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CHORD、49,195タップの小型DAC/ヘッドフォンアンプ「Hugo 2」。プレーヤー化ユニットも予定
2017年3月16日 14:27
アユートは、英Chord Electronicsの小型DAC兼ヘッドフォンアンプ「Hugo 2」を発表した。発売日は未定だが、5月頃の発売をイメージしているという。価格はオープンプライス。想定売価は未定だが、海外での価格は1,800ポンド。カラーはブラックとシルバーを用意。バッテリも内蔵し、ポータブルアンプとしても利用できる。
「Hugo」の後継となる製品で、入力端子としてUSB、同軸、光デジタルを各1系統装備。USB接続時は、PCMが768kHz/32bit、DSDが22.4MHzまでサポート。同軸は384kHz/24bit、光デジタルは192kHz/24bitに対応する。
ヘッドフォン出力は、ステレオミニ、標準ジャックを各1系統搭載。出力レベルは94mW(300Ω)、740mW(33Ω)、1,050mW(8Ω)と強力なドライブ力を持つ。ダイナミックレンジは125dB、全高調波歪率は0.0001%(1kHz 3v RMS300Ω)以下。SN比は126dB(‘A’Weighted)。
RCAのライン出力も1系統備えており、単体DACとして、別のアンプやアクティブスピーカーなどと接続する事もできる。ラインアウトモード時の出力は3V。Bluetoothにも対応し、aptXコーデックをサポートする。
2,600mAh(3.7V)のリチウムイオンバッテリを内蔵。充電時間は約4時間で(5V/2A USB-AC使用)で、駆動時間は約7時間。外形寸法は100×130×22mm(幅×奥行き×厚さ)。重量は約450g。
FPGAと“パルスアレイDAC”を活用
Hugoの特徴は、汎用的なDACやデジタルアンプを使わず、高速なFPGAを用いて処理を行なっている事。またこのFPGAと、“パルスアレイDAC”と呼ばれるフリップフロップ回路を組み合わせて使っている。
FPGAでは、デジタルデータからフィルタをかけてアナログ信号に戻す工程で、正確なアナログ波形に戻すために、独自の「WTAフィルタ」を使う。
アナログの音(正弦波)がADコンバータによってデジタル化され、CDやデジタル配信されるわけだが、その際に、トランジェントの開始点で標本化して得られるデジタルデータは、細かく見るとカクカクとした階段状になっている。
フィルタをかけてアナログ信号に戻す際、単純なフィルタではタイミング誤差が100μSec以上あり、正確な波形に戻らないという。そこで、フィルタのアルゴリズムを改良し、無限に処理ができるフィルタを使って補完するというコンセプトで、補完処理を増やしていく。これが「WTAフィルタ」であり、FIRフィルタの処理細かさをタップ数で表している。
フィルタの細かさが増えるほど、時間軸方向の精度がアップし、トランジェントの良さや、リズムの再現性などで効果が出る。Hugoは26,368タップ、8FSのWTAフィルタを使っていたが、Hugo 2では49,195タップ、16FSのWTAフィルタを採用。このWTAフィルタは、208MHzで並列動作する45個のDSPコアで構成している。
さらに、初段のWTAファイルタに続き、二段目のWTAフィルタによってサンプリングレートを16FSから256FSに引き上げている(Hugoは8FSから16FSに)。こうした処理により、タイミング精度を向上。
また、88.2kHzを超えるハイレゾ音源の残留ノイズを取るためにHFフィルタも導入。この結果、HFフィルタの使用、16FS WTAのみ使用、16FSと256FS WTAフィルタと、フィルタの設定をユーザーが選べるようになり、暖かくソフトな音から、鋭く鮮明な音と、好みに合わせて切り替えられる。
なお、Hugo 2に使っているFPGAは、初代のHugoとは異なり、Mojoに使っているものと同じだという。DACなどのデジタル回路設計のコンサルタントを行なっているロバート・ワッツ氏は「FPGAとしてはMojoと同じだが、Mojoでは電力の関係で最高性能を発揮できなかった。Hugo 2ではより電力を使えるので、FPGAの性能を100%発揮できた」という。
FPGAで処理したデータは、フリップフロップ回路を使った「パルスアレイDAC」に送られる。このパルスアレイDACはその名の通り、複数のエレメントが、アレイ状に並んだもの。一般的なDACは、フリップフロップ回路のエレメントが1つで、回路がONの時と、OFFの時の間が長く、ONとOFFで音量を表現しようとした場合、時間軸方向の分解が低くなる。
Hugo 2ではこのエレメントを、片チャンネル10個搭載。さらにこれを、少しずつズレて構成させており、1つのエレメントがONとOFFになる間を、隣のエレメントのON/FFで穴埋めしていくような構造になっており、より時間軸方向に高い分解能で音量を表す事ができる。
ブログ「Music To Go」の運営者で、ライターとしても活躍している佐々木喜洋氏はこの動きを、指の動きで解説。「例えば人差し指を下にした時を最小の音、上にした時が最大の音とした場合、スイッチング動作で、下の時と、上の時しか表せない。この指を2本、3本と増やし、ずらして動かすと、1本の指が下にある時と、上にある時の間の時間を、他の指の位置で表せる。つまり、立ち上がりと、立ち下がりをキャンセルできる」とした。通常のDACよりも、時間軸方向の分解能が大幅に高いパルスアレイDACの利点を紹介。
また、一般的なDACでは、信号が入るとノイズフロアが上下して歪が生じる問題があるが、Chordの方式では信号に対してスイッチング動作が影響せず、変動による歪が低くなる事、DACへの低ノイズ・低インピーダンスでチャンネル別の基準電圧を使った電力供給を行なっている事、アナログ領域のノイズ低減と、広範囲なRFフィルタリングを備えている事なども紹介。
DPLLによって入力ジッタを除去し、グランドの問題によるノイズと歪を除去するために4層の基板を採用。DSD特有のノイズを除去するためのフィルタリングの改良、奥行きの表現などに効果があるノイズシェイパーを104MHzで動作する7次フィルタへと改良し、従来モデルの1,000倍の分解能となる260dBの性能を実現した。
ヘッドフォンアンプ回路にはオペアンプを使わず、ディスクリートで構成。高出力と低インピーダンス負荷を実現するための昇圧回路も備え、純A級クラスの出力を実現。前述のパルスアレイDACから、5個の回路を通るだけで出力まで到達するシンプルかつ最短の伝送経路も特徴となる。
ロバート氏は、「ダイナミックレンジも広く、ノイズはほぼ測定不可能なレベルを実現した。歪も0.0001%(3V 300Ω)。インピーダンスも非常に低いので、鳴らしにくいイヤフォンもカッチリ駆動できる。ノイズフロアの変動もほぼなく、左右チャンネルの信号の混入もほぼ見られない。測定できるジッタも皆無で、卓越した結果と言える。USB入力も改良したRFアイソレーションとRFフィルタにより、PSU効率が上昇。この結果、ヘッドフォンと最新のノートPCと組み合わせた際、USB入力と光出力は(ジッタの測定結果が)ほぼ同じという、とてつもない状態だ」という。
こうした性能を踏まえ、ロバート氏は、「Hugo 2は測定性能に関して新たなスタンダードを打ち立てた。(ChordのハイエンドDACである)DAVEのみが、唯一これを上回るDACだ。Hugo 2はポータブルオーディオにおいて、音質の新たなリファレンスになるだろう」と、完成度の高さに自信を見せた。
Hugoをプレーヤー化するユニットも登場する!?
同日には、DAC内蔵ポータブルアンプの「Mojo」に取り付ける事で、Mojoをネットワークプレーヤー化するユニット「Poly」も発表された。
DAC内蔵ポータブルアンプという機能面では、MojoとHugo 2は同種の製品だが、Hugo向けに、Polyのような後付の「プレーヤ化ユニット」が発売される可能性について問われると、CEOのジョン・フランクス氏は笑顔で一言「イエス」と答えた。
改めてHugo 2を見てみると、ボタン類は側面に無く、天面に集中。さらにUSB端子が並ぶ側の側面には、左右の端に小さな穴が空いている。想像だが、後付ユニットを固定するための穴かもしれない。