“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第426回:上質なレンズとマニュアルの使いやすさ「GZ-HM400」

~ シーソー式ズームレバー、BDダイレクト書込みも ~



■ 久々にビクターが仕掛けた

 今年発売のビクターのビデオカメラは、小型・軽量路線に集中していたように見える。もともとそのあたりはEverioの基本路線ではあるのだが、特に今年は女性ターゲットのGZ-HD300、HM200と、男性ターゲットのGZ-Z900で、スタイリッシュ指向に舵を取ったのかな、と思わせた。

GZ-HM400

 しかしこの8月には、久々にマニュアル撮影重視の本格モデル「GZ-HM400」(以下HM400)が登場することとなった。ここまでマニュアルにこだわったモデルは、実に'07年登場の「GZ-HD7」以来かもしれない。正直、昨年あたりからややコンサバかなーという製品が多かっただけに、久々にビクターの強気を感じさせるモデルである。

 この夏秋モデルでは、いわゆる「ソニー520ショック」対抗モデルがひしめき合う中、まったく意に介さず別の価値観で個性的なカメラを投入してくるあたりが、いかにもビクターらしい。

 では早速この意欲作、HM400をテストしてみよう。


■ 無骨だが使いやすいデザイン

 HM400には、ブラックとチタンシルバーの2色がある。今回はチタンシルバーモデルをお借りしている。

液晶ヒンジから上部へ流れ込む黒のラインが印象的

 個人的にはハイエンドモデルは黒、という好みがあるのだが、デザイン的にはチタンシルバーもなかなか良い。特に液晶ヒンジ部分に液晶受光部と思われる黒いアクリルパーツが埋まっているのだが、それが上部に流れ込むような印象的なラインを形成しており、ブラックモデルではこのコントラストは感じられなかっただろう。

 レンズは新開発のコニカミノルタHDレンズで、画角は動画48.5~485mm(35mm換算)、静止画38.3~383mm(同)の光学10倍ズーム。ただし読み出し画素数を変えることでズーム領域を稼ぐダイナミックズームを併用すれば、動画時は15倍ズームとなる。静止画にはダイナミックズームがないので、10倍のままだ。


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)

撮影モード

ワイド端

光学テレ端

ダイナミックズームテレ端

動画(16:9)


48.5mm


485mm


727.5mm

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)

撮影モード

ワイド端

光学テレ端

静止画(4:3)


38.3mm


383mm

 手ぶれ補正は、先に発売されたX900と同様、レンズ群の前に2枚のプリズムを配置して補正する方式。ある設計エンジニアによれば、このような方式は、光学手ぶれ補正という技術がまだ出始めの頃に存在した方式だそうである。以前のX900のレビューで、採用するレンズユニットのバリエーションが増えるだろうと予測したが、確かにレンズ設計の自由度が高まるメリットはあるという。

 撮像素子は1/2.33型、総画素数1,029万画素のCMOSセンサーで、X900のものと同じである。動画の有効画素数は498万画素で、ダイナミックズーム時には207~498万画素となる。静止画モードでの有効画素数は最高896万画素。

明るさとフォーカスを制御可能なマニュアル操作部

 レンズ脇には、マニュアル操作時に使用するダイヤルがある。レバーを上に上げると明るさ調節、下に下げるとマニュアルフォーカスとなる。それぞれをオートに戻すには、解除したい機能、つまり明るさなら上に、フォーカスなら下にもう一度レバーを動かすと、オートに戻る。

 ダイヤルの真ん中にあるSETボタンは、マニュアルの値を固定する役割を果たす。別にSETしなくても撮影はできるのだが、うっかりダイヤルを触って変動してしまうのを防ぐ意味だろう。

 内蔵メモリは32GBで、この夏他社が64GBで揃ったところに、若干見劣りはする。ただSDカードにも動画が撮れるので、すぐに足りなくて困るという状況にはないだろう。

 液晶モニターは2.8型ワイドのクリアブライト液晶で、画面左にはお馴染みのスライダーがある。スライダー搭載の初代機ではメニュー操作に戸惑った覚えがあるが、この夏モデルでは感度が調整されたのか、それとも単に慣れただけなのかわからないが、それほど違和感なく操作できる。

 液晶内側には、動画・静止画のモード切替スイッチがある。またお馴染みとなったYouTube用、iTunes用のUPLOAD、EXPORTボタンがある。USB端子もここだ。

脇にスライダーを搭載した液晶モニタ液晶モニタの内側。端子類としてはUSBだけがここにある

 上部には、SDカードスロットのほか、絞り優先、シャッター優先、ユーザーボタンがある。マニュアル撮影時に各優先ボタンを押すことで、液晶脇のスライダーで絞りやシャッタースピードを設定できる。両方併用することも可能で、その場合は完全にマニュアル露出となる。

SDカードスロットは上部マニュアル撮影での目玉、優先モードとユーザーボタン

 ユーザーボタンは、いくつかの候補から選択して機能を割り付けることができる。選択可能な機能は、シーンセレクト、逆光補正、測光エリア、ホワイトバランス、フォーカスアシスト、高速撮影、シャッターモード、連写スピードの8つだ。

 背面に回ってみよう。バッテリの脇には、イヤフォン、アナログコンポーネント、HDMI、ACアダプタの各コネクタがある。ただフタの空き方が外側なので、バッテリとフタに挟まれた狭い範囲に指を入れなければならなくなる。挿すときは構わないが、抜くときはコネクタ部を持つことになるので、フタに負担がかかりそうである。

バッテリ脇の細い部分に端子類バッテリの上には、アナログAV、マイク端子

 注目のシーソー式ズームレバーは、このクラスのビデオカメラでは珍しい。近年ではおそらく、'07年のキヤノン「iVIS HG10」ではなかったかと思われるが、HG10の簡易型っぽいスタイルに対して、HM400のは幅もあり、本格的である。

 アクセサリーシューは、カバーを開けて付属のシューアダプタを取り付けるという二段構えである。なぜこうなってるのか理由がよくわからないが、おそらくビデオライトなどを付けたときに、多少なりとも高さを稼ぐという意味があるのかもしれない。

大型のシーソー式ズームレバーを装備アクセサリーシューは穴だけ付属のシューアダプタを取り付ける

■ 描画力の高いレンズ

 では早速撮影である。関東地方はここ数日、ようやく夏らしい天気になったが、あいにく撮影日はゲリラ豪雨に見舞われるという、悲惨な条件であった。ただ雨天・曇天の光量のない厳しい条件でどれだけ撮れるか、という評価もあろうかと思われる。

 実際に撮影して感じるのは、レンズがかなり上質ということである。テレ端でもほとんど収差を感じさせない、シャープな描写だ。

シャープな描写が楽しめるレンズ光量がない中でも丹念な描写

 今回もx.v.Color ONで撮影しているが、発色も十分で、緑も自然な色が出ている。ただ液晶モニターがx.v.Color対応ではないようで、撮影時には飽和して見えるケースもあった。このあたりは単純にコストの問題なので、小型の対応液晶モニターの需要が高まることに期待したい。

強い発色にも十分耐える透明感のある発色

 ポートレートは使用しなかったが、顔認識による人肌の発色や露出もナチュラルで、曇天ながらホワイトバランスもしっかりしている。

 惜しいのは、これだけの絵を出しながら、やはり菱形絞りのボケが気になる点である。すでに映像のプロの世界でも「Bokeh」は世界の標準語になりつつあり、この表現に注目が集まっている。こればかりは、答えをすでにソニーが出してしまった以上、そこに差が付くのは仕方がない。

曇天ながら人肌もナチュラル端正な描画だけに、菱形のボケが惜しい

 エンコーダもよくチューニングされており、UXPモードからSPモードぐらいまで、十分な画質を保っている。

動画サンプル

モード

解像度

ビットレート

32GB
記録時間

サンプル

UXP

1,920×1,080

約24Mbps/VBR

約2時間56分

00019.mts(32.6MB)

XP

約17Mbps/VBR

約4時間9分

00020.mts(25.1MB)

SP

約12Mbps/VBR

約5時間53分

00021.mts(23.4MB)

EP

約5Mbps/VBR

約14時間44分

00022.mts(14.9MB)


00011.mts(72.4MB)
光学10倍から15倍にズーム
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ダイナミックズームは、いったん光学10倍までズームしていったん止まり、そこからさらに5倍ズームするといった感じで動く。光学の10倍と撮り比べてみると、15倍まで行ったときには若干S/Nが落ちるのが確認できる。

 ただ双方撮り比べれば気がつくが、最初からダイナミックズームエリアで撮っていれば、まあこんなものかで納得してしまう程度である。動画サンプルの中には、光学エリアとダイナミックズームエリアの絵柄が混在しているが、どれがそうなのかは判別できないのではないだろうか。

 ズームレバーは、確かにズームがしやすいこともあるが、多くの人にメリットがあるのは、ズームの方向が直感的に把握できるので、間違わないということだろう。また画角を少しだけズームで直したい場合の微調整もやりやすい。ただ、もう少し長さがあるとさらに使いやすかったが、まあサイズ的に難しいのかもしれない。

 AFに関しては、顔認識との併用での人物撮りでは問題なく追従する。ただテレ端で近距離を撮ろうとしたときに、うまく合わないことが多い。しかしそこは簡単にマニュアルフォーカスでリカバーできる。ユーザーボタンにフォーカスアシストを仕込んでおいて、併用するのがお勧めだ。

 
sample.mpg(405MB)
 
focus.mpg(74.6MB)

UXPモードで撮影した動画サンプル

顔認識の併用によるAFはよく追従する
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 手ぶれ補正は、ワイド端でのいわゆる「アクティブモード」対応ではない。X900よりも補正力が若干アップしたというが、ほぼ従来の性能という程度である。ただこの方式は収差が発生しにくいというメリットがあるそうで、画質重視のほうに振ったということであろう。

グリップ取り付け部の折り返しが痛い

 ハンディでの撮影では、グリップを取り付けている部分の折り返したところが、手にちくちくあたって痛い。他社ではもう数年前から単純なU字型にするか、折り返しを外側に向けるのが一般的になっており、今更そこ失敗しますか的なもったいなさを感じる。

 夜間撮影用としては、夜景モードとナイトアイモードを搭載した。通常モードではあまり室内や夜間撮影には向いていないが、それぞれの専用モードでカバーしたい、ということだろう。夜景モードは、暗いままにゲインアップせず撮るという意図だろう。一方ナイトアイモードは、映像表現としてなかなか面白い。



 
stab.mpg(60.6MB)
 
room.mpg(374MB)

手ぶれ補正の実験。補正幅はほぼ従来機同様

通常モードと夜景モード、ナイトアイモードの比較
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


■ 雰囲気のある静止画

 冬モデルのHM200では、静止画機能はほとんど見るべきものがなく、評価しなかったが、X900は大幅に普通になったので、実用的と評価した。HM400では、動画同時撮影での荒さは変わっていないが、静止画モードではレンズの良さがよく出ている。

 動画ではシャープな印象だが、静止画では少しディテールを下げて、柔らかい雰囲気を出している。人物撮影では、なかなかいい雰囲気の写真となる。

柔らかな質感の静止画レンズの良さが感じられる丁寧な描画発色にも無理がない

 シャッタースピードは静止画では1/500秒までしかないが、以前のモデルでは絞り開放で撮りたいときに、露出オーバーになるケースがあった。だが最近のモデルでは、ISO感度を下げることで対応するようである。

 ただ、動画でダイナミックズームを使っていると、静止画に切り替えたときにずいぶん画角が違ってしまうので、切り替えて撮る場合に使いづらい。静止画の方も、画素数を減らして同程度の画角まで詰められるモードがあっても良かったのではないかと思う。


■ ダイレクトにBDバックアップ

 AVCHDのビデオカメラでも、最近は規格上限の24Mbpsのモードを持つものが増えた。このモードの弱点は、AVCHD規格のDVDが作れないことである。もちろんデータとしては書き込めるのだが、BDレコーダや専用DVDライターでの再生保証ができない。

 ゆくゆくはBDの専用ライターが登場するのだろうとは思われるが、各社ともなかなかそこまでは行けないようだ。一方BDレコーダを出しているソニーやパナソニックは、そっちで保存というルートがあるので、しばらくはそれでしのげるという判断もできるだろう。

 ビクターは、カメラ専用のDVDライターをリリースして成功した先駆者である。PCレス、レコーダレスという環境でバックアップを実現したことが受けたわけだが、BDに関してもいち早くアプローチしている。実は今年の春モデルからすでに、カメラにPC用BDドライブを直結して、バックアップするという機能を搭載していた。

 今回はこの機能もテストしてみた。現時点では対応ドライブが、アイ・オー・データ機器のBRD-UXP8かBRD-UH8が推奨となっており、今回はBRD-UH8をお借りしている。

 難関は、接続用のUSBのケーブルである。Everio側はミニABソケット、BDドライブはType-Bソケットなので、ケーブルはミニAとType Bという、あまり一般的ではないケーブルを探す必要がある。市販品でもArvelあたりから出ているが、かなり大手の量販店かPC専門店に行かないと在庫がないようなタイプなので、地方の方はまずその確保が大変かもしれない。

ライティング対応のBDドライブ、アイ・オー・データ機器「BRD-UH8」ケーブルは別途購入する必要がある

 ドライブさえ繋がってしまえば、バックアップ自体は簡単である。カメラの液晶に指示される通りにやっていけば、BDにバックアップ可能だ。また同様の手法で外付けHDDにもバックアップできるが、バスパワーでしか動かないタイプは使えない。

 BDにバックアップした動画は、ファイナライズ前でもEverioを使って再生できる。BDレコーダやプレーヤー、PCを使って再生する場合は、ファイナライズが必要になる。

全部まとめて書き込むか、選択するかが選べる選択書き込みでは、4種類の方法をサポート書き込んだBDは、Everioでも再生可能

■ 総論

 カラーバリエーションを増やしたビクターの小型モデルは、価格が安いこともあって、結構よく売れているようである。初めて買うビデオカメラだったり、ちょっと海外旅行に持って行きたい、という用途には、ピッタリはまるのだろう。

 ただ、高画質というキーワードからは、若干外れてくるのは事実だった。GZ-X900は画質面で健闘したが、三脚立てて撮るカメラでもない。そこに登場したのが、HM400、というわけで、欠けていたピースがピッタリ埋まった感じがある。

 レンズが大きいのでそれなりのサイズではあるが、メモリモデルなのでそれほど重くはない。それよりもマニュアル撮影で使用できるハードウェアのスイッチ類を沢山設けて、瞬時の判断が活かせる操作性を大きく上げた点は、評価できる。

 独自技術としては、音声の「K2テクノロジー」搭載も大きなトピックではあるが、本体再生時にしか効果がないため、今回は評価しなかった。そこまでやるなら、きちんと外部マイクを使った音楽収録での評価が必要だろう。

 BDのダイレクトバックアップは、現状ドライブが限定されるとはいえ、最高画質に対して現実的な回答を示してきた。元々AVCHDは、BDと親和性が高いということがウリだったはずだが、他社がなかなかBDに向かうソリューションが打ち出せない中、さすがの対応である。簡単に繋がってしまうのであまり大変さを感じないが、実際にはカメラの中にBD専用のドライバからライティングエンジンからオーサリング機能まで全部入れてしまっているわけで、結構大変な話なのである。

 撮像素子や絞りが従来型なので、この春に登場した新評価軸、すなわち暗部に強い、ボケがきれい、ワイドな手ぶれ補正という点に関しては対抗できていない。しかし独自のステータスを築こうというメーカーの心意気は、高く評価したい。

(2009年 8月 19日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]