再構築も進め、2012年度に約1万人の人員減を見込む。そのための構造改革費用として750億円を計上する。なお、1万人にはジャパンディスプレイは含まないが、ケミカルプロダクツ事業の約3,000名は含まれている。基本的に事業譲渡先での雇用が維持される形を想定しているとのこと。

 経営体制についても、CEOを核に意思決定を明確化。「One Sony One Management」と掲げる。また、BtoBとBtoCの区分けも撤廃した。

 平井社長は、「これらの施策を着実に実行し、2014年度に売上高6兆円、営業利益率5%以上、グループ全体で売上高8兆5,000億円、営業利益5%以上、ROE 10%以上を達成する」と目標を設定。「エンターテインメント、金融に、エレクトロニクスの復活が加わることで、他のどの企業にもないソニーの強みが発揮される。いかにエレクトロニクスを立て直し、成長するかの第1歩。今後もさらなる変革のためのアクションを追加していく。私の持論として、戦略、施策をどれほど周到に準備しても、実績が伴って初めて意味がある。評価いただくのは、私達がひとつひとつ確実に実績を積み上げていくしか無い。これからの、私、及びソニー社員ひとりひとりの実行力にかかっている。再生には避けて通れない痛みを伴う判断、実行の場面もあるだろう。だが、臆していてもソニーの改革はできない。経営のスピードを上げ、事業ポートフォリオを変え、イノベーションを起こす。世界中の人の好奇心を刺激するサービス、商品を届ける会社になること、それが私たちソニーのゴールだ。社員一丸となって徹底的にやりぬく覚悟だ」と宣言した。


(2012年 4月 12日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]