小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第607回:期待のNFCなど、気になるBluetooth製品7機種を使う

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第607回:期待のNFCなど、気になるBluetooth製品7機種を使う

ワンタッチ接続はAVライフを変える? 置くだけNearFAも

NFCワールドがオーディオにも

 NFC(Near Field Communication)とは言わずと知れた、タッチして何かするタイプの近距離無線通信技術である。日本ではすでにおサイフケータイを始め、各鉄道会社が発行しているFeliCaタイプのプリチャージ型カード、あるいは確定申告のe-Taxで必要になる住基カードなどに組み込まれ、広く利用されている。

 この分野はソニーが最初に技術開発を始めた事もあり、日本で物凄く普及が進んでいるが、海外ではiPhone 5でもまだ実装されていないように、まだこれからといったところである。これにはNFCと連動するシステムが社会の中で普及することが重要で、端末に搭載されても、使いどころがないと利用されない。

 その点で近年にわかに注目を集めているのが、NFCで認証するタイプのスマートフォン向けオーディオ製品だ。実際にオーディオ信号を伝送するのはBluetoothだが、ペアリング認証をNFCで行なうことで、複雑な接続設定がいらず、利用のハードルを下げる事ができる。

 すでに昨年ぐらいから、スマートフォン向けBluetoothスピーカーはブレイクの兆しを見せており、各社いろんなアイデアで参入を始めているが、NFC対応も一つの切り口になりつつある。

 今回はそんなNFC対応オーディオ製品と、ユニークな機能を持ったスマートフォン向けオーディオ製品を色々集めてみた。NFC搭載でワイヤレスオーディオにはどのような変化が起こるのだろうか。早速試してみよう。

理想的な使い勝手

 今回用意したのは、まずNFCスピーカーとしてソニー「SRS-BTX500」(オープン/店頭予想価格3万円前後)と「SRS-BTV5」(オープン/同8,000円前後)、プリンストンテクノロジーの低価格NFCスピーカー「JUICEBOX」(オープン/同6,980円前後)を、またNFC対応ヘッドフォンとして、ソニー「MDR-1RBT」(43,050円)、「DR-BTN200」(オープン/同9,000円前後)をお借りした。

 さらに、NFC対応ではないが、ちょっと変わった機能を持つ製品として、JBLの大容量バッテリ内蔵スピーカー「JBL CHARGE」(オープン/同16,800円前後)と、“乗せるだけで音が出る”スピーカー、リンクスインターナショナル「BOOMBERO」(オープン/同4,980円前後)もお借りしている。

試用するスピーカー。左奥から右へ「JUICEBOX」、「SRS-BTX500」、「BOOMBERO」、「SRS-BTV5」、「JBL CHARGE」
NFC対応ヘッドフォン2モデル。左が「DR-BTN200」、右が「MDR-1RBT」
NFC対応スマートフォン、ソニーXperia Z「SO-02E」

 まず、NFCでスマホとスピーカーの関係がどのように変化するのか、という点に注目してみよう。今回使用したNFC対応スマートフォンは、ソニーのXperia Z「SO-02E」である。

 通常Bluetoothスピーカーとスマートフォンをペアリングする場合は、スピーカー側をペアリング待ち状態にしておいて、スマホのBluetooth設定のところから機種を探し、ペアリング操作を行なう。

 ある意味これだけの事だが、ワイヤレスでは基本的に何が起こっているのか目で見えないため、いったん上手くいかないと、何が原因なのかがわからない。そういうところで泥沼にハマるケースもあった。

 これがNFC対応機器だと、どのように変わるのだろうか。まずはXperia Z「SO-02E」とヘッドフォン「MDR-1RBT」の組み合わせで試してみる。NFCのセンサーの場所は、各機器にマークで示してあるので、そこ同士をくっつける。

MDR-1RBTは、R側のハウジングにNFCマークが
スマホ側のマーク部分をタッチ

 するとスマートフォン側で、機器をペアリングしていいかと問い合わせが出る。最初にペアリングするときは、相手の機器名が表示されないが、物理的にタッチしているので相手は一つしかない。「はい」を選択すると、機器名が表示されてペアリングが行なわれ、同時にオーディオ機器として接続された状態になる。

ペアリングしていいか問い合わせ画面が出る
許可するとペアリングして接続される
SO-02Eで常駐しているNFC認証用のアプリ

 Xperia Zは、画面の上部を見ていただければおわかりのように、NFC認証用のアプリが常駐しているので、特定のアプリを起動しなくても、ペアリングする。

 NFC認証のメリットは、最初のペアリング時だけではない。ヘッドフォンやスピーカー側の電源がOFFになっていても、スマホをタッチするだけで自動的に電源が入り、接続状態になる。もう一度タッチすると、接続が切断される。一種のトグルスイッチとして機能するわけだ。

 もちろん電源OFFとはいっても、NFCを待ち受けする部分は電力を消費し続けている。そのため対応機器では、NFC機能だけは主電源とは別のスイッチが設けられている。

BTV5の底面。主電源とは別にNFCのOFFができる
NFC対応Bluetoothスピーカー「SRS-BTX500」
「SRS-BTX500」は上部にNFCリーダー部がある

 複数のNFC対応機器を併用する場合も、メリットがある事がわかった。通常Bluetooth機器を切り換える場合、設定メニューに入って別の機器を選ぶ必要がある。また、使わなくなったら接続を解除しておかないと、別の機器と繋ごうとしても繋がらず、「なんでだ?」ってなことにもなりがちだ。

 一方、NFC対応機器であれば、現在一つの機器に接続中であっても、別のスピーカーにタッチすれば、先に接続していた機器との接続が解除され、タッチした側のスピーカーに接続される。いちいち接続解除する手間がなく、手軽に複数の機器を切り換えられる。

 スピーカーからヘッドフォンに切り換えるとき、あるいはその逆の時など、繋ぎたい機器にタッチさえすれば、あとは自動的に切り換えてくれるので、ユーザーは複数の音楽ソース機器とスピーカー類をごちゃ混ぜにしても、混乱することがなくなる。

 逆の言い方をすれば、音楽ソース機が1つでヘッドフォンが1つなど、切り換えが頻繁に発生しない場合は、NFCのメリットはそれほど発揮されない事になる。だが、将来機器が増えたときのために、最初からNFC対応機器を選んでおくという判断はありだ。

BTX500とスマホをタッチしたところ
BTV5のNFCリーダーは上部に搭載している

汎用の環境ではどうか

 再生側のXperia Zは、そもそもNFCでスピーカーやヘッドフォンと接続する前提で作られているソニーの製品なので、ソニーのスピーカー/ヘッドフォンに対しては100%機能する。試しに、プリンストンのNFC対応機「JUICEBOX」にタッチしたが、問題なく動作した。

 JUICEBOX(PSP-BTS2)は実売6,980円と、先ほどのソニー製品と比べるとリーズナブルなNFC対応スピーカーだ。NFCリーダはスピーカーの上部に搭載。ACアダプタで動作するが、単3電池×8本でも駆動できるのが特徴だ。音質面では値段が3倍以上違う「SRS-BTX500」と比べるのは酷というもので、音は奥にやや引っ込んでいる印象だ。

プリンストンの「JUICEBOX」でも、問題なく動作した

 再生側もXperia Z以外の機種を試してみよう。Androidタブレットとしてはリファレンスモデル的存在となったNexus 7も、ハードウェア的にはNFCが内蔵されている。ただアプリが何も入っていないので、そのままではタッチしても何も起こらない。

 Google Playで検索すると、スピーカーの接続向けにソニーが提供している「NFC簡単接続」というアプリがオールマイティに使える。接続はこのアプリがインストールされていればOKで、起動しておく必要はないようだ。

Nexus 7に「NFC簡単接続」をインストール
Nexus 7もNFCスピーカー対応に

 このような汎用の環境でNFCがうまく動作するか、今回集めた製品でチェックしてみたところ、次のような結果となった。JUICEBOXの自動電源ON欄が(×)になっているのは、電源がハードウェアスイッチなので、元々自動電源ONの機能がないためだ。

モデル名ペアリング自動電源ON接続解除
SRS-BTX500××
MDR-1RBT
DR-BTN200
SRS-BTV5×××
JUICEBOX(×)

 ほとんどの機器で概ねうまく動作するが、NFCスピーカーの初期の製品であるBTV5は、電源だけは入るものの、それ以外の動作はうまくいかなかった。逆に最も新しい製品であるSRS-BTX500は、接続と解除の動作で反応しなかった。

 ただ、このあたりはあくまでも今回のハードウェアの組み合わせでの参考値であり、将来的にファームウェアやアプリのアップデートで対応される可能性もある。

 なお、SRS-BTX500は、タッチによる接続はできないが、電源をタッチで入れた後、「NFC簡単接続」の画面で「SRS-BTX500」をタップするだけで接続や解除ができるので、実用上は大して困らないとも言える。

 音質面での評価としては、すでに発売されて時間が経っている製品も多いが、SRS-BTX500は先月発売になったばかりなので、気になっている人も多いだろう。ネットの通販サイトなどでは実売23,000円強で販売しているところもある。Bluetoothスピーカーの平均からすればやや高価に感じるが、サイズも大きく、コーデックでSBC/AAC/apt-Xに対応したり、圧縮音源の帯域補間技術「DSEE」も搭載するなど、機能も豊富なので値頃感は高い。

 デザイン的には、正面や斜め横から見ると薄型のように見えるが、実際には背面がせり出しており、全体ではだいぶ容積がある。内部にバッテリも備えており、約6時間の再生が可能。さらにUSBポートからスマホへの充電機能も備えている。

背面のでっぱりでかなり容積を稼いでいる
USBによる「おすそわけ充電」も可能

 音質としては、低域の張り出しを意識したサウンドで、ズンズンと前に出る、かなり今風の音だ。ソースを選ばず、オールマイティに聴けるタイプのスピーカーはともすると個性が無くなるものだが、これは最近の音楽の音作りに合わせて作り込んだサウンドである。左右のスピーカーが近いこともあって、若干ステレオイメージが小さいが、ニアフィールドスピーカーとしては十分だろう。

横のボタンで2種類のサウンドエフェクトが利用できる

 さらに横のボタンで、サウンドエフェクトの「MEGA BASS」、「SURROUND + MEGA BASS」も選択できる。この2つを使えば、低域の補強やステレオ感の増強もできるので、利用シーンに合わせた設定変更が可能だ。

 重量は2kgで、サイズや重量からすれば外にまで持ち出すタイプの製品ではないが、家庭内なら移動はそれほど苦にならないだろう。

そのほかにもユニークな製品が

 NFC対応ではないが、2つ気になる製品がある。一つはJBLのバッテリスピーカー「JBL CHARGE」だ。ネーミングからわかるように、充電機能が大きくフィーチャーされている。店頭予想価格は16,800円前後、通販サイトでは15,000円前後の店もあるようだ。

 サイズ的には500mlの缶ビールぐらいをイメージして貰えればいいだろう。円柱の片側(向かって正面)に38mmのフルレンジステレオスピーカーが2個配置されており、向かって右側面はバスレフポート、その反対側には電源供給用のUSBポートがある。

充電機能を大きくフィーチャーした「JBL CHARGE」
左側に充電用USB端子を備える
本体の充電はMicroUSBを使用

 ポイントは搭載バッテリがやたらと大容量であることで6,000mAhのリチウムイオン充電池を搭載し、連続12時間の再生が可能。ただこれは、長時間再生が目的というよりも、スマホ充電用バッテリにもなりますよ、という主旨だろう。

 iPhone 5のバッテリは1,434mAhなので、単純計算では4回ぐらい充電できることになる。このサイズなら、長期出張時にスーツケースに放り込んでおいてもいい感じだ。

 音質も、サイズからすれば十分に低域も出るので、思いのほかちゃんと音楽が楽しめるスピーカーに仕上がっている。左右のスピーカーの距離が近いためステレオ感はそれほど感じないが、スマホやタブレットの内蔵スピーカーが苦手な部分を補える十分な実力を持っている。音楽もさることながら、VODサービスでドラマや映画を見る時のサポートとして使ってもいいだろう。

 小型スピーカーと充電池という組み合わせは、どちらに比重を置くかでいろいろなコンセプトの製品が生まれる余地がある。つまり、“充電機能付きスピーカー”なのか“音も鳴る充電池”なのか。サイズ、形状、重量まで含めると、無限にバリエーションが拡がる分野だと言えるだろう。

ユニークな接続方式の「BOOMBERO」

 もう一つ気になる製品は、ワイヤレス接続にBluetoothなどの通信規格を全く使わない「BOOMBERO」という製品だ。実売は4,980円前後で、これまで紹介したBluetoothスピーカーと比べると手軽に買えるモデルだ。

 これを作った米Oregon Scientificは、CESでもよく見かける会社で、かなり前から独自に防水型MP3プレーヤーを作ったりしている、ユニークな製品を多数出しているところだ。最近はデジタルヘルス関係に強いという印象を持っている。

 音を出す仕組みの「NearFA」(Near Field Audio)という技術は、スマートフォンの内蔵スピーカーを駆動する時に発生する磁気変動をセンサー検知し、それを増幅する形で外部のスピーカーを鳴らすという方式のようだ。したがって、ケーブルなどを接続する必要は無いが、スマートフォンのスピーカーをセンサー部分に近づけないと音が出ない。ある程度スマホ側の音量を上げないと、センサーに検知されないようだ。

 置くだけで、台座となるスピーカーから音が出るというのは、なかなか面白い技術だ。出てくる音は、普通のBluetoothスピーカーのようなサウンドをイメージするとかなり違う。第一多くのスマートフォンのスピーカーはモノラルだし、仮にステレオスピーカー搭載モデルでも、近接距離からすれば片側しか反応しないだろう。さらに、本体に搭載しているスピーカーも1基のみだ。

内蔵スピーカーの磁気変動をセンシングして音を出す
スマホのスピーカーの位置は様々なので、鳴らすには置き方を工夫する必要がある
iPhoneをこのように設置しても、センサーが検知できれば音がでる

 また、スマホ側の内蔵スピーカーの音がOFFになるわけでもないので、スマホとその下の本体が同時に鳴る事になる。スマホに簡易的なサブウーファーをかませたような感じ、とイメージすればいいだろう。

 音質的には、本体スピーカーからは高域があまり出ず、スマホ内蔵スピーカーの音に対して、中低域を補強する格好だ。現状のセンシングの方式では、高周波用の磁気変動はエネルギー量が小さすぎて拾えないのかもしれない。

 ただ技術的には大変ユニークなので、より音質にこだわった大型のモデルや、スピーカー以外への活用など、今後のラインナップ拡大にも期待したい。

総論

 NFC対応スピーカーは、店頭などでは最近よく見かけるものの、実際に自分の手持ちの機器と接続してみるチャンスはあまりないだろう。しかし今回のテストで、NFCスピーカーのビジョンみたいなものが、おぼろげながらご理解いただけたのではないかと思う。

 音楽ソースがクラウドになり、その受信端末として音楽プレーヤーがスマホに変わってきた現在、家庭内オーディオの主流がBluetoothスピーカーになる可能性は十分にある。その中で、ただでさえ状態が見えにくい無線機器との接続に、「触れる」という人の動作を持ち込む事で、単純明確さを出そうとする技術のように思える。

 Bluetoothという技術そのものはずいぶん以前から存在するが、なかなか女性層へは浸透していなかった印象がある。それがこういう技術を使う事で、広く門戸が開かれる事になる。

 スマホの大きなシェアを占めるiPhoneがNFCに対応していないため、現実にはAndroid端末が主流にならざるを得ないところはあるが、最近は7インチタブレットが廉価で買えるので、普及のハードルはだいぶ下がっているだろう。

 その昔、ケータイの通話用にBluetoothヘッドセットを接続するだけで四苦八苦した時代からすれば、手間の面でも音質面でも、隔世の感がある。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。