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第528回:ソニーのエントリーBDレコーダ「BDZ-AT350S」
~AVCHD 3D/60pで、ようやく3Dのストーリー繋がる?~
■AVCHDのVer2.0策定
8月6日から発売されている、ソニーのBDレコーダ・エントリーモデル2機種。わざわざ「エントリーモデル」と断わっているからには、上位モデルも控えており、スカパー! HDチューナを搭載したモデルなどが、10月に登場する予定だ。
この夏にいち早くエントリーモデルが出たのには、理由がある。今年7月1日に、AVCHDのVer2.0が策定され、従来ビデオカメラでメーカーごとの独自規格扱いとなっていた1080/60p記録、MPEG-4 MVCによる3D記録が公式にサポートされたのだ。
現在コンシューマの3D環境は、テレビとカメラが先行している。この2つを直結すれば“3D環境”と言えるが、間の保存が各社の独自規格をまるごとコピーしておくしかできなかったため、全体のストーリーが繋がらなかったのである。
既に発売が開始されているBDレコーダ新モデルは、「BD-AT750W」と「AT350S」の2モデル。両方ともAVCHD 2.0に対応している。AT750Wがダブルチューナ、AT350Sがシングルチューナであるほか、AT350Sにはウォークマンへのお出かけ転送機能がないといった細かい違いはあるが、基本的な機能はほぼ同じ。HDD容量も500GBで共通だ。
今回はこのAT350Sのほうをお借りしてみた。店頭予想価格は6万5千円前後となっているが、すでにネットでは4万台前半まで下がっており、3Dカメラ所有者にはお買い得感が高い。
もちろんレコーダとしての進化点も数多いこの夏モデル、さっそくテストしてみよう。
■好印象のデザイン
まずデザインだが、エントリーモデルとは言っても安っぽい感じはなく、黒のアクリルとヘアライン仕上げの2トーンが綺麗だ。スペック表には厚みが49.5mmとあるが、それは足まで入れての高さで、本体部分だけの厚みは実測で42.3mmしかない。
さらに奥行きは235mmしかない。残念ながらDIGAほどではないが、それでもかなり短いほうだろう。ラックに入れるのではなく、テレビの前にでもなんとか置ける程度となっている。
レコーダとしてはかなり薄型 | 奥行きも短く、テレビの前に置ける |
フロントパネルには電源とメディアのイジェクト、それから今回のウリである「カメラ取込み」ボタンがある程度。前面のカバーを開けても中にはボタン類は一切なく、USB端子、B-CASカードスロット、リセットボタンがあるだけだ。
エントリー機ながら「カメラ取込み」ボタンがあるのがポイント | フロントカバー内にもボタン類はなく、シンプル |
内蔵HDDは500GBで、前出のとおりシングルチューナ仕様である。画像処理エンジンは新開発の「CREAS 4」、エンコーダも改良された「インテリジェントエンコーダー3」を搭載している。このあたりもあとでチェックしてみよう。
背面を見てみよう。テレビは地デジとBS/CS兼用入力のみで、当然ながらアナログチューナは付いていない。アナログ入力は1系統と、シンプルだ。出力はアナログAVのほか、D4端子、光デジタル音声、HDMI出力が各1系統ずつ。
リモコンも見ておこう。BDのリモコンは昨年「BDZ-AX2000」が出たときに大幅な見直しが行なわれたが、今回付属のリモコンはその時のものと同じである。メニューとしては多少の変化はあるが、大きく新規にフィーチャーされたところがないために、同じで十分ということだろう。
入力は少ないが、多彩な出力を備える | 昨年夏モデルからリモコンは変化なし |
■3D撮影と保存のこれまで
テレビ録画機能も気になるところだが、まず先に3D撮影と保存に関しておさらいしておこう。
ソニーの3Dカメラ「HDR-TD10」 |
現在3Dが撮影できるビデオカメラとしては、ソニーの「HDR-TD10」や「Bloggie 3D」、JVCの 「GS-TD1」などがある。「HDR-TD10」と「GS-TD1」はフルHD解像度でMPEG-4 MVC記録をサポートしている。パナソニックは3Dレンズアダプタを使用して、サイドバイサイドで記録するカメラをリリースしている。なお、パナソニックは業務用で別方式の3Dカメラを複数リリースしているが、これは別にしておく。
サイドバイサイドは普通のAVCHDフォーマットと同じなので、保存は従来どおりの機材で行ない、3D再生するときにテレビ側でのサポートが必要になるだけなので、運用にはあまり問題がない。ただし一度縮小されたものを拡大表示することになるので、画質がイマイチという欠点がある。
一方MPEG-4 MVC記録では、フルHD解像度の左右の目用の映像を1本のストリームに組み込んでいくので、解像度は高い。しかし、汎用の保存フォーマット規格がないために、カメラの独自規格となっていた。ただし、ストリーム自体はBDの3Dフォーマットに準拠しているので、まったくの独自というわけでもない。
ソニーの機器に関して、AVCHD 2.0策定前にできていたことを整理しておくと、まず「HDR-TD10」では、カメラにHDDを接続して3Dの映像をまるごとバックアップする、「ダイレクトコピー機能」が使えた。再生するときはまたHDDをカメラに接続して、カメラ経由で映像ファイルを再生するという仕組みである。
一方、BDレコーダとの組み合わせでは、昨年発売のモデルでは「ディスクダイレクト機能」を使って、TD10の3D映像を直接BDに書き出すことができた。「ダイレクトコピー機能」も「ディスクダイレクト機能」も、基本的にはハンディカム側が持っている機能である。
今回の新モデルではこれに加えて、レコーダ側の機能として、HDDに3D映像を取り込んだのち、編集もして、BDに書き込むことができるようになった。つまりこれまでの2D撮影でのワークフローと同じになったわけである。
また1080/60p撮影の映像も、これまではBDに保存する手段がなかったのだが、これも今回のAVCHD 2.0でサポートした。3Dカメラでなくても、最近のビデオカメラは60p記録をフィーチャーしているので、この恩恵を受ける人は多いだろう。
なお、作成した3Dディスクの再生は、ソニーのBDレコーダ2010年9月/10月発売モデルと、「AT750W/AT350S」を含む2011年の新モデルのみ可能。60pディスクの再生は新モデルのみの対応となる。
モデル | 3D動画 | 60p動画 | |
10年末モデル AX2000/AX1000/AT900 AT700/AT500/AT300S | AVCHD 3D | ◯ ディスク ダイレクト | × |
11年夏以降のモデル (AT750W/AT350S含む) | AVCHD 3D/Progressive | ◎ HDD/ディスク ダイレクト | ◎ HDD/ディスク ダイレクト |
■3D映像の編集と保存
では実際に3D撮影の映像を扱ってみよう。カメラは「TD10」を用意している。
USBでAT350SとTD10を接続し、フロントパネルの「カメラ取込み」ボタンを押すと、問答無用でいきなりHDDへの取り込みがスタートする。高速ダビングなので、大して時間はかからない。
USBで接続して「カメラ取込み」ボタンを押すだけ | ワンタッチダビングが起動して、自動取り込みが開始 |
取り込んだ映像は、通常の録画番組と同じように「ビデオ」の一覧に並ぶ。取り込んだ日付ではなく撮影日でソートされるので、昔撮った映像はかなり下の方に表示されることになるだろう。
3Dカメラの映像は、タイトル名のところに3Dという文字が記されている |
このままBDに丸ごと書き込むなら、「ディスクへダビング」機能で書き込むだけである。なお、以前からカレンダー情報などを入れ込んだ「思い出ディスクダビング」機能も搭載しているが、これはまだ3Dには対応していない。
どういう状況になるのか、一応テストしてみた。「思い出ディスクダビング」機能からBDを作成しようとすると、「メニューを作成しますか?」という表示が出る。これで「はい」を選ぶと、アラートが出て書き込みができないようになっている。カレンダーメニューなどのオーサリング機能が、3Dのディスクフォーマットと互換性がないということなのだろう。「いいえ」を選ぶと、通常のディスクダビング同様の手順で書き込みが完了する。
思い出ディスクダビング特有のメニュー作成 | メニューを作ると3Dと1080/60pの素材はダビングできない |
しかしせっかくHDDに取り込んでいるのに、ただ右から左に同じものをまるっと書き込むだけでは何のメリットもない。やはり編集ぐらいはしたいところだ。
編集機能はさほど多くない |
ソニーのBDレコーダは、編集機能はさほど多くない。分割や部分削除といった機能が使えるが、ビデオ編集らしい機能ではプレイリストを使うのが妥当だろう。
まずシーンの切り出しを行なう。撮影した3D映像は、当然複数のカットから成り立っているが、レコーダ上では1本の連続したストリームで、カットごとにチャプターが打たれた状態になっている。
シーンの切り出しでは、この1本のストリームに対して開始点、終了点を決めて切り出していく。映像の操作としては、スキップボタンで次のチャプターにジャンプできるので、まるっきりチャプターが無視されるというわけではない。複数のポイントを切り出したら、「シーン移動」で順番を並び替えることができる。
プレイリスト編集では、まずシーンを切り出す | 切り出したシーンは並び替えも可能 |
できあがったプレイリストは、やはり番組などと一緒に表示される。これを同じようにBDに書き込んでいく。
まるごとダビングしたものと、プレイリスト編集したものが書き込まれた |
先ほどまるごとダビングしたものと、新たにプレイリスト編集したコンテンツがBDに書き込まれたのがわかる。ただメニュー画面のようなものはなく、単に格納されたファイルがわかるだけという、DVDで言うところのVRモードと似たような状態である。
プレイリスト編集したタイトルを再生してみたところ、カット替わりのところで0.5秒ほど映像と音声がフリーズ状態となる。再エンコードして1本に繋げてくれるのかと思ったら、単にGOP単位で切って並べるだけの機能のようだ。
プロが3Dコンテンツを作る場合は、つなぎ目で視差調整などを行なう必要はある。コンシューマはそこまでは無理だとしても、せめてつなぎ目ぐらいはスムーズに流れて欲しかった。ビデオカメラでは撮影したクリップを連続再生できるのに、正直これではガッカリだ。
■長時間モードが上々
では本業(?)とも言えるテレビ録画機能について見ていこう。今回は新エンジン「CREAS 4」の搭載が見所である。従来の精細感調整、輪郭調整、クリアブラックの各機能に加え、新たに超解像技術を投入した。昔録ったDVDなどSD画質のソース再生に威力を発揮するという。
パラメータが増えたことで設定が大変になることが予想されるわけだが、そのあたりは大幅に楽になっている。画質に関してはモニタのタイプ、液晶やプラズマ、プロジェクタなどを選んで、あとはおまかせ設定を選択するだけで、各パラメータを自動的に設定してくれる。
画質設定はプリセットが充実した | まずはテレビの種類を選択 |
続いて画質モードを選ぶ | もちろんカスタムで設定も可能 |
いくつかDVDを再生してみたが、正直、超解像の効果はよくわからない。元々の精細感調整などの機能もそこそこ高いので、新たに加わった超解像が大きな効果を発揮する様子は観察できなかった。
カスタム値にもおすすめのプリセットが |
3D表示に関しても、これらおまかせ設定でカバーする。さらにカスタム設定の「おすすめカスタム値」の中には、「BDシネマ3D」という設定があり、狙い撃ちで補正することが可能だ。もちろんカスタムなので完全に手動で調整もできるが、それぞれのバランスの問題もあるし、一つのパラメータだけいじっても効果がわからない時がある。それならばこういった「おすすめ」を切り替える提案型のほうが、ユーザーには効果の違いが一度にわかって満足感が高いだろう。
もう一つの進化ポイント、録画機能の「インテリジェントエンコーダー3」もチェックしてみよう。すでに前作「インテリジェントエンコーダー2」から、映像シーンに合わせてダイナミックにビットレートを変える「新ダイナミックVBR」、EPGの番組ジャンルから画質パラメータを最適化する「ジャンル別エンコーディング」、顔検出技術を応用して、人間が注目するポイントによりビットレートを割り当てる「ビジュアルアテンション」を搭載してきた。
今回はそれらを総合的に判断しながら、シーンごとにいくつかのパターンに当てはめ、最適なエンコーディングを適応する。これにより、超時間モードの画質が向上した。
【 シーン解析パターン 】 |
人物、人物+夜景、動き、マクロ、 風景、夕景、夜景、ソリッドカラー |
長時間モードとしては、LSR(4Mbps)、LR(3Mbps)、ER(2Mbps)の3モードがある。今回はNHKで放送中の高校野球を各モードで録り比べてみた。
意外なことに、生放送で沢山の人間が映り込む野球中継でありながら、数年前の超時間モードとは比べものにならない画質だ。ERモードでさえも、本当にこれで2Mbpsしかないのか、と思えるほどである。もちろん高画質というわけではないが、見ていて不快感がない。LR、LSRとも比べてみたが、正直大して違いがないほど、超時間モードは良くできている。
逆にSR(8Mbps)ぐらいのほうが、エッジがギスギスした感じが残る部分があり、気になるぐらいである。本機はHDDが500GBしかなく、1~2TBが標準となりつつある中で少ないわけだが、長時間でいろいろ録っておきたいというタイプの人にはちょうどいいモデルだろう。
■総論
いつもはハイエンドモデルを中心にレビューしているが、今回のAT350Sはエントリークラスの下位モデルである。レコーダとしてはシングルチューナなのがテレビ好きとしては物足りないところだが、ソニー独自の「おまかせ・まる録」や「My! 番組表」を搭載し、レスポンスも非常に速い。シングルチューナでも、かなり「使える」マシンだ。
注目の3D映像の保存は、編集結果がいささか残念であるが、今後改善されるだろう。本気で3Dで押していくなら、当然「思い出ディスクダビング」でのオーサリングメニューも3D化すべきだし、今後はその方向が期待される。
しかしまあとりあえず、3Dカメラで撮影しても、独自規格でしか保存できないという状況は、これで回避されたことになる。今後ビデオカメラは3Dではなくても、1080/60pに行く可能性は高い。レコーダも、AVCHD 2.0の対応は必須になってくるだろう。