小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第596回:iPad miniをAVライフで活用してみる

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第596回:iPad miniをAVライフで活用してみる

nasneからTV視聴。iPad、Nexus 7と棲み分けは?

すでに1カ月以上経ってますが

iPad mini

 10月26日にアップルの「iPad mini」が発表され、即日予約開始となった。11月2日よりWi-Fi版が発売開始で、もうすでに1カ月以上が経過していることもあり、すでに入手した人も多いようだ。LTE対応のWi-Fi + Cellularモデルは11月30日にau/ソフトバンクから販売が開始されている。

 そもそも7型タブレットは、サムスンGalaxy TabなどAndroid勢が市場を作ってきた分野で、故スティーブ・ジョブスはこのサイズに否定的であった。ただ氏の全否定はいつものことで、だいたいボロカスに言ったあと半年か1年後には同ジャンルに参入するというのがiPod時代からのパターンであったので、まあどう考えても7型は来るわな、と思っていた。存命のうちに発表されなかったのが残念である。

 個人的にはiPhone 5も第3世代iPadも使っている中で、その中間サイズであるiPad miniまで必要か? という疑問を払拭できないでいる。それというのも、GoogleやAmazonが低価格7型タブレットを次々にリリースしたことで、7型のタブレットだけが妙に激戦区になっているからだ。さらに、それらの7型は低価格だが、いわゆるアキバ用語で言うところの“中華タブレット”とは一線を画す性能で、決して悪くないモノであるがゆえに、余計悩むわけである。

 今回はiPad miniをAV的に使うとどうなのか、10型の第3世代iPad、GoogleのNexus 7などと使い勝手比較しつつ、試してみたい。



本体サイズと画素密度の関係

 すでに本体スペックなどに関しては記事も沢山出ているところなので、ハードウェア的なレビューは割愛するが、スペック的には第2世代iPadを7.9型に縮小したという考え方でほぼ間違いないようだ。

 多くのAndroidタブレットが16:9の7型であるのに対し、iPad miniは4:3であるがゆえに、横幅が広い。7.9型とは言うものの、実質ほぼ8型と呼んでも差し支えないだろう。7型台タブレットとしては、かなり独特のサイズとなっている。外形寸法は200×134.7×7.2mm(縦×横×厚さ)で、重量はWi-Fiが308g、Wi-Fi+Cellularが312g。第3世代のiPadより53%軽量になっている。

ほぼ8型で、横幅が広いのが特徴
Nexus 7(左)と比較
iPad miniの裏面
底面。端子がLightningになっている
付属のLightning-USBケーブル
背面にはカメラも搭載

 これはiOSのアプリが、解像度固定で作られているところに起因すると考えて良さそうだ。現在iPad用アプリは、Retina Display以前の初代iPadと第2世代iPad用の1,024×768ドットか、Retina用の2,048×1,536ドットの2パターンで作られている。iPad miniの液晶は1,024×768ドットだ。

iPadとサイズ比較。画面アスペクトは変わらず小型化されている
iPad、iPad mini、Nexus 7の順に重ねたところ

 新しい画面解像度やアスペクトを使用すると、旧iPhone用アプリをiPhone 5で起動した時のように、余った部分に黒い隙間ができてしまうはずだ。隙間を埋めるためには、そのサイズ用にアプリを作り直す必要があり、現在でもiPhone用はかなり面倒な事になっている。

 iPad miniは、小さくなってもiPad 2と同じ解像度を維持することで、Retina Display以前の解像度のアプリがそのまま動く事を優先させた解像度だ。画素の密度は163ppiで、初代iPadと第2世代iPadの132ppiよりは若干密度感は増しているものの、Retina Display版iPadの264ppiには及ばない。

 ちなみにNexus 7とKindle Fire HDの画素密度は216ppiとなっており、iPadのRetina Displayと十分対抗できる密度となっている。Nexus 10に至っては、iPadと同サイズながらppiでは300あり、iPad Retinaを越える。もっとも密度が高いのはiPhone 4以降のRetina Displayで、こちらは326ppiと桁外れのスペックだ。

モデル解像度画面サイズ画素密度(ppi)
iPad mini1,024×768ドット7.9型163
第1&2世代iPad1,024×768ドット9.7型163
第3&4世代iPad2,048×1,536ドット9.7型264
iPhone 4/4S960×640ドット3.5型326
iPhone 51,136×640ドット4型326
Nexus 71,280×800ドット7型216
Nexus 102,560×1,600ドット10型300
Kindle Fire HD1,280×800ドット7型216
Kindle Fire HD1,920×1,080ドット8.9型248

 このうち筆者が実際に購入・使用してきたのは、第1&3世代iPad、iPhone 4/5、Nexus 7だ。一通りのサイズと画素密度は経験しているわけだが、体験的には、ディスプレイサイズは目との距離に大きく関係する。小さいディスプレイではどうしても近くで見る事が多くなり、大きくなればそれなりに目を離さないと全体がみえない。7型台という中間のサイズは、目とディスプレイの距離としてもちょうど中間になる。

 したがって、小さいディスプレイほど画面密度が高いという傾向は、理に適っている。その点では、Nexus 10だけ突出して高スペックであることがわかる。

 さて、そこで今回のiPad miniだが、このモデルだけしかできない新機能やサービスというのは特になく、やれることは第2世代iPadと同じである。ただちょっと小さいということで、どのように使い勝手が変わるのか、というところがポイントになる。

 当然片手で完全に持てるサイズと軽さ、ということになろうかと思うが、ポイントは解像度である。「サイズが小さい分、画素が詰まって低解像度でも気にならない」という話を多く見かけるが、個人的には全然そんなことはなく、すでにRetinaやNexus 7の解像感がデフォルトになっている身からすれば、画素の荒さが気になる。

iPad miniの画面

 例えばテキスト系のコンテンツ一つでは、iPadよりも一段近い距離で見ることになるため、文字の不鮮明さが目立つ。テキスト系の電子書籍は、フォントを大きくして目を離して読めば我慢できるが、ニュース系のWebを読むと、サイトによっていちいち最適化するわけではないので、読みづらい。

 特にマンガ系のコンテンツでは、等倍でみないとコマ割りが楽しめないし、吹き出し内の文字も画像化されているため、文字の甘さが気になる。

 さらにiPhone用アプリは、iPad系では等倍か2倍拡大表示で使えるのだが、等倍ではiPhone 5よりも縦が短くて使いづらいし、2倍にするとジャギーが気になるしで、常用にはキツイ。

 というわけで、うちでは寝転がっての読書系マシンはNexus 7でほぼ決まりである。iPadも高解像度だが、寝っ転がって片手で掴んでいられるサイズと重さという点で、iPadよりもハンドリングがいい。

iOS版Twonky Beamを使う

 iPad miniは、テキスト・マンガ系よりもAV系コンテンツを楽しみたい人に向いているだろう。先日、DLNA対応クライアントであるTwonky BeamのiOS版がDTCP-IP対応になり、App Storeで公開された。

 これはAV Watchでも記事になっているが、最近DTCP-IPのルールが緩和されたことと無関係ではないだろう。これまではDTCP-IPルールで再生可能かどうかを判断するためには、受信TTL(Time to Live)をチェックすることが義務付けられていた。

 受信TTLは、アプリ層ではなく、OS層からでなければチェックできないが、AndroidやiOSのようなモバイルOSは、アプリ側からOSにTTLをチェックさせることができない。このため、OSをカスタマイズできるAndroidでは、タブレット製造メーカーが独自にOSをカスタマイズしてTTLチェックできるような実装をしていた。

 ところがTwonky Beamは、最初からTTLをチェックせず、再生を可能にしてしまっていたため、長い間ライセンス違反なのではないかと言われ続けてきた。Android版は6月からDTCP-IP対応版が公開。iOS版は、DTCP-IP非対応のバージョンが今年8月からApp Storeで公開されていた。

 iOSでは、そもそもOSをライセンスしていないので端末はアップル製しかないし、アプリ層からOS層へTTLチェックさせることも禁止されているので、OS側の仕様が変わらない限り、DTCP-IPルールでの著作権保護コンテンツ再生はできないといわれていた。

 だが、10月にDTCP-IPのルールが緩和され、「技術的に脆弱でなく、商用として合理的である場合」は、TTLチェックなしでもOKという事になった。これが、DCTP-IP対応版Twonky BeamがApp Storeで公開されることになった背景である。

 では実際に、iOS版Twonky Beamを使って、iPad miniで著作権保護コンテンツを再生してみよう。DLNAサーバとしては、「nasne」を使ってみた。

 nasneは、PS3などとネットワーク接続して利用する録画マシンで、HDDとチューナが内蔵されているが、本体にはモニター出力もリモコンもなく、PS3のアプリ「torne」などからすべてコントロールする。普段からDTCP-IP上で動いている録画機だと言える。

Twonky Beamのホーム画面。動画配信サービスのクライアントとしても機能する

 設定などは特になく、強いて挙げれば「メディアサーバー設定」の「クライアント登録」を「自動」にしておくぐらいのことである。これでDTCP-IPクライアントがどんどん繋がるようになっている。

 Twonky Beamを起動すると、ホーム画面には動画配信サービス一覧が表示される。ホームネットワーク内のサーバに接続するためには、画面右上の家とWi-Fiが合体したようなアイコンをタップする。

 するとホームネットワーク内のDLNAサーバーが表示される。この中から「nasne」を選択、ビデオフォルダ内からコンテンツの分類などを選んで番組を再生する、という段取りだ。

ホームネットワーク内のDLNAサーバの中からnasneを選択
ジャンル、日付などのまとめ方がフォルダとして現われる

 実際には、ジャンルから選ぶしかないのかなと思う。ジャンルではニュース、情報、ドラマなど11項目に分けて録画コンテンツが表示される。一方日付では、月別まではフォルダ分けされているが、その中に直接コンテンツが入っているだけなので、結局のところ「月」しかわからない。

「ジャンル」の中身。11項目に分類される
日付は月までしか分類されない
コンテンツファイル名からは番組名ぐらいしかわからない

 見たい番組を選ぶと、プレーヤーの選択画面が出てくる。これはいわゆるDLNAレンダラーを選ぶという行為で、テレビなどのレンダラーが他にあれば、iPad miniをリモートにして、nasneの映像をテレビに映したりすることができる。iPad mini自体で再生させる場合は、「本体」を選択すると、そのまま再生がスタートする。

 映像の再生は、最初からの再生では特に引っかかったりすることもなく表示できるが、上部の再生ポイントを動かしてしまうと、とたんに再生が引っかかることがある。これは多くの人が同様の現象に見舞われているようだ。ネットワークの速度に応じて、コンテンツの品質を選択できるが、「低」にしても抜本的な改善はみられない。今のところ、ユーザー側での解決法は見つかっていないようだ。

プレーヤー選択画面。iPad miniで再生したいときは「本体」を選ぶ
Twonky Beamの設定画面

 ただ表示としては発色も良く、IPS液晶で視野角も広い。Nexus 7とほぼ同等のハンドリングながら、縦横ともにちょっと画面が広いので、動画コンテンツの視聴に狭苦しさがない。テレビのサブスクリーンとして、丁度いいサイズ感だ。

放送中の番組も視聴できるはずだが、うまく動かない

 残念ながら放送中の番組を視聴できる「ライブチューナー」機能は、iOS版ではうまく動かないようだ。ちなみにAndroid版では問題なく再生されるので、おそらくアプリ側の問題であろうと思われる。

 一応Twonky Beamを使えば、iOSもAndroidもテレビ番組のストリーミング再生ができるようになったことで、これまでほぼ「死に体」となっていたホームネットワークソリューションが生き返ることが期待される。

 さらに、以前から真面目にルールを守ってきたデジオンの「DiXiM for Android」では、DTCP-IPのダウンロード型ムーブに対応し、タブレットに番組をダウンロードして持ち出せるようになっている。今のところアプリのみの販売はなく、特定のタブレットへのプリインストールのみだが、今回のルール緩和でさらに多くのタブレットへの対応の道がみえてきた。

 一時期はメーカー間の壁を打ち破るとして大きな期待を背負っていたDLNAだが、著作権保護規制の前に、結局メーカー内での囲い込みソリューションのほうが便利という現象が起こったため、多くの人は失望した事だろう。筆者もその一人だが、再び盛り返しそうな気配である。



総論

 iPad miniは、解像度の問題でテキスト・マンガ系コンテンツの表示デバイスとしては難ありだが、動画、音楽コンテンツではハンドリングが良いこともあって、なかなか楽しめる端末に仕上がっている。ニュースやSNSクライアントはiPad用に良いものが揃っているだけに、解像度の低さがつくづく残念である。

 個人的な使い分けとしては、外に取材で持ち出してヘヴィなメモ取りをするときは第3世代iPadとロジクールの「Ultra Thinキーボード」、ややゆるめの取材の時はNexus 7と液晶カバーになるキーボードといった具合に使い分けており、正直iPad miniが入り込む余地はない。

 家庭内では、デスク周りでニュースを見るときは第3世代iPad、寝室で寝ながらのニュースチェックはNexus 7、電子書籍はソニーのReaderと使い分けているので、こちらでもiPad miniの余地がない。

 こうしてみるとiPad miniだめなのか、と思われるかもしれないが、液晶面のガラスの硬度や背面のスマートさなど、モノとしての質感は高い。Nexus 7は、iPadと同じつもりでそのままカバンに入れてたら、届いておよそ1週間でガラス面に深い傷が入り、失望した。価格が安いのでそれなりにあきらめもつくが、iPad miniはちょっと高いだけあって、その辺はしっかりしている。

 ただ、今どきとしては低解像度とも言えるディスプレイを搭載した商品であり、AndroidやノートPCも含めると、若干トレンドから外れた印象がある。次期iPad miniでは、ぜひ高解像度化を目指して欲しいところだ。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。