西川善司の大画面☆マニア

第197回

【CES】液晶大画面天国シャープブース。“8K相当”の4Kとは? 120型4Kや104型5Kも

 今年のシャープブースは映像機器好きにはたまらない大画面天国となっていた。「2015 International CES」特別編の第2回では、ブース内に展示されていた液晶新技術を中心にレポートしていこう。

シャープブース

4Kの4原色液晶パネルで8K相当を表示させる新クアトロン プロ技術「Beyond 4K」を公開

 シャープは他社にない液晶パネル技術として、RGBY(赤緑青黄)の4原色パネル「クアトロン」を実用化している。そして、フルHD(1,920×1,080ピクセル)のクアトロンパネルのサブピクセルを、RGBとBYの個別駆動と時分割駆動を組み合わせて疑似4K表示を行なう「クアトロン プロ」技術も実用化。今季ではこの技術採用機の第2世代目、AQUOS XL20シリーズを投入している。

 今回のCESでは、これをさらに進化させて、リアル4K解像度(3,840×2,160ピクセル)のクアトロンパネルのRGBとBY画素を、クアトロン プロ的に個別&時分割駆動させて8K(7,680×4,320ピクセル)相当表示を行なう「Beyond 4K」技術の実機デモを公開していた。

 つまり、4原色のリアル4Kパネルで疑似8K表示を行なうわけである。

 展示されていた試作機は80型。バックライトには新開発の赤緑蛍光体に青色LEDを組み合わせて開発された、新世代の白色LEDを採用しているため、DCI-P3色空間を100%カバーし、4K/8K世代の新色空間規格のBT.2020に対しても80%程度のカバー率を誇る。

 そして特筆すべきは、この80型Beyond 4K機は、AQUOSのハイエンド機としてはここ数年封印してきた直下型バックライトを採用し、さらにエリア駆動までも実践しているところ。直下型バックライトの恩恵があるため、ピーク輝度は1,000cd/m2を超えるという。

80型のAQUOS 4K。日本向けモデル「UD20」の北米モデルに相当する。なお、日本向けのUD20で、80型はない
80型のBeyond 4K表示対応試作機。2015年末に実際に発売が予定されている4Kリアル解像度のクアトロンパネル採用機
85型のリアル8Kテレビ試作機。これら3台が横並びに展示されていた

 シャープはこれまで、「UV2A」パネル技術により、エッジ型バックライトでも黒浮きの問題がない……という立場をとってきたのに、なぜ、今になって「直下型バックライト×エリア駆動」を採用してきたのだろうか。

 これについては、「ハイダイナミックレンジ映像ソースに対応させるため」という返答が得られている。局所的に、鋭いピーク輝度表現を行なうには、やはり「直下型バックライト×エリア駆動」が最適なようなのだ。

 実際に、この「Beyond 4K」表示能力がどの程度なのか気になる人もいることだろう。ブースでは、表示能力を比較するためのデモとして、ある同一の細かい文字表示パターンを「RGBのリアル4K液晶テレビ」、「Beyond 4K液晶テレビ」、「リアル8K液晶テレビ」の3種のテレビで表示して比較できるようになっていた。

 以下がこの3つの表示パターンをデジタル顕微鏡で撮影したものだ。

表示像全体イメージ
RGB画素リアル4K液晶テレビでの表示
RGBY画素リアル4K液晶テレビでの疑似8K表示での表示
RGB画素リアル8K液晶テレビでの表示

 担当者によれば、「Beyond 4K」の疑似8K表示のアルゴリズム自体はクアトロン プロの4K疑似表示と同じだとのことで、そうだとすると色分布表現は不得意だろうが、輝度分布表現であればかなり高品位に描画出来るはずで、実際、デモの「黒背景に白文字」の静止画表示では、上の写真を見ても分かるようにリアル8Kにかなり肉迫した表示が行なえていた。

 実写映像ではどうかというと、「Beyond 4K」表示は、パッと見は、かなりリアル8Kに近い。デモ映像が色ディテール表現よりは、明暗分布によるテクスチャ表現主体だったことにも起因すると思うが、1m以上離れるとリアル8K表示とそれほど差が分からない。

 唯一、気が付く瞬間があるとすれば、ゆっくりとカメラがパンするようなスクロール映像表現を画面にかじりついて目で追って見た時に、時間方向に1ピクセル単位の表現が消失したり出現したりするピクセルシマー(Pixel Shimmer)現象に気付くくらい。とはいっても、明暗差の激しい輪郭表現などではそれも目立たないのだが。

 さて、この「Beyond 4K」テレビ、ただの実験試作機かと思いきや、そうでもないようで、実際に2015年度内に発売をする見込みだとのこと。

 想定価格は80型で約100万円程度といわれる。疑似表示とは言え、実際に発売されれば、史上初の民生向け8K表示可能テレビ製品となるかもしれない。

 最終スペックや詳細については未確定の部分が多いようだが、今回の展示試作機で語られたスペックを下回ることはないようだ。

 特に、今回、ハイダイナミックレンジ(HDR)映像ソースの表示に対応することが表明されているので、近々正式規格が発表されるといわれる4Kブルーレイ(ULTRA HD BLU-RAY)への対応を視野に入れて開発されているものと推察される。ULTRA HD BLU-RAYは4K解像度だけでなく、HDR表現までが組み込まれる見込みなのだ。

 フルHDパネルのクアトロン プロによる疑似4K表示は「既に4Kテレビが存在するのに4Kコンテンツを疑似表示する」という部分において負い目があったわけだが、近い将来に発売が見込まれる今回の「Beyond 4K」表示においては、そうした負い目がない。

 というのも8Kテレビは実験機のみで現状存在しないし、なおかつ8KコンテンツもNHKが実験的に撮影した素材以外にはほぼ無いに等しい。

 これから出てくるULTRA HD BLU-RAYの4K映像を一段上の疑似8K表示にして楽しめるれば、競合4Kテレビにもないオンリーワンの魅力となりうる。「疑似8K表示」、「8K相当」……どう呼んだとしても、4Kテレビの上に君臨することになるはずである。

80型「Beyond 4K」表示対応の画素写真。黄サブピクセルがあることから分かるようにクアトロンパネルであることが分かる
85型、リアル8K液晶テレビ試作機の画素写真。こちらはクアトロンパネルではないので、オーソドックスにRGB画素が並ぶ

100型オーバーの大画面4Kと5K

 ここ数年は「最大画面サイズ競争」に対して興味を示していなかった日本メーカー勢だったが、今年のシャープはひと味違う。

 業務用液晶ディスプレイにはなるが、世界最大級の120型、16:9アスペクト比の4K液晶ディスプレイと、世界最大級の104型、22:9アスペクト比の5K液晶ディスプレイをブース内で展示していたのだ。業務用ではあるが、ともに発売の予定があるモデルだという。ただし、価格や発売時期は未定だ。

 120型の4Kモデルは、解像度3,840×2,160ピクセルで、まばゆいばかりの輝度性能と、近づいて見ても依然と高精細な表示を両立していた。この高輝度性能は直下型バックライト採用によるものだとのこと。デジタルサイネージ用途を視野に入れた製品とのことだが、画質はなかなか優秀。重さが100kg未満で実現出来るのであれば、テレビのAQUOSとしてもいけるのではないか、と思ったほど。関係者によれば、そうなった場合は受注生産となって、価格は数百万ではきかないレベルになるという。

120型の4K液晶ディスプレイ。業務用という位置付け
筆者が手を伸ばしても画面端には手が全然届かない大画面ぶり

 104型5Kモデルの方は、解像度5,280×2,160ピクセル。5Kディスプレイとしては韓国勢がかつて5,120×2,160ピクセルのものを発表したことがあり、それらはアスペクト比が21:9になる。

 しかし、今回展示されていたのは5,280×2,160なので、アスペクト比は22:9だ。こちらも直下型バックライトを採用。展示を縦置きで行なっていたこともあって、縦方向に長い静止画写真がループ再生されていた。こちらも表示品質は高い。個人的には、シネスコサイズの映画コンテンツをフル画面表示で見るための液晶テレビとして発売してもウケるのではないか……と感じる。

 4Kの16:9コンテンツを視聴する場合は、中央3,840×2,160ピクセル領域を使えばいいし、あるいはこれを左右どちらかの端に表示させ、あまった1,440×2,160ピクセル領域に、情報ウィンドウを表示するのもよさそうだ。

5,280×2,160ピクセルの5K液晶ディスプレイ。こちらも業務用

 この他、60型の曲面型液晶ディプレイも展示していたのだが、韓国勢が力を入れはじめたいわゆる湾曲型液晶テレビとは曲げる方向が逆なのが特徴だ。

 業務用ディスプレイなので、建物の円柱の柱に埋め込むことを想定した曲面表示になっている。

 曲率はR500mmでかなりの丸さで、表示範囲は円の中心角でいうところの150度にまで及ぶ。担当者によれば「本当は180度を実現したかった」とのこと。というのも、もし180度が実現出来れば、ディスプレイ二枚で完全な円柱表示が実現出来るからだ。ただ、現状でも二枚使って直径50cmの柱に埋め込めば300度分の表示は行なえる。サイネージ的な用途では相当なインパクトが与えられるはずである。

曲面型液晶ディスプレイ。韓国勢か推進する湾曲型とは曲げる方向が違う

自由形状液晶パネルと透過型液晶パネルの新作も展示

 液晶技術の新提案展示セクションでは、長方形型に限定されない自由形状(Free Form)の液晶パネルと、透過と不透過を自在に制御できるシースルー液晶ディスプレイの展示が行なわれていた。

 自由形状液晶パネルは「CEATEC 2014」でも展示されて話題を呼んだが、今回のCESでは、新作形状のものが2タイプ公開されていた。1つはアーチ窓型で、もう一つは完全円形型だ。

今回のCESで初公開となった完全円形型タイプ
今回のCESで初公開となったもうひとつのアーチ窓型タイプ。開発チーム内では「オバQ型」と呼ばれていたという裏話も

 こうした自由形状液晶パネルは自動車や航空機のような乗り物の、コンソール画面への採用を想定したものになる。現状でも、一部の自動車ではメーター類を完全に液晶パネル化したものがあるが、長方形形状パネルそのままがはめ込まれていて、曲線/曲面基調のの内装デザインとミスマッチになっているケースがある。あるいは、表示部は円形や曲線の額縁で切り取ってはいるが、長方形の液晶パネルをそうした自由形状のベゼルで隠しているだけだったりする。

 これに対しシャープの自由形状液晶は、液晶パネルの外形そのものを自由形状に出来るという点が先進的なのだ。

 なお、現時点では、パネル製造段階から自由形状なのではない。パネル製造段階ではこれまで通り、長方形形状なのだ。しかしこれを自由形状で切り出して利用することが出来るのである。

 これを可能にした根底技術はIGZO技術になる。

 自由形状液晶パネルでは、液晶画素を駆動するゲートドライバー等を画素単位に形成してあるため、画素単位の自由形状切り出しが可能となっているのだ。

自動車用メーターとしての活用を想定したもの。CEATECで公開済み
自動車用コンソールとしての活用を想定したもの。これもCEATECで公開済み

 もうひとつ、地味ながらも凄い技術展示だったのがシースルー(透過型)液晶ディスプレイ。

 もともと液晶パネル自体は透過パネルなので、液晶パネルの向こう側の景色は見えて当たり前なのだ。だからこそ、バックライトを液晶パネル背後に配置して画素を光らせるような映像パネルが構成できるのである。

 今回のデモも、一見するとそうした液晶パネルの背面側のボディをはぎ取っただけの「裸の液晶パネルの表示デモ」のように思われそうだが実は違う。新開発の透過型液晶ディスプレイでは、映像を表示するとほぼ完全に背面側の情景を消し去り、普通の液晶パネルの表示のように見せられる特徴があるのだ。

むき出しの液晶パネルの向こう側には実体物としての洋酒ボトルやインテリアが置かれている
映像を表示させるとあら不思議。まるで普通の液晶パネルのような表示に

 特に驚かされるのはコントラスト感。

 普通の透過型液晶ディスプレイは白表示になれば背後の情景が見えてしまうはずなのだが、それがほとんどなく、黒表示も背後の情景が見えずに、かなりしまった黒表示となる。映像をひとたび表示すると、透過型液晶パネルとは思えない表示なのだ。

透過型液晶パネルとは思えないほどの高コントラスト感のある表示。透過型とは思えない黒のしまり

 この新開発の透過型液晶パネルでは、映像を表示した際に、背面側の光を表示面側に通さない特別な光路制御が働くためだという。原理については今は公開できないとのことであった。

 この技術の応用先としては、たとえば家屋の窓のカーテン的に液晶パネルを利用する事が考えられるという。映像非表示時はただの窓として活用し、映像を表示させれば、今度は屋外情景を遮断してのフォトフレーム的な映像表示に切り換えられるというわけだ。

透明時にはちゃんと向こうの情景が見えるのに、映像を表示させたとたんに向こう側の景色が見えなくなるので、これを不思議に思った来場者は、背面に手を回す人が耐えなかった

 今回はここまで。シャープブースには、この他、極薄型AQUOS新モデルや、国内未発表の新バックライト技術の展示などもあったが、これらに関しては他関連トピックと合わせる形で、後日改めてレポートすることにしたい。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら