藤本健のDigital Audio Laboratory

第689回 扇風機やドローンで演奏? ラズパイシンセなど、Maker Faireで見つけた音モノ

扇風機やドローンで演奏? ラズパイシンセなど、Maker Faireで見つけた音モノ

 8月6日、7日の2日間、東京ビッグサイトにおいてDIYの展示発表会「Maker Faire Tokyo 2016」が開催された。その中から、ユニークな音モノや電子楽器の作品を見てきたので、撮影した動画も交えながら、面白かった作品をピックアップして紹介したい。

Maker Faire Tokyo 2016

 アメリカの各地を中心に各国で開催されているMaker Faireは、東京での開催は前身のMake Tokyo Meetingを含めると、今回で12回目となる。エレクトロニクス(電子工作)、ロボット、クラフト、ペーパークラフト、サイエンス工作、リサイクル/アップサイクルなど、さまざまな手作り作品が展示、デモされる中、音モノや電子楽器というのも一つの大きなジャンルになってきている。

会場は東京ビッグサイト

ドローンの動きでシンセサイザの演奏が変化。真空管「Nutube」先行販売も

 まずは、Maker Faire Tokyoの特設ステージから。FPV Drone Raceというドローンを使ったレース会場があり、ここではヤマハが演出協力をしていた。ドローンとヤマハがどんな関係なの? と不思議に思う方もいると思うが、まずは以下のビデオをご覧いただきたい。

ヤマハが演出協力していたドローンレースの模様

 これは、ドローンのリモコンを操作するとシンセサイザの演奏が変化するという仕掛け。ドローンのリモコン操作においては大きく、4つのパラメータがあるが、そのうちスロットルとラダーという2つのパラメータに対してMIDIのパラメータを割り当ててエンジン音のようにピッチが変化したり、音の“うねり”を与えるようにしている。

スロットルとラダーに対してMIDIのパラメータを割り当て、音が変化

 とはいえ、ドローンとシンセサイザをそのまま接続できるのではない。実は、このリモコンから出された電波はドローンに届くだけでなく、ここに設置した別の受信機でも受け取れるようにしてある。そして、その受信した信号をMIDIに変換してシンセサイザに送っていたのだ。

リモコンから出された電波を受信した信号をMIDIに変換してシンセサイザに送る

 これを使って、ドローン操作の達人・岡聖章氏がプレイしたのが、以下のビデオだ。

岡聖章氏がドローンを操作

 この受信した信号はMIDIへの変換だけでなく、照明にも活用されるなど、さまざまな機器が接続されている。これを可能にしたのは、先日AMEI(音楽電子事業協会)が運用を開始したGitHub(ソフトウェア開発プロジェクトのための共有Webサービス)、「Creators' Hub」の存在があるとのこと。今後、MIDIはさまざまな分野と接続できるプロトコルとして注目を集めていきそうだ。

 先日、記事でも紹介した蛍光表示管技術を応用したコルグとノリタケ伊勢電子の小さな真空管「Nutube」が、Maker Faireで先行販売された。価格は5,000円だったが飛ぶように売れていた。

Maker Faireで先行販売された「Nutube」

 また、ここでは2日間で90個限定という形で、Nutubeを使ったヘッドフォンアンプも10,000円で販売され、取材で行った初日は夕方には完売していた。そのほか、このNutubeを使ったフォノイコライザ、プリアンプ、ギターアンプなどが参考出品されていたが、今後は部品として秋葉原などで販売されるほか、Nutubeを組み込んだ各種製品が販売されることになりそうだ。

Nutubeを使ったヘッドフォンアンプも販売
フォノイコライザ
プリアンプ
ギターアンプ

扇風機の楽器「扇風琴」。手回しMIDIシーケンサや、ハンドベルを鳴らす「ベルナール」

 アーティストである和田永氏を中心とするプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」が展示・デモしていたのは、新たな楽器「扇風琴」。まずは、和田氏による演奏をご覧いただきたい。

「扇風琴」の演奏
アーティストの和田永氏

エレクトロニコス・ファンタスティコスでは廃家電を用いたライブイベントなどを展開しているが、この扇風琴は扇風機の羽部分に穴の開いた旋盤をセットし、裏側からLEDの光を当てる。表側ではcdsセンサーの付いた装置で光を受け、光量に応じて電圧が変換するようになっているので、扇風機の回転に応じて音が出るというわけだ。この穴の大きさの違いで4音階が出るそうで、これを用いて演奏しているわけだ。

扇風機の羽部分に穴の開いた旋盤をセット
cdsセンサーが付いた装置を使用

 奇学堂&Companyでは、さまざまな機材を展示していたが、その一つが手回しMIDIシーケンサだ。まずはその演奏をご覧いただきたい。

手回しMIDIシーケンサ
演奏デモ

 この手回しMIDIシーケンサを見たことがある方はいるかもしれない。実は学研の大人の科学のふろく「手回し鳥オルガン」を改造したものなのだ。本来は空気を使って笛を鳴らすという仕組みだったが、空気の出し口と受け口にLEDと光センサーを設置し、シートの穴を検知する仕掛けがされている。さらにその検知した結果をArduinoを使ってMIDIに変換した上で音源を鳴らしていたのだ。開発を行なったのはiOSアプリの「DXi」でも知られる水引孝至氏。水引氏は、そのDXiをRaspberry Piへ移植したRaspberry Op.4を展示するとともに、それを使ったデモも行なっていた。

空気の出し口と受け口にLEDと光センサーを備え、シートの穴を検知
水引孝至氏
DXiをRaspberry Piへ移植したRaspberry Op.4

 ベルが鳴るから「ベルナール」と名付けたユニークな楽器を展示・デモしていたのはスリックの藤原晃平氏。これは鈴木楽器製作所が発売しているハンドベルに、アクチュエータのソレノイドを取り付けて鳴らせるようにしたもの。以下が、そのベルナールでのデモ演奏だ。

鈴木楽器製作所のハンドベルにソレノイドを取り付けて鳴らす
スリックの藤原晃平氏
ベルナール

 同氏は昨年のThink MIDI 2015でもオルゴールをMIDIで鳴らせる機器の展示を行なっていたが、そのシステムをハンドベル用に応用したのが今回のベルナールだという。裏側を見ると、MIDIオルゴールの初期型から持ってきたシステムが繋がっており、これで鳴らしているわけだ。ベルナールは、あくまでもMaker Faireでの展示用だが、MIDIオルゴールのほうは、製品化に向けて開発を進めているという。

楽器メーカーもユニークなシステムで参加

 企業内のクラブ活動としてMaker Faireへ出展している会社も複数あったようだが、その中の一つが、楽器メーカーの“R社”。WOSK、R-MONO Labという2つのクラブとして、かなり本気な作品を展示していたので、これらについても紹介していこう。

 Maker Faireに2014年から出展し、今回が3回目となるWOSK。彼らが作るのは、ブロックのように抜き差しして変形自在なMIDIのコントローラ、「Custom Layout MIDI Controller CC-1」。ノブやスライダー、ボタンといったブロックを並べるだけで、自分の好きな形に作ることが可能になっており、Ableton LiveのようなDAWに接続して使える。

Custom Layout MIDI Controller CC-1
3回目の出展となるWOSK
ノブやスライダー、ボタンなどのブロックを好きな形に並べられる

 従来は赤色LEDで光る単色のものだったが、今回はフルカラーLEDが内蔵されるとともに、その色をWebMIDI APIを使って外部からコントロールできるようなアプリケーションも用意された。このアプリケーションは、どこにどのブロックが刺さっているかを認識するとともに、色の設定も可能。この抜き差しは電源を入れたままの状態で行なえるなど、かなり完成度の高いシステムになっている。

フルカラーLEDの色をWebMIDI APIで外部からコントロールできるようなアプリケーションも

 WOSKというチーム名は、W=渡邊氏、O=岡村氏、S=白木氏、K=古賀氏の頭文字をとったもの。このまま楽器メーカーとしてネット販売でもすれば、世界中でかなりの数が売れるのでは……とも思うが、現時点ではまだ具体的な発売計画まではないという。

 一方R-MONO Labのほうは、いろいろな作品が展示されていたのだが、まず注目度が高かったのはRaspberry Piを使ったデジタルシンセサイザ、「革新的ラズパイ・シンセ」S3-6R(エスキューブ6R)というもの。まずは、その音を聴いていただきたい。

S3-6Rの演奏
Raspberry Piを使ったデジタルシンセサイザとなっている

 シンセ好きな方であれば、この破壊的なサウンドにグッとくるのではないかと思うが、これはR社の元サウンド・エンジニアであるシンセ仙人氏が独自開発した音源で、SuperSAWをさらに発展させたような波形が出せるというもの。いわゆるアナログモデリング・シンセサイザとは一線を画すもので、独自の位相制御/変調思考(αα-Phase Modulation)に基づいたシンセシスを行なっているとのこと。96kHz/24bitのサウンドで、6音ポリフォニックを鳴らしているのもすごいが、過激な変調を行なってもエイリアス・ノイズが非常に少ないのも特徴。このまま製品として発売してほしいほどだが、現時点では発売/プログラム公開の予定はないとのことだ。

シンセ仙人氏

 R-MONO LabのDAICHIさんがバイオリンを弾きながらデモをしていたのはLadyBUGというテントウ虫のような外形のトレモロ・エフェクター。まずは、以下のビデオをご覧いただきたい。

トレモロ・エフェクター「LadyBUG」

お分かりいただけただろうか? これは4×4ボタンのシーケンサのようなトレモロで、点灯しているところでオン、消灯しているところでオフとなるよう、Arduinoでコントロールしているという。フットスイッチをタップすることでテンポを調整できるほか、RATEノブで微調整も可能。また消灯時に完全にオフにするだけでなく、音を小さくするようにインピーダンスコントロールすることも可能になっているとのことだ。

 同じくR-MONO Labの山本氏がデモ演奏していたのはハイブリッド・リコーダー・パイプオルガン RP-103とRP-09。これはMIDIで演奏できるリコーダーを使ったパイプオルガン。見ての通り、アルトリコーダーやソプラノリコーダーを並べテープで穴をふさぐことで音階を固定した上で、空気を流して音を出すというもの。

RP-103(左)とRP-09(右)

 送り出す空気はビーチボールを膨らませる足ふみポンプで、ある程度の空気をあらかじめ貯めておけるよう途中にビーチボールもバッファとして用意されている。また、空気の送り出しのオン/オフはMIDIからの信号を元に、Arudinoを用いてソレノイドで制御している。仕組みはともかく、実際の演奏をご覧いただきたい。

ハイブリッド・リコーダー・パイプオルガンの演奏
R-MONO Labの山本氏
ビーチボールを膨らませる足ふみポンプで空気を送る

 ご存じの方もいるかもしれないが、実はこのRP-103は昨年のMaker Faireでも出品していた。ただ、RP-103は13音しか出ないため、パイプオルガンとして演奏させたいバッハの「トッカータとフーガニ短調」 には音域が足りない。そこで、ソプラノリコーダーを用いて高音部9音を鳴らせる新モデルRP-09を開発して、これを追加。13音+9音=22音で先ほどのバッハの曲の演奏が可能になったというわけだ。シュカシュカいうポンプの音が可笑しいが、楽器メーカーの人たちによる開発だからこそできた、かなり高性能なパイプオルガンである。

 R-MONO Labで最後に紹介するのは前出のWOSKの渡邊氏と渡瀬氏が開発したアート作品、水滴ドロップ「WATER MIDI」だ。

水滴ドロップ「WATER MIDI」の演奏

 鍵盤を弾くと、上から水滴が垂れ、水槽に落ちると同時に光の輪が広がるという楽器で、基本的には先ほどのパイプオルガン、RP-103などと同じ仕組みを利用しているのだが、キーを弾くと上にある醤油さしを改造してソレノイドを装着したタンクから水が1滴落ちる仕組みになっている。水滴が落ちる時間を見計らって音と、光の輪が出るよう工夫するなど、かなり完成度の高いアート作品に仕上がっていた。

WOSKの渡邊氏と渡瀬氏
キーを弾くと、醤油さしを改造したタンクから水が一滴落ちる

“世界最小クラス”のシンセ音源など

 「8bit Micro Synth S01」は“世界最小クラスのシンセ音源”としており、ブレッドボードに搭載されたS01と書かれた手作りのもの。8Pin DIPでモジュール化されているS01の中には8bit CPUが搭載されており、そのプログラムで音が出るようになっている。外部との接続はシリアル接続となっており、ここにMIDIの信号を通すのだ。

8bit Micro Synth S01
外部とはシリアル接続

 8bit Micro Synth S01を開発した松井朗氏は、これまでも8bit CPUを使ったシンセ音源を数多く手がけており、先日発売された「A-01」という製品にもその1つが搭載されているという実績を持つ。また、今回はS01のほかにも8bit CPU SynthIII S3aという作品も展示していた。

8bitCPU SynthIII S3a
8bitCPU SynthIII S3aの演奏

 これは8bitCPU1つでどこまでできるかを挑戦したもので、アナログシンセのエミュレータ音源を搭載しているほか、16ステップのシーケンサ、マイクロスイッチを使ったキーボード、さらにオシロスコープも搭載。またMIDI INや外部Sync機能を装備するほか、8音色メモリー、8シーケンスメモリーなど、さまざまな機能を搭載している。

 さまざまなキットを展示するとともに、かなり安価な価格設定で販売していたは、「ハードウェアしか作らないオンラインレーベル」というDm9recordsの八重樫剛氏、浦川拓也氏。3,000円で販売されていたk4b4 mk2というキットは、ツマミ、LED、スイッチが4つずつ付いた小さなUSB-MIDIコントローラだ。

Dm9recordsのUSB-MIDIコントローラ

 基板とともにすべてのパーツが揃ってこの値段というのは、なかなか魅力的だ。また、DJ用に設計した3バンドのオーディオイコライザー/アイソレーターのDM9-ISO、DJ向けの2チャンネルオーディオミキサーのDM-2なども展示、デモをおこなっていた。

 Dm9recordsによると、これらはキットではなく、ユーザーのニーズに応じてある程度カスタマイズしたものを完成品として販売をするとのことだった。

DJ用のオーディオイコライザー/アイソレーター「DM9-ISO」(上)、2chオーディオミキサー「DM-2」(下)
Dm9recordsの八重樫剛氏(左)、浦川拓也氏(右)

 最後に紹介するのは、「Swallow Audio DSP Platform」というかなりハイテクなシステム。5種類ある基板を重ねるだけでハードシステムを構築できるというユニークなものだ。その5種類とは「AlteraのFPGAを搭載したボード」、「XilinxのFPGAを搭載したボード」、「NXPのマイコンボード」、「Cycressのマイコンボード」、「AD/DAボード」。FPGAの2大メーカーのボードを1つずつ用意することで、幅広い機器のプロトタイプを簡単に作ることができるのだという。出展したのは、MASATOSHI HASEGAWA氏、FUMIYA KATOH氏によるチーム、LogiClover。

Swallow Audio DSP Platform
5種類ある基板を重ねてハードシステムを作れるという
MASATOSHI HASEGAWA氏(右)、FUMIYA KATOH氏(左)によるチーム、LogiClover

 当然、プログラムは別途開発するわけだが、このAD/DAは96kHz対応で8IN/8OUTを装備しているので、これを使ってミキサーを作ったり、FPGAでリバーブ、ディレイ、コーラス……などさまざまなエフェクトを実装させることもできるという。ここでは、液晶ディスプレイを接続した上でイコライザを動かしていた。

Swallow Audio DSP Platformを使ったシステムの例

 Maker Faire Tokyo 2016には、ほかにも数多くの音モノの展示がされていて、全部紹介しきれていないのが残念だ。毎年規模も大きくなってきており、音モノの出展数も飛躍的に伸びてきているようだ。ご覧いただいても分かるように、このまま発売してもいいのではと思われるものもいっぱい。作っているのも楽器メーカーの社員だったり、OBだったりするので完成度が高いのは当然なのかもしれないが、ここから大ヒット製品が生まれる日も近い気がする。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto