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ソニーグループ新社長に十時裕樹氏。吉田氏は会長CEOへ

現会長兼社長CEOである吉田憲一郎氏(左)と、4月1日付で社長COO兼CFOへ昇格する十時裕樹氏

ソニーグループは2日、現副社長兼CFOの十時裕樹氏を、4月1日付で社長COO兼CFOへ昇格する人事を発表した。現会長兼社長CEOである吉田憲一郎氏は、4月以降、会長CEOに就任する。ソニーグループでの社長交代は5年ぶりとなる。

今回の人事は、グループ経営体制の強化を目的として吉田社長が提案したもので、指名委員会での審議を経て、2日の取締役会で決議されたもの。同取締役会では、経営体制強化の一環として、現執行役専務の御供俊元氏が、4月1日付で執行役副社長CSOに就任することも決議されている。

コンテンツIP・半導体事業を財務面でサポートした実績を評価

4月1日からの新しい経営体制にあたり、十時・吉田両名による記者会見が行なわれた。

登壇した吉田会長兼社長CEOは、「(我々は)感動を作り、届けるという社会的意義に、各事業のベクトルを合わせると共に、個々の事業、組織、社員の自立性を重視した経営を推進している。一方で、長期視点での、グループ全体の価値向上のためには、キャピタルアロケーション、事業間連携、事業ポートフォリオマネジメントの3つをしっかり実行していく必要がある。これらの実践に向け、経営体制を強化すべきと考えた」と、体制変更の背景を説明。

そして新たに社長に就任する十時氏については、各事業のオペレーションに対する深い理解を持つこと、さらに2018年4月から約5年間に渡って、CFOとしてグループの成長戦略を財務面から牽引したことを高く評価。

吉田憲一郎氏

「(十時氏の)最大の貢献は、成長投資とサポート。1つはコンテンツIP。アニメ配信のクランチロールのようなDTC領域での買収もあるが、特にコンテンツIPの強化に注力した。契機となったのは、CEO就任直後の2018年5月に行なった音楽出版会社・EMI Music Publishingの買収であり、彼はこの買収を条件交渉も含めリード。そして、もう1つは半導体。私はCMOSイメージセンサーは、感動を作る“クリエーション半導体”と位置付けている。彼はその需要や競争環境、開発ロードマップについて、事業側と綿密に議論を重ね、リスクをマネージしつつ投資をサポートしてくれた」

「その他の貢献として、現中期経営計画における2兆円の戦略投資枠の設定が挙げられる。彼が主導したこの投資枠設定は、グループ全体の成長マインド向上につながっている。さらには、戦略投資の一環と位置付けている自己株式の取得もある。彼は投資期間や財務状況を勘案しつつ、2018年度以降の約5,000億円の自己株式取得をサポートしてくれた」

「十時とは、私がソニーコミュニケーションネットワークの社長になった2005年から一緒に仕事をしてきている。外部環境を俯瞰した、戦略的視点を持った彼から、多くの気付きと学びを得てきた。また彼はソニー銀行を自ら企画、創業し、代表取締役として運営した経験も持っている。加えて、2014年から3年強、ソニーモバイルのトップとして、大組織を直接指揮するなどの幅広い経験を積んできている。今後、十時が社長COO、CFOとして企業価値向上に向けて、より大きな貢献をしてくれると確信している」と話し、十時氏の更なる貢献に期待を寄せた。

また、次の副社長に就任する御供氏については、「御供は知的財産領域での経験が長く、テクノロジーに対する知見や戦略的視点を持ち合わせた人材。直近では、新規事業開発やコーポレートベンチャーキャピタル、バーチャルプロダクションやメタバースなどの事業をグループ横断で牽引してくれている」と紹介。

「我々は感動を作り、届けるという感動バリューチェーンで事業を行なっているが、彼はその事業の幅を拡げ、深める役割を担っている。今年CTOに就任した北野とも連携して、テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンターテインメントカンパニーとしてのソニーの進化に貢献してくれると期待している」と話した。

4月から会長CEOに就任する吉田氏は、「ソニーの、世界を感動で満たすというパーパス。そして人に近づくという経営の方向性は今後も変わらない。またソニーグループの多様な事業を推進する主体は、パーパスを共有する約11万人の社員。これからもパーパスの元、経営チームが一体となり、社員と共に長期視点での価値創出に取り組む」と今後の抱負を述べた。

顧客に選ばれ、社員を元気に。ポジティブスパイラルを生み出したい

続いて登壇した十時氏は、これまでの職歴を振り返りつつ、自らを改めて紹介。

4月1日付で、ソニーグループの社長COO兼CFOへ昇格する十時裕樹氏

「私は1987年にソニー入社し、ロンドン駐在を含め財務の業務に携わった後、2002年にはソニーを退社した上で、自ら創業主導したソニー銀行の代表取締役に就任した。小規模ではあったが、スタートアップの精神で新たな事業を起こし、経営するという経験は今の私の経営に対する価値観の基礎を形成している。その後、2005年にISP事業のソネットに移り、吉田の下でCFOなどの役割を幅広く担った」

「2013年12月にはソニーに復職し、ソニーモバイルCEO、ソニーの執行役CSOなどを経て、吉田がソニーのCEOに就任した2018年に現職のCFOに。以来、吉田が主導する経営チームの一員として、ソニーグループの企業価値向上に邁進してきた」と話した。

現在のソニーグループの状況に対しては、「各事業のマネジメント、そして社員一人一人の努力のおかげで、今年度の業績見通しは過去最高の売上高、営業利益を1兆円を超える高水準を見込んでいる」としながらも、「不透明な世界経済、地政学的リスク、エネルギー問題、自然環境など、不確実性が一層高まっている。加えて、AIに代表されるような急速なテクノロジーの進化を、事業のさらなる成長につなげられるか、逆にディスラプトされるかは紙一重だという危機感も強くしている」とコメント。

そして「事業環境や技術の大きな変化の中で、グループとしてのレジリエンスを高めていく鍵は多様性の進化。事業そして人材の多様性はソニーのDNAだが、多様性はさらに進化させるべきであり、社内外の様々な属性、経験、専門性を持った人材が集まり、その発想や想像力を解放することで未来を競争し、そして個人も企業も成長し続ける、そうした姿を目指したい」

「ソニーグループがその多様性を生かし、進化・成長し続けることにより、顧客に選ばれ、社員を元気にし、優秀な人材を集めて企業価値を高め、そして社会に還元する。そうしたポジティブスパイラルを生み出していきたい」などと、抱負を述べた。

新社長のスローガンは、“成長”

会見での主な質疑応答は、下記の通り。

――社長という新しい立場で、どのような事業を取り組んでいきたいか、またはどのような新しい事をやりたいと考えているか

十時氏:まずは、今の中期経営計画で計画している事をしっかり押し上げた上で、さらなる成長を作るということになる。基本的には、今の事業をそれぞれ強くしていく、という方向で考えている。

――CFOは特別な権限もあると思うが、CFOと社長COOを兼務することに関しても問題となるようなことはないのか。また、なぜこの時期の体制変更なのか。

吉田氏:十時のCOOは、“グループCOO”という立場であり、直接オペレーションの現場を指揮するものとは性格が異なると思う。財務関係を含めてオペレーションを深く理解するCOOがCFOを兼ねることは、我々にとっては、グループ会社であることを考えると、合理的でありコンフリクトもないと考える。グループ全体の視点で、各事業のオペレーションを確認し、正しい方向にリードしていくというのが役割だと考える。

当社は、3年単位の経営計画を進めており、いまはその2年目ではあるが、実際の経営はより長い視点で行なっている。一方で、外部環境の変化が激しい。テクノロジーの大きな変化や、地政学的リスクの高まりなどだ。このようなタイミングで、経営体制を強化、、、つまり、キャピタルアロケーション、事業間連携、事業ポートフォリオマネジメントを着実に実行・強化することが必要と考えた。

吉田憲一郎氏

――吉田会長がCEOとして残るという“2トップ”体制になったが、この狙いは何か。また、二人ともCFO出身者となるが、その経験にはどういった事業課題があるのか。

吉田氏:今回の人事は、経営体制を変えることでhなく、経営体制の強化が目的。COOを新たに入れて、キャピタルアロケーション、事業間連携、事業ポートフォリオマネジメントを着実に実行して行くことが必要と判断した。

CFO出身者とのご指摘だが、私自身は以前はソネットというプロバイダーで9年ほど社長を務めていた。事業はいろいろな、多様な経験を積んでいく方が良いし、十時は銀行を立ち上げた創業の経験者であり、ソニーモバイルのトップも経験している。こうした経験を次も生かしてくれるものと考えている。

――歴代の社長はミッションと言うか、スローガンがあった。十時氏はどのようなスローガンを掲げるのか。

十時氏:私は“成長”にこだわっている。事業、それから会社というものは成長が停滞してしまうと、いろいろな意味でネガティブスパイラルに陥る。ですから、成長にこだわって実現していくということで、先ほどのスピーチで申し上げたように、お客様に選ばれ、社員を元気にして、というようなポジティブスパイラルをきちんと作り上げていく。ですから、一言で申し上げるなら、わたしは“成長”ということになる。

――COOとCEOが分かれていることによる弊害はないのか。

吉田氏:当社の経営は、私自身がワントップで行なっているというよりも、チームとして経営・運営をしている。そのうえで、外部環境として、地政学的リスクや技術の進化といった大きな変化が起きている。そして内部的にも、パーパス経営としては自立性を重んじるが、自立性を重んじる経営の中でも、キャピタルアロケーションを考え抜く、事業間連携をやっていく、ポートフォリオマネジメントをしっかり実行していく、ということで、経営に対する外部環境を含めた深い理解が必要。

では、十時が深いが無いかというと、ある。ただ、社長COOというタイトルを持ってもらう事で、より内部の求心力であったり、あるいは外部とのインターフェイスなどを、より高い次元に持って行って、より大きな役割を果たしてもらおうと考えた。

――具体的に何をやろうとしているのか。これからの吉田さんのリーダーシップと、十時さんのリーダシップとで、それぞれどのような役割でポートフォリオを作っていこうとしているのか。もう少し詳しい、方向性を聞かせて欲しい。

吉田氏:詳細についてはこれから議論していく事になる。事業ポートフォリオについては成長させていきたいと考えているが、同時に経営の規律として、適宜「このポートフォリオは最適か?」ということは自問、あるいは取締役会で議論するなどのことは必要と考える。

十時氏:事業ポートフォリオというのは、静的ではなく動的なもの。それから事業が多様であるという事は、それぞれ異なるハードウェアライフサイクルがあるため最適な形を作っていかなければならない。俯瞰するにはかなりのパワーが必要。そういう意味では、経営体制の強化は理にかなっているし、経営のスピードも上げていかなければならない。そこで私が果たす役割は大きいと自覚している。

十時裕樹氏

――どのような会社にしていきたいか。それから、個人的に大事にしている信条があれば、聞かせて欲しい。

十時氏:我々は、吉田を中心にしっかりパーパスを定義し、感動バリューチェーンを拡げていくということを内外に謳っている。これをしっかり具体的なものにしていく。理想の姿としては、説明しなくても、皆さんがそうしたイメージを持っていただけるようにしたいし、それを現実のものにできるように邁進したい。

経営の要諦は勇気と忍耐にあり、という言葉が好き。少なからず経営に携わってきて、やはりリスクを見極めたうえで判断する勇気、決める勇気が必要だと思う。そして時には逆風や矛盾があり、それに耐え抜く忍耐力の重要性も感じている。これは自分自身にも常々言い聞かせていることでもある。

――十時氏以外の選択肢はあったのか。

吉田氏:今回の人事について、指名委員会と最初に議論したのは昨年の7月。その時に私が十時の強みとして最も挙げたのが、成長に対する強い意志。これは経営者として重要な資質だと思っている。そして、会社の成長がここで働く社員の成長にも繋がるという彼の心根も大事なポイントだと思っている。昨年から十時が社長COOにふさわしいということを申し上げ、委員会で議論説明し、十時自身も委員会や取締役会とも議論してきたという経緯だ。

――今後吉田氏はCEOとして何をするのか。

吉田氏:CEOとしてやることはたくさんあると承知しているが、最終的には責任を取る、という事だろうと認識している。

吉田憲一郎 コメント

当社は『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』というPurpose(存在意義)のもと多様な事業を営んでいます。グループとしての価値創造に向けてキャピタルアロケーション、事業間連携および事業ポートフォリオマネジメントを着実に実行するために、取締役会とも議論の上、十時の社長昇格とCOO就任を決定しました。

十時裕樹 コメント

「ソニーグループの社長COOを新たに拝命するにあたり、吉田および取締役会からの信頼に感謝するとともに、大きな責任を感じています。事業環境や技術が大きく変化する中でも、顧客に選ばれ、社員を元気にし、優秀な人材を集め、企業価値を高め、そして、社会に還元する、そうしたポジティブスパイラルを、吉田、ソニーグループの経営陣、そして世界中の社員とともに生み出していきたいと考えています。

隅修三(取締役会議長、指名委員会議長) コメント

昨夏、吉田から、グループ経営体制の強化のために十時を新たに社長COOに推薦したいという提案を受けました。CFOとしての十時の素晴らしい成果は取締役全員の共通認識でしたが、提案以降、指名委員会においてCOOの必要性や十時の社長COOとしての適性など、多面的に検討を行った上で、取締役会において審議し、本日、全会一致で決議しました。