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【新製品レビュー】
音質を追求する「MEDIA keg」HDD型最新モデル
ポケットに入る単品コンポ? ケンウッド「HD60GD9」


9月下旬より順次発売

標準価格:「HD60GD9」オープンプライス
直販価格:「HD60GD9EC」57,800円


 「iPod touch」に代表される多機能化や、低価格化、ノイズキャンセルなどの差異化機能の面で競争が激化しているポータブルオーディオ市場。そんな中、「高音質化」を掲げ、多機能/価格競争とは無縁の世界を歩いているのがケンウッドの「MEDIA keg」HDDシリーズだ。

 2005年6月に発売された初代モデル「HD20GA7」は、HDDプレーヤーとして初めてデジタルアンプを搭載。20GB HDD搭載で発売時の実売は約45,000円と高価だったが、同社お馴染みの音質マイスターが開発に参加し、非常に優れた音質を実現。何より音質を重視するユーザーから支持された。

 同年11月には、HDDを20GBから30GBに増量し、高音域補間技術「Supreme(サプリーム)」と、独自のロスレス圧縮フォーマット「Kenwood Lossless」をサポートした上位モデル「HD30GA9」」(当時実売5万円)をリリース。翌年の9月には30GB HDDや従来の特徴を引き継ぎつつ、デジタルアンプをプリとパワーに分離させたセパレート構造を採用し、さらに音質に磨きをかけたモデル「HD30GB9」を、同じく実売5万円程度で投入している。

通販サイト限定の特別モデル「HD60GD9EC」

 そして10月上旬、最新モデル「HD60GD9」がリリースされる。通常、2年以上経てば筐体デザインやコンセプトに変更がありそうなものだが、カラーリングこそ違うのもの、筐体ベースは初代「HD20GA7」と同じ。内蔵HDDが60GBに倍増しているが、ワンセグ機能も無線LANもタッチスクリーンも何も無し。今回もひたすら“音質に磨きをかけた"モデルになっている。

 価格はオープンプライスで、実売予想は54,800円と、下がるどころかアップしている。今ままでのラインナップは「HD30GB9」のみ残される。また、新モデルの音質にさらに手を加えた直販サイト限定モデルとして「HD60GD9EC」も用意している。

 こちらは直販57,800円とさらに高価で、国内メーカー製品としては珍しく、イヤフォンを付属しないモデル。つまり「このクラスのプレーヤーを買うユーザーは、当然自分好みのハイクラスイヤフォン/ヘッドフォンを使用するだろう」という想定の元、作られた特別モデルという意味だ。

 それにしてもiPod classicが80GBモデルで29,800円、160GBで42,800円で売られている昨今、HDD容量と価格だけを考えると異様とも思えるラインナップだ。ポータブルプレーヤーのトレンドをあえて無視し、最高音質のみを目指して歩み続けるその姿勢は、ポータブルプレーヤーとして他社の製品と同じカテゴリにくくることをためらってしまう。

 だが、音質に関しては他社も着実にクオリティを上げてきている。価格に見合う音質を実現しているのか? 新モデル「HD60GD9」と、直販限定モデル「HD60GD9EC」の音質を検証した。


■ 筐体デザインに変化は無し

 音質が全てとも言える製品であり、使われている筐体も長らく変更されていないが、とりあえず外観から見ていこう。液晶ディスプレイは2.2型で、解像度は320×240ドット。外形寸法は61×17×104mm(幅×奥行き×高さ)、重量は140g。80GBのiPod classicは重量こそ140gで同じだが、外形寸法は61.8×103.5×10.5mmと大幅に薄い。

 当然の話だが、筐体を変更するには金型を新たに起こす必要があり、それには大きなコストがかかる。iPodのように大量に販売される商品では吸収できるが、どちらかというとマニア向けでシェアも少ないMEDIA keg HDDモデルにとっては販売価格に直結してしまう。「デザインを変えて価格を上げるより、音質をとことん良くしよう。このプレーヤーのユーザーもそれを望んでいるはずだ」というメーカー側の考えが見てとれる。

 それでも、従来モデルと外観上の違いはある。カラーリングは「HD60GD9」がよりシックになったピュアブラック。直販の「HD60GD9EC」は、「限定モデルならではのプレミアム感を高めた」というピュアホワイトを採用している。また、細かいポイントとしては「Supreme EX」や社名ロゴなどが従来のグラーからゴールドに変わっている。これもプレミアム感の向上に一役買っている。

左から初代モデル「HD20GA7」、「HD30GB9」(試作機でイルミネーションが白だが実際はブルー)の直販限定ピュアホワイトモデル、新モデルの「HD60GD9」と、直販限定モデル「HD60GD9EC」。カラー以外の外観はほぼ同じだ Supreme EXの文字がゴールドに変化。プレミアム感を高めている

 操作部も従来モデルを踏襲。上下左右に2段階に押し込めるコントロールキーを備え、中央は決定ボタン。ボリュームはその右側に位置し、左上には電源とクイックメニューを兼用した丸形ボタンを供えている。アーティストやアルバムなどの各項目に上下カーソルで移動し、左右で階層を移動する基本操作や、速度変更も可能なスクロール設定など、細かい点も変更されていない。他機種から乗り換える場合でも、わかりやすい操作体系なので慣れやすいだろう。

 新たに追加された機能は、クイックメニューの中の「アーティストで再生」と「アルバムで再生」。例えばランダムモードで再生している時や、様々なアーティストの楽曲が入ったコンピレーションアルバムを再生している時にこれらの項目を選ぶと、そのアーティスト/アルバム再生モードにダイレクトに切り替えられるというもの。

 ランダム再生時でもこれらのメニューを選ぶことで、現在再生している楽曲を起点としてソート順に再生されるようになるため、いちいちメインメニューに戻ってアーティスト/アルバムから選択し直す必要が無い。地味だが便利な機能だ。メニューシステム自体の新鮮度は薄いが、細かなブラッシュアップで着実に利便性を高める姿勢は評価できる。

コントロール部の文字もゴールドに。操作方法は従来モデルと同じだ クイックメニューに「アーティストで再生」、「アルバムで再生」が追加された

メインメニュー。下部の操作ガイド表示は消すこともでき、一度に表示する情報量を増やせる イヤフォンジャック、USB端子、電源入力は上部に用意 正面向かって右側面にホールドスイッチを備えている

Kenwood Media Application

 再生フォーマットでは、MP3/WMA(DRM対応)/WAVと、独自のロスレスフォーマットのKenwood Losslessに加え、新たにAACに対応した。iTunesで作成したm4aファイルの再生をサポートしており、既にiPod用ライブラリを持っているユーザーが気軽に乗り換えられるようになっている。ただし、iTunes Storeで購入したDRM付き楽曲や、Apple Losslessには非対応。いずれも音質を重視するiPodユーザーはライブラリに持っていると思われるので、今後のサポートに期待したいところだ。

 付属ソフトは「Kenwood Media Application」で変更無し。バージョンは現行の「4.0.0.1」から「4.0.0.25」に若干上がっているが、機能的に大きな変更は無い。同期に加え、ソフトのウインドウへのドラッグ&ドロップでも転送可能。13曲入りのアルバム1枚、WAVフォーマットで512MB分転送すると所要時間は35秒。WAVからKenwood Losslessに変換しながらの転送では58秒。前モデルの「HD30GB9」ではWAVのままで41秒、Kenwood Losslessでは121秒。変換しながらの転送が高速化していることがわかる。

付属ソフトのバージョンは「4.0.0.25」 Kenwood Losslessフォーマットへの変換は、あらかじめ設定しておくことで、WAVファイルの転送時に行なわれる

 内蔵HDDは60GBに増加した。このシリーズを使用するユーザーは、ロスレス音楽ファイルを再生することが多いだろうから、1曲あたりのデータ量が数十MBになることもあり、大容量化は待ち望まれた強化だろう。新モデルではHDDを筐体に固定する部分も改良。ポリカーボネイトと特殊ゲルを使ったハイブリッド素材でHDDを支えており、HDDの振動を抑制しているという。

 振動の違いを体感しようと、再生中の2モデルを持ち比べてみたが良くわからない。テーブルの上にプレーヤーを置き、テーブルに耳を当てて、そこに伝わる振動を聞いてみると「HD30GB9」では「キュリキュリ」というシーク音や、ディスクが回転する「フィーン」、「キュイーン」という音がハッキリ聞こえる。「HD60GD9」では回転音の中にある「オーン」という中音が減り、シーク音も小さくなっている。搭載するHDDが変わったからかもしれないが、ハイブリッド素材の効果とも考えられる。


■ 音質は着実に前進

 音質面では、デジタルアンプ「Clear Digital Amp EX」の進化が最大のポイント。従来モデルと同様にプリ部とパワー部を独立させたセパレート構造だが、今回のモデルではパワーアンプ部にロジック系の専用電源を追加している。これによりクリアデジタル電源が強化され、パワーアンプへの電源供給能力が向上。従来モデルを上回る低歪率と、高出力化を実現したという。

 数値に表れている変化としては、ヘッドフォン出力が8mW×2ch(16Ω時)から10mw×2ch(16Ω時)に向上している。能率の悪いイヤフォン/ヘッドフォンも駆動できるようになるため、嬉しいポイントだ。また、ボリュームステップの増加も見逃せない。従来は0~30ステップだったが、0~40となり、より細かな調整ができるようになった。単品コンポではハイエンドに近づくほど細かなボリューム調整が可能だが、「HD60GD9」と「HD60GD9EC」はそれに良く似た進化の道を歩んでいる。

 ホワイトノイズを比較してみる。楽曲を再生しながらボリュームを最小にして、機器が発するノイズをチェックするのだが、新モデル2機種は、低ノイズ化された「HD30GB9」と比較しても、さらにノイズ量が減っている。従来モデルではサーッという音の中心に、ゴーっという固まりのようなノイズがかすかに感じられるのだが、新モデルではその中域の盛り上がりが綺麗に消えている。初代の20GBモデルのユーザーとしては複雑な気分だが、着実な進化が感じられて嬉しい。

再生中の画面。アルバムジャケットを大きく表示するモードや、楽曲一覧と同時表示するモードなどが選択できる

 まず「HD60GD9」と「HD30GB9」の音質を比べてみる。James Blunt「You're Beautiful」は冒頭、右チャンネルでアコースティックギターの伴奏がスタートし、その後に中央でもう1本のギターがメインメロディを奏でるのだが、どちらのパートでも新モデルの方が楽器との距離が近く感じる。観客席の中央最前線で聴いており、そのままの席で顔を前に突き出したようなイメージだ。

 1音1音の輪郭がより明確に描かれ、音圧が増しているため、音像が立体的に飛び出したように聞こえる。以前「30GB9」をレビューした際、「30GA9」との比較で「音像の輪郭もクッキリしており、綾戸智絵のヴォーカルがグッと前に出る。ライヴ盤では30GA9より、2列ほど前の席に移動したような印象」と記載したが、音質向上の傾向はそのままに、さらに進化させていることがわかる。単品アンプで例えると電源ケーブルを取り替えたような違いだ。

 「30GB9」のレビュー時は、ポータブルプレーヤーとは思えない低音の分解能の高さに驚かされたが、「60GD9」ではさらにクオリティが向上。ロックでスネアドラムが控えめにリズムを加えているようなシーンでも、他の音に埋もれずに音が描き出されており、なおかつ「トン、トン」と、サウンドステージの空気そのものが振動していることが感じられる。

 言葉にするのは難しいのだが、本物のライヴでスネアドラムの音を聞くと、聞くというよりも空気のカタマリが胸のあたりに押しつけられるような息苦しさを感じる。新モデルでも当然、肺に空気の振動を感じることはないが、鼓膜に響く振動がよりリアルになっているため、生の音を思い出して振動を感じたような錯覚を覚え、息苦しくなる。ポータブルプレーヤーでこんな経験をしたのは初めてだ。

Supreme EXのON/OFFでは音場の広がりや低域の伸び、高域のまろやかさに違いが出る。だが、OFFでも十二分に高音質だ

 かといって、低音に偏ったバランスになっているのではない。音色は極めてニュートラルで、JAZZやクラシックを非常に繊細に、弦の響きもしなやかに再生してくれる。Media Kegシリーズの音の特徴は、デジタルアンプらしい解像感の高さを維持しながら、アナログっぽい“しなやかさ”を感じさせることにあるが、新モデルでもその傾向は同じ。余裕すら感じさせる再生音は、間違いなく現行のポータブルプレーヤーではトップクラスだ。

 だが、傾向が同じだからこそ、従来モデルと比較すると一聴しただけでは大きな違いを感じにくい。音質の向上幅は「20GA7」、「30GA9」、「30GB9」という、これまでのステップアップに比べると小幅で、音の出方や低音の分解能など、細かなポイントで聴き比べて初めて実感できるレベル。全ての曲で再生した瞬間に「違うなぁ」と直感できるほどの差は無い。だがこれは「30GB9」で実現していた音質が高すぎたためであり、正直言ってあのレベルからさらに向上できるだけでも驚きだ。

金メッキが施された直販限定モデルのシャーシ。右側の写真にある銀色のシャーシが通常モデルのシャーシだ

 では、直販限定の「HD60GD9EC」はどんな音なのだろうか。機能面では60GD9と同じだが、特別モデルでは内部筐体の「fホール・グランド・シャーシ」に金メッキを施しているのが特徴。コンポの接続端子に金メッキを施すことで、ケーブルとの接続性が高まり、高品位な伝送が行えるのと同じ原理で、シャーシと回路基板との接続がより強固になるという。メーカーでは通常モデルとの違いを「音場や空気感の再現性、演出がより優れたものになる」としているが、具体的に聞き比べた。

 前述のJames Bluntや山下達郎「アトムの子」の冒頭のドラム乱舞などで比べると、直販モデルでは「バシャン」と弾けるシンバルの高域がまとまり良くなっている。また、中音の密度もわずかに増加する。反面、音が綺麗になってしまうため、ロックなどの奔放さ、グルーヴ感はおとなしくなり、“音の迫力”では通常モデルの方が痛快だ。

 葉加瀬太郎「Another Star」などのアコースティック系楽器で比較すると、アコースティックベースがブルンと震えた際の余韻が、直販モデルではさらに低域まで伸びる。高域のまろやかさは独特で、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトのアルバム「Getz Gilberto」から「Corcovado」をかけると、アストラッド・ジルベルトのどことなく素っ気ないヴォーカルに艶っぽさが乗って面白い。サウンドステージも広大で、前にしゃしゃり出ていた楽器が少し後ろに下がり、ステージが見渡せるようになる。

 この差違は、バランスドアーマチュアのイヤフォンを用いて、イコライザで中低音の量を減らして再生するとより明瞭になる。ダイナミック型イヤフォンでは中低音の量が多いため、違いがわかりにくい。当然のことながら、この違いをシビアに再生してくれるようなイヤフォン/ヘッドフォンの使用は必須だ。

 単品コンポで例えるなら、敷くインシュレーターの位置や個数を変えたり、ピンケーブルに接点導通剤を塗ったような違いだろうか。総じて音の芳醇さ 高域の伸び、余韻の美しさでは金色モデルに軍配。ノーマルモデルは音楽が活き活きとしており、ロックやポップスなど、どちらかというと若者向けの音楽に適していると言える。どちらが高音質と言うよりも、もはや“好みのレベル”だ。

 だが、その差は極めて小さく、深夜の静かな部屋で神経を研ぎ澄ませて違いを楽しむというレベル。少なくとも走行中の電車の中で通常モデルと直販モデルを聞き分ける自信は無い。イヤフォン/ヘッドフォンも含め、この音質差を体感できる環境にも考慮する必要がある。

再生能力の高いイヤフォン/ヘッドフォンとの組み合わせは必須だ 既報の通り、新モデルとの組み合わせを想定したカナル型イヤフォン「KH-C711」(実売13,000円前後)も発売されている。今回試用はできなかったが、メーカー推奨の組み合わせの音も気になるところだ


■ ビクターとの連携にも期待

 音質にそれほどこだわらないというユーザーにとっては些細な違いかもしれないが、確実に音質が向上していることは実感できる。逆の意味で、この音質差に価値を見出せるユーザーが「MEDIA keg」HDDシリーズを支えていると言っても過言ではない。そういう意味では“一聴の価値がある新モデル”と言える。

 最近では国内メーカーのポータブルプレーヤーも音質向上しており、MEDIA kegシリーズが大きく他を引き離していた状況とは異なる。「NW-S700F」や「NW-A800」シリーズで非常に高い音質を獲得したソニーのウォークマンや、東芝の「gigabeat V401」や「gigabeat U」なども、音質面ではMEDIA kegのライバルと言って良い。

 大まかな音質の傾向としては、低域が力強く、迫力を重視するウォークマン、解像感とクリアネスをとことん重視するgigabeatというイメージ。対するMEDIA kegは、細かな音まで再現しながら、それがキツくなりすぎず、上品に、音楽性豊かにまとめている。このセンスの良さがMEDIA kegの魅力とも言えるだろう。

 筐体ベースはそのままに、細かな改善で音を追い込む製品展開や、他社製品との大きな価格差は、ケンウッドがもはやこのプレーヤーを、単品オーディオコンポーネントとして考えている証拠。それゆえ、購入する際も単品コンポのように様々なイヤフォンを繋ぎ、静かな場所で試聴してから選びたい。同社の東京・丸の内ショールームではMEDIA kegの試聴も可能とのことなので、購入前には訪れることをお勧めする。それ以外の地域では、販売店での試聴会なども順次行なっていくとのことだ。

 また、ケンウッドは既報の通り、2008年を目処に、日本ビクターとホーム/ポータブルオーディオ事業分野での協業/経営統合を行なう予定だ。ビクターと言えば、「K2テクノロジー」を投入したHDDプレーヤー、アルネオ「XA-HD500」など、音質にこだわったプレーヤーを投入しているメーカーでもある。両社の統合が今後のプレーヤーにどう活かされるのかにも注目していきたい。

□ケンウッドのホームページ
http://www.kenwood.com/jhome.html
□ニュースリリース
http://www.kenwood.co.jp/newsrelease/2007/20070914.html
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(2007年9月25日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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