藤本健のDigital Audio Laboratory

第690回 iPadで本格的な曲作り。TASCAMの薄型USBオーディオ「iXR」でできること

iPadで本格的な曲作り。TASCAMの薄型USBオーディオ「iXR」でできること

 iPhoneやiPadで利用可能なオーディオインターフェイスはこれまでもいろいろと登場している。基本的にはUSBクラスコンプライアント対応のオーディオインターフェイスであれば、Lightning-USBカメラアダプタさえあれば、何でも接続できるのだが、今回紹介するTASCAMの「iXR」はLightning-USBアダプタ不要で、普通のiPhone/iPad用USBケーブルで接続できるという便利なモデルだ。

TASCAM「iXR」とiPad Air 2

 薄くてコンパクトな機材でありながら、96kHz/24bitまで対応しており、ファンタム電源供給機能、MIDIインターフェイス機能なども備えたなかなか充実した機材。実際、どのくらいの性能があるのかをチェックした。

薄型筐体に機能充実のモバイル向けオーディオインターフェイス

 TASCAMのiXRはiPad Air2より一回り小さいサイズの薄い平型オーディオインターフェイス。WindowsやMacで使えるのはもちろん、iPhone、iPad、iPod touchなどでも使えるMade for iPod/iPhone/iPadのロゴが入った製品だ。いまベストセラーのオーディオインターフェイスであるSteinberg(ヤマハ)のUR22mkIIと並べてみると、そのフォルムの違いもよく分かるだろう。価格はオープンプライスで、実売価格は2万円前後。

上からiPhone 6s、iXR、iPad Air 2
UR22mkII(上)とiXR(下)

 WindowsやMacと接続する場合は、普通にUSB 2.0で接続すればOKで、電源もUSBバスパワーでの供給となる。WindowsもMacもドライバが必要となるが、WindowsであればASIO、MacならばCoreAudio対応で、ごく普通に使うことができる。

 簡単に入出力端子について見ていくと、まずフロントパネル左側に2つ並ぶのがコンボジャックの入力端子。それぞれの右にあるスイッチでINST(ギター)とMIC/LINEを切り替えられるようになっており、コンボジャックだからXLR接続もTRS接続も可能となっている(INSTの場合はアンバランスのTS入力)。それぞれにマイクプリアンプが搭載されており、そのゲインはスイッチ右のノブで調整できるようになっているほか、リアにあるPHANTOMスイッチをオンにすれば、+48Vの電源を供給でき、コンデンサマイクが使用可能となる。

フロントパネル

 フロントパネル右側は出力関連のノブが並ぶ。左から見ていくと、まずはモニターの調整となっており、左側に回すと入力した音をそのまま出力に流すダイレクトモニタリングとなり、右に回していくとPCから音が出ていく形になる。また、シルバーの大きいノブはメイン出力の調整ノブ、その右がヘッドフォン用の調整ノブだ。さらに右にはヘッドフォン出力端子があるが、これを見ても分かる通り、ステレオミニジャックとなっている。

 次にリアを見てみよう。今度は右から見ていくが、一番右にある2つがメイン出力でTRSのバランス出力となっている。また、その隣にはMIDIの入出力があり、さらに前述のPHONATOMスイッチ、そして2つのUSB端子が並んでいる。

 USBの横長のタイプAと正方形のタイプBが2つあるわけだが、PCと接続する場合は、もちろんタイプBのほうを使い、タイプAのほうは不要だ。またWindowsのドライバ画面であるTASCAM iXR Settings Panelを見ると、各種設定項目も見えてくる。まずDirect Monitor SettingsをMonoに設定すれば、ギター接続のときなど、Input-1に入ってきた信号もInput-2に入ってきた信号も、モノラル扱いなのでセンターに定位する形でモニターできるのに対し、Stereoに設定すれば、それぞれ左右からモニターされる形になる。

リアパネル
セッティング画面

 また、IO Settingsにおいてサンプリングレートがいくつであれ、Buffer Sizeは64Sampleから2048Samplesまでの設定ができるようになっている。またAudio Inputはそれぞれチェックを入れて入力可能にしておくべきものだ。

 一方でLine Outputs 1-2ではMonitor MixとComputer Out 1-2のいずれかを選択できるようになっている。デフォルト設定であるMonitor Mixを選んでおくと、フロントのMONITORノブが有効になりダイレクトモニタリングやPCからの音を自由にミックスして調整することができる。それに対し、Computer Out 1-2に設定すると、MONITORノブがどうなっていてもPCの再生音のみが出力されるという形になっている。

ライン出力の設定

 このようにiXRはWindowsおよびMacで使えるオーディオインターフェイスとなっているわけだが、即活用できるように、Cubase LE 8もバンドルされている。バンドルといってもダウンロードの形となっているわけだが、Cubase LE 8はハイブリッドのDAWなので、WindowsでもMacでも利用できるようになっている。

Cubase LE 8もバンドル

iPadに直結、給電もUSBで

 いよいよここからが本題。このiXRをどのようにiPadやiPhoneと接続し、どのように使うのか、という点だ。ここでは先ほど使わなかったUSBタイプAの端子を使う。そしてここに接続するのはiPadやiPhoneに付属している充電やPCとの接続に利用するごく普通のLightning-USBケーブル。これによって、Lightning-USBカメラアダプタなどを使わなくても、接続でき、オーディオインターフェイスとして使用できる。これなら、iXRを持って出かけたときに、「Lightning-USBカメラアダプタを忘れた!」などという心配はいらないし、仮に充電用のLightning-USBケーブルがなかったとしても、周りの人に借りるなり、近所のコンビニへ行って入手することだってできそうだ。

iPadとはLightning-USBケーブルで接続

 ただし、Lightning-USBケーブルではiPadやiPhoneからオーディオインターフェイスへの電力供給はできないため、このままでは動作しない。つまり、別途iXRへ電源供給が必要となるのだが、ここがまたうまくできている。普通ならこのオーディオインターフェイス専用のACアダプタなどが必要になるところだが、iXRでは電源用に、USBタイプBのほうの端子を利用する設計になっているのだ。そして、その電源供給に利用するのは、ごく一般的なUSB用ACアダプタ。iPadやiPhoneに付属のものが、そのまま利用でき、利用するケーブルもごく一般的なUSBケーブルなので、こちらもいざ忘れたような場合にも、なんとかなりそうなのが嬉しい点だ。

給電に、USBタイプB端子を利用

 ほかのオーディオインターフェイスと同様、iPadやiPhoneと接続してしまえば、あとは説明することもないほど簡単に扱える。iTunesの再生などを含め、音の出力は本体スピーカーやヘッドフォンから、iXRへ切り替わり、入力もiPad/iPhone標準搭載のマイクからiXRへと切り替わる。この際、iPad/iPhone単体で使うのと大きく異なるのは、入力がモノラルからステレオになるという点。もちろん、その入力はマイクでもラインでもギターでもOKとなるわけだ。この辺の切り替えやレベル調整などは、すべてiXR側に任されるので、iOS側は特に何の設定もせずに使うことができる。

TASCAM iXR Settings Panel

 なお、本来であればiOSでiXRをコントロールできるアプリ「TASCAM iXR Settings Panel」がリリースされるはずなのだが、まだ開発中のようで現在のところApp Storeには並んでいない。もっとも、ここで設定できるのはダイレクトモニタリングをステレオにするかモノラルにするか、メイン出力をMonitor Mixにするか、iOSからの出力にするか、といった程度なので、なくてもそれほど困ることはないだろう。

 一方で、Windows/Mac用にCubase LE 8がバンドルされたのと同様、iOS側にもアプリがバンドルされている。具体的にはCubase LEのiPad版ともいえるCubasis LEだ。Cubasis LE自体はフリーアプリとしてApp Storeで配布されているが、そのままではプロジェクトの再生しかできず、レコーディングはできない。しかし、これを起動した状態で、iXRと接続すると制限が解除され、レコーディング可能になるのだ。

 もっとも、解除されてもCubasisになるのではなく、あくまでもCubasis LEであり、機能的にはいろいろな違いがある。例えばCubasisは96kHz/24bit対応なのに対し、Cubasis LEは44.1kHz/16bitであったり、最大トラック数がCubasisでは無制限なのに対し、LEはオーディオ4トラックとMIDI4トラックであるなど、違いがある。

 そのため、iXRの機能・性能をフルに活かすとなるとCubasisにアップグレードする必要があるが、Cubasis LEでも、とりあえず使うことができる。また、Cubasisを普通に購入すれば6,000円だが、制限解除されたCubasis LEからなら3,600円でアップグレードできるというのも魅力の一つとなっている。

 もちろん、Cubasis以外にもGarageBandほか、各種アプリでiXRを使うことは可能だ。

Cubasis LEが利用可能
3,600円でフル版のCubasisにアップグレードできる

コンパクトながら音質も期待以上

 さて、最後にいつものように、WindowsのテストツールであるRMAA Proを使って、iXRの基本性能をチェックしてみたい。ここでは、一旦iOSからWindowsへ繋ぎ変えるとともにiXRのフロントの入力を左右ともにラインに切り替えた上で、メイン出力とループ接続。そして、44.1kHz/24bit、48kHz/24bit、96kHz/24bitでテストした。

44.1kHz/24bit
48kHz/24bit
96kHz/24bit

 コンパクトなオーディオインターフェイスなので、正直なところそれほど性能は期待していなかったのだが、思っていた以上に周波数特性などもいい結果を出している。一方、せっかくなのでレイテンシーについてのテストも行なった。これはあくまでもWindowsでのテスト結果であり、iOSで使った場合はまた異なる結果になるはずだが、44.1kHz(最小のバッファサイズと標準の128Samplesのそれぞれで測定)、48kHz、96kHzのそれぞれで行なった。

44.1kHz(標準の128 Samples)
44.1kHz(最小バッファサイズの64 Samples)
48kHz
96kHz

 レイテンシーのほうは、まずまずといったところだが、いずれにせよPC用のオーディオインターフェイスとして見てもかなり使えるものであることが見て取れる。普段はPC用として使いつつ、出かけてレコーディングするようなときにiPadやiPhoneとセットで持ち歩くというのは、結構便利な使い方といえるのではないだろうか?

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto