“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

【年末特別企画】Electric Zooma! 2009年総集編

~ 今年もいろいろありました ~



■ 口上

 ちょっと年末の締めには早いかもしれないが、来週水曜日がお休みということで、例年より早い総集編をお送りする。

 昨年の総集編では、「'08年は破壊の年」と書いたが、'09年は破壊のあとの再生とまではいかず、破壊の衝撃と景気低迷のダブルパンチでいろいろぐらついた年、と言えるのではないだろうか。ただその中でも、新しいムーブメントを感じさせる動きも出てきている。

 今年取り上げた製品をジャンル別に分類すると、ビデオカメラ×15、デジカメ動画×6、編集・エンコード×7、レコーダ・チューナ×8、オーディオ×2、ホームネットワーク×1、PC×1、という数字になった。特集やショーレポートは除いている。

 ビデオカメラが多いのは毎年のことだが、昨年から巻き起こったデジカメ動画も結構増えてきた。またビデオ編集ソリューションに選択肢が広がったというのも、一つの特徴だろう。ではジャンル別に今年の傾向を振り返えりつつ、来年の展望を予想していこう。


■ ビデオカメラ、デジカメ動画篇

 ビデオカメラに関しては、すでに半期ごとに総括しているので、そちらのほうを参考にしていただければと思う。

ソニー「HDR-XR520V」

 全体を俯瞰すると、ビデオカメラは技術的にはもはや移行期を終え、安定期に入ったと言えるだろう。CMOSもほぼCCDと遜色ない絵が出せるようになり、記録メディアはメモリ記録が主流となった。そんな中での技術的なトピックは、ソニーの裏面照射型CMOS「Exmor R」の登場であった。

 実は裏面照射というのは、どのメーカーも研究レベルではある程度チャレンジしており、ソニーとしても外販を行なう体制にあるので、来年は他メーカーからも裏面照射のカメラが登場するかもしれない。ただ裏面照射は、撮像素子サイズを小型化しないと意味がない技術である。大きな撮像素子なら必然的に一つ一つの画素が大きくなるので、特に裏面照射にしなくても十分感度があるからである。

 これの意味するところは、各メーカーは裏面照射で小型化方向に走るか、それとも撮像素子を大きくして感度を稼ぐか、という2通りの方向があるということである。撮像素子を大きくするメリットとしては、ボケが大きく取れることで、これの良さはすでにデジタル一眼動画で証明された。ただし相対的にレンズも大きくなっていくので、全体的に大型化することは覚悟が必要だ。

 従来は大型機=高価ハイエンドという図式があったが、小型集積化へのコストを払わず、逆に大型だけど廉価なモデルが出たら面白いのに、と思う。そろそろパパママ用途の白物家電的カメラではなく、趣味性の高いコンシューマモデルが欲しいところだ。

 デジカメのハイビジョン動画撮影に関しては、前年までのデジタル一眼ブームに続いて、さらにコンパクト一眼、ネオ一眼、コンパクトカメラでの搭載が進んだ。

パナソニック「DMC-TZ7」ソニー「DSC-HX1」パナソニック「DMC-GH1」

 Zooma! では取り上げていないが、ソニーはコンパクトデジカメ「DSC-WX1」でも裏面照射型CMOSを搭載し、これもハイビジョン撮影可能である。現在筆者の取材用カメラとなっており、ショーイベントなどでの立ち話的取材はこれで動画収録している。

 ただデジカメ動画は、収録音声の品質が低い、長時間連続録画ができないという弱点があるため、腰を据えてのインタビューには向かない。この点はビデオカメラのほうがメリットがある。


■ 編集・エンコード篇

 動画撮影と切っても切り離せないのが、動画編集ソリューションである。今年は「Vegas Pro 9」や「Apple Final Cut Pro7」なども取り上げたが、低価格や無料ソフトでもAVCHDなどファイルベースのハイビジョン動画が編集可能になってきたところが大きなポイントであろう。

「iMovie '09」「Movie Maker」

 Windows7では、Movie Makerがあればほとんどの人は十分なはずである。特にYouTubeへのアップロードはハイビジョン対応となり、これまでの利用イメージとは違ってきた。ただ、そういう使い方に日本のユーザーが付いて行けてない感じがする。

 iMovieの出力フォーマットは相変わらず独自性が強く、iPodやiPhoneなどとの閉じたプラットフォーム内で便宜を図ることを最優先で考えられているため、汎用性を重視するビデオユーザーには使いづらい。このあたりはどうしても米国主導で動いていくので、当分は改善されないだろう。

 ただApple製品は、動画撮影可能なiPod nano発売やUstreamのiPhone正式対応など、動画撮影から発信までの環境が急速に整いつつある。単にホビーとしてではなく、かつてblogが登場してきたようにジャーナリズムのスタイルを変える可能性も出てきており、今後の動向も見逃せない。

 一方中堅のソフトウェアとしては、トムソン・カノープスの「EDIUS Neo 2」が年に2回も新バージョンが登場するという、珍しい事態となった。デコーダを新規開発することで、ソフトウェアだけでAVCHDのネイティブ編集を可能にした点は、来年Intel Core i7が一般化するに従って強みを発揮していくだろう。

 なお、親会社である仏トムソンは、今年12月9日に事業再建計画を発表しているが、日本のトムソン・カノープスでは、影響は及ばないと発表している。

【訂正】
記事初出時に、仏トムソンの事業再建計画の内容を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。(12月17日)

「EDIUS Neo 2」「EDIUS Neo 2 Booster」

■ レコーダ・チューナ篇

 DVDレコーダ華やかりし頃は、春・秋と年に2回レコーダの新商品シーズンがあったものだが、最近はそのサイクルも崩れつつある。

ソニー「BDZ-EX200」東芝「RD-X9」パナソニック「DMR-BW970」

 

「ハイビジョンロクラクSlim・NEO」

 地上波番組がハイビジョン化されたといっても、見慣れてしまうとそんなに綺麗じゃないよね、ということになって、だんだんレコーダの高画質モデルも、それほど訴求力がなくなってきたように思える。さらに、単に録画するだけならテレビにHDDを繋ぐというスタイルも定着しつつあり、今年は単体チューナにHDDが繋がるという製品も出てきた。

 


 またPC用のチューナもかなり小型になり、再生パフォーマンスも十分得られるようになってきている。AV/IT機器に詳しい人であれば、もはやレコーダにそれほどこだわらなくても良くなっているというのが、現状ではないだろうか。丁度デジカメが動画も撮れるようになって、じゃあビデオカメラって何なの? という課題を突きつけられているのと同じような感じである。

アイ・オー「GV-MC7/VZ」バッファロー「DT-F100/U2」(ちょいテレ・フル)

 今後はテレビやレコーダのような旧タイプの事業は、テレビ離れの進行と共に、アーリーアダプタほど需要が縮小していくのではないかと思われる。ただ日本の場合やはりテレビコンテンツの強さは依然としてあり、完全にテレビを見ることを止めるのではなく、可処分時間内においてテレビに係わる比重が下がるということになるだろう。

 もちろん未だにネットと関係ない、昔ながらのテレビとの関係を維持したい人もいる。しかし今後テレビ・レコーダ事業が電器産業の旗手として存在価値を高めるためには、ある程度のテレビ離れを前提として、PCでのWebのブラウジングとテレビ番組再生が連動したり、PCのテレビに係わる負荷を分担するためにホームネットワーク+IP動画配信サービス+Web動画再生を専用高速プロセッサでブン回すような、ローカルレベルでの放送通信融合をしていく必要があるのではないかと思われる。

 今年レコーダ関係で忘れてはならない話題としては、東芝とSARVHの録画補償金を巡る訴訟問題がある。アナログチューナを搭載しないレコーダは補償金の対象であるのかないのかを争うこの裁判は、来年1月にも最初の口頭弁論が行なわれるようである。これが決着しない限り、他メーカーはデジタルオンリーのレコーダを出しにくいことになる。

 この裁判が長期化すると、補償金問題を避けるためにDVDなりBDなりを搭載しないレコーダが登場するかもしれない。そうするといっそう光メディア離れが促進され、メーカーとしては痛し痒しの状態になるだろう。

 またレコーダに関係するかもしれない話として、Blu-rayが3D化する規格も進行中だが、筆者も含めて多くの専門家は、家庭内に3Dが根付くのかは懐疑的に見ている。もっとも専門家が揃ってダメと言ったものに限って大ブレイクする例もあるので、全くアテにならないのだが。そのあたりの手応えは、来年早々のCESである程度見えてくるだろう。


■ 総論

 もはやAV機器は、フルHDが標準と言っても過言ではない。ただそれらのコンテンツは、ほとんど単体で成し遂げられている状況に過ぎず、それらをやりとりする時にはHDMIで繋ぐか、あとはUSBでデータ転送するぐらいのことである。

 しかし来年はフルHDコンテンツの伝送を前提とした、数多くのワイヤレス規格が立ち上がってくる。次世代高速無線規格として、WiFiの高速版を狙うWiGig(Wireless Gigabit)、非圧縮映像のワイヤレス伝送を睨んだ技術にWiHD(WirelessHD)とWHDI(Wireless Home Digital Interface)がある。他にもファイル転送としては、近距離通信でBluetooth 3.0、さらに超近距離通信としてTransfer Jetにも注目だ。

 これらの規格はそれぞれに特徴があり、棲み分けも可能ではあるが、全部が全部必要というわけではない。また3Dの普及を前提とするならば、従来レベルの1080/60iを想定していてはダメで、その2倍の1080/60p伝送が必須となり、さらにハードルが上がる。当然この中から市場原理により、生き残るもの、忘れ去られていくものが出てくる。世に争いの種は尽きまじ、というわけである。

 一方VGA以下の小さな映像は、3Gの携帯電話回線程度でリアルタイム配信が可能だ。世の中のデバイスが一斉にハイビジョンに向かっている中で、逆に低解像度ながらネットにダイレクトに流すという方向性もまた、来年以降進化が見られると思われる。

 すなわち映像伝送の主流は今後、有線から無線になってくるのは間違いないが、その帯域によって解像度が選択されていくということになる。ワイヤレス化の波はもはや必然で、各部屋に別々にデバイスを用意できない人ほど、ワイヤレスを使って一つのコンテンツをいろんなところで楽しみたいはずである。

 さらに来年は、いよいよアナログ停波が迫った中で、いかに従来のアナログと遜色ないテレビ番組の持ち出しが可能なのかが問われることになるだろう。それが難しいとなれば、もはやテレビ放送を録画するという行為に対して疑問符が付くことにもなりかねない。

 さてさて、'09年のElectric Zooma! は、今回で最後である。来年はいよいよこの連載も、とうとう10年目に突入する。読者諸氏の支持、そして編集部のサポートのおかげで、AV機器業界の大激震の数々を最前線で体験させてもらったことに深く感謝したい。年明け早々にまたCESのレポートでお目にかかる。

 では少し早いが、みなさん良いお年を。

(2009年 12月 16日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]