藤本健のDigital Audio Laboratory

第639回:リスニングも重視したDSD対応USBオーディオ、ローランド「Super UA」の実力

第639回:リスニングも重視したDSD対応USBオーディオ、ローランド「Super UA」の実力

 ローランドから4月初旬に発売されたオーディオインターフェイス、Super UA。32bit float対応で最高で352.8kHzまで対応するとともに、DSDの5.6MHzの出力にも対応するという、かなり高スペックの機材であり、ほかにあまり例のない製品だ。

Super UA

 ここにはローランドが開発したDSPエンジン、「S1LKi(シルキー)」というテクノロジーが採用されているのは、以前記事で紹介したMobile UAと同様で、Mobile UAの上位版という位置づけのようだ。では、このSuper UA、どのように利用するもので、測定上のスペックはどのくらいのものなのだろうか? 実際に試すとともに、Super UAの開発者にこの機材のコンセプトや今後の製品開発などについて話をうかがった。

右がSuper UA、左が付属のブレイクアウトボックス
開発メンバーの安東康宏氏(右)と櫻井翼氏(左)に話をうかがった

352.8kHz/32bit対応のハイスペックなプロ向けモデル

 USBのオーディオインターフェイスはアマチュア用から業務用まで含め、数多くの製品が発売されている。最近は安いものでも192kHz/24bit対応など、コンシューマ用はハイスペックな製品が多くなってきているが、業務用はサンプリングレートは192kHz止まりのものが大半であり、352.8kHzや384kHz対応というものはあまり見かけない。同様にビット分解能のほうも24bitのものがほとんど。先日のCubase Elements 8の記事でも書いたようにDAW側は32bitFLOAT対応というものも増えているが、それはDAW内部の話であって、オーディオインターフェイスはというと、やはり24bitでの入出力に留まっている。

 そこに登場したSuper UAは、352.8kHz/32bit floatT対応となっており、これまでのオーディオインターフェイスの壁を突き破った感じのスペックになっている。入出力数は2IN/6OUTと多くはないし、6つの出力もパラで出すためというよりも、必要に応じて違うスピーカーやヘッドフォンでも聴き比べができるようにした、といったニュアンスのようで、実際、出力端子もTRSフォン、XLR、そしてヘッドフォンと違うものとなっている。

 Super UAのハードウェアは本体とブレイクアウトボックスの2つから構成されており、XLRの入出力が不要であれば、本体のみでの使用も可能となっている。この本体、見ても分かるとおり、いわゆるラックマウント型の機材ではなく、操作性を重視したデスクトップ上で使うもの。大きなボリュームダイヤルで音量を調整し、これをプッシュするとミュートできるという構造だ。その上にカラーの音量インジケータがついていて、これが思ったよりも見やすくて便利なのだ。デザインはまったく異なるものの、こうした形状の点から見ると、RMEのBabyfaceに近い製品といっていいだろう。この本体のリアにTRSフォンのラインイン、ラインアウトが用意されているほか、ACアダプタ端子、PCと接続するためのmicroUSB端子、そして、ブレイクアウトボックスと接続するための独自端子がある。またフロントには標準ジャックとミニジャックの2つのヘッドフォン端子がある。いずれも出てくる信号は同じで、必要に応じて2つ同時に使うことも可能になっている。

大型のボリュームダイヤルを装備
背面端子
前面にヘッドフォン端子

 一方のブレイクアウトボックスのほうは、本体と1.5mの専用ケーブルで接続する形になっている。ここにはXLRの入出力がステレオで用意されており、入力のほうはマイク専用で、+48Vのファンタム電源も装備されている。前述のとおり、Super UAは2IN/6OUTなのだが、このブレイクアウトボックス側の入力を使うか、本体のラインインを使うかは本体のセレクトスイッチで選ぶ形になっている。この際、マイクA、マイクBの2つを選択できるだけでなく、マイクBとラインインの片方といった選択も可能だ。

ブレイクアウトボックス
入力切替ボタン

 また出力のほうには2種類のモードが存在する。2チャンネルモードと6チャンネルモードで、2チャンネルモードにすると、2IN/2OUTとなるとともに、Super UAの最大の特徴ともいえる1bitオーディオ出力が可能になる。6チャンネルモードにした場合は、6chのパラ出力が可能になるが、DSDなどの1bitオーディオ出力は非対応となる。この辺の設定がやや込み入った感じだが、ドライバと一緒にインストールされるUA-S10 Control Pannelを利用することで、すべての機能制御が可能になる。この画面を見ても分かるとおり、単に入出力のレベル制御をするだけでなく、ハイパスフィルタ、コンプレッサが搭載されており、特にコンプレッサに関しては、かなり細かく設定できるし、様々なプリセットも用意されている。この辺の構成については、言葉で説明するよりもブロックダイアグラムを見たほうが分かりやすいので、下に載せておこう。

2チャンネルモード
6チャンネルモード
UA-S10 Control Pannelで設定
ブロックダイアグラム

 では、実際に、音質を測定するとどの程度のものになるのだろうか? いつものようにRMAA Proを使って試してみることにした。これで測定する場合、入力と出力をループさせる必要があるが、ここでは本体のTRSフォンの入出力をループさせた。また2チャンネルモードに設定するとともに、1ビットスイッチはオンの状態で測定することにした。

 ここで個人的に興味があったのは32bit floatで測定すると、どうなるかという点。過去に取り上げてきた機材は基本的に24bit設定(中には16bitのみ対応のものもあった)で行なってきたが、Super UAは32bit floatに対応しているので、これを選択してみたのだ。しかし、残念ながら32bit floatを選ぶとRMAA Pro自体がハングアップしてしまったので、やむなく断念。いつものように24bitで測定した結果が以下のものだ。ちなみに1bitスイッチをオフにもしてみたが、若干劣る結果になる程度で、ほとんど変わらなかった。一方で、今回初めて測定に成功したのが、Super UAにおける最高のサンプリングレート、352.8kHzでのテスト。このサンプリングレートに対応した音楽データを持っていないので、その威力を直に感じることまではできなかったが、確かに新世代機材であることは間違いないようだ。

44.1kHz/24bit
48kHz/24bit
96kHz/24bit
192kHz/24bit
352kHz/24bit

 さらにレイテンシーに関する実験も引き続き行なった。こちらも、いつもと同じように、CentranceのASIO Latency Test Utilityを利用して各サンプリングレートともに最少のバッファサイズ設定で測定するとともに、参考値として44.1kHzのみは128Sampleのバッファサイズでも試してみたが、その結果が以下の通り。これを見る限り、どのサンプリングレートでも入出力の往復で4msec前後と、かなり小さい値になっていることが分かる。ただし、この測定ソフトの仕様で、192kHzまでの対応となっており、352.8kHzでの測定はできなかった。

32 samples/44.1kHz
128 samples/44.1kHz
32 samples/48kHz
64 samples/96kHz
128 samples/192kHz

CAPTUREシリーズより“いい音でモニタリング”に主眼。DSD変換再生の仕組みとは?

 さて、そのSuper UAに関して、先日ローランドの開発メンバーに話を聞くことができたので、その内容をお伝えする。話を伺ったのは同社のRPGカンパニー営業部MIマーケティンググループ係長の安東康宏氏と同じくRPGカンパニーRPG第二開発部の櫻井翼氏の2人だ(以下敬称略)。

――ローランドでは、QUAD-CAPTUREやOCTA-CAPTUREなど、人気商品がありますが、今回のSuper UAは、これらの後継という位置づけなのでしょうか?

安東康宏氏

安東:QUAD-CAPTUREやOCTA-CAPTURE、またDUO-CAPTURE EX、STUDIO-CAPTUREといったCAPTUREシリーズは現行な製品であり、Super UAやMobile UAはそれらとは少し別のラインナップという位置づけです。CAPTUREシリーズは入力機能を中心に据えたオーディオインターフェイスであるのに対し、Super UA、Mobile UAは出力をよりよい音でモニターすることを主眼とした機材として設計・開発しています。ただし、CAPTUREシリーズも、型番的にはUA-55やUA-1010のような名称となっており、UAというネーミングは残しました。これは当社のUSBオーディオインターフェイスの原点でもあるUA-100から続くものであり、今回も「原点に戻って考えよう」とUAを残したのです。ただし、従来はUAの後に番号が付く型番だったの対し、今回はMobile UA、Super UAと前にあるのは、今までのUAシリーズを超えるという願いを込めたものとなっています。

――このSuper UAはPCオーディオリスナー向けの機材ということなのですか?

安東:リスニングユーザーを意識していないというと嘘になりますが、ローランドは楽器メーカーでもありますから、やはり音楽制作者向けに開発しております。そのためリビングで聴くというより、プライベートスタジオ、ホームスタジオにおいてモニター環境を整えた上で正確な音でモニターしていただく、ということを想定しています。そのため、再生音における高音質というところは徹底的に追求しました。

春のヘッドフォン祭2015でも試聴用に展示されていた

――価格帯的にはCAPTUREシリーズと重なる面もあると思いますが、OCTA-CAPTUREやSTUDIO-CAPTUREといったものと比較しても、Super UAのほうが音質は上ということですか?

安東:ぜひ、そこは比較して聴き比べていただきたいのですが、やはりSuper UA、Moile UAのほうが断然上です。それはS1LKiという技術を搭載させていることにあり、PCMの音をアップサンプリングした上で1bitオーディオ化しているのが大きな違いです。これによって44.1kHzのデータでも、明らかにいい音で聴くことができるようになります。

――PCMを自動でDSD化して音を出すということだと思いますが、これは本来の音とは異なる音に変質させてしまう、ということには当たらないのでしょうか?

櫻井翼氏

櫻井:S1LKiの考え方は、もともとのPCMの音を、いかに欠落させずに音を出せるようにするか、というコンセプトのものであり、エフェクター的に音を変化させるというものではありません。PCMでの原音をできる限り忠実に再生できるかというものを制作者のみなさんに向けて提供したものなのです。そのため、これを通しても、もともとなまっている音を尖らせることはできませんが、従来の機材ではボケてしまうような音でも、シャープに正確に出すことを可能にしているのです。

――そのS1LKiについては、以前Mobile UAの開発に関してインタビューした際にもお話をうかがいましたが、Super UAに搭載されたものも、Mobile UAのものとまったく同じものという理解でいいのでしょうか?

櫻井:はい、仕組み的にはまったく同じものであると理解いただいて構いません。ただし、S1LKiの処理のための係数は異なります。もともとS1LKiのコンセプトはハードウェアに合わせた形で最適化するというものだったので、ハードウェアスペックが変われば、それにともなってパラメータも調整しているわけです。なお、アナログ回路回りも、基本的にはMobile UAと同じ設計をしていますが、Super UAはACアダプタから電源供給を受けているので、電源容量に余裕が出たことで、ハイインピーダンスのヘッドフォンでも大音量でキッチリ鳴らすことができるし、ラインアウトもステレオミニではなく、バランス出力できるようになったことで、より確実な音で鳴らすことを可能にしています。

――DSD対応するということで期待したのは、再生だけでなく、録音もできるオーディオインターフェイスだったのですが、これはやっぱり難しいのでしょうか?

安東:製品企画・開発段階では1bitでの録音ということはまったく考えていませんでした。とはいえ、実際に2つの製品を開発してみて改めて感じたのは、1bitでのA/D、D/Aは非常にシンプルで情報の劣化も少ないということ。また、この開発を通じてPCMからDSDに変換する技術を確立できたことは他社にはない、大きなアドバンテージだと考えています。実際ユーザーのみなさんからも、DSD対応の入力が欲しいという声も数多くいただいているので、これまで蓄積してきたノウハウを利用しながら、今後検討していきたいと思います。

――先ほどのお話では、入力中心のCAPTUREシリーズに対して、出力性能が主眼のSuper UAということでしたが、入力性能はCAPTUREシリーズのほうが上なのでしょうか?

櫻井:入力チャンネル数という意味では、CAPTUREシリーズのほうが上であるのは事実ですが、音質性能という面ではSuper UAのほうが向上しています。音質の傾向としてはマイクプリの音作りというのがあるので、これは従来のRolandの音の傾向を踏襲しているので、極端な違いはありませんが、電源に余裕ができたこともあり、ノイズレベルではSuper UAのほうが優っています。実際入力でのS/Nは5dBほど改善できたのは大きな成果だと考えています。

――ただし、QUAD-CAPTUREやOCTA-CAPTUREにあって便利だったAUTO SENSがなくなってますよね?

櫻井:ハードウェア上のボタンという意味ではなくなっていますが、UA-S10 Control Pannel上にはAUTO SENSボタンが用意されており、まったく同じように使うことができるようになっています。ただし、OCTA-CAPTUREには内蔵されているリバーブ機能については、Super UAでは割愛しています。

今後のUSB 3.0やThunderboltへの対応予定は?

――最後にUSB 3.0やThunderbolt対応について、どのように考えているか教えてください。これまでUSB 1.1でもUSB 2.0でも常に世界に先駆けて製品を投入してきたローランドだったので、USB 3.0でもやってくれると思っていたのですが、出遅れてしまっていますよね?

安東:USB 3.0もThunderboltも非常に興味深く見ています。ただし、当社の現行製品の入出力数からみると、帯域的にはUSB 2.0で十分行けると考えております。もし、将来的にDSDのマルチチャンネル入出力といったものを検討することになれば、当然USB 3.0などが大きな選択肢にはなると思います。一方で、バスパワーによる電源供給ということを考えると、電源容量の大きいUSB 3.0は魅力的ではありますね。

――帯域と電源以外の面ではいかがですか? とくにズーム(ZOOM)などはUSB 3.0にすることでレイテンシーが縮められると訴えていますが。

櫻井:ドライバの処理の仕方については、我々も関心を持ってUSB 3.0を見ています。実際USB 3.0内部を掘り下げていくと、帯域とは別の要素でレイテンシーを縮められることも見えてきました。詳細については、ここではまだお話できませんが、この方法で本当にいいのか、実際にさまざまなシチュエーションで確実に安定して動作してくれるのか……。ちょっとレイテンシーが縮まるからといって、トラブルを起こすリスクを考えると安易に手を出せないのも実情です。この辺については、さらに研究を続けていきたいと考えています。

――どうもありがとうございました。

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto