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第430回

「もう地上波に戻れない」快適さで攻める。藤田晋社長のAbemaTV 3年目の戦い

AbemaTVがスタートして3年が経過した。

サイバーエージェントとテレビ朝日の合弁事業として始まった映像配信事業は、色々な話題を振りまきながら、日本におけるネット配信の一翼を担う存在に成長している。いまだに当初から「お金がかかりすぎている」、「収益への貢献の目処はいつなのか」という批判もあるが、陣頭指揮を執るサイバーエージェントの藤田晋社長の姿勢は変わらず一貫している。

サイバーエージェントの藤田晋社長

本連載では、本サービススタート直前の2016年3月、サービス開始8カ月後の同12月に単独インタビューをお届けしている。今回はサービス開始3周年ということで、久々に単独インタビューをお願いした。

1月30日に発表した2019年度第1四半期決算では、営業利益見通しを300億円から200億円に下方修正すると発表した。同社としては17年ぶりの下方修正である。そのことから、「AbemaTVの事業にも影響があるのでは」、「オンデマンド事業を軸にするのでは」といった声も聞かれる。

AbemaTVを3年間どう見てきたのか。そして、これからどのようなビジネスに育てていくのか。藤田社長に聞いた。

サブスクリプションでなく「フリーミアム」、徹底的に便利さで攻める

AbemaTVの状況をどう分析しているか? 藤田社長は「まあ、一言でいえば順調です」とストレートに答えた。

2019年度第1四半期決算では、AbemaTVのアプリダウンロード数が3700万を超え、週間アクティブユーザー(WAU)も年末年始に918万を記録したことが発表された。WAUは2017年末に720万を超えたものの、その後なかなかそこを超えられずにきた。それがようやく、2018年末に大幅更新を実現している。

AbemaTVのWAUは2018年伸び悩んでいたが、年末に過去最高を記録

過去のプレミアムコンテンツのオンデマンド視聴やダウンロード視聴などが可能となる有料プラン「Abemaプレミアム」(月額960円)の会員数も、2017年同月に比べ4.5倍の35万8,000人に増えている。

決算説明会では藤田社長が「AbemaTVでは、広告と課金の両立を目指していく」、「AbemaTVも引き締めるが、今後も売上をぐんと伸ばして、ふさわしいコストをやっていく」とコメントしたことから、「AbemaTVは広告を軸にする今までのスタイルから、広告+有料会員サービスに舵を切る」、「予算投入にもブレーキが踏まれる」とも言われてきた。

すでに述べたように、サイバーエージェントは2019年度第1四半期決算で営業利益見通しを200億円に下方修正している。コストをふんだんに使ってきたAbemaTVについても見直して、より収益を得やすい「Abemaプレミアム」を軸足に据えてきた……。そんな風に考えるのも無理はない。

だが、藤田社長は「それは、誤解です」と笑いながら答える。

藤田社長(以下敬称略):社内のエンジニアたちにすら誤解されていそうなところなので、取材を受けて誤解を解かなければ、と思っていたんですよ。なので、よく聞いてくださったな、と(笑)。

下方修正のタイミングと「オンデマンドに振っていく」というコメントのタイミングが重なったので、「(AbemaTVは)広告からオンデマンドでの収益に振っていくんだ」と誤解されたところがあるのですが、そうじゃないんです。

AbemaTVは、プレミアムによる課金・サブスクリプションモデルに行くのではなく、広告+Abemaプレミアムでの課金というハイブリッドモデルを目指している。すなわち「フリーミアム」型だ。

藤田:もともと、動画サービスというレッドオーシャンの中のブルーオーシャンを探して、AbemaTVの形を考えたんです。

Netflix型(サブスクリプション)は参入も相次いでいるし、体力勝負になる。それを避けた上でのビジネスモデルは何か……という成立条件に合ったのがこの形でした。

僕の感覚として、サブスクリプションは、ネットサービスの中では契約していただくのが難しいもの。ネットビジネスはやっぱり基本はフリーミアム。10人に1人が課金していく。基本無料なんですけど、より高性能に、とか、より高機能に、と考えるとお金を払っていただく、という形です。そうでないと広がりが出ません。

そこでポイントとなるのが「徹底して使いやすくすること」だ、と藤田社長はいう。Abemaプレミアムも、コンテンツに注目すると「サブスクリプション」に見えるが、基本的な考え方は、「映像視聴環境としての便利さ」の追求である。

藤田:あくまで徹底的に便利にして、なくてはならない、手放せなくなるような、ユーザーを骨抜きにしてしまうようなサービスにしていくのが基本方針です。

僕自身もそうですが、追っかけ再生やタイムシフト視聴はあまりに便利で、リアルタイムで観る頻度が減ってきました。リニアの地上波を観ていて、追っかけ再生ができないのが不便でしょうがなくなってきている。話題になったけれど見逃したものも、タイムシフトがないので観られない。

地上波が不便で仕方がないんです。リニアとオンデマンドのハイブリッドが便利になってくる。当初はよりフローでの視聴が多い、と思っていました。しかし、これは変質ではないですが、当初想定した以上に「オンデマンドが楽である」のは事実で、否定できないです。

実は、意外な機能もコンテンツ以上に「機能」軸での改善だった。それが「コメント」機能だ。

藤田:なんだかんだ、「コメントを見たくなる」というのはありますね。

とはいえ、ずっとコメントを表示して、見ている必要はないんです。例えば出演者がスベった時に「みんな何言ってんのかな」みたいに(笑)。そういう時あるじゃないですか。

あれが逆に、(リニア放送の)テレビにないのが、気持ち悪くなってますね。テレビを見ていて、「あれ、今のちょっとおかしいだろ」と思った時に、コメントが見れないもどかしさ。

要はこういうことを積み重ねていくのが、「非常に便利なものにすることで、戻れない感覚」です。地上波だと、「そうか、トイレ行くのにテレビ持ってけないんだ」みたいな感覚になりますよね。

これまで、「意外と我々がテレビの側に自分を合わせて生活していた」のがわかります。Abemaは基本的に「人に合わせていく」。オンデマンドも、そういう使いやすさのためのものです。

「なんとかなる」と深まる事業への確信、そのためにも「安定重視」

AbemaTVは、3年の間に視聴者を増やしてきた。「まだまだ地上波ほどの基盤にはなっていない」(藤田社長)とはいうものの、日本のネット配信において、独自の地位を確保し続けていることはまちがいない。

藤田:「なんとかなるな」という自信は深めています。

動画サービスの競合環境は厳しくなっていますが、結局、スポーツとか将棋とかニュース報道とか、そういうことができるものは、「テレビ」を除くと我々くらいしかない。これが根拠ですね。

競争が厳しくなると、放映権の問題だとか、ビッティングになるとどんどん高くなる。そこは辛いな、と思っていましたし、コンテンツ制作にお金がかかるのも予想通りです。

そこで我々が巨額な赤字を出しているお陰でみなさん引いていっている(苦笑)。いまからやっても追いつけない、というのは自分が一番よく知っていることです。

「なんとかなるな」と感じ始めたのはごく最近。この半年くらいのことですかね。それまでは「ありかなしか」の勝負。厳しいけれど「あり」だからやっていくんだ、と社内でも説明していました。それを「なんとかなりそうだ」と言い方を変えたのは、半年くらい前のことです。

ただ、時間がかかる、という認識に変わりはないです。マイペースで。時間的に、すぐに黒字化してどうこう、という話ではないですが。

一方で、サイバーエージェントが業績を下方修正したのも事実であり、そこで「引き締める」とのコメントが藤田社長の口から発せられたのも事実である。では、下方修正に伴う彼の発言の真意は、どのようなものだったのだろうか。

藤田:正直、我々が過度にゲームからの収益に期待しすぎていた部分がありました。

そのために、全体のコスト感覚が緩んでいたんです。

下方修正の理由はAbemaTVそのものではない。同社が期待していたスマートフォンゲームの事業が、想定よりも低い売り上げに留まったからである。AbemaTVの展開はほぼ予想通りだった、と藤田氏は言う。

藤田:下方修正の理由とAbemaの展開にはまったく関係ないんですけど、コスト意識を引き締めるいい要因にさせていただいた、というところですね。

このタイミングで、全社的に一回引き締めていこう、ということで、9月末までの社内キャンペーンにしています。

現在サイバーエージェントは、渋谷にある「Abema Towers」へと本社機能を集約中だ。「下方修正後に新ビルへ引っ越して大丈夫か、と言われたんですが、実は一箇所にまとめたので、坪単価では下がっている」と藤田社長は説明する。そして、その新本社の各所には、「下方修正キャンペーン」の張り紙もあった。

取材は3月下旬に引っ越し中のAbema Towersで行なったが、各所に「下方修正キャンペーン」の張り紙が

このタイミングでの下方修正は、確かにAbemaTVの赤字が原因ではない。一方で、AbemaTVを長く続けるためにも、このタイミングでの下方修正が「必要だと判断した」と藤田社長は言う。

藤田:成功のために一番重要なことは「長く続けること」です。ほかの事業でマイナスが出てAbemaTVに影響が出るなど、長く続けられない環境に陥るのが、もっともリスキーです。

ですから、前回の下方修正の時も、過敏にやったんです。普通、第一四半期にそういう判断をすることはありません。過敏にやっているのは、AbemaTVに影響がでることを避けなければいけないからです。

そういう意味では、インベスター・リレーションも非常に重要です。投資の期間を忍耐強く待ってもらって、その間に納得しながら株を保有し続けていただかなくてはいけませんし、株価があまり下がってしまっても、株主からの圧力が高まります。

そう考えるとやらなければいけないことは意外とたくさんあります。空気感が重要なんですけど。「イケてない」みたいな空気に陥らないようにすることが重要です。

地上波のようにインフラになっていれば、いいんですけれど、全然そうはなっていない。空気感・期待感の意地も含め、気が緩む暇もない。常に気をはってないといけないです。

Abema Towers

緩むコスト意識を、下方修正を「言い訳」に引き締める

前述の通り、現在同社は社内で「下方修正キャンペーン」中だ。緩んだコスト意識を改善するのが主な目的だが、もちろん、「緩んだコスト」の中には、AbemaTV自体の制作コストも含まれる。

藤田:AbemaTVを3年やって実感しているんですが、この事業は本当にコストが膨張しやすい。特にクリエイティブが関わるところは、「ここは羽振りがいいんで」、「使える」となると、歯止めが利かないくらいみんな緩んでいくんです。

これはいいチャンスだから悪いけど使わせていただこう……そんな風な人がどんどん増えていく。

長年続けて数字も上がらないんですけど、やめたくてもしがらみや関係者の配慮があってやめられないものや、意味のない協賛などを、「すみません、下方修正があったので……」ということで、断る口実にさせていただいたりしました。

金があると「なんで止めなきゃいけないんだ。業績関係ないって言ってるじゃないか」って話になりますし。

やり始めてわかったんですが、そんなことばっかなんですよ(笑)。

なので今回は、ことさら下方修正をいいわけにさせていただいた部分はあります。今後も定期的に引き締めていこう、と思っています。今回は「一度目の引き締め」というところですね。

AbemaTVは赤字を出しながら事業を進めてきた。その核にあったのは、番組制作に「ネット配信とは思えない規模の費用をかける」ことがあった。「あのコスト感で回るのか」という疑問を耳にしたのは、一度や二度ではない。今回ある程度コストの「引き締め」は行なうが、藤田社長は、初期からのコスト投資を後悔しているわけではない。「あれは必要なものだった」と明言する。

藤田:“安いメディアになっちゃうと、一流の人が出ない”ということがありますよね。テレビに出れない人が集まり、回ってしまう。

なので十分にお金をかけました。とはいえ、地上波よりは安いですし、決してバブリーな額ではありませんでした。

例えば、僕はずっと麻雀番組をやってます。それまでのネットの麻雀番組というのは、ほんとうに「こんな低コストで作れるんだ」というレベルのものでした。

そこにガン! とカネをかけてセットを作って、一流の出演者を集めて番組を作ったことで、麻雀の「格」が上がったと思うんです。Mリーグのレギュラーシーズンは、大和証券が冠スポンサーをしてくれています。そういうスポンサーがつくものに、コンテンツを変えていく。こういう考え方は広告ビジネスではとても重要なことで、お金がかかっていないところにはろくなスポンサーがついていませんよ。

じゃあ、どこまでかければ正解なのか、というのがとても難しいところで(苦笑)。

信じられないくらい、例えば「ハウス・オブ・カード」みたいな額をかけられたらいいんですけど、そうではない。短期決戦で、2020年のオリンピックをすごい金額でとってきたりとか、サッカー日本代表をぜんぶとってくればいいかとか、そういう問題でもないです。

もちろん、失敗することもあります。

実際そういう失敗もしました。どぎつい番組が目に入ってきてしまうとか。色々なことを試行錯誤し、洗練されていってはいます。

一方で、先ほどもお話した通り、コストは際限なく緩んでいく。「あそこはカネあるぞ」と思われてしまうのは難しいところもあって。そこは締めていかないといけない部分もあります。

ゆるめて、締めての繰り返し。いまは「一回締めた」という段階。また緩んでくるでしょうが、それはしょうがないので。

AbemaTVは「組みやすい相手」になった

藤田社長は「AbemaTVの制作体制もずいぶん変わってきた」と話す。元々AbemaTVは、テレビ朝日の合弁事業。ニュースからバラエティまで、テレビ朝日からの出向者との共同で制作されている。

藤田:最初は手探りなので、「とにかく地上波にないもの」を作ろうとしていました。エッジが効いてないと観てもらえないのもあったし、若年層に何が受けるのかもわかりづらかった。テレビの人達は、やっぱり長年視聴率という数字でやってきた人々なので、「数字」を見せると学びが早いですね。

変化として大きいのは、「もう誰でも大丈夫かな」というくらいに、大物芸能人が出てくれるようになった、AbemaTVに出ることに障害がなくなった、ということでしょうか。

ちょっと前だと、ネットに出るのはB級のタレントまで、という感じでしたが、もはやAbemaに出ていることが「イケてる」と捉えていただける。出演者もそうですし、クリエイターもそう考えて、面白い人が集まって「やりたい」と言ってくれるようになっています。

「新しい地図」の3人の影響は大きかったですね。番組自体はかなり「テレビっぽい」感じでしたけど、やっぱりテレビ並みに“影響力”があった。「公共の電波を借りて、放送法の下にいなくてもできるじゃないか」という気持ちになりました。

あと、「(以前は)配信は、出ても誰も観ていないじゃん」と言われるのがとにかく悲しかった。出ても話題にならない。観られていない。

でも、それはなくなりましたね。もう観られている。もちろん、地上波ほどではないです。ですがけっこう観られている。

タレントは、「NHKはギャラが安いけれど、他局では届かない層にリーチするから」という発想をします。

そういう言い方をするなら、Abemaは「テレビを観なくなっている若い層にリーチできる」という捉えられ方をしている、というのは大きいです。

では、AbemaTVは、これからどのような番組を作ろうとしているのだろうか? 藤田社長は「やはり変わってきている」と説明する。

藤田:生で観なくてはいけないスポーツの中継、報道などもありますが、バラエティなども、より高クオリティで「パッケージとして残せるもの」を中心に考えています。

地上波のゴールデンのような「そこで流して終わり」というものは減らしていく方向にあります。作ったものはストックしていって、オンデマンドでも観ていただく。

そういう風に、全体の舵取りをしている最中です。

ただ、それを伝えようとしたらちょっと誤解されたところがあった、という状況ですね。

冒頭で述べたように、AbemaTV事業におけるオンデマンド比率・プレミアム契約比率の上昇は、現在のAbemaTVの特徴である。だが、そこで「コンテンツを有料で観てもらうサブスクリプション型に移行する」かというとそうではない、というのは、すでに解説した通りだ。藤田社長が「クオリティを重視する」「ストック重視」と言っているのは、フロー+オンデマンドの構造を活かすにはそちらの方がいいからであり、テレビ的な「観て終わり」という作品に重点投資するのは効率的でない、という判断に基づくものだ。

ライバルも増えてきて、ネットコンテンツへの投資額は増える一方だ。そのことを、藤田社長も「苦しい」とはいう。だが、単純にブレーキを踏むつもりもないようだ。

藤田:例えばディズニーのサブスクリプションだったら、(他の動画配信サービスを使っていたとしても)みんな入るでしょう。これは「どれか1つのサービスにだけ入るの」ではなく「プラスオン」という形です。

そういう専門性を持ったところが独占的に、他から撤退して自分たちでサービスをやる……というパターンは、これからも起こりうると思っています。Netflixがオリジナルを作るというのも、裏を返せば同じような話です。

我々がやっている「AbemaTVオリジナル」も、実は量は負けていない。お金をかけてオリジナルを作り、初回の配信が終わったらライブラリに入れて、という形は今後も増えていきます。

そういう意味では、独自性をもったサービスを、消費者はいくつかチョイスしていくことになるんだろうと思います。

そこでの我々の強みは、「コンテンツだけで推していない」ということでしょうか。

入っているコンテンツだけで推しているのではなく、機能で推している。追っかけ再生やダウンロード、それに「コメント」も機能。やはりフリーミアムは「高機能」で押すべきです。

コンテンツ調達額が上がっていることは、困ります。困るんですけど、「それはクリエイターのためになること」というのは、彼らの言う通りだと思います。

特に現在、アニメなどでの競争がかなり大変です。しかし、これまではTOKYO MXなどの(アナログ放送時代で言う)UHF局で流れていた新作アニメの初出しが、AbemaTVに出していただけるようになっています。「その方が東京ローカルじゃないのでいい」という点が意識されていますね。

他のサービスが「サブスクリプション」であるということは、それだけ入り口が狭い、ということでもある。無料、という入り口の広さをもっているサービスは、結局YouTubeかAbemaTVか、という判断になっているのだろう……と藤田社長は見る。

藤田:JリーグについてはDAZNと組んでいます。ああいう風に、「広がりを出したい時に我々と組んでくれる」という例が増えているんです。DAZNの場合には、無料でバンバン流していき、彼らとも連携できるサービスが我々の他にはなかった、ということかと思っています。

そういう中で、いかに企業同士が組むのか、というのは難しい問題だ。例えばアップルは、5月にテレビ系アプリを「Apple TVアプリ」に刷新し、これをプラットフォームにして、色々な配信企業があいのりできる形を作っている。利用料や様々な思惑もあり、参加に様子見の企業も多く、AbemaTVも態度を明らかにしていない。今のところ、その考えは藤田社長にはないようだ。

藤田:みんながアップルを使う、という形になれば乗らざるを得ないですが、それはどうなるかですね。

今の段階であれば、日本については、むしろテレビ局がAbemaに乗ってくれた方が楽なはずです。

例えば、NHKがAbemaの中にチャンネルを作ってくれれば、IPでの再配信なんて簡単にできる話です。

テレビ朝日以外の、他の民放との提携の話は……なくはないんです。

ですが、ちょっと組み方が難しい。

NHKは“国民に利便性を提供する”という話なのでまた別なんですが、他の民放ということになると、テレビ局自体の生き残りをかけた話になってくるので、複数の局と組むのが難しい状況にはあります。

ただ、国内で競争している時代ではない、というのも事実です。海外の大手は、なんでもできる状態ではあるので。本当はみんなで協力して進めるべきなのですが、簡単ではないですね。

niconicoとの提携の背景、ギフティングなど「若年層対策」とは

3月27日、「AbemaTV」と「niconico」はパートナーシップの締結を発表した。ドワンゴが運営するniconicoの「ニコニコ生放送」と「ニコニコチャンネル」において、4月1日よりAbemaTVの番組が無料配信され、その上にniconicoのコメントが流れるようになっている。

この提携については、藤田社長とドワンゴ・夏野剛社長のラウンドテーブル記事も掲載されているので、そちらもご参照いただきたい

藤田晋社長(左)と、niconicoを運営するドワンゴの夏野剛社長(右)

藤田:あの提携は、本当に、ついこの間出たばかりですね。夏野さんが(ドワンゴの)社長になられてから。基本的には、夏野さん側からの申し出です。

ニコニコというのは、僕から見れば「チャットの下に動画がある」サービスなんです。映像を観てコメントをする、コメントというよりは“チャットするための話題としての動画”というか。何もなければ喋ることがないんで「みんな同じものを観ていればチャットしやすいよね」という。

だから会話して面白い。それが奇跡的に、あの時代、映像を見せるサービスとして成功していたんです。

AbemaTVと比較すると、むこうはよりチャットっぽい。というか、コミュニティですね。そこで結びついた人にはすばらしく魅力的な場になる。逆にそれであるがゆえに、マイノリティっぽさ、オタクっぽさがある。

AbemaTVは、一応コメントは隠れているので、観たくない人は、観なくてもいい。そういう意味では立ち位置が違います。

ただ、ニコニコ動画は、特にPCデバイスで観た時、流れてくるコメント、面白いですよね。ある意味天才かな、と思うようなコメントも流れてきて。あれがコンテンツ+αの面白さかなと思います。

そこに、AbemaTVのコンテンツを提供し、観ながらチャットしてもらうことには意味もあるかな、と思っています。

AbemaTVがスタートする時のインタビューでは、藤田社長は「コメントはあまり重視していない」としていた。だが、その後には思い直し、現在の形へとコメント機能を改良している。いまやコメントは、AbemaTVにとって欠かせない機能の一つになっている。

ただそれも、若年層とそうでない層とでは、使い方に違いがあるという。

藤田:僕ぐらいの年齢だと、やっぱりデカいデバイスで観たいです。隙あらばテレビデバイスでみようと思います。「スマホで長時間は無理でしょ」というのが本音で。

ところが、サービスをスタートして3年、利用者層も若くなり、10代・20代がかなり増えたんですが、数値で見ると、彼らはほんとに「スマホが多い」んですよ。

しかも、スマホではコメントも書かないかと思ったんですが、彼らはスマホでガンガン書くんです。ラジオみたいに聞いているとか、置いといてチラ見するとかが多いかな、と思っていたら、「書いている」んですよね。

たぶん、AbemaTVも「ライブ配信」のようなイメージで捉えているんでしょうね。

コメントをする人たちはPCで観る、という仮説をもってたんですが、そうではなくなっています。

スマホでの定着、若年層への定着は果たせたが、そこでの変化は、藤田社長にとっても、若干意外なことであったようだ。

今後の展開として、藤田社長は「4月にもギフティングに対応する」と話す。これは、若年層の傾向に出てきた「ライブ配信」とも絡むもの。出演者にギフトの形でアイテムなどを送る「ギフティング」ビジネスは、特に若年層の視聴を掴んでいる。

藤田:ギフティングというお金の払い方はありますが、動機はまったく違うところにもっていこうとしています。いわゆる「個人スポンサー」。お金を払えば好きな番組に自分の名前が出る、応援していく、という形です。

機能としてはいろんな使い方ができます。アンケートもできますし。メインで考えているのは「個人スポンサー」ですね。

法律面の検討がまだ必要ですが、政治家の政見放送をやって寄付を募る、ということもできますし、路上ライブもできるでしょう。番組ごとに企画の形はあり得ます。

機能面でいえば、海外配信もようやくスタートしました。要望は多かったし、ずっとやりたかったんですよね。

法律面の条件はいろいろあるんですが、「ぐちゃぐちゃ言っていないで、とりあえず一回やろう」ということで、やりました。 今は限定された国ですが、広げていきます。まだ肝心のニュースが、ニュース単位で権利が処理できていないものもありますが、随時解決していきます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41