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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

【年末特別企画】

Electric Zooma!2006年総集編
~もちろん今年もタイヘンでしたSpecial~


■ 口上

 今年もまた総集編の季節がやってきた。師走に入ってからというもの、原稿の書き出しがついつい総集編っぽくなってしまいがちなのをぐっとこらえてきたわけだが、今回は心おきなく総集編っぽいことが書けるわけである。

 さて、今年のAV業界の動向を総括してみると、地デジをきっかけに広がり始めた「ハイビジョン」というキーワードが、いよいよ他の分野にまで浸透してきたと思わせる1年だったように思う。テレビはフルHDが主流となり、ビデオカメラやレコーダもハイビジョンに照準を合わせてきた。おそらく来年は「ハイビジョンがデフォルト」と言われるぐらいまで、市場の方も注目度が高まることと思われる。

 また映像ばかりではなく、オーディオの方も高音質化への動きが顕著であり、市場もそれに反応した年だったろう。特にポータブルオーディオ機器の高音質化の流れを分析してみると、まず最初にiPodのヒットがあり、その周辺アクセサリとしてヘッドホン・イヤホンの高級化が起こった。そしてそれらオーディオアクセサリの高音質化に牽引される形で、iPod以外のポータブルオーディオの高音質化が起こったのではないかと考えられる。

 それでは毎年恒例となった総集編、今年Electric Zooma!で取り上げた製品を中心に、トレンドを総括してみよう。


■ ビデオカメラ篇

 今年、最もHD化の波に乗ったのはビデオカメラだった。SDのカメラもいくつか取り上げたが、一度HDで撮ってしまうと、正直今さらSDでどうするんだ、という気になってしまう。これは一般ユーザーでも同じだろう。

 HDV方式のビデオカメラは、2003年のビクター「GR-HD1」に端を発するわけだが、現実的なサイズと価格の普及機の登場が待ち望まれてきた。そして今年3月にソニーが「HDR-HC3」を発売、リーズナブルな価格設定と入卒業式シーズンに間に合うということで、ヒットした。

 さらに対抗としてキヤノンが9月に「iVIS HV10」を発売。得意の縦型コンパクト、フル解像度CMOS、限りなく撮れる同時撮影静止画、そして運動会シーズンに間に合うということで、キヤノンのビデオカメラでは久々の大ヒットとなった。今テープ式ハイビジョンカメラは、この2台の一騎打ちとなっている。

ソニー「HDR-HC3」 キヤノン「iVIS HV10」

 その一方で、テープ式から離れたハイビジョンフォーマット「AVCHD」が発表されたのが5月。従来の8cmDVDメディアにハイビジョンを書くというコンセプトが注目を集めた。元々SD時代にはDVDやHDD、メモリなど様々なノンリニアメディア記録型ビデオカメラが存在し、使い勝手の違いが注目を集めていたわけだが、それがいよいよHDになるというインパクトは大きかった。

 実際の製品は、9月にソニーからHDD型とDVD型の2モデルがデビュー、遅れて12月にはパナソニックがSDカード型とDVD型を発売。HDビデオカメラもテープからノンリニアメディア、同時にMPEG-2からMPEG-4という世代交代が始まったのが、今年の特徴だったろう。

 AVCHDの問題は、編集や再生環境がまだ整わないということだ。だが両社ともBlu-rayの牽引企業であり、AVCHDも映像方式やディスクフォーマットがBlu-rayと近い。今後はBlu-rayに絡めて環境整備が行なわれるものと思われる。

ソニー「HDR-UX1」 ソニー「HDR-SR1」 Panasonic「HDC-SD1」

三洋「Xacti DMX-HD1」

 メモリに撮るハイビジョンカメラと言えば、AVCHD規格発表前の2月に、三洋のハイビジョンXactiこと「DMX-HD1」がデビューしている。昨年末に海外サイトでリークされ、今年のCESで発表されたものだ。デジカメ発展系として昨年あたりから期待されていた路線だが、今年は本家のビデオカメラ系が頑張ったため、ちょっと影が薄くなってしまったのは気の毒だった。

 HDビデオカメラでは、普及機とハイエンドは同列では語れない。10万円台では許されても、数十万円では許されないレベルというものがあるのだ。原稿を書くときには、自分の中で基準スレッショルドを変えて書き分けている。

 今年デビューのハイエンド機は、10月のキヤノン「XH A1」、12月のソニー「HDR-FX7」がある。両方ともプロユースからハイアマ層を狙うレンジの製品だ。どちらも光学20倍ズームレンズを搭載しているが、XH A1がフル解像度の3CCD、HDR-FX7が3版独立型画素補間3CMOSと、撮像素子に対する考え方に差がある。

 XH A1はHDV規格としてのフル解像度1,440×1,080ドットCCDということもあって、レンズの力が出し切れる解像感の高い作りとなっている。HV10も単板フル解像度CMOSだったし、キヤノンは撮像素子にこだわらずフル解像度路線で行くという方向性が見て取れる。

 一方HDR-FX7のほうは、単板クリアビッド配列CMOSの弱点である低照度時の発色バランスの危うさを、三版で解決してきた。ソニーではハイエンドもCMOSという方向性を模索し始めたと言えるだろう。

キヤノン「XH A1」 ソニー「HDR-FX7」


■ ビデオレコーダ篇

 ハイビジョン化が期待されていたのは、なにもビデオカメラだけではない。HDD/DVDレコーダもまた然りだ。昨年からハイビジョン録画は可能だったが、DVDがハイビジョンを記録できないため、昨年からなんとも煮えきれない状況が続いていた。

 次世代DVDまではまだ時間がかかるとなれば、差別化要因は価格に集約される。そんな厳しい状況の中、6月にはパイオニアがDVDレコーダ事業から撤退するのではないかと報道された。また最近では、松下電器がビクターの株式を売却するのではないかという報道もなされている。

 考えてみれば、両社ともに他社から比べればレコーダの新製品からしばらく遠ざかっている。利益率は低いが、出さないと大丈夫かと言われるという、メーカーにとっては厳しい状態だが、市場に対して供給メーカーが多すぎるという現実はあるだろう。

 一方それ以外の各社は、次世代DVDに至るまで足場固めに余念がなかった。次世代DVD出現以前のトレンドは、DVDレコーダでTSダブル録画だったろう。5月には東芝初のTSダブル録画機「RD-XD92D」が、新ブランド「VARDIA」をひっさげて登場した。また6月にはシャープが、同社でTSダブル録画2モデル目となる「DV-ARW25」を発売。

東芝「VARDIA RD-XD92D」 シャープ「DV-ARW25」

 しばらく間を置いて、9月にはパナソニックDIGA初のTSダブル録画機「DMR-XW50」が発売された。TSダブル録画がへの対応が遅かったのはソニーのスゴ録で、11月発売の「RDZ-D900A」まで待たなければならなかった。しかしソニーは同機で、デジタル放送をPSPに持ち出すという、レコーダ史上画期的な機能を搭載した。

Panasonic「DIGA DMR-XW50」 ソニー「スゴ録 RDZ-D900A」

東芝「RD-A1」

 そして待望の次世代DVDで、先手を打ったのは東芝だった。7月に「RD-A1」を398,000円で発売。東芝DM社藤井社長の「100万円でも買いたい」は、AV機器史上に残る名言として記憶に留めておきたい。

 製品のほうは名言に違わぬ豪華仕様で、ある意味アルミの塊。DVD時代から高級機路線を堅持していた東芝らしい1号機となった。もっともレビューではまだ試作機であったため、肝心のHD DVD記録がうまく行かなかったのは今でも心残りである。またせっかくの豪華仕様でありながら、TSのダブル録画を搭載してこなかったのは意外でもあった。


Panasonic「DIGA DMR-BW200」

 一方Blu-rayで先陣を切ったのは、Panasonicであった。11月、様々な噂が錯綜する中出てきた「DMR-BW200」は、一見するとこれまでのDIGAのドライブ部がスルッとBlu-rayになっただけのような印象がある。だが最初から2層記録に対応、非公式だがRec-POTからのムーブも対応、さらにはAVCHDの再生にも対応、TSダブル録画搭載と、「やる」と言っていたことを初号機で全部やってのけたド根性のマシンだ。

 デザインも奢らずシンプルにまとめてきたところも、同社らしい。ただリモコンのデザインは、ヘビーユーザーからはガッカリの声も聞こえてきた。


ソニー「BDZ-V9」

 一方9月のディーラーコンベンションで、年内にはなんとか発売に漕ぎ着けたいと発表したソニーも、12月に滑り込みで「BDZ-V9」を発売した。10月の発表時点で2層記録・再生ができないということがあきらかになり、AV誌よりもむしろ経済誌のほうが大騒ぎしたのは記憶に新しいところだ。

 編集機能やPSPへの「おでかけ」、DLNA対応など、スゴ録が得意としてきたところは外さずに来た。メディア価格を考えれば1層で十分という声もあるが、メディアの価格はやがては下がる。マシン自体は長く使えるハイエンド機なだけに、惜しまれるところだ。



 東芝とソニーは、次号機が正念場だろう。次を外したら、後がない。価格的には各社ともDVDレコーダの低価格競争で疲弊した後なだけに、しばらくは急速な価格下落はないと思っておいた方がいいだろう。


■ オーディオデバイス篇

 以前はオーディオと言えば、ホームシアター系ぐらいしか注目されてこなかったが、今年はオーディオの面白さ復活の狼煙が上がった年だと言えるのではないか。特にポータブルデバイスでは、高音質モデルが大人のリスナーに受けた。

 中でもケンウッドが高音質HDDオーディオプレーヤーで、久々にオーディオの世界で名を上げたのは、オールドファンにとってもうれしい出来事だった。同様にメモリープレーヤーも高音質化し、さらにはHDDタイプで世界最小モデルをリリースするなど、技術的にも高いところを見せつけた。

 極めつけは、CDコンポで「TRIO」ブランドを復活させるという。これまで同社はカーオーディオぐらいしか知られていなかったが、日本市場では高音質が十分差別化要因となりうることを証明して見せた意義は大きい。

ソニー「NW-S700F」

 一方でパナソニックは9月に「D-snap Audio」で、ソニーが11月にウォークマンでノイズキャンセリング内蔵モデルを出してきたのは、ある意味必然であったろう。「高音質」という機能差は、聴き手を選ぶ。また高価格な商品になりがちなので、ターゲットは40~50代のHi-Fi世代である。

 だがノイズキャンセリングは、誰にでも劇的に効果がわかるという意味で、オーディオの面白さを広く知らしめる効果が高い。マスを取りたがる両社が選択した方法が奇しくも同じだったというのは、興味深い。



ソニー「NW-S203F/205F」

 もう一つのアプローチとして、スポーツとオーディオを組み合わせたアプローチが市民権を得たのも、今年だったろう。今年7月に米国でApple iPodとNikeのコラボレーションが、音楽とランニングを結びつけて成功した。ソニーのウォークマンも、まずは米国で9月からスポーツモデルを発売、日本には逆輸入のような恰好で発売された。

 「Nike+iPod スポーツキット」も、日本では遅れて10月に発売され、好調のようだ。これまでオーディオのスポーツモデルは、日本では当たらないと言われてきたが、2005年にメタボリックシンドロームの診断基準が確定して以降、国民が健康に対して神経質になってきたのが、いい意味で追い風になった。

 現在は双方ともランニングに対応しているだけだが、今後は自転車など別のフィールドスポーツに対してどんなアプローチできるかというところが、ポイントかもしれない。



 プレーヤーだけでなく、ヘッドホン、イヤホンもかなり熱くなっている。特に今年はBOSEが好調で、10月にノイズキャンセリングの最新モデル「QuietComfort 3」を発売したかと思えば、12月にはオンイヤー型、BOSE初となるインイヤー型を相次いでリリース。これまでShureに取られていた高級ヘッドホンのシェアを一気に席巻する構えを見せた。

 さらにヘッドホン自体が初というJBLが、11月にノイズキャンセリング型で参入を果たすなど、まさにヘッドホンインフレが起こりつつある。

 またデジタルプロセッシングによるオーディオ改善技術も、次々に製品化されている。10月にはクリエイティブがUSBオーディオ「Xmod」を、11月にはこれもヘッドホン市場に初参入というマクセルが、「Bit-Revolution」という高音質化技術をひっさげて参入した。

 どちらも圧縮によって失われた高音質部分の補完を行なうところがメインとなっている。もちろんこの手の技術は両社だけではなく、様々な企業が力を入れ始めている。東芝gigabeatには以前から搭載されていたし、ソニーのSonicStage CPも11月にDSEEという高音質化機能を搭載した。

日立マクセル「Vraison」 東芝「gigabeat V30E」

 MP3の普及から始まった圧縮音楽に対する壮大な揺り戻しが、今年ついに始まったという印象だ。デジタルプロセッシングによって、オーディオソリューションを底辺からもう一度見直すという方向性は、PCのプロセッサ能力の増大、Windows Vistaの登場を伴って、来年さらに本格化するかもしれない。


■ 総論

 今年の傾向を総括すると、テレビだけではないハイビジョン世界の胎動を感じることができた1年だろう。昨年発売のXbox 360は今年に入ってからじわじわと人気が出てきた。またPLAYSTATION 3も発売され、BDプレーヤーが発売されていない日本では、現在のところプレーヤーのデファクトスタンダードとなっている。PS2がDVDを牽引したように、PS3がBlu-rayを牽引するのかも、今後の注目ポイントだろう。

 もちろんテレビのほうも、今年の合い言葉は「フルHD」だった。液晶は以前からフルHDのものもあったが、今年はプラズマがフルHD化し、リアプロ、プロジェクタもフルHDで攻めている。フルHDパネルは、来年には常識となるだろう。

 また地上デジタル放送も、今年12月で九州全域、四国・中国、福井石川甲信越、北海道で放送を開始。全国都道府県で放送が開始されたことになる。ということは、コピーワンスの不便さをいよいよ全国の人が体験することになるわけである。コピーワンスの見直し論は昨年から続いており、来年にはなんらかの決断が行なわれる可能性も高い。それによってAV機器がどのような影響をうけるのか、このあたりも注目しておかなければならない動きだ。

 いずれにしても、もはやハイビジョンに向かう流れは止められないところまで来た。あとはそれに見合うソフトの供給と、オーディオ環境整備が課題になることだろう。来年はHDMIセレクタやデジタルプロセッサ、AVアンプなども取り上げていく必要がありそうだ。

 さて、2006年のElectric Zooma!は、これにて終了である。年明けは例年通り、CES 2007のレポートでお会いすることになるだろう。今後ともよろしくご愛読のほどを。


□Electric Zooma!バックナンバー
http://av.watch.impress.co.jp/docs/backno/zooma.htm
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(2006年12月27日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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