■ 口上
さて例年通り一年の締めくくりとして、今回は総集編をお送りする。今年取り上げた製品の記事を今読み返しているところだが、今年は全体的にハイビジョンをただ受動的に受け止めるだけでなく、積極的にハンドリングしてやろうという動きが出てきた年だったろうと思う。 パーソナルユースでのハイビジョンカメラの盛況、そして編集環境の整備などが徐々に行なわれてきた。また放送録画の面でも、DVDメディアにハイビジョンを記録するフォーマットが登場し、これからの動向が注目されるところだ。 放送の面では、米国そしてヨーロッパの事情も取材することができた。日本という国の世界の中の特殊性を知ってみると、いかに世界からデバイスや記録、制御などの技術が期待されているのかが見えてくる。その発展を支えているのが、コンシューマ市場の旺盛な技術的関心であったり、イノベーションに対して積極的に投資するという購買意欲であったりするわけである。 長年続いた景気低迷も、緩やかながら回復の兆しが見え始めている。数万円もするイヤホンが普通に売れるようになったというニュースも、明るい材料と捉えていくべきだろう。ただ賃金平均は据え置かれたままであることから、苦しい懐事情の中でもピンポイントで売れる商品というのを、各メーカーが模索している状況と言えるのかもしれない。 それではElectric Zooma!で取り上げた製品を中心に、2007年のトレンドを振り返ってみよう。
■ ビデオカメラ篇
以前からの持論として、放送でハイビジョンを知ってしまったら、それは必ずパーソナルな記録に反映したいというニーズが高まると考えてきたわけだが、それが実を結んだのが今年だったと言えるだろう。 昨年発表されたAVCHD規格は、次第にDVDにハイビジョンを記録するという本来のあり方から変化し、HDDやメモリに記録する際の共通互換フォーマットとしての意味合いが強まってきた。多くのユーザーにとっては、SDからHDになるだけではインパクトは弱く、メディアチェンジを伴わなければならなかったようだ。 今年前半はまだHDV機もリリースされていたが、コンシューマでのテープ記録の終焉というのは、実は今年だったのかもしれない。モデルケースとして、ソニーの一連の製品がよくその流れを表わしている。 2月にはHDV機の「HDR-HC7」とDVD記録型AVCHD「HDR-UX7/UX5」を同時発売したが、市場構造を大きく変えたのは、6月に発売されたHDD記録のAVCHD機「HDR-SR7」のヒットだった。これ以降、ビデオカメラのHD化とHDD化が一気に進行することになる。 また少し遅れてメモリ型にも参入を果たしたが、ソニーの同時期のカメラはスペックが同じで、そのメディアならではのメリットが出せていないところに課題が残った。
Panasonicは早くからメモリ記録を中心に展開しており、メディアチェンジでは一番イノベーティブなことをやってきた。しかし今年のラインナップは、エンコードも含め記録系はがんばっていると思うが、撮像素子や色味、コントラストの安定性といった、カメラシステムとしての前進があまり感じられなかったように思う。個性的ではあるが、人によって好き嫌い、というか許せるか許せないかがはっきり分かれる絵作りだった。
AVCHDといえば、キヤノンがこのフォーマットに参戦してきたのも今年の話である。8月にDVD記録機「iVIS HR10」、9月にHDD記録機「iVIS HG10」を相次いで発売した。世界有数のカメラメーカーだけあって、絵作りの満足度は高い。しかしメディアチェンジや記録フォーマットに関して、ソニー/松下のような足回りの早さがなく、出遅れた感があったのは残念だった。 両社がテレビやレコーダを含めた総合AV戦略の中にビデオカメラを位置づけているのに対して、キヤノンにはそのような戦略が取れない点は、これからもついて回る。したがって今後はいち早く、両社のビデオカメラにはない価値観を創造しなければならないだろう。
他にはない価値観という意味で根強いファンを持つのが、三洋「Xacti」である。以前から720pのハイビジョンモデルは存在したが、今年はついに1080iまで到達した。バッテリや多彩な露出モードを備えるなど、これまでの不満点を払拭したが、同時撮影の静止画が、動画と同じ解像度になってしまうといった後退も見られる。ハイビジョンで撮れば問題ないという考え方もできるが、以前からの独特の強みであっただけに、寂しい感じもする。 だが撮れる絵には素晴らしいものがある。デジカメ出身のムービーカメラとしては、文句なしの出世頭だと言えるだろう。 ハイビジョンということでは、今年前半に登場したビクターの「GZ-HD7」は、のちの「フルHDブーム」を作った立役者だと言えるだろう。3CCDによる画素ずらしなので、撮像の方は厳密にはフルHDとは言いにくいが、記録系をフルHDとした、最初のビデオカメラである。 ボディは大きめだが、ハイエンドモデルにふさわしくマニュアル露出での撮影にも対応し、コンシューマ機としては珍しく大型のマニュアルフォーカスリングも付けた。次のモデルではフルHD記録をやめてしまったが、コンパクトにまとまったHDD機で、ビクターが開拓してきた従来型Everioの顧客層にはフィットした。
フルHDということでは、日立が出したBDCAMも一つの解答だろう。撮像素子も記録もフルHD、しかも同社得意のHDDとBDのハイブリッドである。スペック面では納得できるが、いかんせんレンズやCMOSの質が足を引っ張った。 しかしBD協賛各社が未だ手が回らないBDのカメラ開発にいち早く踏み切ったのは、かなり野心的な判断であった。思ったほどBDプレーヤー、レコーダが伸び悩んでいるのが誤算だったろうが、メディア戦略がうまくいけば、8cmドライブの他社への提供といった広がりもあり得るだろう。
メディア戦略ということでは、東芝が久しぶりにリリースしたgigashot「GSC-A100F」も、HD化を果たした。HDD記録型のカメラだが、記録フォーマットはHD DVDに対しての親和性を持たせてある。このあたりはレコーダとどのように連携できるかがわからないと真価は問えないが、逆に言えばカメラの価値も次世代DVDの行方に縛られているとも言える。 ■ 編集・保存篇
ハイビジョンカメラ好調の裏側で、その保存や編集をどうするのかといった問題に対する解答が出始めたのも、今年の特徴であった。日立のハイブリッドカムが大ヒットとなったのも、結局はこの問題を単体で解決できるから、というところに尽きる。別売ハードウェアとしては、ビクターEverio用のDVDライター「CU-VD20」、「CU-VD40」が市民権を得たことをきっかけに、各社がこぞってこの路線へと舵を取った。 ソニーは以前から米国では同様の製品を出していたが、日本向けにはAVCHD対応のDVDライター「VRD-MC5」を発売。PanasonicはPC用ポータブルDVDドライブ「LF-P968C」をカメラに直結できるという面白い戦略で挑んできた。また12月には、カメラ専用ライターとして「VW-BN1」も発売している。キヤノンも同様にDVDライター「DW-100」を発表したが、発売は来年3月とまだ先だ。 一方でソフトウェアのほうは、フォーマットがメーカーごとに多様化してしまったために、足回りの軽い開発環境が重視されるようになってきた。MPEG-4系方言が多くて、対応し辛いフォーマットとなってしまったのだ。 かつては簡易的なプロキシ編集という方法も期待されたが、人に見せるレベルまでの編集を考えると、日本では事実上CanopusとAppleのガチンコ勝負になりつつある。そもそもプラットフォームが違うので同じ土俵ではないが、「EDIUSシリーズ」の基幹部には編集用中間コーデックのCanopus HQ Codecがあり、AppleにはProRes 422とApple Intermediate Codecがあるという図式だ。
HDV時代は、ネイティブコーデックで編集できることが重視されたが、AVCHDを初めとするMPEG-4系は、ネイティブで編集するには重すぎる。もう少しPCのスペックが上がってこないと、ネイティブ編集は難しいだろう。いやその前に、そんなに高性能のPCが必要とされなくなってきているという現状がある。
また個人的には、Adobeのビデオ関連ソフトの聚落ぶりが深刻化してきたように思える。以前はPremiere、AfterEffectsの組み合わせでどんな動画も編集できたものだ。しかしフォーマットが固定されたプロ市場を意識しすぎるあまり、コーデックの展開の早いコンシューマ市場の動きに追従できなくなってきている。 ■ ビデオレコーダ篇
新規格Blu-rayとHD DVDの最初のレコーダが発売されたのは、まだ去年のことである。今更普通のDVDレコーダはないだろうとは思うが、普及型の次世代DVDレコーダがなかなか出ずに気を揉んだ1年であった。
そんな中、先手を取って登場したのは、東芝の「RD-A600」であった。DVD時代には、独特のこだわりで人気を博していた東芝RDだが、その路線をうまく次世代DVDに乗り換えてきた。特に過去のDVDメディアからの高速転送を実現するなど、資産継承のこだわりを見せた点は評価できる。 また今年のレビューには間に合わなかったが、12月にはさらにDVDメディアにHD記録が可能なHD Rec機能を搭載した「RD-A301」も発売されている。機能としての高さでは専門家の評価が高いVARDIAだが、次世代DVDの存亡を決めるのはあくまでも一般消費者である。我々としても可能な限り情報を発信していくので、よく比較して選択して欲しい。
さて一方のBlu-ray陣営は、ほぼ同時期に新モデルを発売した。PanasonicもDVDメディアにHD記録可能なAVCRECをひっさげ、BDモデルの「DMR-BW900/800/700」、DVDモデルの「DMR-XW300/XW100/XW200V」をリリース。発表がCEATEC会場であったため、メディアの反応もよかったようだ。 動作もシンプルで、しかもCEC対応ということで、使い勝手がいいレコーダだ。ただ実際にAVCRECをテストしてみた結果では、音声モード次第で再生互換性に難があり、結果的にはほぼ自己録再に限られる点が残念だった。
ソニーは9月に行なわれたソニーディーラーコンベンション会場で、4モデルのBlu-rayレコーダを発表した。最安モデル以外はダブルチューナーを搭載し、フラッグシップの「BDZ-X90」はPSPおでかけ転送まで対応した。また中堅モデル「BDZ-L70」は、ビデオカメラの書き出し先という機能をメインに据えた珍しい切り口で、なかなか面白い。 さらに変わった切り口としては、シャープのレコーダは、HDD無しでBDメディアへ直書きする「BD-AV10」、「BD-AV1」を発売した。通常のHDD搭載モデルもあるが、機能をどんどん絞り込んでVHS並みにしてしまったのがどのように支持されるのだろうか。これも非常に興味のあるところだ。 レコーダで忘れてはならないのが、コピーワンス緩和策の行方だ。現在のところ来年6月あたりをめどにダビング10の運用を決めたいとしているものの、補償金との兼ね合いで権利者側との折り合いが付かなければ、緩和凍結もあり得るという。 初代DVDレコーダがそろそろ寿命という人が出始めている昨今、購買意欲はあるものの、買うに買えないという人も多いことだろう。次世代DVDの覇権争いに加えてダビング10問題と、本来は消費者主導で動かなければならない問題が、逆に消費者を縛っている。レコーダの冬は、まだしばらく続きそうな気配だが、こんなことをしていると、YouTubeのような外資においしいところを全部持って行かれてしまうだろう。早急な利害関係の調整が待たれるところである。
■ 総論
さて、今年一年を振り返りながら長々と書いてきたが、今年AV機器で元気だったのは、テレビとビデオカメラ、デジタル一眼あたりだっただろうか。しかしその裏側で、ハイエンドオーディオクラスながらリーズナブルな価格のものも人気を集めた。団塊の世代の定年退職を受けて、かつて趣味性の高かった分野のものが復興してきているというのは、明るい兆しと言えるだろう。 その一方で、テレビのコピーワンス緩和策が波乱含みの展開となったあおりを受けて、レコーダは今ひとつ盛り上がらなかった。そもそもDRMの仕組みも複雑だが、メディアの互換、規格の制限などなどいろんな問題が全部レコーダに集中してしまって、もう機能的に何がどうなっているのか、追いきれなくなってきている人も多いのではないだろうか。 もしかしたらテレビ録画というジャンルは、現状の延長線上という一本道では、先細りなのかもしれない。そういう意味ではシャープの出したシンプルなBDレコーダもまた一つの解だと言えるし、東芝のREGZAにUSB HDDを直付けで録画できるというのもまた、別の解であるのかもしれない。 来年はCESの取材で幕を開ける。米国のIPTVやVODの状況なども参考にしながら、今後は予約録画以外のテレビ文化というものも考えていく必要があるだろう。 さて、2007年のElectric Zooma!は、これにて終了である。今後ともよろしくご愛読のほどを。
□Electric Zooma!バックナンバー
(2007年12月26日)
[Reported by 小寺信良]
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