日沼諭史の体当たりばったり!

アクションカメラ「360fly 4K」でキャッチボールしたら、次なるGoProの大本命かもしれない

 時々、発作的にキャッチボールをしたくなる。丸いアクションカメラ「360fly 4K」をひと目見た瞬間に、「これでキャッチボールしてみたい!」という衝動に駆られたのは、筆者が昔高校球児だったからとか、ストップウォッチ機能付き野球ボール「速球王」のような当時の筆者の子供心をズキュンと打ち抜いたボール状デバイスを思い起こしたから、ということもある。が、とにかくキャッチボールがしたかった。普通の野球ボールがあればそれで良かったのかもしれない。でもそこに丸いカメラがあれば、投げてみたくなるのが人情というものである。

キャッチボールしたいぞ「360fly 4K」

【注】360fly 4Kはキャッチボールできる耐久性を保証しているわけではないので、ご注意を

既存の全天球カメラの課題を解消した「360fly 4K」

 振り返れば、2016年は「VR」の認知度が大幅に高まった1年だった。これは、ゲーム・PC向けのOculus Rift、PlayStation VR、HTC Viveに、VRスコープとスマートフォンを組み合わせるスマホVRなど、360度の視界を再現するVRコンテンツの視聴環境が整いはじめた、それにあわせて、リコーTHETAシリーズに代表される全天球映像の撮影が可能なカメラのラインアップも充実してきたのが大きい。

 このような全天球型カメラの仕組みは、だいたい2つに分かれる。1つは、1台のデバイスに2個のカメラセンサー(レンズ)を搭載し、それぞれで同時撮影して1つの映像として記録するもの。もう1つは、同じデバイスを2台以上組み合わせて、同期を取りながら1つの映像にマージするものだ。

 前者はTHETAシリーズの他に、サムスンGear 360、ニコンKeyMission 360、カシオのEX-FR200などがある。また、後者の例としてはコダックPIXPRO SP360 4Kや、GoProを複数台連結するシステムなどが挙げられる。機種によって解像度、フレームレートは違えど、1個のレンズが水平方向360度、垂直方向180度以上をカバーし、全天球を映し出せる、としているところは同様だ。

 ところが、これらの全天球型カメラデバイスやカメラシステムには、今のところ以下のような課題のうちいずれか、もしくは全てを抱えている。

  • 複数のレンズが捉えた映像を結合する「ステッチ処理」後の境目が不自然になりやすい
  • サイズ・重量の問題からスポーツシーンの撮影など、アクションカメラとしての使い方が難しい
  • 複数台を組み合わせる場合は機材費用が高額になる
  • だいたいキャッチボールしにくい

 例えば前後のレンズで捉えた映像の色合いが異なってしまっていたり、ステッチ処理した境界付近で本来見えるはずの風景が(途切れて)見えなかったり、複数台を連結すると気軽に身に着けられるサイズ・重量ではなくなってしまったり、といったものだ。そして、Gear 360を除き、ほとんどがキャッチボールしにくい。

 映像については編集で補正できるところもあるかもしれないが、リアリティを追求した360度映像なのに、明らかに不自然な箇所があると“作り物感”がかえってはっきりしてしまうのが個人的には残念に思っている部分。また、できればアクションカメラのように日常からスポーツまであらゆる場面で使いたくても、耐久力(防水・防じん性能)やサイズ・重量の面から、非アクションな環境で使うことしかできないのも不満だった(PIXPRO SP360 4Kは1台で使う分には問題ないが)。

 そんな折、新たに登場したのが「360fly 4K」という製品。米国生まれのこのカメラは、ボール状のボディにカメラセンサーを1つだけ搭載したもの。水平360度、垂直240度の視野角をカバーし、つまり全天球カメラではないが、言ってみればGear 360とPIXPRO SP360 4Kを掛け合わせたようなアイテムだ。全天球対応は諦める代わりに、1つのレンズで広範囲を捉える小型のカメラとすることで、先述した既存の全天球カメラの課題を解消しているのである。

360fly 4K

全方位隙なしの高性能、高耐久“アクションカメラ”

 360flyシリーズには「360fly HD」(税込37,800円)という廉価モデルも用意されているのだが、今回は高性能モデルの「360fly 4K」(同59,400円)の方をメインに紹介したい。

 360fly 4Kの一番の特徴は、なんといっても高い耐久性能だ。水深10mまで対応する防水性能、IP6X相当の防じん性能、1.5メートルからの落下に耐える耐衝撃性能を備えている。動作温度も-20度から+40度としており、まさしく360度対応“アクションカメラ”と呼ぶにふさわしい仕様となっている。

本体に備えるボタンは1つのみ。動作状況に合わせて異なる色で光る
反対側にはハエ(fly)のマーク

 さすがに思いっきりキャッチボールしてミットにイイ音を響かせると故障するかもしれないが、そっと投げてそっとキャッチする分には問題ないように思える。直径は61mmで、野球ボールというよりテニスボールに近いサイズだけれど、表面の三角形の幾何学模様がうまくグリップしてくれそうである。

 カメラとしての性能を見ると、レンズはF2.5と明るめで、動画撮影時の解像度・フレームレートは最大2,880×2,880ドット・24/30fpsと、ここは他の4K対応全天球カメラと同じようなスペック。しかし、60fps撮影時については1,728×1,728ドットで、360度対応カメラのなかでは今のところ最も高精細な部類に入る(例えばPIXPRO SP360 4Kは60fps時1,440×1,440ドット)。サウンドの方は2つの内蔵マイクでステレオ録音可能ということもあり、スペック上も全方位隙なし、といったところだ。

F2.5の明るいレンズ。60fpsでも360度撮影が可能
小さな穴がマイク。同じ穴が反対側にもあり、ステレオで録音する

 一方で、気になる人がいそうなのが、まず記録媒体が内蔵メモリのみという点。64GBの容量があり、単純計算で3時間分以上を記録できる(ビットレートは約50Mbps)ものの、microSDカードなどを自由に差し替えつつ使いたい、という人もいるだろう。ここは防水・防じん性能とのトレードオフになる部分もあるので仕方のないところではあるが。

 また、スペックシート上は動画の連続録画時間が45分と、他の360度対応カメラに比べるとやや短め。バッテリーの交換も不可なので、1台で長時間の撮影を繰り返す使い方には向かない。専用のクレードルにセットした状態で充電しながら録画することも可能ではあるけれど、充電端子が特殊な形状なのと、その状態ではマウントを使えず、大きな振動でクレードルから簡単に外れてしまうから、充電しながら撮影できるシチュエーションは限定される。

本体底面に固定に使うカメラ三脚用のねじ穴と、クレードル接続用の端子部がある
付属のクレードル
マグネットで設置方向が決まるようになっている。PCと接続することで充電、データ転送が可能だ

GoPro用も使えるが、純正で揃えたくなるクールなデザインのマウント

 360fly 4Kは、底面にカメラ三脚用のねじ穴が設けられているので、三脚や既存の三脚用マウントがそのまま利用できる。また、GoProマウントから三脚穴に変換するアダプター「マウントキット」が付属しており、GoProユーザーならそれまでの資産を活かしてスムーズに360fly 4Kを使えるだろう。

GoProマウントを使えるようにする付属アダプター「マウントキット」
こんな風にGoPro用マウントと組み合わせられる

 もちろん専用のマウント類もラインアップされ、吸盤で固定する「サクションマウント」、自転車・バイク向けの「ハンドルバーマウント」、ヘルメットにベルトで固定する「ベンデッドヘルメットマウント」、伸縮可能な「POVポール」などが入手可能。

ヘルメットなどに使える「ベンデッドヘルメットマウント」

 今回サンプル動画を撮影するに当たっては、マウントキットでGoProマウントと組み合わせたり、ハンドルバーマウントや、POVポールなどを用いたりしたが、どれも簡単に素早く、しっかり固定できる。三脚穴に取り付ける時は、マウント側に貼られているラバーが強力な滑り止めとして働き、力を入れてねじ込まなくても強固に取り付けられる。

「ハンドルバーマウント」。奥行き方向の大きさはあるが、バーをつかむ部分の幅は細く、他の装備と同居させやすい

 ハンドルバーマウントは、固定に六角レンチが必要になるものの、こちらも挟み込む部分がラバーになっていることもあり、滑って回転する心配は少ない。マウント自体が頑丈そうな素材で、それでいて幅が小さくコンパクトに取り付けられるのも、空きスペースが少ないことが多いハンドル周りに優しい作りといえる。POVポールは、アームを少しねじることでロックとロック解除を切り替え、伸縮させられるタイプで、こちらも使い勝手は良好だ。

「POVポール」
ねじって引っ張ると伸ばすことができる

 機能的な点以外では、デザインにも注目したい。本体とマウントの一部デザインが立体的な三角形の幾何学模様で統一されていたりして、質感の高さを感じさせる。付属アダプターでGoProマウントも使えるから、マウントを揃える際には純正を選ぶか、サードパーティ製(GoPro用)を選ぶか迷うところだが、こういったデザイン面での丁寧で気の利いた演出は、純正で揃えたいと思わせる要素だ。

POVポールの手で持つハンドル部分は本体のデザインと共通の立体的な幾何学模様になっている

ボタンは1つのみ。設定はすべてアプリから

 本体の操作はシンプル。1つだけ備えるボタンで、電源のオン・オフ、撮影のスタート・ストップが行なえる。撮影モード、撮影解像度の変更も含め、全ての設定、プレビュー表示などは、専用のスマートフォンアプリから制御する形。撮影モードは、大まかには動画撮影、タイムラプス撮影、静止画撮影、バースト(連写)撮影の4つと、選択肢は絞られているが、一般的な使い方には十分だろう。

360fly用の専用スマートフォンアプリ
プレビューしながらの撮影
動画撮影モード。選択できる解像度・フレームレートは3種類
輝度、コントラスト、露出など、画質調整の機能もある
タイムラプス動画撮影モード。撮影間隔を0.5〜60秒の間で指定できる
静止画の連写(バースト)撮影モード。3/5/8枚を指定できる

 この専用アプリでは、本体の制御以外にも、撮影したデータのスマートフォンへのダウンロードと閲覧が可能。閲覧時は画面のスライド操作や端末の向きに応じた視点変更ができるのに加え、Google CardboardなどのVRスコープ用に画面分割するVR表示も可能になっている。撮影した360度映像を、すぐにスマホVRで確認できるというわけだ。ただ筆者が試したところでは、iPhoneは問題なかったものの、Android端末だとVR表示にすると常に魚眼状態(ズームアウトしたような状態)となり、VRらしい臨場感のある再生はできなかった。

VR表示での再生が可能
本体側メモリにある撮影済み動画の一覧
端末にダウンロードした動画の一覧
さらにはフィルター機能も

 ちなみに360flyオリジナルのVRスコープ「モバイルVRビューワー」もオプションとして用意。こちらは4.5〜6インチのスマートフォンに対応し、ヘッドバンド付きでセンター合わせや焦点距離の調整も可能となっている。

「モバイルVRビューワー」
スマートフォンをこのように固定できる

専用編集ソフトも提供。動画の結合、回転軸の変更もOK

 360flyシリーズ向けには、PC用動画編集ソフトも提供されている。今回はこのソフトを使って360度動画を編集した。360fly 4Kで撮影した動画のPCへのダウンロード、映像の回転方向の変更、トリミング、動画の結合、再生速度変更など簡易的な編集が行なえ、YouTubeやFacebookでVR表示可能な動画形式に変換することも可能だ。

PCに取り込んだ動画のサムネイル一覧
映像の前後をトリミングして出力できる

 なお、360fly 4Kは撮影開始時に内蔵のセンサーによってカメラの状態を認識し、視野の回転方向を自動設定して録画するので、場合によっては撮影後の動画が思いがけない見え方になってしまう(再生時に視野を変更しようとしても、意図したものと90度もしくは180度異なる方向に回転する)ことがある。そういった時は、動画編集時に回転方向を変更することで意図した通りの見え方にすることが可能だ。

映像の回転方向を変更して見え方を調整

 動画の結合については、互いの映像の回転方向が同じものという制限がある点に注意したい。簡単に言うと、本体を上向きと下向きで撮影したものなら結合できるが、上向き(下向き)と横向きで撮影したものは結合できないのだ。

 これを解決するには、先述の編集機能を使って回転方向を変更すれば良いのだが、そうすると結局一方の映像は意図した見え方でなくなる可能性がある。今回のように日常のあらゆるシーンを1つの動画にまとめる使い方をしたい時は、頭にいれておきたいところだ。

一度に5つまでの動画を結合(マージ)可能。回転軸方向に注意

 なお、PC用動画編集ソフトは、動作要件がHaswell以降のCore i5/i7以上を指定しているなど、かなりのハイスペックを要求する。実際にはそれ以下でも動作は可能だが、今回試した環境ではいずれも要件に満たなかったせいか、WindowsでもmacOSでも、YouTubeやFacebook向けのVR動画の出力が途中で頻繁にフリーズした。しかしフリーズしたかと思えば、一晩放置するとファイル出力できていたりもして、このソフトについてはまだ安定性に欠けるところがあるようだ。

キャッチボール+日常のあらゆるシーンを寄せ集め!

プレイボー!

 そんなわけで、360fly 4Kを使って撮影し、編集したサンプル動画を5つ、以下に用意した。今回、「キャッチボールしたい」という思いつきから始まった企画とはいえ、単純に投げるだけでは回転してまともな映像にならないであろうことは、実は初めから想像できていた。なので、ポールに取り付けた状態で上に放り投げ、動画編集時にスローモーションにすることで、それなりに見られるボール視点っぽい雰囲気にできたのが以下の動画だ。

【キャッチボール(上に放り投げただけの)動画】(25秒)

 キャッチボールの映像化は、なんとか成功した(と思う。正確にはキャッチボールではないが)。でも、じゃあそれ以外で360度カメラを有効に使えるシーンは何なのか(キャッチボール映像が有効なシーンかどうかはおいといて)、というと、なかなか考えられなかったのが正直なところ。

 しかしである。だったらあれこれ悩まずにとりあえず360fly 4Kが取り付けられそうなところに全部取り付けて、日常生活のあれこれを360度映像で切り取ってみたらどうだろうか。そう考え、自転車、バイクの街乗り、ドライブ、公園、イルミネーション、家のリビング、屋根の上、禁断の風呂場、公園の鴨など、あらゆるシチュエーションを撮ってみた。先述の通り、回転方向が同一でないと結合できないため、同じ回転方向ごとに動画をまとめている。

通勤用自転車に装着
バイクのハンドルバーに装着
バイクのヘルメットに装着
こうするとGoogle マップ用のデータを収集してそうな雰囲気が出る
【1人称視点のバイク動画】(1分00秒)
クルマのダッシュボードに装着
公園で
【公園で転がしてみたりした動画】1分01秒
リビングの梁に、平滑面を作るなど工夫しつつGoPro用のサクションカップマウントで固定
屋根の上から
公園の鴨を間近で撮影したい。群がっているところにこっそり転がせばあるいは……
日常のいろいろなシーンを360度で切り取った動画(4分25秒)

 360fly 4Kの映像は、YouTube上だとわかりにくいが、全体としてはかなり精細に表現されている。ただ、レンズ周縁に近い部分は、レンズの歪みの問題なのかかなりぼやけ気味。例えば屋根上の映像は眼下の家々が判然とせず、公園のシーンでは芝が常にぼやけている。

 なので、垂直方向に240度の視野角があるとはいえ、視界ギリギリの部分の画質についてはあまり期待できない。浴室のシーンでは見えない方がいい部分をさりげなくぼかしてくれている気がするので、用途によってはありがたいかもしれないが……。

屋根上の映像。空はきれいだが、家々の屋根がぼやけている
公園の映像。こちらも手前の芝がぼやけている

 サウンドについては、ステレオならではの臨場感がたっぷり味わえる。シーンによっては角の立ったような聞こえ方で音割れもしやすいが、より聞きやすいサウンドにしたい時は、撮影時のマイクの位置に注意すると良さそうだ。

 レンズの向きに関係なく撮れてしまうボール状ということもあって、本体の前後左右を気にせず使ってしまいがちだけれど、例えばバイクの一部シーンのようにマイクが偏った位置にある状態のまま撮影してしまうと、片側だけに風切り音が盛大に入って再生中に耳が痛くなる。動画編集時に音をカットするなら気にする必要はないが、そうでないならできるだけマイクの位置に注意して撮影したい。

カメラの使い勝手、安定性は近年まれに見る完成度か

 360fly 4Kは、全天球型ではないことで、それらのカメラと比べて視野角が制限されていると感じることは確かだ。でも、アクションカメラとして考えればGoProのような“従来型”カメラの延長のような使い勝手で気軽に使えるところもある。

 どこで使うか、どんな風に撮るか、というのはある意味アクションカメラを活用したい人にとっての永遠の課題だけれど、360fly 4Kを実際に使ってみて思ったのは、とりあえず何でもいいから撮っておけばいいじゃん、ということ。360度対応カメラは視野角が広く、撮影者の見えない場所もカバーできるのが魅力だが、なにより360fly 4Kの場合はアクションシーンでも遠慮なく使えるのがメリットで、同時に日常使いの幅も広げてくれる。

 そういう意味では、録画時間の短さや充電方法が特殊である点は、日常使いの妨げになりかねない部分ではある。とはいえ、タイムラプス撮影であれば2時間ほど動作可能だ。そして、その動作の安定性というところも目を見張るものがある。投げたり転がしたり風呂で使ったりと、ヘビーな使い方をしていても常に安定して動作し、突如フリーズしたり、録画がストップしてしまうといった不安定さは一切なかった。

 細かいことを言うと、録画開始直後の数秒間だけ映像全体が緑色に変色してしまう症状が発生したこともあったが、完全新作のアクションカメラとしては近年まれに見る完成度ではないかと思う。画質や音質面での課題もあるにはあるけれど、そこを乗り越えれば“次なるGoPro”としてVR時代の一角を占める有力なアクションカメラブランドになりうる可能性も秘めている気がしてならない。360fly、これからも注目だ。

とにかくキャッチボールがしたいけど!

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日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。