プレイバック2014
ネット配信系が「じんわり始まっていた」 by 西田宗千佳
(2014/12/23 08:30)
今年なにを買ったか、なにが面白かったか、ということをAV系ガジェットの軸で語ろうとするのは、わりと難しい。個人的には、これほど「機器を買う」という面での心の盛り上がりが小さかった年もないな、というのが正直なところだ。こういう仕事だから、もちろん、色々買っている。だが、そのどれもが「これ」という凄みに欠けている気がする。ガジェットという軸で見れば、今は技術爛熟・デバイス進化の端境期であり、お買い得だが個性に欠ける製品が多かった、ということはあろう。パナソニックのLUMIX CM1のように、「手に入れば買っていたろう」と思うものもあるし、4Kテレビのように「確かにお買い時になってきたが、個人的には来年回し」というものもある。という点を考えると、来年は色々物欲を刺激される年になりそうだ……という予感がしている。
他方、自分の生活を見た時に、じんわりとではあるが「変わってしまったな」と思う部分もある。それは主に、コンテンツの買い方と見つけ方だ。
資料として、情報源として、エンターテインメントとして、毎年「書籍」にはけっこうな額を支払っている。そのうち、電子書籍の占める比率は、いつのまにか3割を越えていた。毎月、自分の支出をチェックするたびに、雑誌とコミック、小説といったエンターテインメント系書籍の買い方が、自分の中で急速に変化しているのに気付かされた。それらを読むために、iPad Air(今はAir2に買い換えている)の出番は増えている。
ゲームもそうだ。PlayStation 4はいいゲーム機だ。だが、そこには驚きはない。画質は良くなっているが、ゲームの本質が極端に変わったのではない。PS4のゲームの新しさに興奮して眠れない……なんてことはない。
だが、PS4購入以降、ちょっとした暇がある時や、気になるゲームがある時、ゲームの配信映像を見るようになった自分がいる。私はゲーム専門のライターではないので、ゲームソフトの発売情報や中身については、一般的なゲーム好きの方々と同じような情報しか持っていない。多忙なこともあり、ゲームの情報収集にかけられる時間はどんどん減っている。PS3の時代、特に後期には、自分のアンテナに相当強くひっかかったものでないと、購入して遊ぶに至らない状況になっていた。
しかしPS4では、その辺の効率が良くなった。気になったものは、とりあえず動画を検索してみればいいからだ。発売後ならば、相当な数のプレイ動画が見つかり、そのゲームがどんなゲームで、自分にあったものなのかが分かる。もちろん、すべてがPS4のシェア機能で共有されたもの、というわけではない。PCを使って作られた動画の方が、実際には多いのだと思う。だが、PS4の発売以降、プレイ動画の共有が気軽になった結果、私のような人間の目にも触れやすくなったのだろう。プレイ動画からゲームを購入する場合も多いので、PS4では、発売時に買った1本をのぞき、自分はすべてダウンロード購入になっている。
映像や音楽もそうだ。すべてがネットから見られるわけでも、購入できるわけでもない。だが、「昔のあの曲を聴きたい」と思った時、Music Unlimitedのようなストリーミング配信内で見つかる可能性もかなり高くなってきた。NHKや日テレの番組ならば、リアルタイムで見れなくても、見逃し配信でチェック出来る場合も増えている。
日本は「オンラインコンテンツが弱い」と言われてきた。「電子書籍元年は明けない」とか「ダウンロード配信もストリーミング配信もマイナーだ」とか言われる。確かにその通りだ。
しかし、改めて「2014年の自分の消費行動」を見ると、以前に比べ、よりネット側に寄っかかりつつある、と感じる。寄っかかることを許容するだけのコンテンツが、きちんと「販売される」ようになってきているのだ。
ただし現状、そういったことは、積極的に「オンラインでコンテンツを消費したい」と思っている、私のような人間でないと感じられないかもしれない。新しいものが出ても、人はなかなか気付かない。オンラインならばなおさらだ。「電子書籍に読むものはない」「最近のゲームはつまらない」「ネットで音楽は買えない」という言説は間違いだと断言できるが、その認識が広がるには、時間をかけるか、爆発力のあるサービスの普及か、どちらかが必要だ。
サービスとデバイスが2015年に変化する、という予兆は見え始めている。その辺は継続的に取材してお届けしていくつもりだが、読者の皆さんも、ちょっとそういう観点で周囲を見渡してほしいのだ。意外と、もう便利になっているのに、気付かないだけ、という部分もあるかもしれませんよ。