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西田宗千佳の
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iPad mini、新iMac、新MacBook Proの狙いはなにか

“1億台超え”iPad次の一手。アップル発表会詳報


 米アップルは10月23日(現地時間)、アメリカ・カリフォルニア州サンノゼにあるCalifornia Theatreにて、新製品発表会を開いた。この会場は、2006年に同社がiPod U2 Special Editionを発表した場所であり、久々に使ったところでもある。名前の通り「劇場」で、席数は250程度と少なめだが、外観も内装も非常に落ちついて、とても雰囲気が良い。

 そこで発表された、今回の主役は「iPad mini」。持ち歩き向けとして、特に日本市場では期待の高い製品でもある。事前にも「7インチクラスのものが出る」との噂も根強く、注目も高かった。



■ 「市場最速で売れた」iPhone 5、全体の好調さをアピール

iPhone 5の好調さをアピールする、アップルのティム・クックCEO。今回は、業績やビジョンをクックCEOが語り、製品のプレゼンをフィル・シラー氏が語った

 このところのアップルの会見は、同社の好調さを振り返るところから始まる。今回もそれは例外ではない。ティム・クックCEOは、まずは直近の話題である「iPhone 5」の話からスタートした。
「iPhone 5は、最初の週末で500万台を売った。これは、iPhone史上最速。すなわち、世界でもっとも早く売れた携帯電話ということになる」

 好調なのはiPhone 5だけではない。iPod touch・nanoも300万台を売り上げており、iOS 6へのアップグレードも、すでに2億台を数えた。地図の問題が起きて順風満帆とはいえない……と思うのだが、アップルとしては、とりあえず「すべてが良好なスタートを切った」と考えているのだろう。

 そのあたりの事情を受ける形で、まず最初の発表事物として選ばれたのは「iBooks」だ。「書籍が4億冊分がダウンロードされている」ことを発表し、新バージョンである「3.0」が発表された。


iBook Stroreからの書籍ダウンロード数が「4億」を突破。確かに非常に多い数だが、iOS機器の普及数から考えると、もっと多くても不思議はない iBooksで読んだ感想をTwitterなどで共有する機能が。俗にいう「ソーシャルリーディング」だ

 3.0では、ページ送りでなく「スクロール」で読ませるモードを追加するなど、表示系への機能強化が行なわれた他、Twitter、Facebookへ感想を共有する機能も増えた。俗に「ソーシャルリーディング」と呼ばれる機能だが、AmazonのKindleも搭載しており、これからは必須と思われるものでもある。

 そして、なにより気になるのは「言語対応の強化」だ。ハングルに中国語、そして縦書きを含む「日本語」への強化が図られた、という点だ。最後の部分は、おそらく、今後来る「日本版iBook Store」への準備と思われる。それがいつになるかは今のところ、わからない。書籍データの準備などに時間がかかる可能性は十分にあり、すぐにやってくるかは予断を許さないが、「着実に一歩ずつ前にすすんでいる」ことだけは間違いないだろう。


iBooks 3.0で、日中韓の言語対応が強化。やはり期待は「日本語」。iBook Storeの日本でのスタートがどのようになるか、期待したい

 なお、この後もクックCEOはiBooksを使った教育コンテンツ制作用ツール「iBook Author」の新バージョンなどに言及しており、iBooksを軸とした「教育と書籍」への、iPadの応用に力を入れていることがわかった。この分野はそもそもiPadの強いところではあるが、小型のiPad miniの可能性を伸ばす分野でもある。



■ MacBook Proは13インチまで「Retina」に

製品のプレゼンテーションを担当した、ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏

 次に、アップルが発表したのは「Mac」だ。説明に立ったのは、ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏。シラー氏は、「今日はMacにとって大きな意味がある日になる」と語った。すなわちそれだけ、多くの製品が更新される、ということでもあった。

 まず発表されたのはMacBook Proだ。6月に15インチモデルが、縦横2倍の解像度のパネル=Retinaディスプレイを採用したものにリニューアルしており、「もっとも売れているMacBook」(シラー氏)への導入は当然とも思える。

 13インチMacBook Pro・Retinaディスプレイモデルは、ディスプレイパネルがやはり縦横2倍の2,560 ×1,600ドットになり、15インチモデル同様、光学ドライブを外し、薄型化しつつバッテリー搭載量を増やして動作時間の長さを実現する、という手法を採っている。「フルHDのテレビと比べ、実質倍の解像度である」(シラー氏)点をアピールするのも、15インチの時と同じである。


ディスプレイパネルを縦横2倍の2,560×1,600ドットにし、高画質化。色域なども同時にアップしているのも、15インチモデルと同じやり方だ



シラー氏は「世界で2番目に解像度の高いノートブック」とアピール

 Retina化したことで、同クラスのWindows PCより高解像度化したことは事実で、シラー氏は「世界で2番目に解像度の高いノートブック」と称した。一番はもちろん、15インチモデルのことである。

 ハードウエアのとしての違いは、15インチと違ってディスクリートGPUが搭載されておらず、Intel HD Graphics 4000のみが使われている点。これはパフォーマンスに影響しそうだが、13インチはそこまでの要求がない、とアップルが判断しているのだろう。

 Mac miniもリニューアルしている。ただしこちらは、デザイン変更などはなく、プロセッサー周りを最新の仕様に変更したもの。MacBook Proともども、本日より販売が開始されている。


13インチMacBook Pro・Retinaディスプレイモデルの中身。光学ドライブを取り外して薄型化、メモリーやフラッシュドライブも取り外し不可にしてスペースを作り、そこにバッテリーを満載する設計。15インチと違いディスクリートGPUはない Mac miniの新モデルも今日発表。こちらはプロセッサー周りを変更した、順当な変化


■ エッジが「5mm」になった第8世代iMac

 Macの新モデルという意味で、会場では圧倒的に注目を集めたのが「第8世代iMac」である。一部で噂はあったものの、MacBook Proほど発表が本命視されていなかったこともあり、少々驚きではあった。そして、デザインの面ではさらに「驚き」が強かった。

 まず壇上に映ったのは、1998年に出た初代のiMac、ボンダイブルーの懐かしいボディのあれだった。

「これはとてもすばらしいデザイン。我々は何年にもわたって、これを改善してきて、現在7世代目になる」(シラー氏)

 CRTから液晶へ、モトローラCPUからインテルCPUへと、世代を経て変化してきた中で、どんどんと「板」に近い形状になってきたが、第8世代では、さらにそれが突き詰められた。

初代iMacから第7世代まで。地道に進化を続け、どんどん薄く・大型の画面になっていった。
第8世代iMacを、フィル・シラー氏がお披露目。サイドの「薄さ」に今日一番の歓声が上がった。

 本体の再度は薄さ「5mm」となり、光学ドライブもない。中央部はさすがに盛り上がって厚くなっているものの、イメージは大きく変わった。

「これまで出したiMacの中で、もっとも美しいもの」とシラー氏は言う。美しいかは好みもあるだろうが、もっとも薄く見えて、いままでのiMacから「一段と変わった」「洗練された」ように感じられるのは間違いない。

 薄型化は液晶パネルの工夫による部分が大きく、内部を見る限り、出っ張った部分はCPUのクーリング関係だ。そしてよく見ると、フラッシュストレージとHDDの両方があることにも気づく。

 「フラッシュドライブは高速だが、容量の点ではハードディスクの方が有利。だから我々は、パフォーマンスと容量の両面を狙い、両方積むことにした。両方が『1つのストレージ』として見えるのが、『Fusion Drive』だ」

新iMacのストレージは「Fusion Drive」に。ハードディスクとフラッシュドライブの組み合わせで、スピードを維持する仕組みになっている

 この仕組みは、要はOSやよく使うアプリだけをフラッシュストレージ側に配置し、データ系をHDDに置く、というインテリジェントなシステムだ。利用者側は、なにも配慮する必要はない。とはいえ、これはオリジナルのシステムというより、Windowsの世界では「ハイブリッドドライブ」などと呼ばれていたもので、発想は昔からある。アップルが、容量を必要とされるメインマシンに入れてきたところが面白い、といえる。

光学ドライブのない第8世代iMacには、外付けする必要がある。今回発表された製品からは、すべてで光学ドライブが取り外された

 この一連のリニューアルの結果、アップルが投入しているMacのほとんどから、光学ドライブが消えた。今回発表したモデルは全て光学ドライブ無しだ。

 「光学ドライブはないので、外付けすることになる」とプレゼンに映し出された時には、会場から失笑が漏れた。それは光学ドライブがないことに対する反応ではなく、「まあ、もういいよね」という、会場全体のコンセンサス的な笑いであった。iTunesの上でエコシステムを作り、映像も音楽もアプリも配信するアップルのスタイルが、少なくともアップル製品を一般的に利用する人々の間では(ある意味当然だが)、定着している事実を示すものといえそうだ。



■ 1億台を超えたiPad、「第3世代」は6カ月で世代交代へ

 そして、残る話題は「iPad」だ。

 ティム・クックCEOが再び壇上に戻り、「iPadの累計出荷台数が、2週間前に1億台を超えた」ことを発表した。

 2年半前の初代iPad発表以降、「タブレット市場を作ったのはiPadである」とクックCEOは言う。それは否定しえない。Androidタブレットなどが続々登場したが、結局端末の売り上げでも、アプリ流通の市場規模でも、iPadの牙城を崩せなかった。

 「タブレットのウェブトラフィックにおいて、iPadは91%を占める。なぜか? みなさん、それだけiPadが好きなんじゃないですかね」

 ウェブトラフィックのデータは、アップルが何度も会見で引き合いに出すデータであり、その集計条件(どのトラフィックをまとめるのか、端末内での扱いはどうなっているか)という点で、疑問もある。しかし、iPadの勢いを示す情報であることに違いはなく、アップルはこれを消さずに、2日後に来る「マイクロソフト」や、日本にもついにやってくることになった「Amazon」、Nexus 7を擁する「Google」などのライバルを迎え撃ちたいはずだ。

 そのために、アップルは「2つの武器」を用意した。

 2つ?  そう、ここが意外であった。

第4世代iPad。デザインなどは、第3世代とまったく変わらない

 まず壇上で紹介されたのは、「第4世代iPad」だった。

 「まったく同じ価格で、2倍のパフォーマンスが手に入る」

 シラー氏はそう説明する。搭載しているプロセッサーが、第3世代で使われていた「A5X」から、iPhone 5で使われている「A6」を改良した「A6X」に変わったためだ。A6XとA5Xでは、演算力・グラフィック性能ともに倍、とアップルは説明している。


第4世代iPadはCPUに「A6X」を採用。第3世代が使っている「A5X」に比べ、処理速度・グラフィックスともに2倍に

 A6Xについては、A6が他社のように「コアをクアッド化で高速化」するのではなく、「コアの能力を上げてデュアルコアのまま倍速化」というアプローチを採ったプロセッサーであるので、それをさらに「GPUのコアだけ、3コアからクアッド化で高速化」した、と考えれば良い。A5Xはとても規模の大きいSoCで、半導体製造コストが高かった。A6よりアップルは製造プロセスをシュリンクしているので、実はA5Xよりかなり安い。それにあわせてプロセッサーを変え、ここからの商品化サイクルを変化させ、コスト的にも有利にしたかった、という狙いもあると予想できる。性能が2倍にアップしていても消費電力が変わっていないのは、SoCのシュリンクによる効果も大きいと考えられる。

第4世代iPadでは、LTEの対応を拡大。日本ではソフトバンクとKDDIの名が。これは、iPad miniでも同様だ。

 また日本の場合、iPadでも、LTEがついにKDDIとソフトバンクでスタートする。シラー氏もKDDIの名前に言及したほどだ。日本では両社より「販売を近日開始する」とアナウンスがあったようだが、通信スピードの向上はタブレットにとってプラス。テザリングの可能性も考えると、商品力はかなり高くなった、といっていい。

 ただしその分、第3世代iPadの(製品として展開された)寿命の短さには、色々切ないものを感じるのも事実である。



■ 本命iPad mini登場。Nexus 7と直接対決

 本命といえる「iPad mini」はこの後発表になった。

 iPad miniは、第4世代iPadの後ろに隠れるようにあった。第4世代iPadがくるりと裏を向くと、一回り小さな「iPad mini」が現れる、という仕掛けだ。

第4世代iPadの後ろから、iPad mini登場。「同じイメージ」と「サイズ」の両方をアピールするうまいやり方だ。
iPad miniは、「ブラック&スレート」と「ホワイト&シルバー」の2種類。デザインテイスト的には、iPhone 5を踏襲している印象だ。

 「miniはとても小さくなった。これまで予想もしなかった場所でも使える」

 シラー氏のこの言葉は、もちろん小型化をアピールためのものだ。7.9インチと、いままでのiPad(9.7インチ)より小さく、縦横比は4:3。重量は9.7インチiPadの半分以下である308g(Wi-Fiモデル)で、薄さは2.2mm薄い7.2mm。

 文具的というイメージをより演出するためか「紙のノートパッドより軽く、鉛筆より薄い」(シラー氏)というフレーズも飛び出した。

iPad miniのサイズを示すために、「紙のノートパッドより軽く、鉛筆より薄い」という例を出す。ちょっと大きいのだが、確かに薄くて軽い

 だが、むしろアップルが強調したかったのは、ディスプレイの縦横比の違いと若干のサイズ違いによって、「7インチクラスのライバルより優れている」という点だ。シラー氏は壇上で、直接の比較対象として、Googleの7インチタブレット「Nexus 7」を挙げた。まず、縦横比の違いから若干画面が大きくなり、表示領域が35%広いこと、しかも、9.7インチのiPad向けに作られた「タブレットの画面に最適化されたアプリ」がそのまま使えるので、画面をより有効に使えることなどを説明していった。


Nexus 7(左)と「直接比較」。画面の広さ・アプリの使いやすさをアピールしていた

 UI部分を切り取って「ウェブの表示面積だけを比較する」といった手法も使われていて、すべてが納得できるものではないが、確かに触ってみると、iPad miniの方が広く、使いやすい。ウェブや書籍などを見る場合、16:10のディスプレイは「縦長すぎる」と感じることが多かったのだが、iPad miniはそうではない。スマートフォンであるiPhone 5では16:9を導入したものの、操作体系・見え方の違うスマートフォンでは、少々使い勝手も事情も異なる。

 7インチとの比較論においては、人によって感じ方が異なる部分もあるだろう。だが、ことアップルの論理を考える場合には、彼らがすでに「快適なタブレット体験」である「4:3で動くiPad」を持っている以上、それをそのまま小型化して、互換性やアプリの量を維持したままの方がユーザーにはプラスである、と考えたと思われる。

 実際、シラー氏は「iPad 2」と「iPad mini」を比較した。同じ画面解像度・同じ縦横比であり、プロセッサーも同じ「A5」(クロックやメモリーの量は不明、おそらくはオリジナルと同じものではなく、製造プロセスをシュリンクしたもの)だ。iPad 2をミニチュア化し、激戦地である7インチ市場に投入するのが「iPad mini」、ということになるのだろう。キーワードは「Every inch an iPad」(日本では「ミニなのは、サイズだけ」)だ。

iPad miniと「iPad 2」を比較。サイズは異なるが、縦横比や解像度は同じ

 会見の最後、クックCEOは三度壇上に戻ってきた。そして、こう話しかけた。

 「今年は年初から、様々なイノベーションをお伝えしてきた。これらはみな、アップルだから提供できるもの。みなさんも、それに同意してくれると思うのですが。今年はアップルにとって、イノベーションが実に多産な年となった。みなさんが、今日発表した製品を愛してくれることを期待します」

 近年で、今年ほど、アップルがいろいろなサービス・製品を刷新した年は、あまり思い浮かばない。もちろん、そのすべてがうまくいったとは思わない。最近は、地図の刷新の問題で物議を醸した。とはいえ、アップルが有利な立場を使っていまだ「攻めよう」としているのは間違いなく、その姿勢がこの「数」に現れているのだろう。


(2012年 10月 25日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)などがある。

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[Reported by 西田宗千佳]