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日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2005」を開催した。会期は5月26日から29日まで。入場は無料となっている。
同イベントは毎年開催されており、NHK放送研究所の研究活動の成果を視聴者に公開・説明するもの。今年は技研設立75周年ということもあり、日本のテレビの父と言われる高柳健次郎博士が‘26年に実験に成功した「イの字」テレビジョン送受像装置(復元模型)から、NEXT(NHK EX Technoligy)と題した次世代の放送技術コンセプトまで、放送の原点と未来が体験できるイベントになっている。
■ スーパーハイビジョンは、2025年本放送を目指す
愛知万博で上映されている走査線4,000本の超高精細映像システム・通称スーパーハイビジョンの上映が今年も行なわれた。HD映像の16倍の情報量を持つ、解像度7,680×4,320ドットの映像を450インチのスクリーンに投写。音響には22.2チャンネルのサラウンドシステムを採用している。 今年は撮影カメラそのものの展示は行なわれておらず、撮像素子は1.25型/800万画素のCMOS 4板式で変更はない。R、G1、G2、B:G1、G2は斜め画素ずらし。CMOSの採用によりカメラとレンズの小型化が可能になり、80kg以上あった従来機種が、約半分の40kgになったという。中継車内の信号処理装置などとは、HD-SDI 16系統を光波長多重によりまとめた光ファイバーケーブル1本で接続する。 今年はスーパーハイビジョンのロードマップも紹介された。それによれば、家庭への伝送システムの試作・実験を2008年に、家庭への放送技術を2011年、実験放送を2015年、家庭用ディスプレイ・音響装置開発を2020年、本放送を2025年に行なうというもの。「あくまで目安だが、2025年は日本で放送が開始されて100周年にあたるので、新次元の放送として実現させたい」という。
膨大な量の放送データの家庭に配信する方法としては、現在21GHz帯を使った衛星放送が有力だという。しかし、それでも帯域が不足することが予想されるため、「何らかの圧縮技術と組み合わせることになるかもしれない」とのこと。
なお、スーパーハイビジョンのデモ映像も、従来の自然の風景などを撮影したものと合わせ、今年は家庭用を意識した相撲を選択。一足先に2025年の本放送気分を味わうことができる。
■ PDPの高精細化技術 スーパーハイビジョンの走査線4,000本級を家庭で表示するために、PDPの高精細化技術が研究されている。PDPはガス放電で発生した紫外線で蛍光体を光らせているが、高精細化するためには、セルの微細化による励起粒子の生成効率の低下や、セル壁面での損失などによる輝度の低下などが問題だった。 そこで、レーザー光を使ってセル内を観察。励起粒子の生成効率やセル壁面の損失などを解析。画素ピッチを小さくするためにセルを小さくすると、励起粒子の損失が大きくなるが、封入ガスの圧力を大気圧近くまで高めると、損失が少なくなることなどを発見したという。 100インチで走査線4,000本級を実現するため、画素ピッチは0.3mmと設定(従来のパネルは約0.9mm)。会場では0.3mmの試作パネルも展示しており、輝度は従来技術で0.3mmにしたもが600cd/m2、高精細化技術を使ったものが倍の1,200cd/m2。
■ 携帯端末向けデジタル放送は2006年春を予定 地上デジタルテレビの携帯向け1セグ放送のコーナーでは、ボーダフォンが5月12日に発表した1セグ受信対応の携帯電話試作機を展示している。H.264/AVCの映像受信とBMLによるデータ放送の表示に対応した携帯電話で、実際に同フォーマットに変換した映像を放送・受信するデモを行なっている。また、来場者が手にとってデータ放送を操作することもできる。 展示機で受信・表示していた映像はH.264/AVCの128kbpsで、解像度は320×180~320×240ドット。音声はAACステレオ(SBRなし)の64kbps。データ放送は約60kbps。ただし、本放送のパラメータは検討中だという。放送開始は2005年度中が予定されており、時期としては2006年春頃になる予定。携帯電話のインターネット接続機能を併用した様々なサービスも提案されているという。 また、これに関連し、緊急警報放送が流れると自動的に携帯端末が起動するシステムも試作されている。警報放送を常時監視すると消費電力が高くなってしまうが、地上デジタル放送の受信に通常用いられるFFT(高速フーリエ変換)を使わず、警報信号の入った周波数成分のみを待ち受けることで低消費電力化を実現したという。具体的には、従来の携帯端末用チューナが警報を20~100時間待ち受けられるところを、600~3,000時間に延ばせるという。
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■ サーバ型放送対応STBは1TB程度のHDDを搭載 ブロードバンド接続と、HDDを内蔵したSTB、そして映像に付加されている番組情報のメタデータを組み合わせて、放送をより便利にするという「サーバー型放送サービス」も、実現に向けて研究が進められている。 地上/BSデジタル放送などで実現しているデータ放送を進化させたサービスと位置付けられたもので、100時間程度のHD放送を蓄積できる、約1TBのHDDを搭載したSTBを用意。番組に付随するメタデータを基に、BMLのデータ放送画面から録画済みのコンテンツを選択・再生する。例えばサッカーの試合終了後にテレビをつけ、日本がシュートを決めた場所を見たい場合、項目を選択すると、番組のメタデータを基に録画済みのコンテンツのゴールを決めた場所が再生される。 サーバー型放送と名づけられた理由はブロードバンド経由での映像受信に対応していることで、HDD内に無い番組は放送局などからネットワーク経由で映像を取り寄せる。その際にもメタデータが利用される。実用化の際にはHDD内のコンテンツかネット経由かを意識させない、オンデマンドサービスになる見込み。なお、2005年秋にも規格化作業が終了する見込みで、2007年のサービス開始を目指している。ホームユース以外に、学校の授業などで映像を使った事業を行なう教育サービスも想定しているとのこと。
これに関連し、放送データのマルチユース提案も実施。STBで録画したコンテンツを短くまとめ、携帯電話などの端末にコピーして再生するソリューションが提案された。HD映像を携帯端末向けに圧縮する際のフォーマットなどは未定だが、興味深い点はメタデータを利用してコンテンツを分割・編集できること。ニュース番組の場合では、ニュース項目別に一覧表示を行ない、必要なものだけを選択し、メタデータを基にSTBなどで編集。コンパクトになったファイルを携帯端末にコピーする。 ソースが単一のまま、再生装置が複数になった際の利便性を向上するため、著作権保護を目的とした電子透かし技術も向上した。今年の展示では、ストリーミング放送にリアルタイムに透かしを埋め込むことが可能になった。ストリーミング変換や、ある程度のダウンコンバートでも透かし情報が失われにくい。また、PC用の電子透かし検出用ソフトを開発。CPRMに変わり、PCで著作権が保護されたコンテンツが手軽に取り扱えるようになる可能性もあるという。
■ 1インチよりも薄い2.5mm厚のHDD 富士電機デバイステクノロジーと共同開発した1インチの垂直記録型HDDも展示。記録分解能を向上することで、約120万bit/インチの記録密度を達成。また、ヘッド部を市販のものから、垂直記録専用の新型に変更することで、記録容量が昨年の2GBから10GBに増加した。2005年度中の実用化を目指しており、容量は倍の20GBを予定している。 さらに、1インチHDDよりもさらに薄い、厚さ2.5mmのHDDも展示された。磁気ディスクの直径は1インチのものと同じで、片面だけを利用。展示機はモックアップだが、新開発の超薄型モータを内蔵しており、ディスクを回転させることはできるという。密度の向上と、同サイズで駆動するヘッド部の開発が課題とのこと。
■ セグウェイを改造した無人カメラ
会場内で一際注目を集めていたのは、ジャイロ機構を内蔵した2輪車「セグウェイ」を改造した無線リモコンカメラ。「オフロード用カメラキャリア」と名付けられたシステムで、野外を軽快に移動しながら、自由な撮影が行なえるという。 ベースとなっているのは通常のセグウェイで、操作にはロボシリンダーシステムを使用。セグウェイの足を置く部分に重心を移動させるためのリモコン制御の重りを搭載。前後の移動を行なう。方向の制御はハンドル部にとりつけたリモコンユニットで行なう。 監視(操作)用カメラに加え、ミリ波モバイルカメラなどの放送用ワイヤレスカメラを搭載。制御は無線LAN経由で行なう。装置全体の重量は約70kgで、セグウェイ単体の重量は32kg。移動速度は時速約3.5km。登坂能力はこう配12度。バッテリも内蔵し、2時間以上の連続運用が行なえる。 サッカーやマラソンなどのスポーツ中継に加え、火山地帯などの人間が入り込み難い場所での撮影が可能。ジャイロ機構により、揺れが少なく、カメラの搭載位置が人間の目線に近いため、自然な撮影が行なえるという。なお、将来的にはセグウェイの本来の移動速度である時速15~20kmまで対応できるという。数年以内に実用化したいとのこと。
■ そのほか
□NHKのホームページ
(2005年5月26日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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